通販新聞[転載元] 2023/10/12 7:00

イーベイジャパンが運営する仮想モールの「Qoo10」では、メイン顧客が20代~30代の女性となっており、必然的に競合の仮想モールと比べるとZ世代を強く意識した売り場構成となっている。トレンドに敏感で消費意欲が旺盛な一方、“コスパ”に対する強い意識も持ち合わせているとされるZ世代。Qoo10での取り組みを例に、彼らを取り込む有効な打ち手を見てみる。

韓国関連商品を展開、若い女性から支持

同モールはもともと、2018年に米eBayに買収される以前に韓国とつながりの強いECとして始まった経緯もあり、韓国の定番コスメやファッション、K-POP関連グッズなどを多く取り扱っていた。また、モバイルアプリもいち早く展開していた背景もあり、品ぞろえの効果と合わせて日本の若い女性たちをメイン顧客層として抱えていくようになったという。

eBay傘下となった現在についても、商品ラインアップの内容は大きく変わらず、モールの商品カテゴリーの内、ビューティー、ファッションで半分以上を構成。近年は、韓国グルメを軸とした食品や、美容家電などのデジタル商材も伸長している。

Z世代の特徴は「失敗したくない」「高いコスト意識」

消費者としてのZ世代の印象については「彼女たちがしたくないことは何よりも『失敗』。消費に対して積極的になれるものを意識して絞っている。一例としては“推し活”などでの強い消費行動がある」(戦略マーケティング室のモラーノ絢香部長)と分析。優先順位の高いものから絞った買い物となるため、それだけ失敗したくない気持ちを強く感じているようだ。

イーベイジャパン 戦略マーケティング室 モラーノ絢香部長
イーベイジャパン 戦略マーケティング室 モラーノ絢香部長

加えて、過去に同社で顧客調査を行った際には、Qoo10だけでなく3~4つの通販サイトやモールを厳選して使いこなし、欲しい商品の価格などを比較、吟味しながらそのなかで一番納得できる価値に投資する傾向も強く見てとれたという。

また、Z世代自体が1990年半ば~2010年代に生まれた世代という定義のため、思っている以上に年齢のレンジは広い。当然、可処分所得という点では個人差があると見られるが、一般的には平均所得の高い中高年層と比べると消費に使える金額は限られていると言えるだろう。それゆえに「コスト意識が高くなる」(同)というのだ。

とは言え、消費に関しては積極的な人達が多いようで、前述の顧客調査によると、ネットを使用している時間で最も楽しさを感じるのが「買い物」となり、「SNS」や「検索」よりも高くなったという結果もあった。

特定の品番だけが売り切れになる、高い「情報嗅覚」

そして、もう一つの特徴として言えるのが価格だけでなく、トレンドにも敏感であるということ。以前に、若い女性向けの眉毛用のカラーリングマスカラの販売状況を見た際に、特定のカラー品番だけが売り切れるという現象が起きた。

モール内で特別にその品番だけを切り出して販促をしたわけでもなかったことから、同社で理由をたどってみたところQoo10公式アカウントのSNSをフォローしている一部の顧客が「このカラー品番が、眉毛の色を薄くして地毛に近い色にしてくれる」という趣旨のコメントをSNSやレビューなどで投稿していた。

口コミによって特定の商品だけが突出して売れることもあるという
「Qoo10」では口コミによって特定の商品だけが突出して売れることもあるという

何気ないつぶやきではあるが、その一つの口コミを起点に、出店者も予想できなかったほど短期間で爆発的に人気が広がったというのだ。買い物のためだけではなく、情報収集も兼ねて日々モールにログインしている顧客も多いことから、自分の買いたい商品に関連があるくちコミは小さなものでも見落とさず発見して行動に移せるのだろう。その点では情報嗅覚は非常に高く、売り場側が販促をかけるよりも早く先回りができると考えられる。

「不定期にテレビCMも行っているが、(Z世代の消費者は)自分に合うか合わないかは、顧客側が発信したものを人づてに共有して判断している。そのため、ブランド側が発売当初には意図していなかったような商品価値が後からついてくることもあるのでは」(同)とした。

セールは決済方法の多様さが好評

出店者と共に行ったモール限定商品企画の背景などについて見ていく。顧客を売り場に呼び込む手段の一つにセールがある。Qoo10の場合は同社負担で最大20%割引のクーポンを付与する年4回開催の大規模セール「メガ割」がそれに当たるだろう。

「Qoo10」が年に4回開催する大規模セール「メガ割」
「Qoo10」が年に4回開催する大規模セール「メガ割」

Z世代に限らずすべての顧客に人気の企画となっているが、より若い人が買いやすくするために取り組んでいるのが決済手段の多様化だ。同モールの場合、コンビニ払いなどをはじめ、「PayPal」「PayPay」「LINE Pay」など9社の決済サービスと提携キャンペーンを実施している。

「たとえば、LINE Payを使ってメガ割で買い物をすれば、20%に加えてLINE Pay特典クーポンの1%割引も適用される。パートナー企業を増やすことで、顧客がより安く購入できるスキームを拡張している」(戦略マーケティング室のモラーノ絢香部長)と説明。実際に今年3月に導入したPayPayについては、「PayPayが使えるからメガ割に来た」という送客効果も後に見てとれたという。

