EC事業者は知っておくべき「不正競争防止法」とは? 北の達人の訴訟事案から学ぶ商売のルール

ECビジネスなど“商売”に携わる事業者は知っておかなければならない不正競争防止法を事例を基に解説(連載第8回)
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最近、eコマース業界で注目されている訴訟をご存じだろうか。この訴訟は、ECビジネスなど“商売”に携わる事業者は知っておかなければならない不正競争防止法に関するものであり、こうした問題に直面する可能性はゼロではない。

訴えを起こしたのは東京証券取引所1部市場と札幌証券取引所に上場している北の達人コーポレーション(本社・札幌市北区)。2018年2月7日に、福岡市中央区のはぐくみプラス(本社・福岡市中央区)に対して、不正競争防止法違反を根拠に被告の行為の差し止め及び1億円の損害賠償の支払いを求めて、東京地方裁判所に訴訟を提起した今回の事案から、ECに携わる企業が知っておかなければならないことなどをまとめてみた。

不正競争防止法とは(経済産業省が公表している資料からキャプチャ)

どのような行為が不正競争防止法に抵触するのか

プレスリリース(※クリックするとPDFが開きます)によると、はぐくみプラスが販売している「はぐくみオリゴ」のオリゴ糖純度100%の表示は“品質誤認表示”に当たり、さらには北の達人コーポレーション(以下、北の達人)が販売している「カイテキオリゴ」に対して、「北の達人のカイテキオリゴは、オリゴ糖100%ではない。はぐくみオリゴはその点良品で100%である」と、虚偽の事実を述べる行為を行ったとのことである。

そして、これらの違法行為が不正競争防止法上の“品質誤認表示乃至信用棄損行為”に当たり、不正競争防止法に基づき、はぐくみプラスの営業の差し止めと1億円の賠償請求を求める訴訟を提起したのである。

訴状の内容が正しいとした前提で、大きな問題点は以下の2つである。

  • 消費者、アフィリエイターに対して「オリゴ糖100%」であるという虚偽の情報を流し、需要者に対し、品質を誤認させるような表示を行ったこと
  • 消費者、アフィリエイターに対して「オリゴ糖100%」であるという虚偽の情報表示をして、カイテキオリゴの商品(競合商品)よりも優れた商品であるということを宣伝文句として使用したこと

原告は、この2点が知財法に含まれる不正競争防止法に抵触するとして、今回、訴訟提起にまで至っている。ちなみに、不正競争防止法が属するのは知的財産権法(知財法)であり、これには特許、意匠、著作権、商標なども含まれる。

しかも、民法の場合は原則損害賠償を請求することまでしかできないが、知財法は損害賠償に加えて相手の操業を止められる「差止請求」を起こすことができる。そのため、ビジネスに関わる法律の中でも、強力な効果を有する法律の1つとして認識されているのである。

不正競争防止法の表示規則の概要(経済産業省が公表している資料からキャプチャ)

北の達人が問題視した「品質誤認表示」とは

ここまでの文章を読むと「それだけのことで訴えられるの?」と思った人もいるかもしれない。しかし、この不正競争防止法に関しては、実はEC事業者が最も理解していなければいけない重要な法律の1つであり、知らぬ間に法に抵触している可能性もある商売上のルールなのである。

今回、私自身が訴訟に関するビジネス書小説『訴訟合戦』を執筆した関係もあり、法律に詳しい弁護士にヒアリングする機会を得ることができた。北の達人が訴訟を起こした不正競争防止法について、分かりやすく解説していきたいと思う。

まず、北の達人の訴状の内容から、今回、問題になっている状況をもう少し掘り下げて解説しておきたい。

北の達人が取り扱っている「カイテキオリゴ」という商品は、文字通りオリゴ糖の健康食品である。オリゴ糖はおなかの調子を整えてくれたり、砂糖よりも糖分が控えめなのでダイエットの食品として活用されていたり、老若男女問わず愛用している消費者も多い。北の達人は複数種類のオリゴ糖をブレンド配合することで相乗効果を生み出すという独自製法により、オリジナル商品のカイテキオリゴを人気商品に育て上げた。

