今さら聞けないECシステムの選定ポイント。D2C、サブスクリプションモデル事業に必須の機能は何?
ここはD2C(Direct to Consumer)やサブスクリプションの事業に進出しようとしているEC事業者のための相談室。菓子製造・卸を手がける企業の木村部長と、化粧品メーカーの石井社長が、ファシリテーターの尺田さん、アドバイザーの吉村さんからレクチャーを受けています。今回のテーマは「ECシステム選定のポイント」です。
①ASP型
ASP型はASPベンダーが構築・運用管理するサーバーに、複数のEC事業社のECシステム環境が構築される形式。各社のサーバー環境に顧客データ、商品データ、取引履歴データなどが一定期間保存される。EC事業者はブラウザーからシステムの管理・運用を行なう。一般的な初期構費用は数万円〜十数万円。月額費用は数千円〜数万円。
・ASP型のメリット
自社のスタッフに専門知識やIT開発スキルがなくても導入可能ということになっていますが、そう簡単でありませんから、サポートデスクに頻繁に電話して相談しながら進めました。
・ASP型のデメリット
事業が拡大するにつれて運用方法が変わっていく一方、バックオフィス管理画面に制限があり、データの持ち方などを変更できないので、整合性が取れなくなったり、データが断片化してしまったりすることがあります。特に定期販売やサブスクリプションを実施すると定期マスターと取引データの関連性の持ち方に癖があるので、顧客分析やCRMなどする際には注意が必要です。
②オープンソース型
オープンソース型とは、無償で公開されている基本プログラムのソースコードを利用すること(ここではオープンソースをベースにパッケージ提供している企業から導入すること)。
EC事業社がよく利用する機能であれば、モジュールやプラグイン形式で提供されおり、Webサイトからダウンロードして機能拡張する。初期費用が数十万円〜、月額費用が十万円。
・オープンソース型のメリット
また、ソースコードが公開されているためカスタマイズの自由度が高く、事業展開や施策に柔軟に対応できます。世界中に多くのユーザーがいるものであれば開発コミュニティが充実しているので、情報交換や相談ができます。特に海外型は顧客視点の機能が充実していることが魅力です。
・オープンソース型のデメリット
サーバー環境はオンプレミス、レンタルサーバー、クラウドいずれでも構築・運用できますが、かつてはデータセンターや自社サーバールームで構築運用するオンプレミスが多かったと思います。インフラ基盤としての自由度は高いのですが、負荷を最大のキャパシティベースで設計するので、導入コスト、保守運用コスト共に比較的高額になりがちです。
ASPサービスでの構築環境としても利用されているレンタルサーバーで構築する場合は、セキュリティに関してサポートしてくれる安心感があります。比較的低コストで構築可能ですが、構築運用の自由度が低いのと、規模拡大時にサーバー環境の移行が必要になる場合があります。クラウドについてはクラウドシステム型の項で説明します。
③パッケージ型または自社開発型
パッケージ型はシステムベンダーが独自に開発したライセンスを購入し、自社で構築したサーバー環境で運用するタイプ。自社開発型については、ゼロからすべてを開発するタイプとパッケージをある程度利用してカスタマイズして運用するタイプとに分かれるが、ここではパッケージ型の1つとする。初期費用は300万円〜1000万円以上(カスタマイズボリュームによる)、月額費用は数十万円。
・パッケージ型のメリット
基本的な仕様の修正ポイントである、消費税率の変更、システムのセキュリティアップデートは、基本的には保守費用の中で対応してくれます。導入時のマニュアルやトレーニングといった運用支援が充実していますが、無料ではないので、教育研修費についても念頭に置いておくといいですね。
・パッケージ型のデメリット
これはパッケージ型だけのデメリットではありませんが、各業務部門からの改善要望の取りまとめ方が大変難しいです。「それ聞いていない、使いづらい」「この機能ないの?」といった意見に対応していると開発予算が拡張してしまいます。外部システムとのデータ連携も結構大変なので、連携システムよりパッケージの改変コストの方が高くなってしまう場合もあります。
④クラウド(SaaS)型
ネットワークやサーバー、基本OS、DBなどの基盤環境について、クラウドベンターの責任によって常に最新バージョンを利用できるのがクラウド型。ECシステムや関連するマーケティングなどのシステム、各機能を制作しているのはベンダー自身なので、不具合が生じた場合もベンダーが対応する。
初期費用は300万円〜。月額費用は定額の場合で10万円程度。海外のシステムには初期費用が10万円台、月額費用が数万円で利用可能なものもある。
・クラウド型のメリット
またサーバーリソースのスケールアップ/スケールアウトを行うことで、急なアクセス増などにも柔軟に対応できます。例えば、キャンペーン期間だけ一時的にサーバー台数を増強するなどの対応をタイムリーに行うことも可能です。
・クラウド型のデメリット
そもそもECシステムに何が必要なのか
- 販売管理システム:商品データや商品・取引先の販売履歴や、商品別の販売条件の管理
- 顧客管理システム:取引先の基本データや与信情報などの管理
- 在庫管理システム:商品、原材料、資材ごとの在庫管理(倉庫やパレットや棚番)、発送先情報と発送指示書などの管理
- 生産管理システム:原材料の所要量管理、生産工程などの管理
- 会計管理システム:各システムから実績データを連携し、税務会計と管理会計を実施
- 営業管理システム:顧客管理システムと連携し、営業活動に利用
- 会計管理システム
- LPツール
