イルグルムのグループ企業で、ECサイト構築・運用からフルフィルメントまでを一貫して手がけるルビー・グループ。2025年8月に執行役員CMOに就任した恩蔵優氏は、ルビー・グループのV字回復を牽引すると同時に、EC業界全体の構造変革に挑んでいる。ECビジネスの責任者、起業による成功、海外ビジネス、そして上場企業グループでの組織再建。さまざまなバックボーンを持つ恩蔵氏が、ルビー・グループで掲げる「BPOからBPRへ」という新戦略、業界の垣根を超えた「共創」のビジョンについて語った。
EC企業の専務、LINEでの新規事業、起業などのバックボーン
恩蔵氏のキャリアは、決して平坦なエリートコースではない。かつて「楽天市場」で急成長を遂げたファッションEC企業「リアルコマース」では専務として現場指揮を執り、組織のスリム化や「宝探し的」な売り場作りでV字回復を実現させた実績を持つ。
その後、LINE社でいくつものEC関連の新規事業の立ち上げに従事し、退職後は自動車関連のIT企業に役員として参画。退任後、貿易会社「Maddler(マドラー)」を起業し、コロナ禍で渡航が制限されるなか、単身で世界中へ買い付けに行き、日本にない海外のヒット商品を紹介する越境EC(BtoC)、及び日本の商品を世界に売るB2Bプラットフォームを構築した。
イルグルムへの参画と「EC-CUBE」の立て直し
転機となったのはイルグルムへの参画だ。ロシア・ウクライナ情勢やコロナ禍の影響で、MaddlerはVCからの追加投資が困難に。Maddlerの再構築を進めるなかで、LinkedInを通じてイルグルムの創業者・岩田進社長と出会い、そして入社を決意する。
入社後、最初に着手したのは国内No.1シェアを持つオープンソースCMS「EC-CUBE」の立て直しだった。「EC-CUBE」の開発などを手がけるイーシーキューブ社は当時、組織が疲弊し、セキュリティ問題などで市場の評判も揺らいでいた。
恩蔵氏は2023年4月に現場に入ると、「お前ならどう考える?」と社員の思考を促す組織改革を断行。トップダウン方式からボトムアップへシフトし、未来のために個の知見を活かした組織全体で考えさせる体制に変革した。さらに、制作会社であるボクブロックとの合併を推進し、大規模案件にも対応できる「新生イーシーキューブ」が誕生した(2024年1月)。

ルビー・グループでのミッションは「BPOからBPRへ」
EC-CUBEの再建が軌道に乗った後、恩蔵氏に託されたのが、2024年10月にイルグルムの完全子会社となった「ルビー・グループ」の再建だった。当時のルビー・グループは赤字が続いていた。恩蔵氏はマーケティングと営業を統括する立場で転籍、先に参画していた赤澤 洋樹COO(兼イルグルムCFO)と共に経営改革に着手した。
見事、M&Aから1年かけて黒字化とV字回復を達成。現在はこの先の成長を見据え、新たな戦略を掲げた。それは「BPOからBPR(Business Process Reengineering)」への転換だ。
従来のルビー・グループは、ラグジュアリーブランド向けのEC運営代行(BPO)とレベニューシェアモデルを強みとしてきた。しかし、このモデルはブランド側が内製化に舵を切れば契約が終了するリスクがある。
そこで、単なる「代行」だけではなく、顧客の業務プロセスそのものを根本から変革し、仕組み化する「業務改革パートナー(BPR)」へと提供価値を進化させることを宣言した。
生成AIと「知の集約」による差別化
この戦略を支える具体的施策として、次の取り組みを進めている。
新サービス「EC-FIND」のリリース
2025年11月にリリースされたこのツールは、生成AIを活用したSEO対策と長年高い実績を誇る広告運用を統合したもので、月額30万円から導入可能。これをフックに、グループ会社とのシナジーを活かしたSNSマーケティングなど、高付加価値な提案を行っている。
「知の集約プロジェクト」
今期最も力を注いでいる施策らしく、EC-CUBEでも成功した、社内に散在していたノウハウや個人の知見を一箇所に集め、プロダクト化するプロジェクトを開始。属人化を防ぎ、組織全体の提案力を底上げすることで、来期には複数の新サービスが生まれる予定だ。
これらの改革により、イルグルムグループのコマース事業売上は垂直統合の効果もあり、2021年の3億円から2025年には20億円へと成長を遂げている。
ベンダー企業は手を取り合い、競争から「共創」へ
EC業界に20年以上身を置く恩蔵氏は、業界の未来について「競争から共創へ」というキーワードを強調する。
かつては敵対関係にあった競合の国内カートベンダーの役員とも積極的に交流し、福岡への合同視察や忘年会への参加など、企業間の垣根を超えた関係構築を進めている。
「日本国内だけで戦っていては世界に負けてしまう」(恩蔵氏)という危機感のもと、ベンダー各社が得意分野で補完し合い、手を取り合ってEC市場を育てるエコシステムの構築をめざしているという。
また、大量生産・大量廃棄を前提としたビジネスモデルには疑問を呈し、「本当に必要なものを、必要な人に届けたい」(恩蔵氏)というサステナブルな商取引への回帰を志向している。
「組織は1+1を3にできる場所」――。こう語る恩蔵氏は、ルビー・グループという組織を通じて、日本のEC業界を次なるステージへと押し上げようとしている。
