Digital Commerce 360[転載元] 2023/6/29 7:00

Amazonが消費者の同意を得ずに有料会員制サービス「Amazonプライム」に登録・更新させているとして、FTC(米連邦取引委員会)は6月21日に提訴しました。この提訴は根拠が十分ではないように見えますが、Amazonのビジネスモデルに懐疑的なFTCは今後、より大きな訴えを起こす可能性があります。米国のEC専門紙『Digital Commerce 360』編集部のドン・デイビス編集長が、FTCによるAmazonへの提訴、今後の行方について解説します。

米連邦取引委員会が提訴。Amazonは「消費者をだましている」?

「FTCがAmazonをプライム会員登録の手口について提訴」という見出しが、米ニューズ・コープの子会社が発行する日刊経済新聞「Wall Street Journal」に掲載されました。その記事の見出しから察すると、「Wall Street Journal」の編集者たちは、この件を一大事だと考えているようです。

FTCがAmazonに対して行った提訴について記述した「Wall Street Journal」の報道(画像は編集部が「Wall Street Journal」のサイトからキャプチャ)
FTCがAmazonに対して行った提訴について記述した「Wall Street Journal」の報道(画像は編集部が「Wall Street Journal」のサイトからキャプチャ)

EC専門誌の編集長を務める私は、そうは思いません。しかし、この訴訟が、オンライン通販最大手のAmazonに対する、独占禁止法違反につながる大きな訴訟の序章の始まり、としたら話は別でしょう。

この訴訟でFTCは、「Amazonが消費者をだまして『Amazonプライム』に登録させ、解約を困難にした」と主張していますが、この訴えの大きな疑問点は、「Amazonプライム」の会員特典として得られるサービスが多くの消費者に好まれていることを示す十分な証拠があることです。その特典には、迅速な無料配送、Amazonの動画配信サービス「Prime Video」での映画やテレビ番組のストリーミング、その他の特典などが該当します。

十分な証拠について、「Amazonプライム」に1年間加入した消費者の94%が更新し、さらに、2年間契約している加入者の更新率は98%だったという、米国の調査会社コンシューマー・インテリジェンス・リサーチ・パートナーズの調査結果などがあります。

Amazonは事実無根を主張

また、「Amazonプライム」の解約は5クリックで手続きが完了するなど、FTCが指摘するような複雑さはありません。しかし「Wall Street Journal」の記事では、Amazonが4月、FTCの提訴を見越した上で、一部の「Amazonプライム」加入者の解約をさらに容易にしたと指摘しています。

Amazon側は、FTCの訴えを「事実も法律の解釈も間違っている」と説明、「FTCが提訴する前に通常の反論の機会が与えられなかった」と訴えました。

Amazonの独占禁止法違反の疑いとは

米国では、FTCが日本の独占禁止法に当たる「反トラスト法」違反でAmazonを提訴するのではないかという報道もあります。ただ、今日の法的環境では、FTCがAmazonに勝つのは難しいでしょう。

原告となるFTCは、「Amazonが『Amazonプライム』の会員に対して無料かつ迅速な配送を割引価格で提供することで、競合他社を廃業に追い込んでいる」と主張することになりうるでしょう。Amazonを糾弾したいと考えている人たちは、Amazonが小売り事業では赤字を出していることを証拠の1つとして指摘することができます。

この赤字は、Amazonが何百億ドルもかけてフルフィルメント・ネットワークを構築し、オンライン注文の商品を素早く消費者に届けられるようにしたからです。これにより、消費者はAmazonで25ドル以上の買い物をするか、または「Amazonプライム」の会員であれば、Amazonによる無料かつ迅速な商品配送サービスを享受できるようになりました。

Amazonの大きな支柱はAWS

一方、ネット通販ではそんな状態のAmazonが、全体では大きな利益を計上しているのは事業者向けに提供しているクラウドサービスAmazon Web Service (AWS)の成功があげられる、という主張があります。

2022年度(2022年1-12月期)におけるAmazonのAWSの営業利益は228億ドル、経常利益は122億ドルでした。AWSは営業利益の90%以上を占めています。ちなみに、経常利益が落ち込んでいる要因は、Amazonが筆頭株主となっている米国の電気自動車メーカーRivian Automotive, Inc.(リヴィアン・オートモーティヴ)の株式127億ドルを評価損として計上したためです。

広告サービスの売上高も377億ドルまで拡大していることを踏まえると、Amazonの他の事業、特に小売事業が「『Amazonプライム』の会員に対して無料かつ迅速な配送を割引価格で提供することなど」によって損失を出していると主張できることでしょう。

競合各社は、Amazonが「Amazonプライム」会員向けに商品を無料かつ迅速に配送することで、Amazonと同等のサービスを提供しなればいけないとプレッシャーを感じます。これが、米国の会計・コンサルティング会社デロイト・トウシュ・トーマツ(デロイト)が発表している、過去10年間の米国小売企業の収益性が低下していることの一因となっていることは間違いないでしょう。