対して、訴えられたはぐくみプラスのオリゴ糖は「はぐくみオリゴ」という商品名で売り出されているものである。発売時期もカイテキオリゴよりも後発で、似たような製法で作られたオリゴ糖商品のために効果効能や顧客のターゲット層が似通っている。そのため、北の達人と、はぐくみプラスは商品として“競合会社”という立場になる。

しかし、今回の訴状によると、はぐくみプラスは、北の達人に対して違法な販促手法を展開していたとのことである。

1つは不正競争防止法に抵触する「品質誤認表示」の問題である。以下は、訴状に記載のある事実である。

はぐくみプラスは自社のオリゴ糖の最大の特徴を「オリゴ糖100%」と謳っており、その特徴を武器にして販売実績を伸ばしてきた。しかし、今現在の化学技術では100%純度のオリゴ糖を製造することは不可能であり、原料となるオリゴ糖を販売しているメーカーですら100%純度のオリゴ糖を製造販売しているところはない。つまり、製造不可能な“オリゴ糖100%”の商品を、100%と偽って消費者に誤認を与える行為で販売してきたのである。

対して競合商品にあたる北の達人のカイテキオリゴは「オリゴ糖100%」というのは虚偽に当たるので一切表記していない。そのため、はぐくみプラスは消費者やアフィリエイターに対して「北の達人のカイテキオリゴは、オリゴ糖100%ではない。はぐくみオリゴはその点良品で100%である」というのを差別化のポイントをアピールして売り上げを伸ばしてきたのである。ホームページのキャッチコピーや店頭POP、さらにはアフィリエイターに対する資料にも「オリゴ糖100%」を謳い続けたことは、北の達人のカイテキオリゴとの“違い”となり、北の達人の売り上げを貶める販促効果となったはずである。

訴状によると、アフィリエイトのイベントにおいても、過去にはぐくみプラスの社員がオリゴ糖100%をアピールして、カイテキオリゴよりも優位性のあることを強調していた事実が記載されている。そして、2016年11月に北の達人は弁護士を通じてオリゴ糖100%の表記が不適切であることを通知して、はぐくみプラス側も弁護士を立てて「オリゴ糖100%」という表現が不適切であり、ホームページの不正確な表示を改善していくことに合意していることが訴状にも記されている

経産省の公表資料で「偽装表示の例」として掲示されている事例(経済産業省が公表している資料からキャプチャ、一部編集部が加工)

しかし、不適切発言、不正確な表示を認めたのにも関わらず、はぐくみプラスは引き続き「オリゴ糖100%」の虚偽の表示を行い続けた。訴状によると、2017年9月に開かれたアフィリエイトのイベントにおいても、社員が「間違いなくオリゴ糖100%」と発言しており、カイテキオリゴよりも優位性のある商品であることを強調していた。そのため、北の達人は、はぐくみプラスが不正競争行為を意図的に行っており、かつ悪質なのものであると判断して訴訟を起こしたのである。

自社が不正競争防止法に抵触する被害を受けていたらどうすればいい?

EC事業者の場合、他社と比較されやすい市場環境にあるために、不正競争防止法に抵触するような売り方をしているケースが目につく

「●●の商品と違って、当社は国産品ですよ」

「▲▲の商品は壊れやすいですが、当社は丈夫ですよ」

このようなキャッチコピーや商品説明文がもし、虚偽であり、さらには競合企業の売上を侵害するような行為になるのであれば、今回のケースのように不正競争防止法に抵触することになり、損害賠償や差し止め請求を起こされてしまうのである。

仮に請求が認容されるとしたら、被告となったはぐくみプラス側も、「このくらいの表現なら大丈夫だろう」という脇の甘さがあったのかもしれない。たった数%ぐらいの差だったらバレやしないし、注意されても逮捕されるわけではないから無視すればいいなど、ネット特有の“他もこのくらいのことをやっているから、自分たちも許されるだろう”という、認識不足なところがあったことも十分に考えられる

