米国で台頭するD2Cブランドが取り入れている「ヘッドレスコマース」。その概念や仕組み、メリットを解説
昨今、「ヘッドレスコマース」という言葉がEC業界でバズワードとして聞かれるようになりました。聞いたことはあるけどよくわからないという人も多いかもしれません。
今回は「ヘッドレスコマース」の概念から仕組み、そして事業者視点/消費者視点でのメリットを解説していきます。
さまざまなチャネルでシームレスな顧客体験を提供できる仕組み
「ヘッドレスコマース」とは、ECコマースプラットフォームからプレゼンテーションレイヤーとオペレーションレイヤーを分離するシステム構造のことを言います。
プレゼンテーションレイヤーとは、例えばECサイトの画面やECシステムとつながったウィンドウディスプレイのような、消費者とのタッチポイントのことを言います。オペレーションレイヤーとは、受注管理や顧客情報、決済、在庫などのことです。
事業者視点で見れば、「コンテンツ管理」「SEO」「広告」といった顧客とのタッチポイントとなるフロント部分をECプラットフォームから分離することで、柔軟性のある顧客体験を提供できるようになるため、ユーザーエクスペリエンス(UX)の強化につながります。
一般的なECプラットフォームを例に説明しましょう。ASP型のECプラットフォームではショッピングカートとECサイトのデザイン部分が綿密につながっているため、デザインのカスタマイズに制約が出てきます。
「ヘッドレスコマース」ではECプラットフォームとデザイン部分を分離するため、デザインの制約はありません。製品やブランドに適したデザインを施せるので、事業者にとってはブランディングの強化につながります。
つまり、顧客の求めるブランド体験(動的で一律ではない、パーソナライズされたコンテンツ)と購買体験(コマースチェックアウト)を、事業者が持つデータを基に、タッチポイントへシームレスに届けることができるようになるのです。
消費者視点で見れば、ECサイトやアプリ、店舗、そして今後、コンタクトポイントとしてますます重要になるソーシャルメディアなど、さまざまなチャネルで統一した顧客体験を受けられるようになります。
鍵になるのは「API」
この「ヘッドレスコマース」の重要なキーとなるのが「API」です。
例えば受注管理。ECプラットフォームに受注管理システム(OMS)組み込まれておらず、別々で運用している場合、受注CSVファイルをプラットフォームから落とし、それを受注管理側の基幹システムに取り込んで受注情報を管理するといった手法が、一昔前まで当たり前でした。そのため、顧客に合わせた購買体験の追加や変更には、多くの時間と費用が発生していました(最近のリプレース失敗事例もこの要因が少なからず関与しています)。
昨今ではECプラットフォームや各種システム側がAPIを公開しているケースが増えており、API連携することで、シームレスにリアルタイムで情報を連携できるようになっています。
UI側のフロントとオペレーションレイヤーをAPIでシームレスに連携しながらECビジネスを運営していくこと、それが「ヘッドレスコマース」でのECサイト運用になります。
ヘッドレスコマースのメリット
ここからは、消費者と事業者が享受できるメリットについて説明していきます。
消費者が享受できるメリット
① 顧客体験の向上
上述したように、従来の一般的なECプラットフォームのシステム構造は、デザインなどのプレゼンテーションレイヤーとオペレーションレイヤーが密に結合されているケースがほとんどでした。
「ヘッドレスコマース」の特性を持ったECプラットフォームは、API連携という柔軟性を持った構造に移行できるため、移り変わりの早い顧客ニーズのトレンドと、それに対応するためのマーケティングやコミュニケーション、キャンペーンに関するツールを、必要に応じて取捨選択して実装できるようになります。
このため、顧客はその時接触している広告やソーシャル投稿など、自分が信頼しているメディアで、ブランドの世界観に触れられるようになります。購入やその後のコミュニケーションについても、顧客の自然な生活時間、生活導線の中で行われます。これは顧客にとっての大きなメリットと言えるでしょう。
何度もメールアドレスの入力を求められたり、中身の薄いメールでECサイトに誘導され、不要なコンテンツでプロモーションされたり、立ち寄りたくない実店舗へ誘導されたりといったことをなくすことで、顧客体験の向上につなげることができるのです。
② スピードの向上
プレゼンテーションレイヤーと呼ばれるフロント側とECプラットフォームをAPIで連携するため、モバイルアプリ、ECサイト、ソーシャルメディア、音声、デジタルサイネージなどに適したコンテンツを、スピーディーに配信可能です。モバイルファースト、IoTの時代に合わせて、より早い配信スピードで、コンテンツを顧客へ届けることができます。
事業者が享受できるメリット
① スタッフのスキルを有効活用できる
事業者はオペレーション層であるバックエンドシステムの取捨選択(採用、廃棄、乗り換えなど)が自由になります。なぜなら、ECプラットフォームに組み込まれる形式ではなく、APIでバックエンドシステムと連携する形式になるからです。
そのため、事業者は自社のビジネスモデルに適したOMS、WMSなどを採用できます。フレキシブルに採用できるということは、廃棄や乗り換えなども同様です。フロント部分の役割を担うデザイナーとエンジニアの役割は完全に分離できますので、例えば、エンジニアがデザイナーのタスク終了を待つといったことがなくなり、エンジニアは本来の仕事である開発業務などに専念できます。
開発工程を機能単位の小さなサイクルで繰り返し、リスクを最小化する開発手法「アジャイル開発」では、こうした開発体制が必須です。「ヘッドレスコマース」の導入は「アジャイル開発」の推進にもつながります。
② バックエンドシステムから顧客にとって必要な情報を選択、提供できる
ECプラットフォームにバックエンドシステムやフロント部分が組み込まれていないので、スピーディーに連携開発を進められます。EC業界の激しい変化に臨機応変に対応できるようになります。
開発にかかるコストも格段に安くなります。ECプラットフォームに組み込まれている場合は、1つの機能開発が他の機能に影響します。そのため、開発コストは大幅に上昇してしまいます。APIで連携する形式であれば、個別の開発と更新・修正で対応可能です。結果として、コストを抑えながら効果を最大化できるようになるのです。
EC業界の変化は日進月歩。消費者のニーズはもちろん、トレンドやECを支えるオペレーション層……。こうした変化にスピーディーに、そして低コストで対応していくシステム概念が「ヘッドレスコマース」になります。
昨今、米国で台頭しているD2C企業の多くが「ヘッドレスコマース」を導入し、急激な事業拡大を進めています。今後、日本でもテクノロジー消費者行動が大きく変わっていくでしょう。成長を続ける企業になるには、システム面で「ヘッドレスコマース」という視点を持つことが1つの鍵になることは間違いないでしょう。
この記事はGMOシステムコンサルティング株式会社が運営するオウンドメディア「Six commerce」に掲載された記事を再編集したものです。オリジナルの記事は下記のリンクをご覧ください。
- 5分でわかる「ヘッドレスコマース」の概念とメリット・デメリット | Six commerce
https://www.ecorigins.jp/contents/headless_commerce.html