ECのプロモーションに影響も? 「商品広告」巡るサン・クロレラ販売の差止訴訟とは

自社通販とは別サイトでプロモーションを行う“サテライト方式”のスキームを使った広告手法にも影響か
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サン・クロレラ販売を巡る広告の差止請求訴訟が新たな局面を迎えている。2月、広告の差し止めを認めた一審判決から一転、大阪高裁が原告である京都消費者契約ネットワーク(KCCN)の訴えを退けたためだ。判決では、一部で“バイブルチラシ”とも揶揄される広告手法の違法性の判断も避け、その違法性は宙に浮いた状態になっている。一方、今回の判決で国が認定した適格消費者団体にのみ与えられた「差止請求権」は窮地に陥っている。その“限界”が露呈したためだ。(差止訴訟を巡る経緯はこちらを参照

「商品広告」認定で波紋広がる

サン・クロレラ販売を巡る訴訟が注目されていたのは、理由がある。一審判決が、従来の「商品広告」の定義を覆すものであったためだ。

広告の定義は薬機法(旧薬事法)に示されている。「顧客を誘引する意図がある」「特定の商品名の表示がある」「一般人が認知できる」の3要件を満たすものだ。

一方、サン・クロレラ販売が日本クロレラ療法研究会(研究会)を通じて行っていたとKCCNが指摘するチラシには、「商品名」の記載がない。このため薬機法や景品表示法の規制を免れてきた。過去には警察当局の追及すら逃れている。

だが、一審の京都地裁は、チラシを「商品広告」と認めた。理由は、サン・クロレラ販売と研究会が実態として“一体”であると見たため。「『商品名』の記載がなくても消費者が広告で行われた不当な説明に誘導され、商品購入に至る場合、景表法の規制対象としなければ規制目的を達成できない」(判決文)というのがその理由だ。その上で、広告の内容が景表法上の「優良誤認」にあたるとも判断した。

この判断は、サン・クロレラ販売のチラシだけでなく、多くの企業が行う広告手法に影響をもたらす。同社ほどでないにしろ、似たようなスキームの広告はさまざまな企業で行われていたためだ。

争点は日本クロレラ療法研究会が配っていた「クロレラ」の効果をうたうチラシ

「差し止めるべきチラシがない」

一方、大阪高裁ではサン・クロレラ販売と研究会の一体性、つまり“広告を配ったのは誰か”という判断を避けた。同社がすでに研究会チラシの展開を止め、差し止めの対象となった研究会チラシを「今後も配らない」と明言したためだ。加えてこれを理由にKCCNの請求を退けている。「差し止めを行う対象となるべきチラシ自体がない」ためだ。

争点のチラシ自体がないため、当然、景表法上の違法性も判断されていない。ちなみに2014年6月時点の状態であれば「サン・クロレラ販売が配布主体にあたる」との判断は下している。

判決に、サン・クロレラ販売は「判決を評価している。もともと研究会と販売者が未分離の部分はあった。今は明確に分離した」(代理人弁護士)とコメント。KCCNは「違法性を認めているわけではなく、いつまたやるとも限らない」と問題視。3月2日、最高裁に上告している。

「広告変更」で逃げ切りか

判決では、今回のようなケースが「商品広告」にあたるかの判断が避けられ、グレーな状態に据え置かれたままになった。一方で、このことから新たな問題を浮上している。「差止請求権」の限界だ。

一審判決では、健食素材であるクロレラについて「免疫力を整える」「高血圧・動脈硬化予防」など5表現、同ウコギについて「抗アレルギー」など5表現の差し止めを認めた。だが、訴訟で争われるのは、あくまでこれまで配っていたチラシ。その広告自体、差止請求を受けた事業者側が「(チラシ等の)広告を行うのを止めた」と宣言すれば、差止判決を回避できるという問題だ。「内容を変えれば同種の広告を行い続けることが可能になり、堂々巡りになる」(KCCN)とみる。差止判決が出た場合、その効果は一定範囲の類似広告に及ぶものの、繰り返えされればその都度、差止請求に必要な訴訟費用が重くのしかかってくることになる。適格団体の例ではないが、実際、「差し止め」の対象がないことによる請求棄却を行う判例が増えてもいる。

判決にこだわり最高裁へ上告

KCCNは今後、「同種の広告が再配布されるおそれ」があることを理由に差止判決を求めていく。

高裁判決に先立つ昨年8月、KCCNでは、和解案を提示。理由は、「和解であれば類似広告の展開など、抜け道となる広告手法をとれないようにすることができる」ためだった。一方、サン・クロレラ販売が和解に応じなかったことをもって「同種の広告を改めて行うおそれがある」と、差止判決の必要性を訴えていく。過去の判例には、違反行為を現段階で行っていないものの、「行うおそれがある」ことを理由に差止判決を下した例もあるという。

研究会「クロレラの事なら応える」

今回の判決を関係者はどう受け止めたか。

消費者庁は、「適格団体の認定・監督をするだけなのでそのあたり(注・差止請求権に限界があること)にまで踏み込んでどうのということはない。最高裁の結果を注視する」(消費者制度課)、厚生労働省は「判断を避けたのだと思う。ただ、違法性があるかは個別事例を見なければなんとも言えない」(監視指導・麻薬対策課)とした。

チラシを配布していた当の本人である研究会は、「裁判に関係しておらず、改めて同種のチラシを配布するか分からない。質問に答える義務もない。クロレラのことなら答える」(研究会窓口担当者)とコメント。チラシ再開の意図を明確にしていない。

適格団体の動向は?

