ヨドバシカメラは2025年11月1日、「TikTok Shop(ティックトックショップ)」に公式「ヨドバシストア」を開設した。国内EC売上ランキングで2位を獲得している「ヨドバシ・ドット・コム」と同様に、サービスが行き届いた買い物体験を提供するという。「ヨドバシストア」の運営を担うトレンドキャスケットの代表取締役 二階堂京介氏に、事業戦略とヒット事例から見えた重要なポイントを聞いた。
「TikTok Shop」国内市場は、1年後に約500億円に成長見込み
2025年6月30日に日本版が始まった「TikTok Shop」は、動画コンテンツおよびライブ配信で表示された商品をアプリから離脱せずにTikTok内で購入できる仕組みだ。買い物体験を向上させることから、CVR(コンバージョン率)の向上が期待されている。
2020年に「TikTok Shop」の正式運用を開始した中国(中国では「抖音電商(Douyin E-commerce)として運営」)では大きな成果を上げており、2024年の年間流通取引総額(GMV)は、前年比30%増の3兆5000億元(約73兆5000億円、1元=約21円)にのぼる(参考:JETRO「中国大手EC「抖音」の2024年GMVが業界3位に」)。2023年9月に正式運用を開始した米国でも市場が拡大傾向で、2024年の売上額は1兆円を超えた(参考:studio15「【市場動向調査】TikTok Shop日本市場、ローンチ後1年で約500億円規模へ」)。
日本市場はまだ未成熟だが、ローンチ後1年(2025年7月~2026年6月)の流通総額は約500億円と予測されている。現状、売り上げの80%以上を「家電・ガジェット(23.7%)」「美容家電・コスメ(22.4%)」「アパレル(20.2%)」 の3カテゴリーが占めているという(いずれもstudio15調べ)。
狙いは「若年層」への認知拡大とECストアの利用促進
ヨドバシカメラは、1998年に公式ECストア「ヨドバシ・ドット・コム」を開設。「月刊ネット販売」による「第24回ネット販売白書 EC売上ランキング2024年版」では、3兆6556億円のAmazonに続いて、2268億円のヨドバシカメラが2位にランクインした。家電にとどまらない豊富な品ぞろえや、最短当日配達のスピーディな買い物体験が高い支持を得ており、主に40代以上に利用されている。
この「ヨドバシ・ドット・コム」の下地を生かし、ヨドバシカメラは2025年11月1日、「TikTok Shop」に公式「ヨドバシストア」を開設。この狙いを二階堂氏は、次のように説明する。
参入の主な狙いは、「ヨドバシ・ドット・コム」と「TikTok Shop」の利用者層の違いを相互補完することです。当グループは、40代以上の支持は厚いけれどもZ世代以下は強くない。一方、TikTokはZ・α世代を中心に利用されている認識です。そうした背景から、足りない層を補完するプラットフォームとして最適だと考えました。またヨドバシカメラのフルフィルメント連携のPOC(概念実証)の一つと捉えています。(二階堂氏)
TikTokを運営するBytedance(バイトダンス)側も「ヨドバシストア」開設に関するプレスリリースを打ち、信頼性の高い商品の提供やTikTokクリエイターへの多様なコラボレーションの機会創出をアピールしている。Bytedanceにとっても、ヨドバシカメラとの提携は期待値が高いようだ。
主戦場は「ライブコマース」。化粧品、食品、日用品に注力
「TikTok Shop」の開設から約1か月、ヨドバシカメラのTikTokアカウントには1万6000人のフォロワーが付いている。動画コンテンツには、ドライヤーや電動歯ブラシ製品の機能比較から食品の紹介まで多様なコンテンツが並ぶ。
二階堂氏いわく、「TikTok Shop」では動画コンテンツよりも圧倒的に「ライブ配信」の注目度が高いとのこと。売上額の90%以上はライブ配信から生まれているそうだ。さらに、まだ未成熟な「TikTok Shop」市場では家電などの高額品はハードルが高いとの考えから、現状は「ビューティー」「食品」「日用品」の3カテゴリーに注力しているという。
「ヨドバシ・ドット・コム」は「家電」のイメージが強いかもしれませんが、実際はあらゆる製品を扱う総合ECストアです。市場成熟度の観点に加え、総合ECとしての認知を拡大したい狙いもあり、この3カテゴリーから展開を始めています。(二階堂氏)
ヨドバシカメラの場合、「TikTok Shop」と「ヨドバシ・ドット・コム」のシステムが連携されており、「TikTok Shop」での受注も配送まで迅速に処理される。一方、TikTokの仕様上、自社会員情報やポイントとの紐付けはできない。そのため、既存の「ヨドバシ・ドット・コム」会員に対して、「TikTok Shop」の利用を促すことは考えていないそうだ。
主戦場が「ライブ配信」となることから、ヨドバシカメラでは「TikTok Shop」オープンと同時に自社ライブスタジオも開設。コンバージョンの動きが鈍りやすい月曜と日曜を除く週5回、昼夜に各4時間のライブ配信を実施している。
明確な理由はわかりませんが、月曜や金曜の夜は動きが鈍くなる傾向があります。日中は主婦の視聴者が多い傾向で、主婦層が好む食品や雑貨が売れやすいですね。(二階堂氏)
