迫る「物流2024年問題」。三菱地所とTRCが見据える「フィジカルインターネット」時代のEC物流
「送料無料」「翌日配送」などの配送ニーズが高まる一方で、物流業界に関わる人手不足を懸念する声は多い。また、働き方改革に伴う「2024年問題」が目前に迫り、各方面でインフラの刷新や強化、業務改革などが急ピッチで進んでいる。こんな環境下、注目が集まっているのがインターネット通信の考え方を物流(フィジカル)に適用した新しい物流の仕組み「フィジカルインターネット」の理念だ。
三菱地所の吉竹宏樹氏(物流施設事業部 担当部長)と東京流通センター(TRC)の植村宗広氏(営業部長)が「EC物流フォーラム2023」に登壇し、自動運転トラックなどの先進技術にも対応した新型施設、都心部で稼働を開始した物流施設の最新動向について解説した。
物流コスト対策としての「フィジカルインターネット」とは
商品の調達や配送など、物流にかかるコストは企業の競争力を左右する。しかし、人手不足やカーポンニュートラル対策によってコストがかさんでいくのはほぼ間違いない。吉竹氏は「物流コストのインフレ時代が到来することを、改めて意識すべき」と説く。
民間企業だけでなく、国も物流危機への対策を強化している。経済産業省は2021年に「フィジカルインターネット実現会議」を立ち上げ、そのロードマップを示した。インターネットにおけるパケット交換式データ通信の仕組みのように、商品や製品など、実際のモノの配送効率を、施設のシェアリングや共同配送、先進技術で向上させる「フィジカルインターネット」の理念を2036年から2040年までに達成するとの目標が掲げられている。
フランスで行われた「フィジカルインターネット」の実証実験では、パリ、リヨン、マルセイユの3都市に中心的物流拠点を設けることで、稼働率が大幅に向上することがわかったという。「日本においても関東、中京、関西の3拠点がフィジカルインターネットの中核になる可能性が高いのではないか」と吉竹氏は語る。
ここから、「フィジカルインターネット」時代に対応する物流環境作りに挑む、三菱地所、TRCの取り組みを紹介する。
三菱地所は自動運転トラック対応の新物流施設を整備
「社会課題解決型 次世代基幹物流施設」の実現をめざす三菱地所。トラックドライバー不足、労働生産性の低さ、高まり続ける物流ニーズ、環境面の持続可能性や災害対応など、物流業界のさまざまな課題を解決する糸口の1つが、次世代モビリティに対応した「次世代型基幹物流施設」という発想だ。
ただし、三菱地所が提唱する「次世代基幹物流施設」は、1社の力で実現できるものではないと吉竹氏は説明。自動運転トラックに代表される次世代モビリティ技術を持つ企業、AI(人工知能)に長けた新興ITベンチャーなどとの密接な連携、荷主企業、EC事業者、運送会社の理解や協力が必要となり、「共同運営体制をいかに構築するかが鍵」と吉竹氏は言う。
現在の構想では、関東圏、中京圏、関西圏の計3拠点にそれぞれ基幹物流施設を建設し、自動運転トラックで施設間の幹線輸送を行う計画を掲げる。三菱地所としては施設の建設に加え、施設と高速道路インターチェンジ(IC)を直結させるランプウェイの整備を担うことになるという。
2026年度の竣工をめざして京都の施設を建設中
拠点となる施設の整備に向けて、用地取得や候補地検討はすでにスタートしている。なかでも先行しているのが関西圏の施設だ。場所は京都府城陽市で、2026年度の竣工をめざし、2023年7月から基盤整備工事に着手した。
この施設は、2024年以降の開通をめざす新名神高速道路(一部区間が開通済み)の宇治田原ICに隣接し、さらに高速道路本線と専用道路で直結するのが最大の特徴。敷地面積は11万9000平方メートル(約3万6000坪)、延べ床面積は約27万7000平方メートル(約8万3800坪)と、規模も大きい。