デロイトの小売・卸売・流通業界のリーダーであるルパイン・スケリー氏は、『Digital Commerce 360』のインタビューで「送料無料は続かない。もう限界にきている」と語っています。

Amazonと競合する小売事業者にとって大きな問題は、消費者は注文した商品の送料無料を好むため、送料無料サービスを提供しなければならないと感じていることです。『Digital Commerce 360』が近日中に発表する「2023年版 Top 1000社 レポート」によると、2022年には北米のオンライン通販事業者の77.2%が、キャンペーンなど少なくとも一部のケースで送料無料を提供しており、この割合は2019年の70.1%から増加しています。

一方、Amazonは小売業で赤字を出しても、AWSや広告で多くの利益を上げているため、大きな利益を生み出しています

独禁法違反は“企業の行為が消費者に損害を与えた場合のみ”

上記のような話は、FTCのリナ・カーン委員長には目新しいものではありません。彼女は、米イェール大学法学部の学生だった2017年に、「Amazonの独占禁止法のパラドックス」と題する論文で注目を浴びました。

その論文は、Amazonなど市場で支配的な地位を獲得しているIT大手企業に対して、より積極的な行動をとるべきだと主張する内容です。

FTCのリナ・カーン委員長がイェール大学在学中に発表した「Amazonの独占禁止法のパラドックス」(画像はイェール大学が運営する「Yale Law Journal」のサイトから編集部がキャプチャ)
FTCのリナ・カーン委員長がイェール大学在学中に発表した「Amazonの独占禁止法のパラドックス」(画像はイェール大学が運営する「Yale Law Journal」のサイトから編集部がキャプチャ)

カーン氏はこの論文のなかで、何が独占禁止法での提訴を妨げているのかについても言及。法学教授であり後に判事となったロバート・ボーク氏の1978年の著書「独占禁止法のパラドックス」に影響されているそうです。「独占禁止法のパラドックス」は、連邦判事の事なかれ主義的な態度は、独占禁止法訴訟は企業の行為が消費者に損害を与えた場合にのみ正当化される――と主張する見解を解説しています。

ロバート・ボーク氏の著書「独占禁止法のパラドックス」(画像は編集部がAmazonの販売ページからキャプチャ)
ロバート・ボーク氏の著書「独占禁止法のパラドックス」(画像は編集部がAmazonの販売ページからキャプチャ)

この考え方は保守的な判事によって広く採用され、大企業が独占禁止法違反の訴えをかわすのに一役買っています。

結局のところ、Amazonや米国の大手スーパーマーケットチェーンWalmartは、消費者に商品を低価格で提供しているという証拠をいくらでも提示できるからです。

こうした低価格(Amazonの場合は送料無料)は、競合他社を廃業に追い込むかもしれません。しかし、ボーク氏を支持する人たちの見解は、独占禁止法は企業の競争相手を保護するものではなく、消費者だけを保護するものなのです。ただ、この意見に反対する人たちは、こう言います。

「Amazonのような大企業が市場を支配するせいで、消費者にさらに大きな価値を提供できるような、新たな企業の出現が妨げられている」

私は自らの取材を通して、ベンチャーキャピタルに所属する投資担当者が、オンライン通販業界で起業しようとしている人に、よくこんな質問をすることを知っています。

「もしあなたのビジネスが成功したら、Amazonにビジネスモデルをまねされないようにする方法はありますか?」

多くの場合、彼らは何も答えられず、方法があったとしてもアイデアを試すための資金を得られないのが現実です。

「Amazonプライム」訴訟の行方は?

「Amazonプライム」をめぐるFTCの訴訟は、Amazonに対するFTCの計画的な措置の第1弾に過ぎない可能性があります。「Wall Street Journal」は203年2月、「FTCはAmazonに対してさまざまな方面から訴訟の可能性を検討している」と報じましたが、「Amazonプライム」の会員をだましたという疑惑はその可能性の一つに過ぎないでしょう。

おそらく、将来的にはもっと広範囲に及ぶFTCの攻撃があると思われます。Amazonの競合企業たちは、AmazonがAWSを売却する可能性を見い出せるかもしれません。また、AWSを手放せば、Amazonも小売業として利益を上げる努力をせざるを得なくなります。

しかし、期待しない方がいいでしょう。Amazonが「Amazonプライム」の登録や解約の手続きを修正することに同意したとしても、Amazonの優位性が失われることも、利益を圧迫してしまう送料無料サービスを提供する競合企業へのプレッシャーが少なくなることもないはずです。

この記事は今西由加さんが翻訳。世界最大級のEC専門メディア『Digital Commerce 360』(旧『Internet RETAILER』)の記事をネットショップ担当者フォーラムが、天井秀和さん白川久美さん中島郁さんの協力を得て、日本向けに編集したものです。

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