加藤 公一 レオ[執筆] 2023/10/2 7:00

2023年10月1日から、景品表示法によるステルスマーケティング規制、いわゆる「ステマ規制」がスタートした。これまでステマを直接的に規制する手段はなかったが、ステマ規制のスタートにより、ステマそのものが“違法”となるため、EC・D2C事業者の広告・宣伝活動に与える影響は非常に大きい。

10月1日以降は、アフィリエイトやインフルエンサーマーケティング、レビュー活用などの施策において、より慎重な対応が求められるようになるだけでなく、第三者の体験談を装った「記事型広告」は“オワコン”と化す可能性が高い。「知らなかった」では済まされない、ステマ規制のポイントとEC・D2C事業者に与える影響を解説する。

「ステマ」が景表法の規制対象に

「ステルスマーケティング(ステマ)」とは、消費者に広告だとわからないように行ったり、隠したりする広告・宣伝のことである。

社員が第三者になりすまして自社商品の口コミを書いたり、インフルエンサーなどに報酬を提供していながら、宣伝であることを隠して自社商品に好意的な情報発信を依頼したりすることなどが「ステマ」にあたる

ステルスマーケティングに対する消費者の嫌悪感は年々高まっており、すでにステマは社会的に受け入れられない行為になっている。ほとんどのEC・D2C事業者が、ステマにならないよう慎重な広告・宣伝活動を行っている一方で、一部の悪質な事業者がステマを行っているケースがあり、これまではステマを直接的に規制する手段はなかった。

こうした状況を受けて、2022年12月27日に消費者庁が「ステルスマーケティングに関する検討会」を実施。ステマを「景品表示法における不当表示として規制することが妥当である」との報告書をまとめ、ステマが法律で規制されることが決まった。

どんなケースがステマに該当する? 2つの要件とは

ステマ規制 ステルスマーケティング 景品表示法 不当表示規制

2023年10月1日以降、ステルスマーケティングそのものが不当表示規制の対象(景品表示法で定める不当表示の「その他誤認されるおそれのある表示」に指定)となり、違反した場合は行政処分の対象となる。なお、ステマ規制の対象は商品・サービスを提供する事業者のみで、アフィリエイターやインフルエンサー、一般消費者は規制対象とならない。

ここで注意したいのは、施行以降に掲載された情報はもちろんのこと、それ以前に公開されたブログ記事やSNS投稿などもステマ規制の対象になるということだ。たとえ何年前のものでも、一般消費者が閲覧できるコンテンツはすべて規制対象となるため、過去にさかのぼって対応しなければならない事業者も多いのではないだろうか。

そこで気になるのが、「何がステマに該当するのか」ではないだろうか。消費者庁は、ステルスマーケティングを「一般消費者が事業者の表示であることを判別することが困難である表示」としている。

消費者庁が2023年3月28日に決定した「『一般消費者が事業者の表示であることを判別することが困難である表示』の運用基準」によると、ステマにあたるかを判断する際は、次の2つの要件に該当するかどうかがポイントになる。

ステマ規制 ステルスマーケティング 景品表示法 不当表示規制 ステマに該当する2つの要件
  1. 事業者が自社の商品・サービスについて行う表示であること
  2. 事業者による表示であることを一般消費者が判別することが困難であること

これだけではよくわからないと思うので、2つの要件をより詳しく見ていこう。

要件①:事業者が自社の商品・サービスについて行う表示であること

前述の通り、ステマ規制の対象となるのは、「事業者が自社の商品・サービスについて行う表示であること」が前提となる。

消費者庁の運用基準によれば、社員が販売促進を目的に、一般消費者のフリをして自社商品の肯定的な口コミを投稿する行為は、当然ステルスマーケティングにあたる。また、販売を促進する立場にある社員が競合商品を中傷する口コミなどを投稿することもステマ規制の対象となる。

ここで気を付けたいのは、“社員によるやらせ口コミ”のようなわかりやすいものだけでなく、事業者が第三者に依頼・指示して表示させた場合も「事業者が行う表示」にあたるということだ。

つまり、事業者がアフィリエイターやインフルエンサー、一般消費者などにSNS投稿や口コミ投稿、ブログ記事の作成を依頼・指示した場合も「事業者が行う表示」と見なされるのである。

ステマ規制 ステルスマーケティング 景品表示法 不当表示規制 ステマ規制に該当する要件 事業者が行う表示とは

そのため、インフルエンサーなどの第三者に報酬を提供して、宣伝であることを隠して自社商品についての肯定的な口コミなどを投稿させた場合はステルスマーケティングにあたる。なお、ここで言う「報酬」は金銭だけでなく、物品の提供、イベント参加の権利なども含まれる。

ポイントは「事業者が表示内容の決定に関与したか」

要件①の「事業者が自社の商品・サービスについて行う表示であること」におけるポイントは、「事業者が表示内容の決定に関与」したかどうかである。

たとえば、インフルエンサーに商品を無償で提供するなどして、高評価の口コミ投稿を依頼した場合はステマと判断される恐れがある。ただし「こんな内容で投稿してほしい」など、事業者から投稿の内容に関する依頼や指示がなく、インフルエンサーや消費者が自分の正直な感想を自主的に投稿した場合は、原則としてステマにはあたらないとされる。

また、消費者に対して「○○という表現を入れてレビューを投稿してください」「星5つのレビューを投稿してくれた方には○○プレゼント」など、投稿の内容について指定したり、高評価の対価を提供したりした場合もステマに該当する可能性がある。