後払い決済はZ世代女性の購買行動を促進

とりわけ、Z世代女性の利用率が高い決済手段が「後払い」だ。導入前はそれほどの効果を想定していなかったものだったが「『3回分割なら』『今すぐではないが翌月なら』と選択肢が広がることで、若い女性でも積極的にセールでまとめ買いできることにつながる」(同)とする。使える金額が限られている若い女性に対して、まとめ買いや高額消費へのハードルを少しでも下げる効果があると見ている。

また、若い女性ほどその購入商材の特性からリピーターになりやすいメリットもある。同モールで言えば、季節性のファッションや家電、3か月に1回分の容量となるコスメなどで、これらを中心に高いリピート購入が見られるようだ。

限定商品はセール内で高い人気

これまで同モール内で、Z世代向けに企画した商品でヒットしたものとしては、メガ割期間の限定で同モールで独占販売している企画商品ラインの「Qoo10 ONLY」がある。同商品群はメガ割での売り上げトップ10の内、半数を占めるほどの人気となっている。

これはあらゆるカテゴリーの商材で展開されており、代表的なビューティー分野ではモール限定パッケージのものなどが人気になっている。また、ファッションにおいて直近の事例では、以前から人気のあった韓国発のアパレルブランドである「VARZAR(バザール)」の帽子を使って今年6月のメガ割の期間中に限定商品企画を実施。

在庫リスク減の秘訣は“人気商品とのセット売り”

当初は同モール限定として「Qoo10」のロゴを入れた帽子の開発などを検討したが、出店者にとっては特定の売り場向けの商品を一から大量に製造すると在庫リスクの問題が生じてしまう。そのため、出店者の負担が少ない方法として、もともと人気商品であった帽子とその関連商品を特別のセット組みにすることを提案したという。

具体的には、ファンデーションや汗ジミが帽子の内側に付着することを防ぐ「カバー」と帽子をセットにして販売したところ、夏のシーズン前ということもあり若い女性を中心に注文が殺到。「Qoo10 ONLY商品だけを売り場で目立つようにして販売を行っていたわけではなかったものの、売り上げランキングの上位に入る商品となった」(モラーノ部長)とした。

以前からモール内での買い回りの動きをよく分析した上での企画。若い女性特有の困りごとに気づきを得たアイデアが奏功したと言えるだろう。

リアル起点の交流でファン化促進

ライブコマースやリアルイベントを起点とした集客施策などについて見ていく。

販売手法のなかでもZ世代との相性が特に良いとされるのが「Live Shopping」(ライブコマース機能)だ。現在、同モールでは週に2~3回、1時間程度の尺でライブコマースを行っている。配信中には時間帯限定での割引企画などもあることから視聴率は高く、とりわけ大きなヒットが見込まれる商品をトレンド化するためのツールとして活用できているようだ。

商品の使用感+双方向性が魅力

配信に当たっては参画する出店者と数か月前から打ち合わせを行い、どの商品をどのような見せ方にするかを計画。配信では司会者も立てながら、時には芸能人やモデルなどもゲストにキャスティングして商品の使用感などを伝えている。

視聴者と出演者が双方向にやりとりできるインタラクティブ性も魅力となっており、終了直前まで商品に関する質問が寄せられるケースもあるという。「テレビCMはアテンションを集めることに強く、一方でライブ配信は共感や興味、理解を深める効果がある。実際に人が使って見せて、そのテクスチャーや匂いなどを伝えることに向いている」(戦略マーケティング室のモラーノ絢香部長)とした。

関連して、同モールのブランドアンバサダーとして、19年から女優の川口春奈さんを起用している。若年層への認知度や人気の高さはもちろんだが、自身のSNSを通じて自分の言葉で発信しているアクティブなイメージを持った人物を起用したことも、Z世代の興味をひくポイントとなったようだ。

K-POP起点の認知拡大

なお、同社では昨年4月に同モール内に、ファッションブランドの公式ショップを集めた売り場として「MOVE(ムーブ)」を開設している。韓国ブランドを中心に、同社が審査して厳選した出店者だけが参加できるもので、動画コンテンツサービスを導入し、写真やテキストだけでは伝えきれない商品の魅力や情報を発信。こちらもZ世代を意識しており、従来とは違った見やすさや使いやすさを演出した売り場となっている。

そのほか、モール外でのリアルの販促活動としては、若年層に人気の高いイベントに参加している。今年の5月に幕張メッセで開催されたK-POPイベントの「KCON JAPAN 2023」にはスポンサーとして参画し、前述の「MOVE」のブースを出展した。当日はモールの出店企業とともに、商品サンプルなどを来場者に提供するなど、韓国文化に親しみを持つ層への認知拡大を図っていったという。

「MOVE」のブースを出展したK-POPイベント「KCON JAPAN 2023」​​​​​
「MOVE」のブースを出展したK-POPイベント「KCON JAPAN 2023」​​​​​

新たな世代“アルファ世代”を捉えるマーケティングも視野

そして、今後に向けては、Z世代だけでなくその一つ下のカテゴリーとなる「アルファ世代」(2010年代から~2020年代中盤頃)の取り込みも大きなテーマとなっている。

まだまだ小中学生の世代でもあることから、本格的なマーケティングはこれからとなるものの、学生向けの文房具や雑貨などの品ぞろえの拡充は視野に入れているという。

近年は乳液や除毛クリームなど、ビューティーカテゴリーの商材に興味を示して購入している男子学生も少なくないことから、入り口商材として品ぞろえを強化して訴求も高めることで、性別を問わず客層を大きく広げていくことを計画している。

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