通販新聞[転載元] 1/10 7:30

寝具類の製造・販売を手がけているエアウィーヴでは、実店舗だけでなく通販事業も年々右肩上がりで伸びている。2023年夏には日本通信販売協会(JADMA)に入会し、通販ビジネスに関する情報収集活動などを積極化。来年(編注:通販新聞が2023年12月に掲載した記事を転載しているため、「来年」は2024年を指します)はパリ五輪で選手村全16000床の寝具供給を行う大仕事も控えている。国内外に活躍の場を広げている同社のブランディング戦略や通販活用について高岡本州会長兼社長に聞いた。

エアウィーヴ 高岡本州会長兼社長
エアウィーヴ 高岡本州会長兼社長

寝具市場における新たな価値を創造

売り物は寝具ではなく「睡眠の質」

――現在の寝具市場全体の市況について。

寝具は大きく分けて、ナショナルブランドと地方の小規模な会社がある。一つ言えることは、全体が今すごく伸びているという市場ではなく、新規参入も多くはない。寝具はサイズが大きいため、物流が発展するとともに会社が大きくなり、集約化されていった。

当社の考え方としては寝具を売ろうと思って事業を行うわけではなく、睡眠の質を提供するという点で業界に新しい価値を持ち込んでいる

たとえば、「iPhone」が出たことで、携帯が機械としての装置ではなく、社会とつながる情報を伝える窓口になった。電話というだけではなく社会とのつながりを作ったこと自体が、iPhoneの最大の功績だと思う。当社も眠る道具ではなく睡眠の質を提供するという考え方が今の事業をやる上で大事になっている。

自社ECサイトでも睡眠の質を訴求している(画像はエアウィーヴ公式オンラインストアから編集部がキャプチャ)
自社ECサイトでも睡眠の質を訴求している(画像はエアウィーヴ公式オンラインストアから編集部がキャプチャ)

――コロナを境にした市場の変化は。

コロナで家庭内消費というものが進んだことで、寝具業界が潤った面はある。今はコロナが落ち着きはじめ、23年度の寝具業界全体で見ると前年よりもマイナスになるのでは。

そういう中で、顧客はより本質的なものを求めるようになっている。当社の場合は前年と同等以上に売れており、我々が取り組んできた睡眠の質を提供するという部分が評価されているのではと思う。

コロナ禍で通販ビジネスの重要性を再認識

――JADMA入会の経緯や狙いとは。

以前から(通販による)非対面の販売は行っていた。しかし、コロナになってから実店舗に訪問できない人が増えたことで、非対面での販売の重要性に改めて気づいた。そのためのわかりやすい商品の伝え方など、いわゆる非対面での販売方法について、学びたいと思う。さまざまな情報収集活動や勉強をしているところ。

――通販で売れ筋の商品とは。

やはり世の中の人が一般的に通販に期待するのは、多少安くなるということ。通販は店頭販売と違い、双方向のやり取りではなくどうしても一方向になり、複雑な内容や多くの情報量を伝えにくい部分もある。一方で、絞った情報量については、通販ではかなり強く伝えることができる。最も強くてシンプルなメッセージを出せる部分や商品に絞って展開するということなのだろう。

当社の初期の頃は薄いパッド1枚だけだったが、今はそのパッドのなかでも硬さを変えた商品を出したり、もう少し複雑な機能を持たせたものもある。

実は、ベッドマットレスも通販でよく売れるもの。1つには(オフィシャル寝具パートナー契約を結んだ)東京五輪の時に、3分割できるマットレスを選手村に提供したことがある。こうした情報は認知された人がかなりの数でいたため、その商品を通販で見せるとかなり購入される。通販でこのような高価格帯のベッドマットレスが売れるのは当社くらいしかないのではないか。

3分割できるマットレスの一例(画像はエアウィーヴ公式オンラインストアから編集部がキャプチャ)
3分割できるマットレスの一例(画像はエアウィーヴ公式オンラインストアから編集部がキャプチャ)

また、実店舗の場合、商品だけを置くことはなく、必ず販売員がいるため顧客と双方向で情報交換が起きる。通販のような一方向の場合は、大きく商品露出して認知されれば大きく売れる。ただ通販は、多くの商品種類を同じチャネルで見せると顧客も迷ってしまう。そのためチャネルに応じた最も強い商品を1つ見せるようなやり方に絞っている。

――通販で展開している商品は。

自社ECについては実店舗と同じで商品が全部揃っていて、同じプライスで出している。商品構成を変えることはない。一方で自社ECではなく、紙媒体、テレビ、ラジオでは1商品で行う形。ここは双方向でのやり取りが難しいために、顧客が迷うことにもなるため、精査した情報を出している。

