Digital Commerce 360[転載元] 2023/7/27 7:00

Amazonが7月11~12日の2日間にわたって実施した有料メンバーシップ「プライム会員」向けセール「プライムデー」の流通総額は、記録的な数字になりましたが、成長自体は鈍化しています。「プライムデー」セール期間中における米国のEC売上高は伸びたものの、Amazon以外の小売企業の夏商戦は苦戦を強いられたようで、アクセス数や売り上げが伸び悩んだケースが目立ちました。

記事のポイント
  • Amazon「プライムデー」の売上高は、前年比6.7%増の129億ドル
  • 米国では、「プライムデー」期間中のEコマース売上高は前年比6.1%増加
  • Amazon以外の小売企業は2023年の「プライムデー」期間中のトラフィックが振るわなかった

9回目の「プライムデー」は伸び率が鈍化

米国のEC専門紙『Digital Commerce 360』の分析によると、2023年で9回目となる「プライムデー」は、世界中の「プライム会員」が「Amazon」で合計約130億ドルの買い物をしました。2日間にわたるセールは、例年に続いて過去最高の流通総額を達成。しかし、前年比で見ると、その伸長率は過去の「プライムデー」の実績よりも落ち込み、2022年比で6.7%増にとどまりました。

「プライムデー」の流通総額は129億ドル

『Digital Commerce 360』によると、「プライムデー」における流通総額は全世界で129億ドルに達しました。

「プライムデー」期間中にAmazonで購入された商品は3億7500万点以上。Amazonによると前年の3億点から増加しています。2022年の流通総額は2021年比8.1%増の120億9000万ドル。2021年は2020年比7.7%増の111億9000万ドルでした。

「プライムデー」は例年、Amazonが夏に実施していますが、2020年はコロナ禍の影響で10月中旬に延期。コロナ禍が、小売のサプライチェーンや在庫の状況に影響を与えたり、消費者の買い物の優先順位を変えたりしたことにより、多くの消費者が自分に必要な物を「Amazon」で購入するようになりました。2020年の流通総額の伸長率は45.1%増でした。ただ、2021年の「プライムデー」は2020年の同イベントから1年経たずに実施されたため、伸びが鈍化しています。

2015~2023年における「プライムデー」の売上高
2015~2023年における「プライムデー」の売上高

「プライムデー」の変遷を振り返る

2015年7月に創業20周年を記念して「プライムデー」を開始し、多くの商品を割引価格で販売しました。その後「プライムデー」は発展し、夏休みや夏季休暇を目前とした時期に、AmazonおよびAmazonに出品している販売事業者にとって、より多くの売り上げを作るためのサマーセールへと変化しました。

2015年の初回の「プライムデー」は24時間で、米国を含む9か国で実施されました。2017年には、セール期間は30時間に延長され、開催国は複数の国に拡大2018年には「プライムデー」は36時間の開催となり、2019年には、18か国にまたがって、現在と同じ2日間にわたるセールを実施。そして2023年は、20以上の国が参加しています。

「プライムデー」は、有料会員だけが利用できる割引で、Amazonが会員制のロイヤリティプログラム「Amazonプライム」に多くの消費者を登録させるための手段でもあります。

年額139ドルまたは月額14.99ドルのプライム会員プログラムでは、1日または2日の無料配送、デジタル写真の保存、ビデオや音楽のストリーミングなどの特典が受けられます。

「プライムデー」は「Amazonプライム」の会員獲得の手段という位置づけもある(画像は米国の「amazon.com」から編集部がキャプチャ)
「プライムデー」は「Amazonプライム」の会員獲得の手段という位置づけもある(画像は米国の「amazon.com」から編集部がキャプチャ)

Amazon以外の小売も「プライムデー」の時期に重なるキャンペーンを展開

7月の平日に大規模なセールを行うのはAmazonだけではありません。近年では、他の大手小売企業も「プライムデー」の前後に自社のEコマースサイトでキャンペーンを実施。この時期に割引価格で買い物できることを期待する消費者が増えています

「北米EC事業 トップ1000社データベース 2023年版」の2位にランクインしている米国のスーパーマーケットチェーンWalmart(ウォルマート)は、2022年に見送ったセールを2023年は復活しました。

『Digital Commerce 360』が実施した、Similarweb(編注:Similarweb Ltd.〈本社イスラエル〉が提供するWebサイト分析ツール)を使ったトラフィック数の分析によると、2023年の「プライムデー」期間中のトラフィックは、前年に比べ減少した小売事業者が多かったようです。

Walmartのトラフィックは2022年の16.7%から24.9%に増加Amazonのトラフィックは、2022年と比較して0.3ポイントの微減でした。

「北米EC事業 トップ1000社データベース 2023年版」で5位の大手小売りチェーンTargetは、2022年には、「プライムデー」開催までの2週間の期間で、トラフィックを前年比42.3%増加させていますが、2023年は同26.9%増にとどまりました。

Costco(コストコ=「北米EC事業 トップ1000社データベース」6位)は、2022年の前年比24.6%増から2023年は同16.7%増に。

米国に本社を置く世界最大の家電量販店Best Buy(ベストバイ=「北米EC事業 トップ1000社データベース」7位)は例年、消費者が高額商品の価格を比較することでトラフィックが大幅に増加しますが、2023年の伸び率は前年の85.0%から51.2%に低下しました。

