公文 紫都 2021/2/15 8:00

デジタル接客支援サービス「STAFF START」の勢いが止まらない。2020年の「STAFF START」経由の年間流通総額は前年比2.75倍の1104億円。導入ブランド数は1200を超えた。アパレル業界を中心にコロナ禍で実店舗の販売不振が続いた2020年。店舗スタッフの雇用維持、EC売上拡大など、「STAFF START」が小売事業者に与えた影響は計り知れない。「カリスマ店員新時代を築く」と意気込む小野里寧晃代表取締役に、2021年の展望を聞いた。(聞き手・文:ネットショップ担当者フォーラム編集部 公文紫都)

大手百貨店の導入も決定。「文化が変わる」

――これまではファッション業界を中心に導入が進んでいましたが、2020年12月にワインの「エノテカ」が食品業界で初めて導入しました。今度はどのような業界の企業が導入予定ですか?

小野里寧晃氏(以下、小野里氏):大手百貨店への導入も決まり、2021年春頃にローンチ予定です。百貨店の導入が決まったことはビジネス的なインパクトもありますが、それ以上に「文化が変わる」ことが大きいと捉えています。

「エノテカ・オンライン」での「STAFF START」活用イメージ
「エノテカ・オンライン」での活用イメージ

――「文化が変わる」とはどういうことでしょうか?

小野里氏:多くの百貨店では、基本的に販売スタッフが売り場に私用のスマートフォンを持ち込んではいけない、店内で写真撮影NGなどいろいろな規則がありますが、まずその文化が変わります。「STAFF START」はスタッフがコーディネート写真やレビューを投稿し、その投稿を通じていくらECサイトで売れたかを可視化できるサービスなので、店内で撮影し、その場から投稿するスタッフもいます。導入を決定した百貨店が従来の規則を変えると判断しなければ、「STAFF START」の利用は難しかったでしょう。

さらに驚きなのが、「STAFF START」経由で投稿したコーディネート写真を、百貨店のECサイトだけではなく各テナントの公式ECサイトに同時掲載してもOKとなりました。

バニッシュ・スタンダードの小野里寧晃代表取締役
バニッシュ・スタンダードの小野里寧晃代表取締役(画像:バニッシュ・スタンダード提供)

――百貨店の既存顧客が、各テナントの公式ECサイトで購入することもあり得るわけですね。機会損失につながる可能性がありますが、百貨店側の“うまみ”はどこにあるのでしょうか?

小野里氏:時代の変遷とともに、百貨店という業態自体が“以前と同じ”とはいかなくなり、そこに新型コロナウイルス感染症が追い打ちをかけました。百貨店が生き残りを賭け新しい売り方を模索するのであれば、「デジタル(EC)」に移行せざるを得ません。

「STAFF START」を導入しデジタル上で人気スタッフが誕生すると、お客さまはそのスタッフに会いたいとお店に来てくれるので、実は来店促進につながります。実際、当社のクライアントであるファッションブランドでそうした動きが出始めています。人気スタッフになればなるほど、実際にお店まで会いに来てくれるファンが増え、その場にいないとクレームにつながることもあるほどです。そのため、最近は出勤日をSNS上で公開する販売員も増えています。

自身のInstagramアカウントで出勤日を公開している人気スタッフ
自身のInstagramアカウントで出勤日を公開している人気スタッフ(画像:バニッシュ・スタンダード提供)

百貨店に入居しているテナントのほとんどは、スタッフの専門知識を基にした接客が伴うので、どれも「STAFF START」と相性が良いはずです。おそらく2021年は、最初に導入した百貨店での効果を見た他の百貨店も、後に続くのではないでしょうか。

消化不良商品を循環させる新機能「商品スコア」

――2021年に実装を予定している新機能があれば教えてください。

小野里氏:まず、「商品スコア」という機能を追加し、春頃に最初の企業が導入予定です。商品ごとの在庫消化率をAIが解析し、スコアを算出するというサービスになります。

「STAFF START」は、スタッフのコーディネート写真やレビュー経由で商品が売れた場合、投稿したスタッフを評価するという仕組みを採用しています。「商品スコア」を利用すると、在庫消化率が悪い、いわゆる「死に筋商品」を売った場合にスタッフを高く評価するという設定ができます。「商品スコア」を通じて、アパレル業界にある「利益体質になりにくい」という課題を変えたいと思っています。

――具体的にはどういうことでしょうか?

