会場内に600以上の企業が各種サービスや製品を展示し、来場する世界のリテーラーに案内する「IRCE」の出展ブース。基調講演などのセッションで強調されていたECの「未来」とは異なり、展示会場で目にしたり耳にするキーワードはやっぱり「オムニチャネル」。世界のEC事業者は何を求め、ベンダー側はどんなサービスを売り込もうとしているのでしょうか。イベント会場における世界のEC企業とベンダーとのマッチング状況から、世界のEC業界の時流を探ってみます。

「オムニチャネル」がサービス提供会社の商売の中心となってきた米国EC市場

展示会場内の各ブースで説明を求めると8割方のスタッフが「Omni-Channel(オムニチャネル)」と口にします。言葉の壁を抱える残念な私でも、入場から1時間で耳が「タコの状態」に。

看板、小冊子、説明員の台詞…至るところで「オムニチャネル」というキーワードが飛び交っていました。IRCE2013の講演でも「オムニチャネル」が頻発したと聞いていましたが、今年は展示会場もそのキーワードで埋め尽くされていました。

IRCEのブースに立ち寄り、600もの出展者を見学に

立ち寄ったブースで貰ったカタログにも、「オムニチャネル」というキーワードが頻発していました

IRCEの講演では、「今後のEC業界がどのようになるのか」という、少し未来のことが語られるのが主流です。それが講演者自身の持つバリューであり、受講者が知りたいバリューです。「未来」という点でスピーカとオーディエンスの利害が一致しています。

しかし、展示ブースは商売に直結するもの。ニーズに合ったサービスを展示しなければ興味を持ってもらえませんし、製品は売れません。展示会場には講演会場以上に、商売に直結した情報がありました。これまではごく一部の企業で行われてきたのが、今年は米国市場で「オムニチャネル」が「商品」になったのです。

これは、世界的に小売業界で衝撃的なパラダイムシフトが起き始めたということなのでしょう。つまり、巨大なリアルの小売市場を、ECが主導して巻き込み始めたことを意味しています。理由は簡単。実店舗より EC の方が、定量的で正確な効果測定に基づく、データ・ドリブン(結果の数値を基に PDCA サイクルを実行していく)マーケティングを実現させているからです。

データ・ドリブンに基づいたマーケティングを行っている ECが小売業界を主導することにこそ、オムニチャネルの本質です。その本質とは、EC主導で実店舗の販売やマーケティングを変革することです。つまり、ECがマーケティングを主導する組織体制に生まれ変わる必要があるのです。

日本でも実店舗を展開する大手小売店がECを中心としたマーケティングに着手したり、通信販売業界でもカタログ通販から、EC主導に組織などを変更する会社が出てきています。数年前までは実店舗が力関係で上を行っていましたが、それが今は逆転。ECを中心にマーケティングを考えなければならなくなったのです。

米国も日本も小売業のEC化率は1割にも届いていません。残り90数%の実店舗もECにけん引される時代になりました。ECが全社売上高の何割を占めるようになったという「比率」が話題になっていた時代から、「企業全体の売り上げ」がECを軸として事業が回る時代へとシフトし始めたのです。日本もそのような状況が少しずつ浸透し始めています。

私は九十九電機に在籍中、「ネットショップ(部署名)が実店舗をリードしてやる」という大きな志を心に秘めていました。口に出しても他人から笑われるだけの今から15年前のこと。結局、全社員にECへの理解が社内に浸透し、楽天市場が誕生するよりも早くECを始めることができました。

ECが実店舗をリードしていく「オムニチャネル」が現実のものになり始めています。この潮流はもう止まりません。なぜなら、多くの小売店にとって生き残りをかけた大勝負となるからです。

IRCEの出展ブースには600社以上がブースを構えていた

展示会場では、600社超のEC支援企業がブースを構えていました

日本で話題のRWDもビッグデータ、米国ではあまり聞くことがないキーワードになっていた

昨年、IRCE2013に足を運んだ同僚の出張報告では、「RWD(レスポンシブ・ウェブ・デザイン)」が流行っていると聞きました。加えて、日本では「ビッグデータ」をテーマにしたセミナーが人気です。

しかし、IRCE2014では、これらのキーワードは予想していたほど目にしませんでした。当初は不思議に感じたのですが、ブースを回るごとに自分なりの解を得ることができました