ここでは自動運転トラックの連結や解除などを行う「モビリティプール」、自動運転トラックと有人トラックとの荷物の受け渡しを行う「クロスドックフロア」を用意。さらに、施設内に入居する各テナントとの連携にも次世代モビリティ技術を用いることを計画している。
なお、自動運転トラックの実運用に向けては、自動運転技術を活用した物流サービスを手がける株式会社T2と資本・業務提携している。
東京・平和島のTRC、抜群の立地がもたらす価値
全国レベルの広域圏輸送の効率化策を打ち出す三菱地所に対し、都市圏内輸送で役割を発揮しているのが、三菱地所のグループ会社であるTRCだ。
TRCの設立は1960年代の高度経済成長期。物流の活性化によって交通渋滞や排気ガスの問題が慢性化した時代だ。東京都は都市計画として、大田区平和島に流通業務団地を設置。大型トラックで輸送されてきた荷物を、平和島のTRCが中継拠点となって整理し、より機動的な小型トラックなどで顧客へと届ける――。現代の「フィジカルインターネット」にもつながる理念を、いち早く実践していたのがTRCなのだ。
TRCは首都高速の羽田線と湾岸線双方のICの近くに立地し、トラック輸送に適している。また羽田空港をはじめ、東京駅や品川駅にも近い。植村氏は「荷物の中継拠点としての立地の重要性は(「フィジカルインターネット」への注目の影響などで)再び見直されてきている」と、その強みを強調する。
内装材「サンゲツ」の利用事例
TRCには複数の施設があるが、2017年に竣工した「物流ビルB棟」はECの拠点としての利用も多い。都心への最終配送拠点や倉庫としてはもちろん、+αとして製品のメンテナンスや商品撮影などの業務も行われているという。
立地の重要性を示す例として植村氏があげたのが、床材や壁装材で知られるサンゲツだ。サンゲツは平和島の立地に着目し、午前注文・当日午後配送を実現するために「物流ビルB棟」を配送拠点に選んだ。
サンゲツと取引する内装施工会社にとっても、平和島の立地は役立っている。内装工事はビル建設などにおける最終工程であり、工期延長によるしわ寄せを受けやすい。急ピッチで内装工事を完了させるには納品の精度を高めなければならず、それこそ都心の工事などでは、近傍の平和島からの配送によって待ち時間の短縮が期待できる。
加えて、もし不測の事態が起こった場合でも、内装施工会社は自ら平和島に足を運び、商品を受け取ってから現場に向かうことが可能になった。
2023年8月には新棟が竣工、EC物流のためのさまざまな工夫も
TRCにとって最新の施設となるのが2023年8月31日に竣工した「物流ビルA棟」だ。延べ床面積は約6万1000坪で、これは近年の都心湾岸部の施設としては大型の部類に入る。
「物流ビルA棟」は、EC事業者の利用を想定した構造上の工夫を施している。たとえば標準区画の場合、面積は435坪だが広い間口の設計のため、4トントラックを最大8台程度接車できるトラックバースを確保。一方、倉庫部分の奥行きは浅めの設計で、「これにより高頻度に荷物の積み荷をする倉庫として使い勝手が良い」と植村氏は説明する。
災害対策も強化した。湾岸部の立地ながら海抜はTP(東京湾平均海面)3.8mと品川駅のTP3.0mより高い。免震構造のほか、施設共用部用の非常用発電機も用意している。
来たる「物流2024年問題」では、人手をいかに確保するかも大きな課題だ。TRCは東京モノレールの流通センター駅に隣接しており、通勤の利便性は高い。さらに5つの飲食店を敷地内に設けるなど、就業環境の充実にも取り組んでいる。
立地が良いことで輸送経路が短くなれば、ドライバーの長時間労働も削減しやすくなる。立地の良さは、輸送性と人材確保のどちらにも好影響を与えるというわけだ。
植村氏は「都心部へのアクセス性が高いTRCは、多頻度や緊急の配送を考えるうえで最適」と改めてアピールする。
TRCでは最新の物流技術を広めるべく、構内ショールーム「TRC LODGE」での常設展示も行っている。