小野里氏:アパレル商材は一律で利益率が低いわけではなく、実は利益を確保しやすい商品もあります。売れない「死に筋商品」が足を引っ張るので、全体の利益率が下がるという構造になっているんですね。

アパレル企業各社は、「ファイナルセール」「ファミリーセール」などの大幅なディスカウントによって、なんとか「死に筋商品」を売り切ろうと試みます。しかし、そもそも人気がない商品なので売り切るのは難しい。最終的にどうなるかというと、処分するためにわざわざお金を払います。そこで活躍するのが、「商品スコア」機能です。企業としても、セールで割引するくらいなら、しっかり売り切ってスタッフに還元した方がいいと考えるはずです。

――アパレルの大量廃棄は環境問題にもなっていますね。

小野里氏:はい、環境への悪影響も無くしていければと考えています。商品スコア機能では、在庫消化率は悪くないが大量生産し、在庫を無くすまでに時間がかりそうな商品も還元率を高く設定できるようにする予定です。AI解析による自動化で企業側の負担を減らしながら、スタッフはこの仕組みをうまく活用し、個人評価を伸ばしていくことができます。

――その他、EC事業者におススメの新機能やサービスはありますか?

小野里氏:2020年12月にリリースしたLINEショッピングとの提携です。「STAFF START」を利用して投稿されたコーディネート写真が、LINEショッピング上でも表示されるというものです。LINEショッピングで商品が売れると、LINE社から当社にアフィリエイト収入が入るのですが、その一部をスタッフに還元する仕組みを整えます。

LINEショッピングでの掲載イメージ(STAFFSTART)
LINEショッピングでの掲載イメージ

ただ、当社がクライアント企業のスタッフ1人ひとりに報酬を支払うと「副業規定」に違反してしまいます。当社から一括して各企業に支払い、そこから「給与」として各企業からスタッフに報酬を払っていただくスキームを考えています。

――他のモールでも応用できそうですね。

小野里氏:はい、同じスキームで他のモールさんとも連携していく予定です。

すべてのスタッフが正当に評価される社会にしたい

――急成長を続けていますが、小野里さんが乗り越えたいと感じている「壁」はありますか。

小野里氏:「STAFF START」を使っているスタッフの売り上げを、評価として還元できていない企業があることです。評価が利益圧迫になると感じ、インセンティブを支払うことに抵抗があるのではないでしょうか。私はスタッフが正当に評価される社会を望んで「STAFF START」を作り、日々サービス改善を続けています。正直、まだ評価に踏み切れていない企業がいること自体がすごく悔しい。毎月のインセンティブ以外の形でスタッフに還元している企業もあるようですが、企業側がこの先、“当たり前に評価する世の中”に、絶対変えていきたいと思っています。

――たとえば、どのようにでしょうか?

小野里氏:まだ詳しいことは言えないのですが、外部企業と連携したさまざまな仕掛けを考えているところです。クライアント企業にとってもメリットが大きいので、私が描く社会の実現に大きく近づくのではないかと思っています。春頃には情報を公開できる予定です。

化粧品業界でも導入が進む「STAFF START」(ロクシタンの事例)
化粧品業界でも導入が進む「STAFF START」

――「STAFF TECH(スタッフ テック)」の名の下、テクノロジーの力で販売スタッフの働き方改革を進めています。最近では販売スタッフから本部に「STAFF STARTを導入してほしい」と提案があると聞きます。ここから数年先を見据えて、小野里さんが掲げる目標を教えてください。

小野里氏:スタッフが正当に評価されること。そしてスタッフが仕事を通じて個人の夢をつかむこと。この2つが実現される社会であってほしいという想いのもと、2つ目標を掲げています。

1つは、販売スタッフを「なりたい職業ランキング」で1位にすること。かつては「カリスマ店員」というワードが誕生するなど、販売スタッフが女性たちの憧れの職業だったこともあります。しかし、販売スタッフは賃金や体力の問題、そして出産・育児などライフステージに合わせて現場を離れなきゃいけないなどさまざまな課題があり、その人気はどんどんと下がっていきました。

2019年になり、ようやく女子高生が選ぶ「なりたい職業ランキング」で9位(※ソニー生命「中高生が思い描く将来についての意識調査」より)まで浮上しましたが、私はそれを1位にすることが目標です。「STAFF START」がさらに普及すれば、デジタルの力で、「カリスマ店員“新”時代」を築けると信じています。

2つめの目標は、「STAFF START」の仕組みを世界に持っていくことです。

――海外展開を視野に入れているということでしょうか?

小野里氏:はい、入れています。当社のクライアント企業の中には、外資系のファッション企業もあるため、本国が日本での評判を聞きつけて「STAFF STARTを導入したい」と言ってくるケースが増えているそうです。まずは外国語対応を進め、いずれは海外にも進出したいと思っています。

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