競争が激化する国内EC市場で成果をあげるにはどうすれば良いのか。まずはレガシーシステムから脱却し、俊敏性と拡張性を手に入れる必要がある。100社以上のEC基盤刷新に携わってきたShopify Japanの外山児雄氏が、これからのAI時代を勝ち抜くための戦略について、成功事例を交えて解説する。

EC事業者が直面する共通課題と3つの戦略
国内BtoC-EC市場は2024年に26兆1225億円(経済産業省調べ)に達し、今後は年間2%から3%で安定成長する見込みである。コロナ禍後の市場はすでに成熟期に入り、少子高齢化により国内顧客の拡大を見込めないという根本的な制約に加え、競争の激化やコストの高騰など、多くの企業が課題に直面している。しかし、そんな状況でも成長し続ける企業が取り組んでいる戦略について、外山氏は次の3つをあげた。
- 市場の拡張による新規顧客獲得……SNSを中心とした販売チャネルの多角化と、約800兆円規模の海外ECや、およそ500兆円規模のBtoB-ECといった巨大市場への進出に取り組む企業が増えている。ただし、海外展開には各国市場へのローカライズ、B2B展開には特有の商習慣への対応というハードルが伴う。
- より深い顧客体験の追求を通じたLTV向上戦略……ECと店舗のデータ統合を伴うオムニチャネル施策を基本に、データ分析を施策に連携させ、最終的にはパーソナライズされた購買体験の提供が求められる。
- AIを活用した徹底的な業務効率化……CRMやMAの確立に加え、AIを活用した業務効率化によるコスト削減が不可欠である。
一方で外山氏は、こうした施策を実行する段階で、議論が暗礁に乗り上げてしまう企業が多いと指摘する。
いざ着手しようとした際「どこから手を付ければ良いのか」「投資効果が得られるのだろうか?」といった懸念で立ち止まりやすい。結果として多くの時間を費やしても施策が実現できないケースが非常に多い。(外山氏)
Shopify Japan Account Executive 外山児雄氏
立ち止まってしまう原因は何なのか。外山氏はその背景に「スピードとコストの課題がある」と指摘する。新しい施策を展開するときにすぐに動ける仕組みがないと、費用と工数が膨大にかかる。なんとか半年後や1年後に実装できたとしても、その時には市場のトレンドが変化してしまっている。また、結果的に想定以上のコストがかかったり、システムが複雑化したりすることで、保守運用費が増えることもある。
新しいチャレンジや企画が出てきても、それが停滞してしまって、結局やらないというようなことになる。施策の見送りはチャレンジ意欲の減退や売上機会の損失につながる。これこそがEC事業者が直面する最も大きな課題ではないか。(外山氏)
新しいチャレンジを形にした成功事例
EC事業を長期間継続してきた企業のなかには、システムが老朽化し、機動性の低くなったシステムを抱える企業は多いだろう。また、運用やカスタマイズがすべて外部の委託先に限定され、いわゆる「ベンダーロックイン」状態の企業もある。自社でコントロールが効かず、競争力の低下を招いているとわかっていても、システム改革には大きな労力が伴う。
しかし機会損失コストを詳細に検討し、将来のリスクを見据え「Shopify」導入に踏み切った企業は多い。ここからは、Shopifyで新しいチャレンジを形にした成功事例を紹介する。
サントリー
サントリーは「Shopify」へのリプレイスにより、カスタマイズのスピードとコストを3分の1から5分の1に大幅削減した。最大のメリットは、現場主導でPDCAサイクルを極めて早く回せるようになった点だという。
施策の成否はどうしても予測できない。そのため、失敗するなら早めに失敗することが極めて重要。これにより、次に打つべき手を迅速に判断でき、PDCAサイクルを高速で回せる。それが大きな価値につながる。(外山氏)
ポール&ジョー(アルビオン)
フランス発のファッションブランド「ポール&ジョー」を有するアルビオンも、フルスクラッチの膨大な時間とコストを避けるため、「Shopify」を採用した。同社ではシーズンごとに商品や表現が変化するため、施策を即座に実行できる迅速な土台が必要だった。結果としてEC売上400%増、CVR15%向上など大きな成果を上げている。
コマースのOSとして進化し続ける「Shopify」
外山氏は、「Shopify」が選ばれる理由は3つの特長にあると語る。
①複雑性を伴わない、使いやすさと柔軟性
「Shopify」はすべての機能が一体化した「モノリス型」と、機能を独立させた「マイクロサービス型」の2つの良いところを取り入れ、拡張性と柔軟性を両立させた「コンポーザブルアーキテクチャ」を採用している。ECの主要機能は網羅しつつ、「Shopifyアプリストア」による豊富なAPIで外部連携やカスタマイズを可能にし、高い拡張性を確保している。
「Shopify」は16000以上のアプリのなかから、定期購入やSNS連携などの拡張機能を個別開発なしで即座に利用できる。アプリは簡単に追加でき、不要になれば簡単にアンインストールできるため、柔軟な施策展開が可能になる。