ライブ配信の主なキャストは、商品知識や接客に定評があるヨドバシカメラの店舗スタッフ、そしてSNS運用やライブ配信に長けたトレンドキャスケットのメンバーだ。一部の動画コンテンツでは外部のインフルエンサーとコラボするものもあるが、ライブ配信においては一定のノウハウが蓄積するまでは、自社内での制作を考えているという。
また、ライブ配信では「リアルタイムの空気感」を重要視していることから、大枠のテーマと、それに沿った数種類のアイテムは事前に決めているが、台本は用意していないそうだ。
なぜ売れた? 「チョコ」や「餅」のヒット事例
現状は公式ストア開始から約1か月と短いが、ヨドバシカメラでは、すでに成功事例が生まれているという。ここでは2つの「食品」の事例を紹介する。
1つ目は、カカオの含有量が多いチョコレートが小分け包装された大袋の商品「チョコレート効果」だ。医師も推奨するカカオポリフェノールの効能や小分け包装で気軽に健康習慣を開始できる点、さらにヨドバシカメラならではのスピード配送・送料無料などのメリットをライブ配信で伝えた。すると、クーポン配布効果も相まって販売数が伸びたという。
「TikTok Shop」のアルゴリズム上、売れ行きが良いと該当配信が「おすすめ欄」に表示されやすくなります。表示されるとそこから視聴者が増え、さらに売れるという流れを作りやすい。右肩上がりに販売数が伸びていく波ができると、カートに入れた状態で決済を渋っていた視聴者も勢いに乗って決済ボタンを押す、ということが大いに起こります。同製品はそのアルゴリズムにうまくハマり、ライブ中ずっと売れ続けていました。(二階堂氏)
実際にライブ配信を見てみると、「◯時◯分~の特別なタイムセール」「◯個限定」「昨日は1000個が完売した」など特別感や人気の高さを打ち出し、購入意欲をかき立てていた。オンライン上の「バーゲン会場」といった雰囲気だ。また、商品紹介の合間にコメントした視聴者の名前を呼びながらお礼を伝えたり、ベルを鳴らして場を盛り上げたりしているのも印象的だった。
2つ目は、小分け包装された餅が1kg分入った「サトウの切り餅」だ。同製品は、餅のニーズが高まる年末のタイミングに、「お正月に必要な食材をストックしておきましょう」「重たいものを通販で気軽に買いましょう」と訴求したことが、ヒットにつながった要因だという。こちらもクーポン配布により購入を後押ししている。
ヨドバシカメラに限らず「TikTok Shop」の傾向を見ていると、今は「お米」がよく売れていますね。その理由は、まさに切り餅と同様でストック需要や持ち歩きが大変なためです。それに加え、季節的なニーズがある「今ほしい」商品も売れやすいと言えます。(二階堂氏)
ヨドバシカメラが考える「TikTok Shop」の重要ポイント3点
こうした成功事例を踏まえ、二階堂氏が考える「TikTok Shop」のライブコマースにおける現時点の重要ポイントは次の3点だ。
① 一貫性のある「ストーリー設計」
ライブコマースにおいて重要なのが「ストーリー設計」です。テーマに引かれて集まった視聴者の興味関心から外れるものを紹介すると、途端に離脱が起こり、また一からストーリーを設計し直さなければなりません。さらに言うと、テーマに沿って複数商品を紹介しても、結局のところ売れるのは1つだけ、ということがほとんどです。ですので、一度にあれもこれも売ろうとするより、まずは1アイテムを軸に据えたストーリー設計がおすすめです。(二階堂氏)
② 商品知識よりも「場の取り回しスキル」が優先
あくまで「『TikTok Shop』のライブコマース」の場合ですが、商品知識よりもTikTokのアルゴリズムに合わせた「場の取り回しスキル」が重要だと考えます。もちろん最低限の商品知識は必要ですが、知識だけでは売れません。それよりも視聴者が増えたタイミングでコメントを促したり、視聴者のコメントをうまく拾いながら場の盛り上がりを促進したり、といったMCスキルが求められます。
ただ、商品特性に応じた効果的なアプローチの違いはあると思います。たとえば、機能性重視の家電は知識の比重を高くする。一方で、知識よりも共感で売れることが多い食品や化粧品は、場の盛り上がりを重視するといいかもしれません。(二階堂氏)
③ 「良い流れ」を逃さない
ライブ配信では台本に沿って起承転結のストーリーを作るのではなく、配信中に生まれた「良い流れ」を素早くキャッチして、いかに持続させるかがカギとなります。「ヨドバシストア」で台本を作っていないのは、台本があると流れを逃してしまうため。キャストとディレクターが息を合わせながら、良い流れを保つことを意識するのが良いと思います。(二階堂氏)
二階堂氏によれば、ライブコマース市場が伸びている国では、従来のインフルエンサーとは異なり、ライブ配信に特化した専門スキルを持つ「ライブコマーサー」が近年増加しているという。「TikTok Shop」でも、ライブコマーサーが活躍する場面が多いかもしれない。
「ヨドバシストア」では、徐々にライブ配信のノウハウを蓄積しているものの、まだ手探りな部分が大きいそうだ。「餅や米のようなトレンドに乗る商品と、ヨドバシカメラとして発信したい商品のバランスをどう取るか」という戦略的な難しさが現状の課題だという。
同社では、新しい買い物体験の提供、および「広く何でもある」「安くてすぐ届く」といったブランドイメージを広めることを目標に、引き続きライブ配信を軸に運営していく方針だ。
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