鈴木 恭子[執筆] 2022/12/20 7:00

消費者ニーズの多様化、新たなテクノロジーへの対応など、ECサイト構築で留意するポイントが増えている。こうした課題に対応するためのECサイトを構築・運用するためのポイントを、CMS(コンテンツ管理システム)の開発などを手がけるハートコアのイベント「HeartCoreDAY2022」に登壇したGMOメイクショップの笹崎淳史氏(クラウドEC事業部 副事業部長 兼 ブランド推進グループ部長)が、「ヘッドレスコマース」「CMSを用いた次世代のECサイトの作り方」を軸に解説する。

GMOメイクショップでクラウドEC事業部 副事業部長 兼 ブランド推進グループ部長 笹崎 淳史氏
GMOメイクショップでクラウドEC事業部 副事業部長 兼 ブランド推進グループ部長 笹崎 淳史氏

自社のECはビジネスモデルの変化に対応できているか?

経済産業省の発表によると、2021年における物販系分野のEC市場(BtoC)規模は13兆2865億円で、新型コロナウイルス感染拡大前(2019年)の10兆515億円から32%増となった。

BtoC-ECの市場規模及び各分野の伸長率(画像は経済産業省の公開資料から編集部がキャプチャ)

EC市場への新規参入の検討、EC事業での売上増加を見込む企業は多いだろう。しかし、激変するEC市場の状況に対応できず、EC事業からの撤退、もしくはビジネスを停滞させてしまっている企業も少なくない。

笹崎氏は現在のECサイトが抱える課題について、次のように言及している。

コロナ禍でオンラインショッピングをする消費者が増加し、ECサイトへのアクセス数は急増した。その結果、動作や処理が不安定になるECサイトが増えている。また、取扱商品数を増やすことでコンテンツ管理作業も煩雑化。さらに、サイバー攻撃や情報漏えいを防止するセキュリティレベルも担保できていない企業も少なくない。(笹崎氏)

わかりやすいUI、UXの重要さを説く笹崎氏

なかでも喫緊の課題が、EC事業の規模拡大スピードにシステムの拡張が追いつかず、実現したい機能の実装や外部サービスとの連携ができていないこと。

ユーザーの嗜好性が多様化し、デバイスの種類も増加していることから、カスタマージャーニーは複雑化しているのだ。

「SaaS・モール型」「パッケージ型」「フルスクラッチ型」「ヘッドレスコマース型」。メリット・デメリットの理解を

笹崎氏は「企業は細分化された需要に対応した商品やサービスを提供しなければならない。その際に重要なのが、わかりやすいUI(ユーザーインターフェース)と、新しいビジネスモデルに最適化されたUX(ユーザーエクスペリエンス)の実現だ」と指摘。

多様化する消費者ニーズ、新しいビジネスモデルなどに対応できるECシステムを構築するためには、市場にあるECシステムの特徴を見極めなければならないという。

現在のECシステムは「SaaS・モール型」「パッケージ型」「フルスクラッチ型」「ヘッドレコマース型」に分類できる。どの型式にもメリットとデメリットがあり、それぞれの特徴を理解する必要があるだろう。

「SaaS・モール型」は一般的な直販を行うには最適だが、個別のビジネスプランやモデルに適したECサイト運営をするためのECサイト構築は難しい。

「パッケージ型」は目的に沿ったカスタマイズが可能で柔軟性は高い。一方、長期的に利用すると陳腐化・ブラックボックス化が起きるケースがあり、それを補うための開発が必要になる。フルスクラッチ型は予算さえあれば好きな機能を搭載できるが、すべてを自社開発しなければならないため、導入に向けたハードルがある。(笹崎氏)

これらのECシステムに対して、「ヘッドレスコマース型」は、自社の事業拡大に合わせてシステムを拡張できるという特徴がある。

「ヘッドレスコマース」とは

ECサイトのフロントエンドとバックエンドを切り離して開発・運用するアーキテクチャ。バックエンド側の制約を受けずに独立したフロントエンドを自由にカスタマイズできる
これによりショップ独自の世界観の表現やユーザーに最適な購買体験を提供できる。オムニチャネルやPOSとの連携など、ECにとどまらずさまざまな購買シーンで活用できる。

「顧客接点となるECサイトの表現に制約がなく、外部サービスやシステムとAPI(Application Programming Interface)で連携できる。また、ビジネスモデルをシステムで表現するビジネスロジックを、外部化(分離)できる優位性もある」と笹崎氏。

一方で、デメリットもある。「開発やカスタマイズが必要なため、運用開始までに一定の時間と工数が必要」(笹崎氏)。また、フロントエンドとバックエンドの理解と管理、マーケティング面ではUI・UXの改善ノウハウがなければ、「ヘッドレスコマース型」採用コストに対してのメリットを享受することが難しくなる可能性がある。

笹崎氏はこうしたメリット・デメリットを踏まえて、「(「ヘッドレスコマース型」は)ブランドイメージの表現に制約がないアドバンテージは大きい」と語る。

ポイントはビジネスロジックとシステムの分離

従来のシステムは、画面表示機能がデータベースなどの本体機能と一体化しているが、「ヘッドレスコマース」は画面表示機能と本体機能を分離してAPI(Application Programming Interface)で接続するアプローチを採用している。

たとえば、顧客ターゲットの拡大などでビジネスモデルを変更する際には、文書管理機能や顧客管理機能にも追加・変更が必要になる。この場合、ビジネスロジックも追加・変更をしなければならないが、その際、画面表示機能と本体機能が一体化しているECシステムでは、ビジネスロジックの追加・変更に多額の追加コストが発生してしまう

アパレル企業のECサイトを想像してほしい。新ブランドラインを立ち上げて専用のブランドサイトで商品を販売する場合、EC本体の機能は既存システムでも良い。

しかし、「ヘッドレスコマース」以外のECシステムでは、ECサイト本体の機能を含めたシステム領域を丸ごと複製しなければならないケースが多い。また、決済、商品データベース、在庫管理、顧客管理、物流といったビジネスロジックを統一しない場合、運用が分断されるということもある。(笹崎氏)

笹崎氏は「ヘッドレスコマース」の有用性を指摘

この点、「ヘッドレスコマース」型は決済、商品データベース、在庫管理、顧客管理、物流といったビジネスロジックがECサイト側と分離し、APIで接続する仕様になっている。

そのため、ビジネスロジックの追加・変更が容易であり、コストも比較的安価に抑えられるという。また、ビジネスロジックを固有のものと共有のものに分割して再利用できるので無駄がなく、運用も一元管理できるという。

「ヘッドレスコマース」型はクラウド環境で提供される。クラウド利用のメリットについて笹崎氏は、「アップデート性」「カスタマイズ性」「安全性」をあげる。

システム基盤を自社で運用する必要がなく、常に最新の機能追加やセキュリティ機能が利用できるといったクラウドならではの特徴のほか、豊富なAPIやWebhookを介して外部システムと連携できるといった優位性がある。

「ヘッドレスコマース」型を活用することで、たとえば他社が提供するデジタルマーケティング機能やコンテンツ・ユーザー管理システムなどと連携し、事業ニーズに応じて必要な機能を柔軟に追加できる。(笹崎氏)

笹崎氏は「今後のECサイトシステムに求められるのは、自由度の高さと柔軟性だ」とし、「システムの制約がなく、デザインと機能を継続的に改善できること。加えてビジネスロジックの水平展開が容易なシステムを選ぶことが、ECサイト成功への近道だ」と強調している。

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