高山 隆司, 佐藤 俊幸 2021/4/8 8:00

アフターコロナ時代に求められる物流センターの第2の条件は、出荷増でも品質の落ちないシステムとマテハン機器を装備していることだ。前回ご紹介した第1の条件である人員規模と同じように、システムや設備機器においても出荷量の波動、特に出荷増に対応できるキャパシティーが必要である。

この条件を満たしていない物流センターでは、人員が足りていたとしても、コロナ特需のようなケースでは注文の集中をさばききれず、パンクする危険がある。

通販20年のノウハウが詰め込まれた独自システム

スクロール・ロジスティクス・センター浜松西(SLC浜松西)は、カタログ通販で60年以上の歴史を持つ株式会社スクロールの物流センターと併設されており、敷地は1万5,000坪、建物の延べ床面積は2万坪以上の巨大なセンターだ。この物流センターをコントロールしているのが、EC物流受託20年のノウハウをつぎ込んだ自社開発のシステム「L-spark」である。

「L-spark」は、いわゆる「WMS」の1種だ。「WMS」とは「Warehouse Management System」の略で、倉庫管理システム、または在庫管理システムと訳される。WMSの大きな機能は3つあり、EC物流の優劣はWMSで決まるといわれる。

在庫管理(入荷、検品、保管、ピッキング、出荷等の在庫管理)
② 出荷指示データからの伝票類出力
出荷進捗管理

①在庫管理

「在庫管理」では、入荷検収時に事前に送られてきた「入荷予定データ」をもとに、入荷した商品個々のバーコードラベルを読み取ることで、正確な入荷検収が可能となる。

また入荷検収後、商品を商品保管棚入れる際に、棚のロケーションバーコードと商品のバーコードを読み取り、どこの棚に商品が保管されているか管理していく。 食品など賞味期限のあるものについては、ロットごとの賞味期限と出荷期限をデータで保持するのもWMSの役割となる。

②出荷指示データからの伝票出力

「出荷指示データからの伝票類出力」では、作業効率改善のためのさまざまな機能がWMSに付加されている。ここがWMSの優劣を決めるところでもある。

例えば、顧客からの注文が10行でオーダーピッキングする場合、顧客のオーダー順にピッキンングに行くと、棚の間を行ったり来たりしなければならない。そこで、WMSで一番効率的なピッキング順に指示書を作成する。下図は1つの例だ。

図 WMSによるピッキング指示書の例
WMSによるピッキング指示書の例

顧客のオーダー順はバラバラだが、WMSが作成するピッキング指示書では、棚番順にピッキングする指示になっており、担当者(ピッカー)は一筆書きを描くように効率的に動き、ピッキングが完了する。より効率的にピッキングを行うために、複数人分のオーダーを統合し、まとめてピッキングしてきた後、個々の顧客に振り分ける方法もある。ピッキングする棚の粒度が細かくなるため、さらにピッキング効率はアップする。

下の写真は「GAS(Gate Assort System)」という仕分けを補助するマテハン機器だ。

写真 >GAS(Gate Assort System)
GAS(Gate Assort System)

32個のゲートがあり、商品のバーコードを読むと購入客の伝票が入っているゲートが開き、そこに商品を入れる仕組みだ(伝票は事前に各ゲートに割り振られている)。GASを使うと、32人分のピッキングをまとめて棚番順に行い、その後、仕分けることで作業効率が上がる。スクロール360で導入したところ、初日にして導入前比160%の効率化ができた。

このようにWMSはECショップの特性に合わせて、出荷効率の上がる作業手順を用意していく。自社物流ではなかなか投資できないマテハン機器でも、EC専用の物流倉庫であればいろいろなショップと共有しながら投資していけるのも強みとなっている。

③出荷進捗管理

「出荷進捗管理」では、当日の出荷予定数と実際の出荷指示数のギャップをいち早く察知し、シフトを組むことが重要だ。出荷予定が1,000件だったが、テレビ番組で取り上げられて3,000件なった時、作業の進捗率が高いショップの人員を、波動が出たショップに移すのである。

下の写真は、物流センターのコマンドルームの壁に掛かっているクライアント別の進捗率一覧だ。当日の出荷指示件数に対して進捗状況がひと目でわかる。マネージャーはこのモニターで状況を把握し、適切に要員の配置替えを行い、当日内にすべてのECショップの出荷が完了するように運営している。

写真 クライアント別進捗率一覧を映すモニター
クライアント別進捗率一覧を映すモニター

まだある「L-spark」の付加価値機能

スクロール360独自のWMS「L-spark」には、こうしたWMSの3大機能に加え、より進化した特長的な付加価値機能が備わっている。それを紹介しておこう。

①送り状のオンデマンド印刷機能

「L-spark」では、顧客別の送り状は注文データと商品検品データが合って初めて印刷される。そのため印刷がされる前の段階であれば、キャンセルも住所変更もWebから操作できるようになっている。

ECショップにキャンセルが入った場合、「L-spark」の管理画面でその顧客の送り状が印刷されたかどうか確認し、印字前であればECショップは出荷キャンセルボタンで出荷を止められる。いちいち物流センターに電話する必要はない。住所の修正も同じ操作だ。

②物流KPI分析機能

物流現場にはさまざまな経営指標データがある。入荷したら仕入れと商品在庫、出荷したら売上といったデータがWMSに残るので、それを集計し、月次でECショップに紹介するようにしている。

例えば「2か月以上出荷のない商品リスト」「商品の在庫点数と1か月の出荷点数からの在庫の消化月数」などだ。「発注ミスで今ある在庫がなくなるまで10年かかる」といった商品が発見されるときがある。

③動画再生システム

商品を検品梱包する作業場には、動画撮影するカメラが設置されており、動画は2か月程度保存される。「3点注文したのに2点しか入っていなかった」といったクレームが入った場合、その顧客の出荷を担当した作業員の作業した時間にさかのぼって、動画が確認できるようになっている。これが動画再生システムだ。

顧客のクレームから、どの受注ナンバーの出荷作業かを割り出し、それを担当した作業員と作業時間を特定する。出荷作業が完了するごとにタイムスタンプを記録しているのでさかのぼるのは容易だ。

下の写真は、クレームのあった作業時間の再生動画の画像だ。商品の画像までは鮮明に映っていないが、何個封入したかははっきりと確認できる。

写真 動画撮影カメラ
動画撮影カメラ
写真 画再生システム
動画再生システム
写真 録画された作業風景
録画された作業風景

月に2~3回、動画確認の依頼が入るが、誤送はほぼゼロだ。もともと、間違えて出荷できないシステムを採用している。納品明細書と商品のバーコードを読んで、合っていなければ送り状がでないシステムのため、誤送の確率は0.0016%以下だ。

ただし、ゼロでないのは、やむなく短期バイトや派遣を入れた場合に誤送が起こることがあるからだ。スクロール360のルールでは、複数点の検品の場合は、必ず1点ずつバーコード検品をすることになっているが、短期バイトがこのルールを破り、1点のバーコードを複数回読んで間違った点数なのに、合ったと勘違いして封入してしまったことがある。

決められたルールを破ったケースがほとんどであり、現在は極力、短期バイトや派遣を入れない体制で運営している。

◇◇◇

次回は第3の条件「多拠点化への対応」について解説する。

この記事は『EC通販で勝つBPO活用術』(ダイヤモンド社刊)の一部を編集し、公開しているものです。

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