森田 秀一[執筆] 3/12 8:00
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消費者向けECを成長させるには何が必要か。人口減に直面する日本市場において、既存顧客との関係強化は最重要テーマと言える。リピート注文してもらうために顧客の購買履歴や興味をしっかり把握し、効率的にアプローチする方策の1つであるCRMの重要性はますます高まっている。

家具のD2Cブランド「KANADEMONO(カナデモノ)」は、リピート率の向上をKPIに掲げ、さまざまな施策を展開中だ。運営元のルームクリップ 松本好司氏(KANADEMONOカンパニーマーケティングチームゼネラルマネージャー)がMAツール「OmniSegment」をはじめとするUXソリューションを提供するビービットの生田啓氏と対談。高単価ゆえリピート注文されにくいという家具EC特有のハンデをどう打ち破ろうとしているのか。その詳細を明かした

モール出店でスタートしたD2Cが、すぐさま自社EC構築に動いた理由

松本氏が携わるKANADEMONOの設立は2018年2月。家具の開発・製造・販売を行う、いわゆるD2Cブランドである。特徴的なのはサイズオーダーに注力している点だ。たとえばテーブルの場合、幅や奥行きを1センチ単位で指定でき、好みの天板と鉄脚を自由に組み合わせることができる。

注文から配送までのリードタイムはおよそ1週間。配送まで1か月程度かかるケースも珍しくない家具領域のなかで、KANADEMONOのスピーディさは競合に対する大きな差別化ポイントだ。

KANADEMONOがメインで扱うのは中価格帯のセミオーダー家具。大手チェーンの家具よりは高いが、高級注文家具に比べれば買いやすい。そのターゲット層を考えれば、相応の販売数量が見込める。当初は集客力に優れたECモールへ出店し、売り上げも順調だったという。

モール出店でかなりの手応えを得たので、自社ECの構築にもすぐ取り組み、併走する形で運営した。かなり早い段階でモール出店はすべて止め、現在は自社ECだけに振り切っている。(松本氏)

ルームクリップ KANADEMONOカンパニー マーケティングチームゼネラルマネージャー 松本好司氏
ルームクリップ KANADEMONOカンパニー マーケティングチームゼネラルマネージャー 松本好司氏

大胆な選択の背景には、サイズオーダー無料というブランド特性があった。一般的なECモールはさまざまな商品を販売できるように配慮されているが、1品1品のサイズをWeb上で細かく指定するようなインターフェースは想定されていない。

「たとえば“スライドバーを動かしてサイズを変更できる”などのオリジナルな体験をしていただくこともブランドとして大切な要素」と松本氏が語るように、サイトの自由度を重視。顧客データ活用の土台を作りたいということも、自社EC一本化への後押しとなった。

モール出店を完全に止め、自社ECだけとしたタイミングで一時的に売り上げは下がったが、その後は顧客の来訪が回復し、成長率はモール出店時と同水準になった。サイズオーダーができる家具販売サイトがそもそも少ないという商品性の強みも大きいと松本氏は分析する。

自社ECサイトを「Shopify」で構築

KANADEMONOは「Shopify」で自社ECサイトを構築している。Shopifyは2006年にカナダで誕生し、日本には2017年に進出したECサイト構築プラットフォーム。低価格でスタートでき、アプリの追加によって柔軟に拡張できることが評価され、国内利用が広がっている。生田氏は「EC界の黒船」と評価する。

家具のサイズオーダーという、他のECサイトではあまり見かけない機能を実装するにあたっては、「Shopify」はほぼ唯一の選択肢だったと松本氏は振り返る。1つのプラットフォームのまま、小規模サイトから大規模ECまで、契約プランの変更で対応できる点も大きかったという。

日本では規模の拡大に合わせてECプラットフォームを途中で乗り換えるケースがよくある。だが、移行時には顧客データがどうしてもいくばくかは失われる。あまり語られないことだが(その損失が)まったくないというのは大事なことだと思う。(松本氏)

目標はリピート率50%、家具ECの戦略

KANADEMONOは現在、リピート購入率をKPIとしている。家具は単価が高く、一度購入するだけという顧客が少なくない。製品ジャンル的に、リピートが発生しにくいという訳だ。そんな商品特性だが、松本氏は「リピート率50%を達成するためのチャレンジをしている」と言う。

