急成長ブランドが使いこなすShopifyアプリとは? 「NEW ERA」「BONAVENTURA」「KANADEMONO」のShopify活用の裏側
約175か国、数百万以上の事業者をサポートしているコマースプラットフォーム「Shopify」でECサイトを構築・運営している企業のなかから、この3年でブランドを急成長させた3社の担当者が、「Shopify」導入の背景、CRM、カスタマイズに活用しているアプリ、「Shopify」運用のポイントなどについて語り合った。
モデレーターはオーダー家具をネットで販売するD2Cブランド「KANADEMONO(カナデモノ)」を運営するルームクリップ KANADEMONOカンパニー管掌CMOの石川森生氏。ファッションブランド「BONAVENTURA(ボナベンチュラ)」取締役、マーケティング本部長兼E-Commerce本部長の稲富佳織氏と、ヘッドウェア&アパレルブランドの「NEW ERA(ニューエラ)」を展開するニューエラジャパンのシニアディレクター橋野学氏がスピーカーとして登壇した。
急成長ブランドが明かす「Shopify」導入の舞台裏
各企業が「Shopify」導入したきっかけ、導入前に抱えていた課題などをそれぞれ紹介していく。
NEW ERA
ニューエラジャパンの橋野氏は、既存システムでは短期間でビジネスを大幅に伸長させるのは難しいと感じ、プラットフォームの変更に舵を切った。ただグローバル企業のため、米国本社を含めどのリージョンも導入していない「Shopify」の導入は、簡単なものではなかった。後に本社も「Shopify」に移行するが、これは日本発で本社まで「Shopify」に移行した珍しい例となった。
実装は迅速に行われ、2か月ほどでほとんどの機能を実装。導入からおよそ3年、「Shopify」への移行は、コロナ禍のなかで売り上げを大幅に伸ばすことに大きく貢献したという。
BONAVENTURA
「BONAVENTURA」が「Shopify」を導入した当時、切実な問題があった。自社製品の季節限定カラーの人気が過熱し、発売日時を告知すると発売開始の瞬間にアクセスが殺到、ECサイトのサーバーが頻繁に落ちてしまっていたのだ。
顧客からクレームが入っても、管理者画面側のサーバーも一緒に落ちていたため、その対応すらできないという最悪の状態だった。(BONAVENTURA 稲富氏)
2019年2月にECサイトをローンチしたものの、同年10月にその状況に陥ったため、急きょプラットフォームの変更を決めた。2020年2月から「Shopify」での開発に着手し、ニューエラジャパンと同様、約2か月で新サイトをローンチした。
KANADEMONO
ルームクリップ(当時はbydesign)は2020年に「Shopify」で「KANADEMONO」をローンチした。石川氏によると、橋野氏や稲富氏が語ったようなスピード感こそ「Shopify」を導入した理由の1つだと言う。
「Shopify」で実現させるCRM戦略は支援アプリが肝
ブランドを抱える企業にとってリピート顧客の育成が重要な要素になる。「Shopify」でECサイトを運営する企業は、どのようにCRM(顧客関係管理)を運用しているのか。3社がクローズアップしたのが「Shopify」を簡単にカスタマイズできるShopifyアプリだった。
「Shopify」で構築したECサイトはShopifyアプリをインストールするだけで目的に合わせてカスタマイズできるのが特徴。開発期間も短く、何より安価にサイトを改善、修正できる。 ニューエラジャパンがCRM支援で使っているアプリは「klaviyo(クレイビヨ)」。顧客の属性や行動履歴によってセグメント分けができる、高機能で人気のメールマーケティングアプリだ。
「Shopify」アプリはたくさんありますが玉石混交。CRMだと選択肢は限られていて、我々は「klaviyo」を使っています。スタンダードというかベストチョイスかなと思います。(橋野氏)
「BONAVENTURA」がCRM目的で導入しているアプリは「Dotdigital マーケティングオートメーション」。さまざまなチャネルでタッチポイントを作り、ECと連携してデータの一元管理が簡単にできるアプリだ。「BONAVENTURA」はロイヤルカスタマーの分析とアプローチを重視している。
私たちはロイヤルカスタマー顧客の購買パターンについて、時間をかけて定性、定量ともに分析しています。そこで見えてきたのは、「豊富なカラーバリエーションのあるアイテムを、スマホケースからお財布、小物やバッグまで同じ色で合わせたい」というニーズでした。
このパターンをパッケージ化してマーケティングオートメーションを組みたいというのが最優先事項だったため、それが一番やりやすそうな「Dotdigital マーケティングオートメーション」を選びました。
