Digital Commerce 360[転載元] 3/7 8:00

ECを展開する小売事業者にとって、2024年はよりオムニチャネルによる戦略が求められそうです。オムニチャネルは従来、ECとリアル店舗をそれぞれつないで販売チャネルを融合するイメージでしたが、双方のチャネルの利点を有効活用した上で、データの追跡と分析を融合させたデータドリブンの取り組みが求められる時代になりつつあります。

データドリブンのマーケティングに注目集まる

米カリフォルニア州南部の都市であるパームスプリングスで2月27日に開催された小売業界の招待制カンファレンス「eTail Connect West(イーリテイルコネクトウエスト)」。ここで、小売事業者によるオムニチャネル戦略が前面に打ち出されました。

登壇した小売企業の各社は、顧客の商習慣や好みを捉えるだけでなく、デジタル化が進んでいる昨今の市況に対応し、データ主導のマーケティングで事業を最適化する必要性があることを強調しました。

小売事業者はこれまでの過去4年間、「新型コロナウイルスの影響による市況の変化に対処し、より少ないリソースでより多くの成果を得る」ために、多方面での最適化・効率化を強いられてきました。カンファレンスの会場となったJWマリオット・デザート・スプリングス・ホテルのホールや館内で交わされる会話を聞けば、小売事業者は共通の悩みを抱えていることがわかりました。

顧客の潜在ニーズを探るターゲット

米国の大型スーパーマーケットチェーンであるターゲットで、アパレル・アクセサリー商品を担当するジェナ・フォックス氏(シニアバイスプレジデント)は、次のように話します。

ターゲットは、「お客さまが求めるものは何か」を捉えたいと考えています。お客さまのニーズは何なのか――その理由の一部は科学の力で解明することができます。また、ある意味では、新たなニーズの創造とも言えるでしょう。お客さま自身がまだ気付いていない、潜在的なニーズを把握したいと考えています。(フォックス氏)

ターゲットの消費者ニーズの追求は、マーチャンダイジング、ブランディング、オムニチャネル戦略、さらにはその先にまで広げています。

ターゲットがフィットネスブランドの「All In Motion(オール イン・モーション)」を立ち上げたとき、女性、子供、男性など1万5000人の消費者にインタビューを行い、フィットネスに関するあらゆるニーズの把握に努めました。市井(しせい)の人々はフィットネスウェアに何を求めているのでしょうか? わかったことは、人によってささいな違いがあっても、結局は「着心地」に行き着くということでした。(フォックス氏)

ウォルマートの会員獲得戦略

会員制スーパーマーケット「Sams Club(サムズ・クラブ)」を運営する米ウォルマートのEコマース担当サブリナ・カラハン氏(バイスプレジデント)とデジタルマーチャンダイジング担当のジョーダン・エディ氏(バイスプレジデント)は、フォックス氏と似た考えを持っています。

「サムズ・クラブ」のECサイト(画像はサイトから編集部がキャプチャ)
「サムズ・クラブ」のECサイト(画像はサイトから編集部がキャプチャ)

「サムズ・クラブ」の運用では、会員の維持・獲得にこだわっています。「サムズ・クラブ」のビジネスは会員制モデルなので、会員を獲得し、会費を支払ってもらわなければ運用できません。注力しているのは、会員に「サムズ・クラブ」を積極的利用してもらうこと。会員は1年ごとに、会員を継続するか、やめるかを決める権利があるため、会員を更新するタイミングが来た時に継続してもらうためです。(カラハン氏)

「サムズ・クラブ」が、コンピューターを活用して顧客の支払いプロセスをスピードアップする店舗用の新しい決済テクノロジーを発表したのは、米国のラスベガスで2024年1月に開催された電子機器の展示会「コンシューマー・エレトロニクス・ショー(CES)」。

この技術は、既存の「サムズ・クラブ」の決済システムである「スキャンアンドゴー」を発展させたもので、アプリを使って購入予定の商品を顧客が店内でスキャンできるようにしています。レジを通ることなく、スマホで商品登録から決済まで済ませることができる技術です。

ウォルマートの担当部門が開発したのは、顧客にとってストレスフリーな決済スキームです。買い物カゴのなかに入っている商品をスキャンする人工知能と、コンピュータービジョンの技術を応用し、「スキャンアンドゴー」を活用して、最終的にレジに並ばず店舗を出ることができるのです。(カラハン氏)

カラハン氏によると、ウォルマートは10店舗の「サムズ・クラブ」で新たな決済スキームを試験的に導入し、会員のフィードバックを集めているところです。たとえば、決済スキームが「うまく機能しているのか」「便利だと思われているのか」「決済に関連する会員のストレスを軽減できたか」。「こうした細やかなこだわりこそが『サムズ・クラブ』が会員を大切にしている証です」(カラハン氏)

小売事業者におけるソーシャルメディアの重要性

小売事業者が、自社が扱うブランドと顧客のつながりを築くためには、オンライン上だけでなく、実店舗へのリアルな導線も必要です。オンラインからの導線では、ソーシャルメディア経由でたどり着くことが多いようです。

ECサイトと実店舗の購買体験が消費者によってどのように組み合わされるかを考える上で、ターゲットはオンラインとオフラインのオムニチャネル機能を十分に展開してきました。最新の検討要素は、ソーシャルがお客さまにどのような影響を与えているかということです。ターゲットにとっての潜在顧客がいる所で、お客さまがちゃんとターゲットに出会えるように設計しなくてはいけません。(フォックス氏)