リアル販路との連携を強化

テレビ通販放送後は店舗顧客が増加

――通販・実店舗の連携効果などは。

たとえばテレビ通販について。これは一方向の情報発信だが、さまざまな角度から顧客の質問をイメージして網羅的に情報を出している。

たとえばこのマットレスは眠りが深く取れるとか、清潔であるとか、分割構造や梱包の簡単さ、今はリサイクルもできるということなど。特にテレビ通販では多くの情報量を出すことができる。時には演者に寝てもらい、使用感を語ってもらうこともある。これは顧客が実店舗で実際に寝ているような疑似体験が得られる効果もあると思う。

もちろん、テレビ通販で情報を理解した上で実物に触りたい人もおり、そうした人は来店する。そのため、テレビ通販の放送後は実店舗への来店が増えることもある。

実店舗と通販、両軸でのタッチポイント増加を意識

また、実店舗ポップアップで大きなイベントを行うこともある。

顧客はそこで商品を見ることになるが、寝具の場合、購入にとても慎重になるため、1回の来店だけでは買わないケースもある。家に帰ってからネットを見て買う場合もある。結局は情報をさまざまなところから出して、最後は顧客が買うルートを自身で選ぶという話になるのだろう。そういった意味では通販(ネット)と実店舗(リアル)は必ずつながりがある。トータルで顧客の利便性を高める上で、実店舗と通販との連携はとても大事なことだと思う。

世の中の人に寝具を欲しいかと聞いても、誰も「欲しい」とは言わない。しかし、良い眠りを欲しいかと聞くと「イエス」と答える。つまり、当社は睡眠の質という誰もが欲しいものを売ろうとしているわけだ。眠りに対しての潜在的な需要を顕在化させることが、我々のビジネスの売り上げを作る。潜在的な需要のままだと売り上げにはならないため、実店舗や通販で商品を広く見せていけるよう、タッチポイントを増やしている

通販事業伸長の理由とは

誰もが憧れるブランドに採用、ブランディングに寄与

――通販事業が伸びている理由は。

実店舗も含めて全体的に伸びているが、当然、通販も一緒に伸びている。やはり、当社の商品は実際に試してもらえると購入される比率が非常に高くなる。おそらく半分ぐらいは購入されているのではないか。通販の場合は、実際に商品を試すことができないわけだが、それでも伸びている理由の1つには、我々がブランディングということに非常に早い段階から取り組んできた部分が影響していると思う。

当社は(マットレス販売を)2007年に始めて、最初の頃はあまり売れていない時期もあった。ただその間でも、コストをかけながらさまざまなブランディングを行ってきた。

これまでに行ってきたものでは、10年に和倉温泉の加賀屋さんの部屋に入れさせてもらったり、13年からはJALさんのファーストクラス・ビジネスクラスで使われたり、ほかにも、パリ国立オペラ座バレエ学校であったり、誰もが憧れるようなところで採用してもらっている。

――ブランディングが重要な要素だと。

ブランドは一体何かというと、その商品を信頼するだけの実績があるかどうかだと思う。そこには認知度を上げるために広告的に社名を気づかせるようなマーケティングも必要だが、同時にこうした(導入)実績作りも大事になる。実物に触ることができなくても、この商品を買うことで、自分が憧れるような世界が体験できるというように信じてもらえる部分がないと、やはり通販ではわかってもらえない。

当社はそういういった訴求を行えるポイントが抜群に多いと思う。これは決してお金を出せばできるということではなく、我々の会社自身が「The Quality Sleep」というミッションを掲げているからこそさまざまなところに商品を入れてもらえるのだと思う。

アンバサダーに浅田真央さん

また、そうした部分を可視化するメッセージとして、ブランドアンバサダーに(フィギュアスケートの)浅田真央さんを起用した広告を出しており、我々が取り組んできたことが浅田真央さんという光によって人々に伝わっている。そういう総合的なものがあってブランドができているということなのでは。

売り上げはブランド力アップに比例

――23年の通販事業の状況は。

23年もテレビ通販などを積極的に利用している。テレビ通販の場合、過去にずっと行っていると、おおよその予算が局によって決められてくる面がある。「この時間帯にこれだけの尺だと、これくらいの売り上げになる」というように。こうした予算は前年からどんどん上がっているが、当社の場合はブランド力が毎年強くなっているため、(上がっていく)予算はすべてクリアしている

現在はテレビやネットのほかに、新聞などでも通販を行っており、また、ラジオ通販でも非常によく売れている。当社で購入される層は値段を考えると、やや年齢層が高く、ファミリー世帯が中心。ただ、22年に(タレントの)田中みな実さんとの共同プロデュースで開発した枕については、ネットでとてもよく売れた。こちらは、明らかに(メイン顧客との)世代が異なると思う。やはり商品によって分かれるイメージだ。

田中みな実さんと共同開発した枕(画像はエアウィーヴ公式オンラインストアから編集部がキャプチャ)
田中みな実さんと共同開発した枕(画像はエアウィーヴ公式オンラインストアから編集部がキャプチャ)

通販向けに(卸で)販売している商品は、多少価格帯が安くなっているが、ただ単に店頭にあるものをディスカウントしているわけではない。ある程度機能などを絞り込むことで、通販でも購入しやすいような価格に設定している。もちろん、決して機能を落としているということではない。

