高野 真維 2022/12/19 7:00

猫向けの小さなこたつを付録にしたみかんが猫好きの消費者の心に刺さり、2018年から累計6000箱を販売している。この商品をネット通販で手がけるEC事業者nakatx (ナカタクス)は、鶏肉のECサイト「チキンナカタ」を主力で運営している。猫専用こたつ付きのみかんや、その関連商品は、主力商品とは別軸のカテゴリーとして訴求。新たな需要を獲得した。

SNSで話題を呼び、瞬く間に認知が拡大。販売しているみかん(猫専用こたつ付き)は、市場のみかんよりも倍以上の値付けにもかかわらず、人気を集めているという。

nakatx 取締役専務の中田直希氏と、中田氏と二人三脚で猫専用こたつ付きみかんの企画・販売を手がけた岡田商会の常務取締役・岡山耕二郎氏が、猫好きの潜在需要を掘り起こしたアイディアの着想や、SNSでの「バズり」を引き起こした秘訣(ひけつ)を語る。

「ミカン箱の価格は倍以上。猫好きに受け入れていただいた」

――猫専用こたつ付きのミカンと、これまでの販売実績を教えてください。

中田氏:猫専用こたつ付きのみかん5キロ入りは税込5628円、3キロ入りは同4122円で販売しています。販路は自社ECサイトと「楽天市場」店です。商品名は「猫と、こたつと、思い出みかん。」で、2018年の冬から販売しています。これまでの販売実績は累計で約6000箱です。

nakatx  取締役専務 中田直希氏
nakatx  取締役専務 中田直希氏

岡山氏:箱詰めしてお客さまにお送りしているのは和歌山県産のみかんです。「有田みかん」「天田みかん」「川辺みかん」のなかから、1種類を選んでお届けしています。知名度は高くありませんが、いずれも味わいの良いみかんです。商品のヒットを通じて、猫好きの反響だけにとどまらず、みかん自体のファンも増えました。とても嬉しく思っています。

岡田商会 常務取締役 岡山耕二郎氏
岡田商会 常務取締役 岡山耕二郎氏

――猫専用のこたつを付録しているとはいえ、ノーブランドのみかんとしては高価格に思えます。

岡山氏:市場で見かけるものと比べると、倍以上の価格で販売しています。ヒットしたのは、SNSで人気に火がつき、猫好きの方に商品を広く受け入れていただいたおかげです。売り上げの2%は、保護猫活動の支援金として関連団体に寄付しています。こうした取り組みも評価いただいています。

みかんに猫専用こたつを付録したことが、猫好きの消費者の潜在ニーズに応えた
みかんに猫専用こたつを付録したことが、猫好きの消費者の潜在ニーズに応えた
「知名度に欠けるものの、味が良いみかんを広めたい」という中田氏の思いは達成された
「知名度に欠けるものの、味が良いみかんを広めたい」という中田氏の思いは達成された

中田氏:猫専用のこたつはダンボール製で、パーツを差し込むだけで簡単に組み立てられます。ご自宅にある布を、こたつ布団のように天板に挟むと完成する仕組みです。愛猫が入っている様子を思わず撮影したくなる人が多いようです。オンライン上で開催したフォトコンテストも大好評でした。

みかんに付録でつけている、ダンボール製の猫専用こたつ。天板に布を挟んで完成させる
みかんに付録でつけている、ダンボール製の猫専用こたつ。天板に布を挟んで完成させる

フォトコンテストでは“愛猫×猫専用こたつ×みかん”の投稿ぞくぞく

――オンライン上で開催したフォトコンテストとはどのようなものですか。

岡山氏:「#猫とこたつと思い出みかん」のハッシュタグをつけてインスタグラムまたはツイッターに投稿するだけで、誰でも応募できるフォトコンテストです。商品を購入いただいた方が、愛猫、みかん、猫専用こたつの組み合わせで撮影した写真を投稿してくださいました。商品の認知拡大に寄与しています。