オーダーできる範囲を拡大

取り組み事例の1つ目にあげたのが、KANADEMONOが強みとしているセミオーダーの範囲を拡張することだった。これまではテーブルやデスクといった製品ではオーダーの自由度が高い一方、ベンチやテレビボード、シェルフなどには制限が多かった。これを製品開発チームとの協力で緩和していった。

たとえばラバーウッド素材のテーブルをお買い上げいただいたお客さまに、同じ素材のベンチやテレビボードをご案内できるようになった。家具の素材やカラーは部屋のなかで合わせることでお部屋のバランスは整えやすい。CRMとMAの連携によって、そうした提案が実現した。(松本氏)

リピート受注されそうな製品を外部から調達するのでなく、ある意味ゼロに近い状態から開発した、というところが特筆すべきポイント。これはマーケティング部門だけで実施できる施策ではない。製品開発部門の協力があってこそ実現できることだ。

スタイル・テイストを「顔」で表現

2つ目は、KANADEMONOのブランドロゴ。一般的に家具・インテリアは「北欧調」「モダン」「ラグジュアリー」というようなスタイリングジャンルで分類する傾向がある。しかし完全に分類できるものでもない。「この家具はカラーが○○だから北欧調」というような言い切りはそぐわない可能性がある。

そこでKANADEMONOではインテリアのテイストを顔のイラストで分類し、これをタグにしている。「おしゃれ」や「スタイリッシュ」といった呼称は付けず、あくまで顔とその名前だけ。顔は男性、女性、猫で5種類あり、ユーザーはその顔から受けるイメージを想像しながら、製品を探すことになる。

顔から好みのスタイルを探す
顔から好みのスタイルを探す

このロゴはMAやCRMの情報としても扱われる。これにより、「この家具は○○代の男性に好まれるはず」といった断定的な商品提案を回避しつつ、商品間の関連性はしっかり提示できるようになった

KANADEMONO独自の特集記事

3つ目は特集記事の扱いだ。松本氏によると、家具に限らずブランドで世界観が構築されている場合、特集やキャンペーンなど販促色が強いコンテンツはアウトプットが難しいという。

キャンペーンや、オファー性の強いコンテンツが紛れ込むと、一貫性がなくなるという考え方が背景にはある。だが、商品理解を広げるには必要なうえ、SEOの観点からも特集記事の効果は小さくない。

KANADEMONOでは洗練されたWebデザインを基本としつつ、撮影に工夫を凝らし、文章が多くない特集記事を積極的に掲載している。

「KANADEMONO」の特集ページの一例
「KANADEMONO」の特集ページの一例

「ChatGPT」はスタッフの良き相談相手

KANADEMONOではAIの活用も進めている。特集記事など全体としてコンテンツを拡充する方向にあるが、文章のたたき台を米OpenAI社の「ChatGPT」で生成する取り組みを始めた。

また、いったん書いた文章を部署内のメンバーで相互に確認し合うだけでなく、「ChatGPT」に読み込ませ、言い換え表現があるか、より優れた表現がないかといった推敲も行っている。

業務上の相談を「ChatGPT」にする機会も多いという。KANADEMONOではリモートワークが浸透しており、周囲のメンバーに「ちょっといいですか?」と気軽に聞ける機会が減った。その分の相談や確認はミーティングで行うことになるため、結果としてミーティングが長くなる傾向にあった。

それが現在は「ChatGPT」が気軽な相談相手になってくれている。スタッフは、言わば「ChatGPT」を相手に日々“壁打ち練習”しているため、松本氏も驚くほどミーティングが短くなったという。

生田氏も「AIはEC業界に少しずつ影響を与えていく」と展望する。現在は文章をはじめとした各種コンテンツの生成が始まりつつある段階。これに続いて、消費者がおおまかなイメージをAIに伝えて選定してもらい、そのまま注文まで済ませてしまうというような新しいインターフェースの登場もあり得る。またCRMという観点では、メール配信の最適なタイミングや、ユーザー別のコンテンツ差し替えなどでAIの出番が多くなるだろうと語る

