オンワード樫山の「OMO型店舗」成功の秘訣とは? 通常店舗の売上を2割超上回る理由、月商1億円店舗の事例などを解説
オンワード樫山がリアル店舗とECサイトのメリットを融合したOMO型店舗 「オンワード・クローゼットセレクト(OCS)」を拡大している。ブランドをオンライン・オフラインの垣根なく扱うほか、自社ECサイトの商品を店舗に取り寄せて試着できるサービスも手がけ、OCSの2024年2月期売上高は通常店舗と比較して22%上回る。OMO施策が成功している理由をオンワード樫山のOMO Div.部長の前川真哉氏に聞いた。
通常店舗の売上を22%上回るOMO型店舗
オンワード樫山がOCSの1号店をオープンしたのは2021年4月。2024年5月末時点で、全ブランドの国内店舗の約2割にあたる140店舗がOCSとなる。オンワード樫山のブランドを幅広く扱うのが特徴で、店頭で販売している商品のアイテムのセレクトは、保有する約530万人の会員データ、各店舗の販売スタッフの視点を参考にしている。
ECの在庫を取り寄せて店舗で試着
OCSは、実店舗でありながら「オンラインストアと同じような体験ができる店舗」として設計。たとえば、従来はEC限定で毎月実施しているイベント「RED CROSS DAY」(購入時に割引を適用するなどして、日本赤十字社を通じて割引額を寄付する取り組み)をOCS店舗でも適用している。
このほか、ブランドの垣根を超えてアイテムを店舗に取り寄せて試着・購入できるサービス「クリック&トライ」も提供する。
洋服を購入する際、自身の都合に合わせてECサイトと実店舗を使い分ける消費者は多い。それを踏まえ、ECとリアルの垣根をなるべくなくして買い物の選択肢を広げる体験を提供したいという思いから、OCSをスタートしました。(オンワード樫山 OMO Div.部長 前川真哉氏)
OCSは、従来よりも幅広い顧客を獲得する狙いもある。新規店舗の出店について、前川氏は次のように説明している。
OCSの出店は、「既存店舗を移設・拡充してリニューアルする」、あるいは「新規の商業施設に出店する」ケースが多いです。新規出店の決め手の多くは「十分な集客が期待できる商業施設である」、または「そのエリアにECで購入するお客さまがいることがわかっているが、まだ実店舗がない」です。(前川氏)
通常店舗の売上を53%上回るOCS店舗も
通常店舗と比べると、売上高は2割以上も上回るOCS。ショッピングセンター内に出店している店舗では売り上げが特に堅調で、2024年2月期の売上高は通常店を53%上回っている。
OCSでは、販売スタッフはブランドの垣根をまたいで幅広いスタイリングの提案ができるので、購入につながりやすいと考えられます。それが顔なじみのスタッフなら、お客さまにとってはより購入意欲が高まりやすくなります。「クリック&トライ」は通常の店舗でも導入が進んでいます。利用客は増加しており、利用するお客さまの購入率は約50%です。(前川氏)
オンワード樫山のブランドは高価格帯のアイテムが多く、顧客にとっては試着することで買い物の失敗を防げるというメリットがある。また、オンワード樫山ではサイズ展開が多いことから、店舗の在庫が少なくなりやすいサイズは「クリック&トライ」の利用頻度が高くなる。
月商1億円を売り上げたOCS店舗の成功事例
100店舗以上あるOCSのうち、信頼関係のある販売スタッフの提案によって複数ブランドのアイテムのクロスセルが頻繁に起きている店舗が、2024年3月20日に岩手県の商業施設にオープンした「パルクアベニュー・カワトク店(岩手)」だ。
オープン以前、オンワード樫山が運営するブランドは、「パルクアベニュー・カワトク」内にレディース向け3店、メンズ向け3店の店舗を構えていた。それらの店舗を、レディースとメンズをそれぞれ1店舗に集約したOCSにリニューアルした。売り場面積は両店舗とも、バレーボールコート2面分の広さに該当する約100坪。両店舗合わせて、オープンから1か月で売上高は1億円となった。現在も好調に推移しているという。
岩手県は百貨店自体が多くないため、販売スタッフは同じブランド・店舗での勤務期間が長くなります。そのため、通い続けるお客さまと顔なじみになりやすい。OCSにも以前からお付き合いのあるお客さまが多数来店しています。そして、顔なじみのスタッフからの提案が後押しとなり、「あなたが勧めるなら」とこれまで購入したことがないブランドのアイテムの購入につながっています。(前川氏)
「パルクアベニュー・カワトク店」のレディース向け店舗が、来店者数の多い1階のフロアに出店していることも売上アップの要因になっている。
OCSを通じて潜在ニーズを発掘
オンワード樫山の2024年2月期の販路別売上高構成比は、百貨店の出店店舗が38%、ショッピングセンターとその他に出店している店舗が33%、ECサイトが29%となっている。
DtoCブランドなどではECサイトでの販売率が高くなるケースがあるかもしれませんが、EC利用だけでなく実店舗に足を運んでもらえることで、新たなブランド・アイテムとの出会いの創出や売上アップにもつながると考えています。OCSを含む実店舗は貴重な役割を担っています。(前川氏)
オンワード樫山のEC部門は当初、「店舗で一度試着して自身のサイズを把握すれば、その後はEC利用に転換するだろう」という仮説を立てていた。しかし「クリック&トライ」を提供するなかで、実際には「店頭で販売員のアドバイスを聞きたい」「着用イメージを実感してから買いたい」という潜在ニーズがあることがわかったという。
OCSは順風満帆に見えるが、いくつかの課題もある。たとえば、OCSのバックヤードでは複数ブランドの在庫を管理するので、より効率的な管理方法を模索する必要がある。また、「クリック&トライ」などの新しいサービスについて、顧客からの認知を拡大していくことも求められる。
OCSの運営にあたり、オンワード樫山では6か月に1度の頻度でOCS複数店舗の販売スタッフを集め、ヒアリングを行っている。販売スタッフの視点での困りごとや改善点を解決していくことで、顧客との接点創出や満足度アップにつなげる目的だ。