また、サポートレベルも判断基準です。チャットがあるかどうか、1本連絡を送った時にどれくらいの期間で返信があるかも重視しました。(稲富氏)
「KANADEMONO」で使っているCRMアプリも「Dotdigital マーケティングオートメーション」である。ただその前には「klaviyo」を入れていたそうだ。石川氏は2つのアプリを比較し、次のように話す。
「Dotdigital マーケティングオートメーション」は「klaviyo」に比べるとイニシャルコストが大きい。これはスターターの場合にはハードルがやや高いかもしれません。ただ「klaviyo」のUIは英語で、「Dotdigital マーケティングオートメーション」はローカライズされていて日本語も選択できます(2023年6月時点)。担当者ベースで考えると、英語が苦手でやりにくいという声もありますね。(石川氏)
各社がお勧めするShopifyアプリとは
CRM以外にもさまざまな目的に合わせてShopifyアプリを選択できるのが「Shopify」のメリットだ。各社はお勧めするアプリを4つずつあげ、その理由について解説した。
ニューエラジャパン
①「Alloy Automation」
アプリ同士を自動で連携させるオートメーションツール。「何をトリガーにするかという制限もつながらないアプリも少ない」(橋野氏)
②「Omni Hub」
POSアプリ「スマレジ」と連携し、実店舗とオンラインストアで会員情報を統合できる。店舗の在庫もほぼリアルタイムに更新される。フィードフォースのサポートも手厚い。
③「TripleWhale」
米国で多くのマーケターが使っている分析ツール。「デフォルトのレポートは軽く、すぐに見られるが深い分析ができない。このアプリにSNSもつなげば、連動させてコストや他のデータも見られる」(橋野氏)
④「Okendo」
商品の評価やレビューなどのUGCを取得し、紹介できるアプリ。「アンケートの回答データをもとにセグメントを作っていくのに役立つ」(橋野氏)
BONAVENTURA
①「Recustomer」
自動化アプリ。「返品交換を希望するお客さまがポータルに注文番号を入れて配送業者に取りに来てもらうところまでをすべて自動化したかった」という稲富氏。「不良品なら本社に戻す」「不良品でないなら倉庫に戻す」「送料を取る/取らない」などといった、さまざまな分岐にも対応できる。
②「tangiblee」
サードパーティアプリ。他のモノと比較することで、アイテムの大きさを相対的にビジュアルで表現できる。バッグを売るにあたってはサイズ感と容量がわかることが重要。稲富氏は国内外のバーチャルフィッティングサービスをいくつか確認し、「tangiblee」の動きが一番良いと感じたという。
③「Shopify Collabs」
クリエイターへの販売コミッション、ディスカウント、無料ギフトの提供、アフィリエイトマーケティングプログラムの管理などが行えるアプリ。「アフィリエイト会社を通さず、直接『Shopify』とブロガーやインフルエンサーとつなげられるのが強み」(稲富氏)。
④「チャネルトーク」
顧客とのチャット、電話、チャットボット機能を実現するビジネスメッセンジャーアプリ。
弊社はチャットをお問い合わせの窓口としてだけでなく「リアルタイム接客」と位置付けており、商品を見ているお客さまに対して私たちの方から話しかけに行きます。過去の購買傾向やページの行き来を見て話しかけることができ、お客さまに寄り添った接客ができます。コンバージョン率もじわじわと上がり続けています。(稲富氏)
KANADEMONO
①「Matrixify」
商品やコンテンツなど「Shopify」上のすべてのデータをエクスポートしたり、データを効率的に編集したりできるアプリ。「深く分析したいとかデータを外で加工したいといった場面で、外部と連携する場合に便利なアプリ」(石川氏)
②「Bonify Custom Fields」
商品やそのバリエーションに情報を追加できるメタフィールドの管理アプリ。データベースに自由にカラムを追加できる。
基幹のカラムを追加するというのはシステム管理部署に怒られるような話なのですが、そもそも「Shopify」はそこが自由で、さらに「Bonify Custom Fields」はいくらでも拡張できます。私たちからすると魔法のようなアプリです。(石川氏)
③「Stamped.io Product Reviews & UGC」
顧客の購買過程全般にわたり、影響力が強いカスタマーコンテンツを把握・紹介するための機能を備えたカスタマー・マーケティング・プラットフォーム。レビューの依頼メールを自動化でき、「登録が古いお客さまから5人ずつ連絡する」「商品の在庫が残っていたらレビュー依頼を再送する」といったことも可能。