まずRWD。スマートフォンとタブレットがあらゆる世代・性別・職業などを超えて浸透した結果、もはや「当たり前」になってしまったのでしょう。ただ、今なおRWDの肯定派と否定派の両陣営による議論は続いていますが。しかし、「選択肢」としては定着しました。

次にビッグデータですが、そもそも「ビッグデータ」は単なるデータの集まり。過去、誰もが使い道を見出せず、ディスク容量の圧迫を嫌って定期的に削除してきたデータです。「ビッグデータ解析」も「ビッグデータ可視化」もデータ活用の可能性を示した方法論、企業にとっては新しいアクションを起こすための「材料」に過ぎません。

展示会場では、「Marketing Platform」「Marketing Database」「Marketing Automation」 といったワードが目立っていました。米国ではマーケティングの1つの材料が「ビッグデータ」となっており、それを活用し、売り上げを伸ばすためのフェーズに移行しているのです。つまり、「製品」になったということですね。米国企業は、「ビッグデータ」という材料を調理し、マーケティングに活用できるための製品を作りました。ここは日本との差でしょう。

ただ、「ビッグデータ」の活用は、マスマーケティングにすぎません。「ビッグデータ」活用で先行する米国企業やそのベンダーに対抗するには、日本古来の文化である「おもてなし」が重要になるでしょう。

日本のEC企業もベンダーも、1対1で接客できるような「おもてなし」。つまり、リアルもネットも変わらない接客サービスです。この文化は日本企業の武器となるはずです。EC企業もベンダーも同様で、世界の中で日本企業が「勝ちにいくべき領域」にこそビジネスチャンスがあると感じたブース訪問でした。

IRCE展示会場の一部のブース出展者の外装

「Marketing Automation」を提供するPlatinumスポンサーの「Bronto」

Rakutenブースに多くの人が注目、米国企業のスタンダードは「越境」ではなく「Global」

エムディーエム(現楽天)が楽天市場を開設したのは、1997年4月のこと。わずか十数年で楽天は米国にも進出しました。そんな米国の現地法人であるRakutenは、昨年に引き続き今年もIRCEにブースを構えていました。

「Buy.com」を買収してRakuten.comが誕生してまだ4年。北米ではeBayに大きく水を開けられていますが、サードパーティOMS(受注管理システム)の多くがRakuten.comに対応していることから、無視できない存在になったことは明らかです。

少子化問題を抱える日本では、越境ECに耳目が向くのは必然。しかし、現実には、言語や通貨以外にも様々な障壁があります。Rakutenが日本の中小企業を元気にする、次の成長エンジンとなってくれることを期待します。

IRCEには楽天の米国法人Rakutenも出展

来場者の多くが注目していたRakutenブース

日本で問い合わせが多くなっている「越境EC」に興味があり、ブースを見渡しました。しかし、「越境(cross-border)」という単語ではありません。あったのは「Global」です。

日本人が「日本から」国境を超える感覚とは異なり、「地球規模」という発想が言葉に表れているのでしょう。市場が小さいヨーロッパ諸国など、「越境」とは刺激の少ない言葉なのです。ブースの説明員が話すことは「我々のサービスはGlobalだ」。そもそも視点が違うのです。

言葉の壁だけを考えても、日本から「越境」するのは大変です。様々な人種の人材を多く抱える北米企業にとっては、「世界進出」のハードルが相対的に低いです。日本進出を狙っている企業も少なくありません。EC事業者しかり、私たちベンダーも同じく、「Global」を視野に入れなければいけないと改めて考えさせられた機会になりました。


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楡井 康哲

インフォマークス株式会社

楡井 康哲(にれい・やすのり)

インフォマークス株式会社
マーケティングソリューション部 シニアコンサルタント

1976年東京都生まれ。1994年に秋葉原のパソコン量販店チェーンの九十九電機に入社。店舗接客の他、販売企画立案から仕入れまでを担当。1995年から新規事業のパソコン通信によるネット通販を起ち上げ、EC事業の責任者を努める。単体ECサイトで年間売上100億円を達成する。

2009年にはニフティのECメディア事業部門から独立した、同グループのEC事業戦略企業コマースリンク株式会社にて経営企画、SEOコンサルティングを担当。2011年、インフォマークス株式会社にジョイン。

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