サン・クロレラ販売と日本クロレラ療法研究会の一体性が認められ、研究会チラシが「商品広告」と判断されると、従来の広告を巡る定義を覆す判断が下されたことになる。このことは、折込チラシだけでなく、これと同様、自社通販とは別にサイトを立ち上げたり、プロモーションを行う“サテライト方式”のスキームを使った広告手法にも影響を及ぼす

例えば、健康食品の機能性成分や素材の認知を高めるため、「○○研究所」「○○普及会」といった組織を1社もしくは複数社がスポンサーとなって立ち上げるケースがある。

また、「商品」と「効果」の訴求を巧妙に分けたプロモーションもある。トライアルのサンプル購入者を対象に、数日後、効果を書いた「成分情報」をDMで提供するケースだ。ネットでも「研究サイト」のような体裁で自社商品のプロモーションにつながる健食の成分情報を掲載。「研究サイト」に誘導するバナー広告を展開した上で、訪れたユーザーをリターゲティング広告で通販サイトに誘導するパターンがある。

こうした手法はこれまで「商品」と「効果」がセットでないため、単なる“健康情報の提供”として規制を免れてきた。ただ、こうした広告手法に適格団体の関心も高まっている。

◇◇◇

最近の事例では、消費者支援機構関西が、「しじみ習慣」を展開する佐々木食品工業に表示の見直しを求める申し入れを行っている。昨年9月以降、複数回のやり取りが交わされ、現在も決着はついていない。

問題視された一つが、ウェブ上で広告の明示なく展開されている「しじみ習慣」の商品紹介や体験談サイトだ。同社が広告代理店に依頼し設置したサイトと、アフィリエイターが作成したアフィリエイト広告が含まれる。消費者支援機構関西では、広告であることを隠して実質的に広告を行う“ステマ”にあたると指摘している。

例えば、あるサイトでは「GOT・GPTの数値を下げるには?『しじみ習慣』をお勧めします」といったタイトルで商品が紹介されている。ほかにも肝臓の数値を低下させることをほのめかすサイトがある。

消費者支援機構関西では、アフィリエイターの管理強化と、広告の明示を要望。佐々木食品工業もこれに応じている。

◇◇◇

国の認定を受け、差止請求権が与えられた適格団体は全国に14ある。ただ、それぞれ得意分野も異なる。解約案件など比較的争点が明確な消費者契約法や特定消取引法関連と異なり、健食分野における景表法の運用はその認定の難しさから扱う団体は少ない。活発な活動で知られるのは、京都消費者契約ネットワーク、消費者支援機構関西、ひょうご消費者ネットの3団体(=表)。特にテレビやウェブなど誰でも目にすることができる媒体が監視対象になりやすい。

消費者庁は、適格団体の果たす役割の一つに「食品表示の是正・監視の複線化」をあげている。民間の団体である以上、差止請求権に限界があるのは仕方のないことかもしれない。こうした団体の問題意識が行政サイドと共有されていく。

差止訴訟の経緯

京都消費者契約ネットワーク(KCCN)と、サン・クロレラ販売取締役の中山哲明氏が会長を務める日本クロレラ療法研究会が長年に渡り行っていたチラシを巡るもの。

研究会は、チラシで健康食品素材である「クロレラ」や「ウコギ」について、肺気腫や高血圧、パーキンソン病や前立腺がんに効果があるように記載していた。これをKCCNが問題視。研究会チラシは、サン・クロレラ販売が顧客を誘引するために研究会を通じて配っている「商品広告」であると主張した。また、医薬品でないにも関わらず薬効をうたうことは「医薬品を思わせる」として景表法上の優良誤認にあたると指摘した。

KCCNでは、2013年10月、サン・クロレラ販売にチラシ配布を止めるよう差止請求書を送付。一方のサン・クロレラ販売は、研究会は別の組織であり、商品広告でもないと反論。14年1月、チラシの差し止めを求める訴訟に至った。

一審の京都地裁では、研究会チラシが「商品広告」にあたるかを判断するため、サン・クロレラ販売と研究会の"一体性"が争われた。

KCCNは、「サン・クロレラ販売役員の中山哲明氏と研究会会長の『二代目中山流石』が同一人物」「研究会京都本部とサン・クロレラ販売本店が同一場所」「研究会の電話番号の回線契約者がサン・クロレラ販売」「研究会に資料請求するとサン・クロレラ販売から商品カタログが送られてくる」など4点から一体であると主張。裁判所もこれを認め、研究会チラシは「商品広告」であるとした。

その上で、景表法上の優良誤認にあたるかが争われた。これも「クロレラ」に医薬品のような効果があるとするチラシは「医薬品と思わせる」として、KCCNの主張を認め、景表法に違反するとした。

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「通販新聞」掲載のオリジナル版はこちら:
サン・クロレラ販売巡る差止訴訟  チラシの違法性、判断せず(2016/03/10)

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