ターゲットやその他の小売事業者にとって、それは中国のバイトダンス社が提供する動画共有アプリ「TikTok」で潜在顧客と接触することを意味しています。

コロナ禍の時、自宅で過ごしていたら当時5歳の末っ子が「TikTok」をやっていたんです。私は「そんなものをやってはいけない」という感じで、末っ子に「『TikTok』はもうやめなさい」と促しました。でも、それから何年も経った今、私自身が夜、ソファに座って『TikTok』をスクロールしながら、最新のトレンドが何なのかを知ろうとしています。そして子供たちは、私が『TikTok』を使っていることを快く思っていません。(フォックス氏)

インフルエンサー選びの重要性とは

フォックス氏はターゲットが手がけるブランド「Future Collective(フューチャーコレクティブ)」を、インフルエンサーや著名人を中心に取り込んだ成功事例の1つとしてあげています。

「フューチャーコレクティブ」のブランドページ(画像はサイトから編集部がキャプチャ)
「フューチャーコレクティブ」のブランドページ(画像はサイトから編集部がキャプチャ)

「eTail Connect West」のパネルディスカッションに登壇した際、フォックス氏は次のように話しました。

「Future Collective」の立ち上げ当時の商品ラインアップは、インフルエンサーのカーラナ・バーフィールド・ブラウン氏と供に立ち上げました。最近では、モデルからファッションインフルエンサーに転身したジェニー・K・ロペス氏とコラボレーションした最新コレクションを発表しました。このような取り組みは、これまでとは違った顧客アプローチを仕掛けるための良策だと思っています。(フォックス氏)

「フューチャーコレクティブ」とコラボレーションしているジェニー・K・ロペス氏(画像はサイトから編集部がキャプチャ)
「フューチャーコレクティブ」とコラボレーションしているジェニー・K・ロペス氏(画像はサイトから編集部がキャプチャ)

ブランドとのこうしたコラボレーションでインフルエンサーを起用することは、ブランドがどのようなパートナーシップを結ぶかを考える機会にもなります。パネルディスカッションでフォックス氏は、「フューチャーコレクティブ」のコラボレーター選びに関するターゲットの意思決定についても説明しました。

消費者の好みやニーズは何か。そして、ターゲットの価値観と本当に一致するパートナーをどうやって見つけるのか。多様な視点を持つことが大切です。(フォックス氏)

「TikTok Shop」が新たな重要チャネルに台頭

あくまでオムニチャネル戦略の一環として、「Instagram」「TikTok」「YouTube」などのソーシャルメディアのインフルエンサー活用を小売事業者が進めるなか、「TikTok」上で商品やサービスを販売できる「TikTok shop」の即時性に注目が集まっています。

「Neweggが『TikTok』で大きな成功を収めた理由は、ユーザー数ではなく、買い物のしやすさです」と話すのは、米国の大手家電EC事業者であるNewegg(ニューエッグ)のドリュー・ロダー氏(ディレクター)です。

「TikTok Shop」が立ち上がった際、Neweggはいち早く実験的な挑戦。家電商品を販売するために社内で動画を制作し、複数のアカウントで展開して成功を収めたのです。Neweggの登壇者は「eTail Connect West」のパネルディスカッションに登壇したとき、「TikTok」で配信しているネックマッサージャーの短い動画を紹介。その動画は1970万回視聴され、数十万ドルの売り上げにつながったと説明しました。

また、Neweggの登壇者は、「Webサイトの分析ソフトなどを提供している米国PowerReviews(パワーレビュー)の調査データによると、Z世代の消費者の57%が美容関連の商品の購入をする際に『TikTok』の動画を参考にしている」ということにも言及しました。

注目が集まるデータドリブン主導のオムニチャネル戦略

小売事業者がどのようなオムニチャネル戦略を展開するにしても、重要な役割を果たすのは顧客による購買データの追跡とその適切な分析です。

SPARC Group Holdings(スパーク・グループ・ホールディングス)で、ファッションブランド「FOREVER(フォーエバー)21」のCRMおよびチャネル・マーケティング担当するライアン・ホフマン氏(バイスプレジデント)は、データ主導のシンプルなマーケティングを推奨。「小売事業者が限られたリソースでより多くのことを行わなければならない場合、データ主導の戦略は不可欠です」(ホフマン氏)

データマーケティングと、それを活用したシンプルな顧客アプローチを実現するには、複雑な課題があるように思えますが、実際には顧客ターゲットとブランドが伝えたいメッセージを明確にするだけです。そのような文脈でマーケティングを考えることができれば、ターゲット層や既存顧客にしっかり焦点を当てることができます。そして、ターゲット層に適切なプロモーションメッセージを送ることができるのです。ただ、そのプロモーションを送るのにふさわしいターゲットを見つけにいく場合もあります。(ホフマン氏)

最適化して結果を評価しながらマーケティングを進めることで、最終的には経営上のどの数字が重要なのかに焦点を当て、判断することができるようになります。

まずに見直すべき点は、各数値の評価基準です。たとえば、販売チャネルのKPI、メールの開封数、クリック数、インプレッション数、広告費から何人の新規顧客を獲得できたのか。顧客の構成比は、2回目、4回目、5回目……と、リピート購入する顧客に対して、1回きりの購入で離れてしまう顧客はどれくらい占めているのかといった項目です。(ホフマン氏)

フォックス氏は、オムニチャネルマーケティングの成功には「アート(ニーズの創造)とサイエンス(データ分析)の融合」が必要であると指摘。データに関してはサイエンスの出番だと言います。人々のニーズを予測することが想像に近い場合であっても、科学がそれを裏付けるのです。

この記事は今西由加さんが翻訳。世界最大級のEC専門メディア『Digital Commerce 360』(旧『Internet RETAILER』)の記事をネットショップ担当者フォーラムが、天井秀和さん白川久美さん中島郁さんの協力を得て、日本向けに編集したものです。

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