Digital Commerce 360[転載元] 3/21 8:00

事業戦略において、カスタマーサービスをどのように位置付けていますか? 馬具の販売を手がけるDover Saddlery(ドーバーサドルリー)の創業者で名誉CEOのブラッド・ウォランスキー氏はマーケティング視点として、カスタマーサービスはコストセンターではなく、利益を生むプロフィットセンターとして重要視するべきだと提唱しています。そのウォランスキー氏が、現在の市況において、小売事業者がカスタマーサービスをどのように捉えるべきかについて語りました。

ドーバーサルドリー 名誉CEO ブラッド・ウォランスキー氏
ドーバーサルドリー 名誉CEO ブラッド・ウォランスキー氏
『Raving Fan Creation: You Guide to Growth and Profitiveness amid in the margin reducing tactics of your competitors(熱狂的なファンの創造ー利益率が難しいなかで事業成長と収益性アップを図るためのガイドー)』の著者

カスタマーサービスを取り巻く環境を理解しよう

好調な経済状況、それに反して買い物に消極的な消費者心理の二律背反を理解するには、接客業の視点から考えることが有効でしょう。特に、小売業界において顧客に最も接する機会が多い接客業の従事者は、ここ数年にわたり生活に打撃を受け続けています。

コロナ禍前、コロナ禍、アフターコロナ、現在の景況感やカスタマーサービスを取り巻く環境を見ることで、事業者側と消費者心理を理解するためのヒントが見えてくるかもしれません。

  • コロナ禍前
    • 経済は活況。接客スタッフは完全雇用。現状維持のビジネススタイルでも、多くのサービス業が伸長
  • コロナ禍
    • 接客スタッフの多くが解雇され、小売業の接客サービスが手薄
  • アフターコロナ
    • 店舗が再オープンし、接客スタッフの一部は店舗に戻るものの、まだ復帰できていないスタッフもいる。接客業は顕著な人手不足で、復帰したスタッフは過労で疲弊する自体に
  • 現在
    • 接客サービスの価値が再認識され、スタッフは増員された。経済のインフレが進んでいることにより、スタッフの給与水準、小売業・接客業の収益性確保に課題がある

コロナ禍で全世界が大きな打撃を受けるなか、接客サービスは一時的に鳴りを潜めたものの、そのまま不必要なものになることは決してありませんでした。

ドーバーサドルリーの自社ECサイト(画像はサイトから編集部がキャプチャ)
ドーバーサドルリーの自社ECサイト(画像はサイトから編集部がキャプチャ)

コストを惜しんだカスタマーサービスではファンを作れない

私が執筆した『Raving Fans Creation(熱狂的なファンの創造)』では、「優れた小売事業者はより良いカスタマーサービスがより多くの売り上げをもたらすことを知っている。カスタマーサービスはコストではなく、マーケティングのための投資と位置付けるべきだ」と指摘しました。粗末なカスタマーサービスでは、リピーターは決して増えません。

優れたカスタマーサービスは必要とされている

充実したカスタマーサービスを提供するためのコストは上がり続けていますが、それでも、優れたカスタマーサービスが必要なのは今でも同じです。たとえば、次のケースから見ても、それは明らかです。

  • 顧客は10%のサービス料を付加しているレストランを嫌がります。また、すでに値上がりしている食事メニューの価格がさらに高くなるのを、もっと嫌がります。10%のサービス料は、好まれるとは言えませんが、顧客にとって理解はできます。食事の原材料価格の上昇(インフレ)+人件費の上昇が背景にあると想像できるからです。一方で、昨今の急速なインフレは値上げの限界値を超えています
  • 現在急速に発達しているAIは、人員削減の一因にあげられています。おそらくAIは、満足度の高いカスタマーサービスを再現したり、既存のカスタマーサービスを改善したりできると思われますが、「AIにカスタマーサービスを任せて、生身の人間によるカスタマーサービスは減らすほうが良い」とは結論づけられていません。AIはむしろ、自動音声応答システム(IVR)のようなカスタマーサービスを代替する可能性があります。

生身の人間による接客の重要性

IVRで「リクエストするには『1』を押してください」といった無機質なメッセージを顧客にアナウンスする対応は、企業からはコスト削減に貢献する施策として賞賛され、消費者からは嫌がられてきました。消費者の立場からすれば、カスタマーサービスに電話し、たらい回しにされることなく、生身のスタッフに直接つながる方がもっとも喜ばしいことです。

消費者はカスタマーサービスにおいて人間同士のコミュニケーションを好みますが、そのコストは誰が負担するのでしょうか?

馬具店の「Dover Saddlery」では、顧客は店頭で革の匂いをかいだり、ヘルメットやズボンを試着してフィット感を確かめたり、店舗内で他のライダーと交流したりすることを好みます。オンラインショッピングの販売チャネルに、店舗での便利な買い物という選択肢が与えられた場合、顧客はより人間的な交流の多い販売チャネルを選択します

多くの人が予測したように、コロナ禍後も実店舗は生き残っています。インターネットは利点も多いですが、より高いレベルの接客サービスや人間同士の交流に打ち勝つことはありません

人件費を抑えた接客サービスは改めるべき

コロナ禍後も、接客サービスは従来同様に必要とされており、投資する価値があるものだと「Dover Saddlery」は考えています。成果をあげてきた多くの企業のように、マーケティングコストとしてカスタマーサービスへ投資する企業は、今後も成功し続けるでしょう。そうでない企業は成功しません。

「インフレの影響」「最低賃金20ドル」「今週の最低賃金50ドル」といった日々のニュースに見られるように、レベルの高いカスタマーサービスを提供できる人へのコストは上昇しています。

低賃金で雇っている接客スタッフが原因となり、自社の顧客の購買力の低下を目の当たりにしているサービス事業者は焦っているでしょう。雇用主は人件費の高騰に頭を抱えています。

しかし、インフレの経済状況と、サービス業従事者の収入が頭打ちになっていることを考えると、賃金を上げない限りは、経済が好調であることを彼らに納得してもらうのは難しいでしょう。

つまり、エコノミストたちは数字上で景気が好調だと見ていますが、飲食店のウェイターや小売店舗の店員といった実際に第一線で働くサービス業のスタッフたちは、景気の好調ぶりを感じていないのです。なぜなら、彼らの報酬は、スーパーマーケットで食品を買い物する支出や、家主に支払う家賃に追いついていないからです。

そして、スタッフが減少しているものの人的コストが上昇しているため、接客業に従事する人たちの上司景気の回復によってEBITDA(償却前営業利益)が増加するとは考えていません。

カスタマーサービスが企業の成長戦略にきちんと組み入れられたときに、彼らは経済の好調ぶりを初めて実感するでしょう。

この記事は今西由加さんが翻訳。世界最大級のEC専門メディア『Digital Commerce 360』(旧『Internet RETAILER』)の記事をネットショップ担当者フォーラムが、天井秀和さん白川久美さん中島郁さんの協力を得て、日本向けに編集したものです。

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