②ダウンしない強靭なインフラ
「Shopify」は、「ブラックフライデー」や「サイバーマンデー」の期間中、約1.6兆円の決済と、巨大なトランザクションに耐えた実績を持つ。また、コンバージョン率に大きく影響するサイトの表示スピードにもこだわっており、世界中のECプラットフォームと比較しても高いパフォーマンスを維持している。
以前は新商品発売時など、大量アクセスによるサイトダウンがあったサイトでも、「Shopify」に移行してからは一度もダウンしていないというケースがある。このサイトが「Shopify」を評価したのはサーバーの強度、セキュリティの担保、拡張性といった点だったが、結果的に機会損失がなくなり、売上増につながっているという。
③絶え間ないイノベーション
2024年、Shopifyは約2000億円をプロダクト開発に投じ、インフラやセキュリティ強化、サイトスピード向上、新機能開発などに充て、絶え間なく進化を続けている。グローバル社員の半数近くがエンジニアというプロダクトファーストな体制で日々改善を行っている。
またShopifyは日本上陸以来、継続的にさまざまなプラットフォームとの連携を進めてきた。最も新しい連携先はOpenAIであり、米国ではすでに「ChatGPT」上での買い物が可能となっている。
AIの潮流と消費者の行動変化
AIについてもShopifyはさまざまな取り組みを進めている。商品の検索やレコメンドへの活用や、自分に合う商品の発見に対する期待など、AIによって消費者の購買行動が大きく変化している。外山氏自身も買い物の際にはAIを活用しており、「自分が知らなかったものを提案してくれるのですごく良い時代」と語る。
Shopifyの調査では、AIの回答からの新規顧客数は従来チャネル比でおよそ2倍となっている。この傾向は今後さらに加速すると予測される。
この大きな変化のなかで、「Shopify」とAIの組み合わせは、2つの側面を持つと外山氏は語る。1つは収益の成長。販売チャネルとしてのAIだ。たとえば「ChatGPT」に「30代男性でスポーツが好き、とにかく若々しくありたい」といった要望を投げかけ、おすすめのサプリメントについて質問すると、AIが最適な商品を提案する。その後、「Shopify」ストアの決済画面へシームレスに遷移し、「ChatGPT」内で購入が完了できる。こうした導線はすでに米国で実現している。
従来の検索、ストア検索、購入というステップが「ChatGPT」内で完結するため、顧客にとっては非常に便利。これを導入することはEC事業者にとって大きな競争優位性につながる。(外山氏)
もう1つはEC事業者側の生産性と効率性の向上。コスト削減と生産性向上のためのAIだ。「Shopify」は管理画面内に多様なAI機能を組み込んでおり、商品の画像生成や商品説明文の作成、フロントエンドのデザイン作成など、さまざまな業務でAIを利用できる。これにより業務効率が大幅に向上し、余計なコストをかけずに施策を迅速に展開できる。
「Shopify」純正AI「Sidekick」による業務支援とは
「Shopify」の数あるAIソリューションのなかでも、純正AIアシスタントツール「Sidekick(サイドキック)」は、管理画面に常に組み込まれており、日本語にも対応している。「Sidekick」はストアのデータをすべて学習しており、ストアに極めて詳しいAIとして常に利用する事業者の隣で伴走しているイメージだ。
「Sidekick」は分析と予測、コンテンツ生成といった多岐にわたるタスクを実行できる。たとえば、商品AとBを一緒に購入した顧客リストの作成や、その顧客に向けたメール本文の生成まで実行できる。
最大のメリットは作業時間を大幅に短縮し、売り上げに直結する取り組みに集中できる点である。データ分析や施策の実行、コンテンツやクリエイティブの作成に加え、コーディングや開発のサポートまで多彩な機能を提供している。
EC基盤リニューアル時に重視すべきポイントと「Shopify」の価値
この先3年後、5年後、どのようなAIが出てくるかはわからないが、Shopifyは常により良いプロダクトを作っていこうという思いがあり、新しい良いものには常に追随する。「Shopify」を使っていただいていれば、常に最新のテクノロジーにアクセスできる状態になる。(外山氏)
EC事業者が抱える最大の課題は、施策実現までのスピード不足とコストの高さだ。その原因がレガシーシステムにあるなら、新しいチャレンジが停滞し、大きな機会損失が生じる前にEC基盤を刷新し、新しいチャレンジを促す体制を構築すべきだ。
EC基盤を刷新する際に欠かせない判断軸は、「柔軟性・拡張性・シンプル性」そして「強靭なインフラ」である。
この判断軸による基盤構築の結果、総保有コストの最適化、システムの複雑性からの解放、市場投入スピードの向上が実現し、高速なPDCAサイクルと継続的なイノベーションが可能になる。Shopifyはこれらの基盤提供を通じて、イノベーションを民主化していくことをめざしている。(外山氏)
関連リンク
- この記事のキーワード