- 広告配信・管理ツール
- メール配信ツール
- Google Analytics
- モール連携システム
- 顧客とのコミュニケーションツール(メール/電話)
この他に倉庫管理システムを利用している事業者も多いと思いますが、弊社では3PL会社さんに任せているので自社では利用していません。今後増えてくると思われるSNSのメッセンジャーの対応には、コミュニケーションツールの導入が必要になってくるので、ECシステムのリプレースに合わせて選定中です。
優先すべき機能はビジネスモデルで異なる
石井社長のような単品定期通販をメインとするビジネスモデルであれば、顧客との最初の接点であるLP機能が最優先です。顧客となってからはコンシェルジュ型で、アップセルやクロスセルをするためのコンテンツ配信機能が重要になってきます。
木村部長のような比較的アイテム数が多い総合通販系では、カタログサイト的なデザイン機能、レコメンデーション機能、各商品・サービスに関してのマーケティング要素としてのSEO機能の充実が重要です。アイテムが増えてきたらサイト内の検索などを検討することになります。
デバイスに応じて表示するフォームを変えられる
PCからのアクセスならフォーム一体型、画面が小さいスマートフォンの場合は対話型のフォームがベストです。他のページに関しても、可能なら商品カテゴリー別にデザインをコントロールできると施策が展開しやすくなります。
購入終了後のオファーができる
都度購入からの定期への変更などをいくつかのパターンで展開したり、顧客の利便性の高い決済方法に誘導するオファーなどを実装できるとLTVの向上に効果的です。
ID連携を実装できる
ソーシャルIDや、決済IDの連携が実装されているとユーザーの利便性が上がります。また、デジタル広告配信のプラットフォームが今後より一層、SNSやプラットフォームのDMPを利用していきますので、親和性の高いID連携は必須になるでしょう。
マイページ機能
マイページ機能は顧客満足が向上するのと、バックオフィス側の負荷が低減されるため重要な機能です。海外のD2Cサイトでは、マイページで解約の意向を対話形式でヒアリングしている企業があります。これにより、解約理由に関するデータを取得でき、顧客のニーズに応じた解約後の再アプローチも可能になります。
受注保留後の操作を細かく設定できる
見落としがちですが、保留状態を解消するための作業や出荷のステータスを一括で変更できることは重要な機能です。例えば、後払いのオーソリ不可の再オーソリ、オーソリ不可の場合の決済方法の自動変更、顧客への通知の自動処理などです。顧客についてのネガティブなステータス管理ができることも重要です。住所や電話番号の重複やIP検知など、特定のデータをもとに不正検知としてアラートを出してくれる機能は必須です。
顧客やマーケティング関連の分析機能
ECシステムで保有している顧客データは、LTV向上のために活用するのが目的なので、各顧客のフェーズ、接触媒体、チャネル、オファーなどのデータを関連付けられる機能は重要です。
あれば役立つ機能はまだまだたくさん……
顧客化してからはペルソナプロフィール別にフォローするタッチポイントの設定、ロイヤルカスタマーに育成するためのコミュニケーション設計とコンテンツ提供、その改善のためストーリーデータの履歴管理と評価が重要です。この顧客体験に、購入履歴や使用後のレビューやアンケートデータを載せていきます。ここで重要なことは、商品ありきではないということ。あくまでも顧客体験が優先です。
顧客体験を向上させる機能は他にもたくさんあります。優先順位を付けて検討し、実装可能かどうかを見極めてください。
D2C/サブスクリプションビジネスの機能
- 複数商品の購入態様で、定期と単品(季節商品や、限定商品などの提案)の組み合わせレコメンデーションクロスセル機能
- サブスクリプションのサービス形態として商品SKU内でのセレクト購入(色や、味や、デザインなど)をどう簡易にユーザー視点で選択、変更できるようにするか
- ギフトでのまとめ買い時の商品とお届け先の複数選択・設定
- ギフトを受け取った顧客からの返品、交換や、顧客化へのコミュニケーション
受注管理機能
- 複数温度帯商品(常温、チルド、冷凍)の同時購入
- 予約販売をどう展開するのか(単なる数量制限なのか、追加予約、キャンセル待ちができるようにしたいのか)
- 商品到着までの変更やコミュニケーション
- 法人購入への対応
- PCでもスマートフォンでもカート情報が反映されること
- 顧客ランク設定や自社や外部連携ポイントの設定、変更
- 納品書などのデザインと表記の自由度と変更や設定の難易度。のし対応やギフトカードの対応
- 受注ステータス/受注データの単位(オーダー注文単位、出荷ベース単位、商品単位)
- 受注ステータスでの顧客との業務コミュニケーション
- 注文キャンセル時や返品時の後処理(在庫、決済、ポイント、購買履歴反映など)
- 出荷後の問い合わせ番号の連携(単なる番号登録だけなのか、配送会社へのリンクや受け取り日時の変更までできるようにするのか)
商品登録/表示機能
- 商品一覧での在庫の表示法(実在庫、予定在庫、予約受付、入荷通知など)
- キャンペーンステータスの一覧変更や、アイコン追加
- 商品ページのABテスト
CRM機能
- 顧客からの問い合わせへの対応の履歴をどう残しどう活用するのか
- 電話、メッセンジャー、メールとの連携と活用
- SNS運用やUGC(User Generated Content/ユーザーが生成したコンテンツ)の扱い
管理・分析機能
- 売上、受注、決済などをどう表示したいか
- 商品一覧で在庫の状態をどう見たいか
- 商品カテゴリーの設定や変更方法
- タグの運用管理方法