企業内におけるECサイトの位置付けはさまざまだが、ワークマンは会社全体最適を最重視する「補完型ECに徹する」という方針を掲げ、ワークマン全体で成果を出すことに成功している。
ワークマンの戦略とその歩み、そして商品開発や販売促進、接客サポートにも欠かせない「レビュー」の集め方とその活用について、ワークマンの堀 健輔氏とレビューマーケティングプラットフォーム「ReviCo(レビコ)」を運営する吉岡真宏氏が解説する。
売り上げとブランディングを高めてきたワークマンのあゆみ
ワークマンは2025年3月末時点で、47都道府県に1,051店舗を展開。全体の売上高は約1,830億円に達している。かつては作業服の店というイメージだったが、2018年にスタートした「#ワークマン女子」が人気を博し、大きな話題となった。「#ワークマン女子」は2025年に「Workman Colors(ワークマンカラーズ)」へと名称を変更、認知が広がったカジュアルアパレルを男性向けにも拡大していく方向へ進化していく。
ワークマンの実店舗は92.7%がフランチャイズ。1,830億円の売り上げのうち、PB商品の売上比率が70%弱を占めている。つまり、売り上げのほとんどが自社で製造した商品によって成り立っているのだ。これが、ワークマンにおける商品の切り替えや開発のスピードが早い理由でもある。
オンラインストアの開始は2013年。当時は商品数も多くはなく、ECは数百ある店舗の1つのショップという位置付けで、さほど重要視されていなかった。
その後、2016年頃からECで販売する在庫数を増やす施策を強化。在庫を投入するほど売上は伸びていった。しかし徐々に管理費用が増加、在庫ありきの販売に限界が訪れ、最終的に店舗の販売力に救われた。
売上高はその段階で行けるところまで伸ばすことができた。しかし結果として残ったのは猛省の日々。これをきっかけに「ワークマンらしいECとは何なのか?」と日々、自問自答するようになった。(堀氏)
ワークマン 営業企画部 EコマースG 部長代理 堀 健輔氏
2022年頃にはWeb限定でのキャンプギア販売にチャレンジ。当時はコロナ禍でアウトドアブームが到来。初年度は順だったが、年々計画通りの販売が難しくなっていった。「今振り返れば、それが当時のECの販売力だった」(堀氏)という見方もあるが、客観的に見れば、コロナ禍の収束とアウトドアブームの終焉の予測が難しかったことが原因だろう。ワークマンは現在に至るまでにこうした浮き沈みを経験してきた。順調に成長してきたように見えるECも、実際には多くの経験と反省を経てきたのである。
「補完」を意識したEC運営で店舗受取率80%を達成
ワークマンでは「ワークマンのECは全社最適のために存在し、EC以外のために働く“実店舗補完型EC”でなくてはならない」と明確に定義しており、EC事業では厳格な売上目標を持たない。会社全体の成長につながる役割を果たすことこそが、ワークマンの補完型ECの使命だからだ。
EC事業が大切にしているのは「ワークマンに関わる人々の困りごとを解決し、補完していく」ということである。お客さまの悩みに応えることはもちろん、販売に関する課題を解決するために必要な取り組みを進めている。お客さま、加盟店店舗、物流部、販売部門、製品開発部門など、各現場が抱える課題に対してECはどのように役に立つことができるのか、ディスカッションし、積極的にチャレンジしていくのがワークマンの「補完型EC」である。
ワークマンの「補完型EC」には、主に3つの軸がある。
- 接客補完……ワークマンは取扱商品数が多く、店舗スタッフがすべてカバーするのが難しい。そこで、ECが詳細な商品説明を提供し、店頭で質問しなくても理解できる環境を整える
- 販促補完……販売計画の進捗が芳しくない商品を、積極的なEC施策により需要を喚起する
- 数値補完……需要の不足や超過をECが吸収する。需要喚起で在庫を動かし計画達成をサポートしたり、予約注文の状況を商品本部へフィードバックしたりすることで、販売可能性の判断材料を提供する
部門単体で見れば売り上げを大きく伸ばすのは難しい。しかし、各部門が抱える課題をECが解消することで、売り上げを最大化する体制を整えた。
やっとワークマンらしいECの形が見えてきた。2024年に発表した、世界初の断熱素材を採用した「XShelter(エックスシェルター)」という商品は、1週間で5万点を販売した。「製品発表会で話題となった製品をWebで注文して確実に店舗で受け取れる」「欲しい商品が入手できない」というお客さまの悩みに対応できる方法、言い換えるとお客さまが店舗に問い合わせしなくても話題の商品を確実に入手できる方法が誕生した。
2025年には同様のアプローチでワークマンが自信をもって市場へ投入した、業界最安値のリカバリーウェア「メディヒール」を2週間で16万点販売でき、お客さまと店舗の補完をしながらECの売り上げを伸ばすことができた。(堀氏)
ワークマンのECにおける店舗受取の比率は80%を超えており、これは他社と比較しても非常に高い数値である。この仕組みには、ECから店舗への送客という大きなメリットがある。
かつては全体最適を意識せずにECを運営していた。当時は店舗受取と配送の比率が正反対で、配送の方が圧倒的に多かった。現在では会社全体の製品在庫、特に店舗だけでは販売計画を達成することが難しい製品在庫こそがECが責任を持ち、販売するものと位置付けており、それらを多面的なEC施策で動かすことにも注力している。こうして店舗受取率は8割を超え、現在では9割に迫っている。(堀氏)