④「Back in Stock Customer Alert」
商品の再入荷をユーザーに通知できるアプリ。フラッシュセールや近日発売や予約注文に対応できる。
成功するために知っておくべき「Shopify」の可能性と魅力
ECサイトを構築・運用するには、ASP、SaaS、パッケージ、オープンソースなどさまざまなアプローチがある。なぜ各社は「Shopify」を選んだのか。将来性を含めてその魅力について言及した。
ニューエラジャパンの橋野氏は「『Shopify』は単なるECプラットフォームではない」と説明。「決済を含むインフラ面や従来得られなかった集合知を自社に反映できる可能性がある。消費者として選択できるのであればぜひ試してみても良いのでは」と語った。
「BONAVENTURA」の稲富氏は「明日やりたいことをかなえるのが『Shopify』」だと言い、こう続けた。
Shopifyアプリやサードパーティ製アプリを使って、それらのつなぎこみやECサイトのカスタマイズなどをしていくと、私たちが思いつくような“これやりたい”は大概かなうな、と感じています。
「Shopify」は相当なスピード感で改善をしてくれるサポート体制があり、そのチームワークやエコシステム自体が気に入っています。あと「Shopify」のサクセスマネージャーさんも「これやってみてください」「あれをやったらどうですか」とかなり前向きに、私たちマーチャントを支えてくれています。そこもすごく好きです。(稲富氏)
「Shopify」は事業者ニーズやトレンドなどに合わせて次から次へとアップデートされ、マーチャントは都度、カスタマイズや開発する手間がないので、新しいことなどに着手しやすい環境にある。そのため、「Shopify」を使っている企業で、同じことだけをずっと行っている企業はおそらくないのではないだろうか。稲富氏も「Shopify」を一度導入すると「らせん階段を強制的に登らされるみたいなサイクルに飛ばされる」と言う。
それでも稲富氏は「まずやってみる」のだという。気になったアプリがあれば使ってみる。スマホのアプリなら、人から聞いたりSNSで評判を見たりすれば気楽に試すだろう。それと同じような感覚で、自分好みに「Shopify」をカスタマイズして使い倒す、そういう感覚が運営担当者には求められるという。「橋野さんと石川さんに聞いたアプリを2つ3つ、早速テストしてみます」と稲富氏は締めくくった。
ファッション通販サイト「マガシーク」の責任者、製菓・パン材料のECサイト「cotta」を運営するTUKURUの社長、現在はDINOS CORPORATIONのCECOなどを務める石川氏は、今まで他社のプラットフォームやパッケージを使ったり、スクラッチで作ったりしてECサイトを運営してきた。そんな石川氏が率直な気持ちを話した。
今から起業する人たちは「ずるいな」と思っています。なぜならめちゃくちゃ楽だからです。ECサイトを立ち上げるにあたって、昔のように制作の見積りとか要件定義とか、そういった煩雑な業務を行う必要がほぼないんですよね。ですからもう「Shopify」に乗っかって作って、運用していけば良いのではないでしょうか。(石川氏)
ただ、石川氏は落とし穴があるとも指摘する。Shopifyアプリは本当に気軽に入れられる。そこで考えておくべきなのは、アプリの実態は「JavaScript」だということ。基本的に「JavaScript」同士は互いに干渉する可能性があるのだ。
実際に起きたことですが、カートボタンが押せなくなったんですよね。アプリを1個ずつチェックしていって、ようやくどのアプリが原因かがわかって事なきを得ました。よく考えずにガンガンアプリを入れてしまって収拾が付かなくなる方もいらっしゃるようなので、そこは気を付けた方が良いかもしれません。(石川氏)
「Shopify」カスタマイズ用のアプリをまとめた「tuna」とは?
最後に「Shopify」のカスタマイズ用の複数のアプリをまとめたパッケージ「tuna」を紹介したい。Shopifyアプリの互換性と干渉チェックや検証などにコストや時間を割けない、割きたくないと考えているのであれば「tuna」をお勧めする。
「tuna」は石川氏がFounder Chairmanを努めるリゾートの製品で、ベースのアプリはすべて同社がすべて互換性をチェックしているため安心である。
この記事は「Shopify」をまだ導入していない企業のEC担当者はもちろん、すでに導入している企業の担当者にとっても役立つだろう。この機会に「Shopify」の魅力と使いこなし術に興味を持っていただきたい。