「#猫とこたつと思い出みかん」のハッシュタグをつけてユーザーが投稿した画像の一例
「#猫とこたつと思い出みかん」のハッシュタグをつけてユーザーが投稿した画像の一例
「#猫とこたつと思い出みかん」のハッシュタグをつけてユーザーが投稿した画像の一例
「#猫とこたつと思い出みかん」のハッシュタグをつけてユーザーが投稿した画像の一例

中田氏:フォトコンテストでは、みかんだけにとどまらず、和歌山みかんを使ったみかんジュース「ニャンジュース」も対象にしました。ユーザーからの1投稿につき、2円を保護猫活動の支援金として寄付しています。

3万件の「いいね」を生んだバズりツイート

――「猫と、こたつと、思い出みかん。」がバズったきっかけは、フォトコンテストですか。

中田氏:きっかけはそうではありません。フォトコンテストよりも前に、ある方のツイッターで火がつきました。一般人の方が商品について詳細に投稿してくださり、そのツイートに3万件近くの「いいね」がつきました。いわゆる「バズった」状態でした。

岡山氏:著名なミュージシャンの矢野顕子さんも、そのツイートに反応して「海外にある自宅に商品を送ってほしい」という旨のツイートをしてくださいました。

3万件近くの「いいね」がついてバズったツイート(左)と、ミュージシャンの矢野顕子氏がそれに反応したツイート
3万件近くの「いいね」がついてバズったツイート(左)と、ミュージシャンの矢野顕子氏がそれに反応したツイート

――「猫と、こたつと、思い出みかん。」のプレスリリースは、プレスリリース配信サービス「PR TIMES」を運営するPR TIMESが開催した「プレスリリースアワード2022」でも「特別賞」を受賞しました。

岡山氏:配信したプレスリリースをきっかけに、さまざまなメディアや消費者からますます注目いただく機会が増えました。3万件近くの「いいね」がついたツイートも、プレスリリースをきっかけにメディアが公式SNSで発信してくださったことが背景にあります。

中田氏:販売2年目となった2019年は、前期比3倍の売り上げを記録しました。海外のメディアからも注目されるようになり、猫業界で有名な商品に育っていったと実感しています。

PR TIMESが開催した「プレスリリースアワード2022」で表彰されたnakatx のプレスリリース
PR TIMESが開催した「プレスリリースアワード2022」で表彰されたnakatx のプレスリリース

「ただのみかんでは売れない」。猫を組み合わせた“アイディアの勝利”はどのように生まれたのか

――みかんの販売促進をねらって猫向けのグッズを組み合わせ、それがヒットしたのは、まさしくアイディアの勝利といえそうです。商品の企画はどのように着想したのですか。

中田氏:ECで和歌山県産のみかんを販売している店舗は数え切れないほどあります。「同じ売り方をしても勝てない。市場で通用しない」と思いました。これまでにないようなコンセプトや付加価値をつける必要があると考え、「猫専用こたつ」に行き着きました。みかんといえばこたつ、こたつといえば猫……と連想したのです。

岡山氏:細部にもこだわりがあります。先述のツイートでも触れられていましたが、商品を届けるダンボールの包装にも趣向をこらしました。原稿用紙風の紙面に愛らしい猫のイラストを描いており、商品を受け取った瞬間からお客さまのテンションが上がるような仕掛けにしています。

商品を受け取った瞬間からうれしくなるようなダンボールで届ける
商品を受け取った瞬間からうれしくなるようなダンボールで届ける

岡山氏:販売前、猫専用こたつを組み立てて愛猫に与えてみたところ、強く関心を示し、とても食いつきがよかったのです。その様子を見て「この商品はいける」と思ったのを覚えています。

猫専用こたつに強い関心を示したという岡山氏の愛猫
猫専用こたつに強い関心を示したという岡山氏の愛猫

中田氏:2022年度分の「猫と、こたつと、思い出みかん。」の予約は2月22日の「スーパー猫の日」に受け付けを開始しました。みかんはいまがシーズン。今後、さらなる受注拡大を期待しています。

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