レビューを資産に「声のする方に、進化する。」
ワークマンの経営理念は「声のする方に、進化する。」であり、顧客の声を重視している。優れた商品とサービスを提供し続けるための源泉が、オンラインストアに集まる商品レビューである。経営理念を実現するには、数多くのレビューを継続的に集め、有効に活用するレビューマーケティングは不可欠だ。ワークマンが全社一丸となって実践しているのが「レビューマーケティング3.0」である。
「レビューマーケティング1.0」では、第三者の評価が購入検討者の不安を解消する役割を担っていた。「レビューマーケティング2.0」では口コミメディアやSNSが台頭し、体験を共有し、共感やファン化を生む場へと変化した。ワークマンはこの段階からレビューマーケティングに取り組んできた。
現在のフェーズは3.0で、口コミ自体がブランドの共創資産となっている。得られたレビューを製品開発、サイト改善、カスタマーサポートなどに活用することで企業価値を高めている。(吉岡氏)
ReviCo Sales & Marketing Div. 執行役員 /
グロース・プロダクト・マネージャー 吉岡真宏氏
ワークマンは2021年6月頃に、レビューマーケティングプラットフォーム「ReviCo」を導入した。導入後、レビュー数が一気に10倍以上増加した。レビュー投稿の導線の9割がレビュー依頼メールからである。
「ReviCo」はレビュー投稿を促す導線設計に加え、「ReviCo」側で常時実施するレビュー投稿キャンペーンにより、高い投稿率を実現している。EC事業者側でインセンティブや施策を準備する必要がない点が大きな特長である(このレビュー×キャンペーン一体型の仕組みは特許取得済み)。現在は約400サイトで採用されており、毎月10社ペースで新規導入が増加している。
6万件の購入者の声をどう生かすか
ワークマンでは2024年10月〜2025年9月の1年間で、EC購入者から投稿されたレビューは約6万件にのぼる。そのうち87.75%が星4以上の高評価であり、肯定的なフィードバックが大半を占めている。高評価はリピーターの増加や新規購入の促進につながる。一方、星3以下のご指摘も含めたフィードバックは全体の12.25%、約7000件ある。ワークマンではこれらの低評価レビューを製品改善の重要な材料として重視しており、特に商品企画担当者は星2以下のレビューを重点的に確認している。
レビューはさまざまな場面で活用されている。製品開発においてレビューが重要な情報源となるだけでなく、販促担当者もレビューを積極的に参照し、顧客視点の訴求点を抽出している。販促物を作成する際には、商品の魅力を深く伝えるために、実際の利用者が語る具体的な体験が欠かせないからだ。
さらに、レビューは接客サポートツールとしても有用だ。人材の流動性が高まり、店舗スタッフの勤務頻度が均一でない状況でも、顧客は店員に正確な説明を期待する。商品ページに集約されたレビュー情報は、スタッフが短時間で必要な知識を得るための有効な支援ツールとなっている。
「AI要約レビュー」でCTRが大幅に向上
しかし、年間6万件、文字数にして数百万字規模のレビューを読むのは現実的ではない。そこで「ReviCo」が2025年9月にリリースしたのが「AI要約レビュー」機能である。「高評価」「低評価」「色々な使い方」などのタブごとにレビューを要約し、ブロック単位で表示する仕組みで、通常のレビューも要約の下で従来通り閲覧可能だ。
このAI要約レビューのエリアに到達したユーザーの行動を分析すると、高評価だけでなく、低評価タブのCTRは20%以上、色々な使い方のタブもCTR13%以上と、数多くクリックされている。レビュー数が多いと読み込むことに負荷が発生していたが、これらのAI要約レビューにより、必要な情報へ効率的にアクセスできるようになったといえる。
また、レビュー閲覧者のCVR(コンバージョン率)は非閲覧者の1.75倍まで上昇した。導入前もレビュー閲覧者のCVRは非閲覧者の1.63倍であったが、その数値を上回る結果となった。
社内における「ReviCo」のAI機能の効果
このAI要約データはECサイトでの表示にとどまらず、製品開発、広告宣伝、キャッチコピー作成、フランチャイズ店長の参考資料など、ワークマン社内の多領域で活用されている。「ReviCo」ではワークマンからの「誰もが常にアクセスできる環境を整えたい」という要望を受け、要約データをGoogleドライブに定期的にアップロードしている。
また、Googleが開発した「NotebookLM(ノートブックエルエム)」というAIアシスタントツールが、各商品のレビューの要約データと他社競合製品のデータを合わせて、現商品にどのような改良を加えると良い製品になるのかを簡潔に提案してくれる。
多様なレビューを活用することが成長につながる。今後はさらにAIで要約・分析をし、深掘りすべきポイントを見つけていきたい。(堀氏)
膨大な数のレビューを継続的に集め続けているからこそ、生成AIの活用に意味がある。ワークマンさんの事例は、レビューが集まり続けること自体に大きな価値があり、そのアウトプットとして生成AIがあることで、使い方の幅が広がっている事例と言える。今後は実店舗で購入されたお客さまのレビューも集め、レビューを集める速度をより上げていくことにもチャレンジしながら、支援の価値を更に高めていきたい。(吉岡氏)