しかし、その嘘が不正な競争を引き起こしてしまい、さらには消費者を騙すことにつながるのであれば、やはり嘘の大小にかかわりなく、我々ネットショップ運営者はもっと言葉の表現の重さを真剣に考えて、eコマース事業に仕事に携わっていかなければいけない

読者の中には、今回の北の達人が訴訟を起こしたケースと似たような体験をしている人がいるかもしれない。もし、今回と同じようなケースで自社商品が不正競争防止法に抵触するような行為を受けているのであれば、まずは弁護士に相談することをお勧めするeコマースは新しいビジネスというところもあり、経営者のモラルも低く、今回のような知財法に関するトラブルが後を絶たない業界と言える。

ホームページを真似られたり似たような商品を販売されたり他の業界に比べても“節操がない”と言われても致し方ないところがある。そのため、今回、北の達人の勇気ある行動は、質の悪い業者をネット市場から撤退させて、市場全体の浄化にもつながっていくはずである。

ただし、知財法に触れたからといって、なんでもかんでも訴訟をすればいいという問題ではない。裁判には当然お金もかかるし、時間もかかる。今回の訴訟に関しても、第一回口頭弁論から始まって、判決が出るまで1~2年はかかるであろうし、訴訟を起こすからには強い覚悟を持って臨まなければいけない。

知財法で訴訟を起こす際の注意点としては、やはり知財法に詳しい弁護士に相談することである。弁護士にも得意不得意があり、特に知財法に関する裁判は経験と専門知識を要するところが多々あるので、相談する弁護士に関してはしっかりと選定した方がいいだろう。また、怒りに任せて訴えてしまうと、無駄な時間とお金を費やしてしまうだけで終わってしまうので、全体的な見通しを決めてから、アクションを起こした方がいいだろう。

知財法の訴訟を起こしたことによって自分の会社にどのような影響を受けて、取引先や顧客に対してどのようなメリットとデメリットを生むのか、しっかりと把握した上で戦略的に取り組んでいかなくてはいけない

経産省が推奨している偽装表示に対する対応(経済産業省が公表している資料からキャプチャ)。経済産業政策局 知的財産政策室の情報はこちら

自社が不正競争防止法に抵触すると訴えられたら?

反対に知財法で訴えられた企業側も、モラルのある対応をしてもらいたいところである。弁護士に早急に相談して、原告側に対して早期に誠意ある謝罪をすることで、少しでも穏便にことを済ますような行動を取ることが望まれるケースも多いのではないだろうか。事の重大さを理解せず「こんな訴状、無視すればいいや」と軽い気持ちでいると、社会的信頼が失墜していき、顧客だけではなく、働いているスタッフのモチベーションのダウンや、人材採用にも大きな影響が出始めてしまう

ちなみに、今回の訴訟に関する記事を執筆する上で、はぐくみプラス側に対して弊社からメールにて取材を申し込んだのだが、期日までに返事を頂くことはできなかった。せめて弁護士を通じて取材のお断りの返答を頂くか、もしくは訴訟中につき取材が受けられないという旨の返事を頂けるのかと思ったのだが、そのような誠意ある取材対応が受けられなかったことは非常に残念に思えるところである。

どちらにせよ、このような不正競争防止法に触れてしまうと、訴えられるだけではなく、働いているスタッフや取引先、お客さまの思いを踏みにじってしまうことにも直結していくことは、経営者は肝に銘じていなくてはいけないところである

経産省が推奨している偽装表示に対する対応(経済産業省が公表している資料からキャプチャ)
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今回の訴訟の一件はEコマース業界において非常に大きなターニングポイントにもなると思われるので、引き続き訴訟の動向をチェックしながら取材を行っていきたいと思っている。

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この連載の筆者 竹内謙礼氏の著書が技術評論社から発売されました。小さなお店・中小企業でもできる、手間がかからない、人手がかからない、続けられそうな取り組みを考える64の視点と103の事例を集大成。SDGsに取り組むための64の視点と104の事例をまとめています。

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