ECにおけるAI活用の予測
ECにおけるAI活用の予測

本業への集中のため、MAは使いやすさを重視

KANADEMONOはCRMマーケティングに、ビービットのMAツール「OmniSegment」を活用。松本氏が評価するのは、その操作性と設定の容易さだ。

「OmniSegment」は「小売/ECに特化したMAツール」を標榜しており、EC業務での使いやすさを徹底的に向上させている。生田氏も「EC担当者の忙しさは重々承知しているので、UIの使いやすさはとにかくこだわった」と説明する。

我々マーケティングチームとしては、とにかくお客さまに良い情報を届けることに集中したい。となると、ツールは簡単であるに越したことはない。MAは入っているが難しくて使っていないという話もよく聞く。使いやすさは重要だ。(松本氏)

AI機能もすでに組み込まれており、たとえば「オーディエンススコア」機能では、購入履歴や消費者の行動を分析。今後購入する可能性の高い顧客を5段階のスコアで予測する

生田氏は、機能面はもちろんコンサルタントによる伴走型サポートにも注力しているとアピール。ECの成長に向けて「OmniSegment」をぜひ活用してほしいと呼びかけた。

「OmniSegment」の主な機能
「OmniSegment」の主な機能

コロナ禍のEC急進はいまや過去。既存顧客との関係強化に活路を

既存顧客のリピート購入促進の重要性は、ビービットが支援した企業の購買データからもはっきりしている。

あるECサイトは、1回のみの購入者が約80%で、複数回購入者は20%にとどまっていた。しかし全体売上に占める割合は、複数回購入者からの売り上げが47%にも達する。生田氏によれば、こうした傾向は一般的で珍しいことではないという。

また、会員数約50万件、年商12億円のサイトの例では、休眠顧客の再活性化プロモーションを行ったところ、その2%を掘り起こすことができた。「1回のプロモーションで2%というのはかなり現実的な数字で、まぐれ当たりとは思えない。もし、これを年1回ペースで繰り返したなら、成長ペースに与えるインパクトは極めて大きい」と生田氏は強調する。

「OmniSegment」の主な機能
「OmniSegment」の主な機能

最後に、CRMが重視され、「OmniSegment」のようなMAツールが必要になる背景を押さえておきたい

経済産業省の統計では物販系BtoC-EC市場が右肩上がりで、2019年から2020年にかけて、コロナ禍がその傾向を推し進めた。EC化率は年0.5ポイント程度のペースで恒常的に上昇していたが、2019年に6.76%だったところ、2020年は8.08%へと急進した。1年で1.32ポイントの増加である。

物販系分野のBtoC-ECの市場規模およびEC化率の経年推移(単位:億円) 出典:「令和4年電子商取引に関する市場調査報告書」(経済産業省)
物販系分野のBtoC-ECの市場規模およびEC化率の経年推移(単位:億円) 出典:「令和4年電子商取引に関する市場調査報告書」(経済産業省)

しかし生田氏が注目すべきとしたのは、その後の停滞について。2019年から2020年にかけて大きくジャンプアップした一方、2021年以降は増加ペースが年0.5ポイント程度に戻ってしまった点だ。同統計では、2022年のEC化率は9.13%なので、2年で約1ポイントしか上昇しなかった計算になる。

EC担当者の皆さんも、経営層から「これからはECの時代だ」「ネット販売に力を入れろ」と言われただろうが、市場環境的に勝手にECが伸びる時代はもう終わってしまった。これからは知恵と工夫が求められる時期だ。(生田氏)

ビービット ソフトウェア事業本部 マーケティング ソリューション セールス&マーケティングマネジャー 生田 啓氏
ビービット ソフトウェア事業本部 マーケティング ソリューション セールス&マーケティングマネジャー 生田 啓氏

そもそも少子高齢化の影響で、新規顧客は獲得しにくくなっている。個人情報の保護意識が高まるなか、顧客ターゲティングにも厳しい目が向けられており、結果として広告の費用対効果は落ちる傾向にある。さらにEC事業者は増え続けているので、顧客の獲得競争は激化している。

こうした状況である以上、新規顧客の獲得ももちろん重要だが、「既存顧客にどうすればもっと買ってもらえるかに注力するのもまた必然」と生田氏は説明する。

CRMで既存顧客育成に取り組むべき理由
CRMで既存顧客育成に取り組むべき理由
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