通販に期待する役割

マーケティングの正確性

――社内で通販事業に期待する役割とは。

実店舗での販売行為のなかでは、接客している当社の販売員が顧客の声を聞くことになる。顧客からの声は非常に貴重なものだが、販売員を通すことでワンステップ置くことにもなる。400人ほどの販売員がいるが、やはり人間である以上、どうしても聞き取った情報に対してそれぞれのフィルターがかかってしまう。

ところが、通販の場合はこちらが発信したメッセージに対してダイレクトに顧客が反応してくれる。そのため(実店舗と比べて)情報のバラエティー度はやや下がってしまうが、正確性は上がる。こうしたことをきちんと行うことで、いわゆるマーケティング的な施策、消費動向の捉え方というものが、より正確にできると考えている。通販を通じて得られた情報が新規商品開発といった、何らかのアイデアにつながることもある。

実店舗がない地域への訴求

そしてもう一つは実店舗との(補完)関係。当社は首都圏や大都市圏、あるいはそれ以外の地域での百貨店、GMS(編注:総合スーパー)、家具店などでも商品が売れている。ただ、人が住んでいるところであっても店舗がない場所も当然ある。そのようなところの顧客はなかなか商品に触れる機会が得られない。いわば空白地帯であるためだ。ところがそうした場所の人達に対して、通販はダイレクトに訴求することができる

面白いもので、ネットで商品が売れている地域を調べると、やはり実店舗があるところが多かったりもする。そのため、通販事業のなかで、もし、あるエリアの周辺で高い需要が得られているということがわかれば、当然、そこに実店舗を新しく作るということにもなる。要するに店舗立地のアイデアにつながるというわけだ。

24年は五輪での採用効果に期待

――2024年の展望や計画について。

当社ではあまり、これくらいの売り上げにしていこうという話をすることはなく、我々が終始一貫しているのは、売り上げではなくてコトづくり。24年の一番大きな目標としては、(オフィシャル寝具サポーターとして)パリ五輪にきちんと寝具を入れて成功させようということ。

我々にとって、21年は(オフィシャル寝具パートナーとして寝具を提供した)東京五輪があって、22年はその流れで商品を変えていった。ただ、23年はブランディングのアクティビティということで言うと一番底にある。準備はしているが、モノを出せないからだ。そうした面で、23年はブランド露出も少なかったが、それは意図的なことなのでしょうがないだろう。経営は山もあれば谷もある。23年は谷で、24年はパリ五輪があるため、かなりの大きな山ができるはずだ。

選手村に寝具を約1万6000床提供する(画像はパリ五輪オフィシャル寝具パートナーとしての特設ページから編集部がキャプチャ)
選手村に寝具を約1万6000床提供する(画像はパリ五輪オフィシャル寝具パートナーとしての特設ページから編集部がキャプチャ)

――東京五輪に続いての採用となるが。

やはり、五輪の効果はとても大きいと思う。日本の寝具メーカーがフランスで採用されるということはなかなか無い。五輪というものはナショナルマターであり、どうしても開催国の企業が有利になる。

ところが今回、ベッドの本場であるヨーロッパにおいて、日本の企業が1社で1万6000台を納めることができた。五輪で使われるマットレスは、3分割構造でそれぞれ表裏で硬さが異なり、自分の好みに合わせて入れ替えることもできるもの。すべて選手ごとに個別化されているというわけだ。そういったことで、24年は大いに期待できる年だと考えている。

新たなチャネル開拓に意欲

――通販関連での取り組み予定としては。

たとえば今も多くの通販企業との付き合いがあるが、各社でそれぞれ(保有している)顧客については色々と特徴があるかと思う。この通販企業はこうした顧客層に強いということであったり、あるいは各々得意とする販売チャネルなどもそれぞれあるかと思う。

チャネルに応じて顧客が変われば、マーケティング手法も変わってくる。自社で持っているブランドのメッセージをどうやって出していくのかということだと思う。

当社としては、やはり、窓口をもっと増やしていきたいと考えている。もちろん、既存の取引先もあるが、今後もさまざまな新しいチャネルを作っていきたい。理由は、それぞれのチャネルに応じた顧客がいるからだ。そこに対して売れるようにすることで、対面販売ではまだ伝わっていなかった人たちを発掘できることになる。

認知後の商品力に自信

私はよく英語で「We Are still unknown」という言葉を使う。「我々は未だに知られてない」ということだ。つまり、「エアウィーヴ」というものがまだ知られていない。しかし、知ってもらうことができれば、商品には自信があるため購入してもらえると考えている。そのために、「unknown」を「known」にしてもらえるようなチャネルを開拓していきたい。若い層や海外向けなどさまざまあると思う。

いずれにしても、今後、通販も実店舗も前年以上に伸ばしていくということは間違いない。ここはかなり強く意識しているところだ。

※記事内容は紙面掲載時の情報です。
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