2022年と2023年における「プライムデー」2日間のトラフィック増加率(出典:『Digital Commerce 360』がSimilarwebのデータを分析)
2022年と2023年における「プライムデー」2日間のトラフィック増加率(出典:『Digital Commerce 360』がSimilarwebのデータを分析)

これらの数字には、プロモーション戦略の違いも反映されているようです。多くの小売事業者は2023年、大々的なプロモーションを展開して7月11~12日の「プライムデー」と競うよりも、7月4日のアメリカ独立記念日にセールを実施する事業者が増えました。

また、多くの小売事業者は1週間にわたるセール期間を設定したため、消費者は「プライムデー」が実施された2日間はAmazonに集中し、その後でTarget、Walmart、Costcoで割引価格での買い物をしました

1週間のセールを通してみると、Targetの落ち込みは2022年を下回ったものの、「プライムデー」2日間の36.5%減に対し、1週間では18.6%減と、落ち込みは緩やかでした。Walmartも同様で、2日間では49.2%増であったのに対し、1週間では56.0%増でした。

「プライムデー」の販売状況を数字から分析

『Digital Commerce 360』が、2023年のAmazonの「プライムデー」の流通総額予測を導き出すのに役立ったインサイトをいくつかご紹介します。

「プライムデー」中、Amazonでの消費支出は増加

市場調査会社Numerator社のデータによると、2023年の「プライムデー」期間中、消費者のAmazonでの買い物が増加しました。

48時間の「プライムデー」期間において、平均注文額は54.05ドルを記録し、2021年の「プライムデー」期間中の52.26ドルから3.4%増加。世界中のAmazonユーザーのうち、5分の1近くの世帯が2日間で商品を5つ以上注文していました。

Numerator社のデータは、3万4185世帯と4200人以上の購入者の調査を通して、Amazonで注文された9万8462の「プライムデー」期間中の注文から導いています。

Amazon以外の小売事業者の売り上げは、それほど順風満帆ではありませんでした。Salesforceによると、米国におけるAmazon以外の事業者の売り上げは、セール初日は2022年比10%減、2日目は7%減。平均値引き率は2022年の30%に対し、2023年は18%になっています。

Salesforceのクラウド型ECプラットフォーム「Commerce Cloud」では、7月4日の独立記念日のセール期間中は割引率が高く、最も高い割引率は25%にのぼりました。

Adobe Analyticsの分析データによると、「プライムデー」期間中における米国のEコマースの売上高は全体で6.1%増加。Adobeのインサイト部門によると、米国のEコマース売り上げは2日間で127億ドルに達し、米国のECサイト全体で見ると、訪問数は1兆回、取扱商品数は1億SKUにのぼっており、Adobe Analyticsのデータでは、これまでの「プライムデー」記録を上回りました。

Amazonの発表によると、「プライムデー」初日の7月11日は過去最大の流通総額を記録したそうです。

2022年比で売上3倍の企業も

ペット用品のPetcubeの共同設立者兼最高マーケティング責任者(CMO)であるアンドレイ・クレン氏は、2023年の「プライムデー」におけるAmazonの売れ行きに満足しており、次のように述べています。

「プライムデー」は、2022年と比較してはるかに好調でした。平均的な日と比べると、売り上げの伸長率は2ケタ成長になりました。特に主力商品は、期待を含めていた売上予測をも上回ることができました。(Petcube クレン氏)

クレン氏によると、2023年の「プライムデー」を楽しみにしていた消費者が、「プライムデー」の開催前からPetcubeがAmazonで展開する商品を買おうと計画していたことがわかるようです。

「プライムデー」の2、3日前はコンバージョンが低くなり、その後、「プライムデー」当日の最初の数時間はコンバージョンが大きく跳ねました。おそらく、お客さまは商品をあらかじめカートに追加していたのでしょう。(Petcube クレン氏)

Petcubeは「プライムデー」の売り上げが好調に拡大(画像は米PetcubeのEコマースサイト「petcube.com」から編集部がキャプチャ)
Petcubeは「プライムデー」の売り上げが好調に拡大(画像は米PetcubeのEコマースサイト「petcube.com」から編集部がキャプチャ)

Amazonに出品している小売企業を多数買収している投資会社Thrasio(セラシオ)のグレッグ・グリーリーCEOは、「プライムデー」の期間中、過去最高の売り上げを記録したブランドも見られたと発表しました。

プライムデーの2日間は、Thrasioの歴史のなかで最も収益性の高い2日間でした。(Thrasio グリーリー氏)

Thrasioが足元で買収した、虫除けスプレーの販売会社Ranger Ready Repellentsは、「プライムデー」で記録的な売り上げを達成。2022年の「プライムデー」に比べて売り上げを3倍に伸ばしました

この記事は今西由加さんが翻訳。世界最大級のEC専門メディア『Digital Commerce 360』(旧『Internet RETAILER』)の記事をネットショップ担当者フォーラムが、天井秀和さん白川久美さん中島郁さんの協力を得て、日本向けに編集したものです。

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