ステマ規制 ステルスマーケティング 景品表示法 不当表示規制 ステマ規制に該当する要件 NG事例

ただし、単に一般消費者にサンプルやプレゼントを提供した結果、消費者が自らの意思でその商品の口コミを投稿した場合は「事業者が行う表示」にはあたらず、ステマと見なされることはない。また、キャンペーンなどに応募するために、消費者が自分の意思でSNS投稿などを行う場合もステマにはならない。

ステマ規制 ステルスマーケティング 景品表示法 不当表示規制 ステマ規制に該当する要件 ステマにならないケース

ただ、消費者庁は「事業者が表示内容の決定に関与したか」どうかは、「事業者と第三者の関係性や客観的な状況を踏まえて総合的に判断する」としているため、明確な線引きは難しい。事業者が「表示内容の決定に関与」したつもりはなくても、「表示内容が第三者の自主的な意思によるもの」と認められないケースが出てくる可能性もある。

インフルエンサーマーケティングやギフティング、レビューキャンペーンなどの施策がよりデリケートなものになるのは間違いないだろう。

要件②:事業者による表示であることを一般消費者が判別することが困難であること

ステマ規制の対象となる要件の2つ目は、「事業者による表示であることを一般消費者が判別することが困難であること」である。

事業者がインフルエンサーに報酬や商品を提供して依頼した投稿であっても、投稿内容に「PR」「広告」「○○社から商品の提供を受けて投稿しています」などとわかりやすく表示されている場合は、ステルスマーケティングにはあたらない。当然、アフィリエイターが作成したコンテンツにも広告である旨を明確に表示する必要がある。

ただ、「PR」「広告」といった表記さえしておけばいいかというと必ずしもそうではなく、「広告」の表示があるものの、周囲の文字よりも小さくする、薄くする、大量のハッシュタグに埋もれさせているような場合はステマに該当する可能性がある

また、動画コンテンツの場合は、中間や最後にのみ広告の表示をしている場合もステマと見なされる恐れがある

ステマ規制 ステルスマーケティング 景品表示法 不当表示規制 ステマ規制に該当する要件 NGになるケース

最近はインフルエンサーマーケティングに力を入れているEC・D2C事業者が増えているが、悪意がなくても一歩間違えればステマと判断されてしまう可能性がある。

アフィリエイトやインフルエンサーマーケティングを行っているEC・D2C事業者がステマリスクを排除しようと思うと、今まで以上にアフィリエイターやインフルエンサーが作成したコンテンツの内容チェックや管理に手間をかけなければならなくなるだろう。

「記事型広告モデル」は終焉をむかえるのか

もう1つ、ステマ規制で大きな影響を受けると考えられるのが「記事型広告」だ。

近年のEC・D2C業界では、化粧品や健康食品などを中心に、一見すると個人のブログ記事や中立メディアの記事に見える記事型広告が多く見受けられた。

ブログ記事風のサイトで「この美容液を使ったら肌がきれいになった。シミが気になる人にオススメ」などと発信して消費者の興味を引き、「購入はこちら」などのボタンを押すと、事業者のECサイトやランディングページに遷移するという仕組みである。

ステマ規制 ステルスマーケティング 景品表示法 不当表示規制 記事小型広告の流れについて

記事型広告は「実際には広告であるにもかかわらずそうは見えない(第三者の感想のように見える)」ことから重宝されてきたが、消費者庁の運用基準を踏まえると、2023年10月1日以降、いま世の中に氾濫している記事型広告の多くが「ステマ」と判断される可能性が高いだろう。

ステマが問題になっているのは、事業者が広告であることを隠して商品やサービスの宣伝をすると、消費者が合理的な購入判断ができなくなるからだ。こうした背景を考えると、記事型広告の性質そのものが“ステマ的”であると言える。

「広告」である旨を明確に表示すればステマにはならないので、すべての記事型広告がただちに「ステマ」と見なされるわけではない。

しかし、消費者庁は運用基準で「文章の冒頭に『広告』と記載しているにもかかわらず、文中に『これは第三者として感想を記載しています』と事業者の表示であるかどうかがわかりにくい表示をする」ことを「一般消費者にとって事業者の表示であることが明瞭となっていない」例としてあげている。

ステマ規制 ステルスマーケティング 景品表示法 不当表示規制 記事小型広告 NGのケース

ステマ規制がスタートすると、第三者の体験談を装う形での記事型広告は非常にリスクが高いため、記事型広告は事実上“オワコン”化する可能性が高い。

今後、EC・D2C事業者は記事型広告をやめて、消費者に明らかに「広告」とわかる、自社制作のストレートなランディングページで勝負していくべきだろう。

ステマ規制でフェアな競争が促される面も

ステマ規制は、間違いなくEC・D2C事業者の広告・宣伝活動に大きな影響を与える。特に、インフルエンサーやアフィリエイト、レビュー活用などを行う際は、今まで以上に慎重な運用が求められるようになるだろう。

従来とまったく同じ形で広告・宣伝活動ができなくなる事業者も多いと思うが、一方でステマ規制によって事業者間のフェアな競争が促されるというプラス面もある。

これまでも、コンプライアンスやレピュテーションリスクに配慮しているEC・D2C事業者はステマを避けるような策を取ってきたはずだ。ところが、ステマを法律で直接規制する手立てがなかった以上、コンプライアンス意識の低い事業者は、景表法の優良誤認表示や有利誤認表示に該当しない限りは何でもできてしまっていたのが実情だ。

良識あるEC・D2C事業者にとっても、EC・D2C業界の未来にとっても、ステマ規制によって悪質な事業者が排除されるのは良いことである。今後、すべてのEC・D2C事業者は、広告なら「広告」と明確にわかるような形で、正々堂々と勝負するようにしてほしい。

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