小林 義法 7/27 8:00

北海道苫小牧市に本社を置くイワクラは、木材の生産・加工・販売、建設資材製造、緑化造園、環境事業などを行っている大正2年(1913)創業の老舗企業。なかでも森林の育成過程で生じる間伐材や林地残材、製材工場などから発生する樹皮、のこ屑、端材などを生かす木材リサイクルのパイオニア企業としても有名だ。メイン事業はBtoBビジネスだが、「震災」をきっかけにBtoC商品「スモークチップ 燻助(くんすけ)」、猫用トイレの木質ペレット「ネコペレ」を開発した。

BtoB企業がなぜBtoCビジネスへ? BtoC向け商品の開発からECサイトを立ち上げた経緯、取り組み、成功事例、今後の展望などを倉知英治氏に取材した。

ECサイト開設、きっかけは「震災で出た倒木をBtoC向け商品に活用」

イワクラの木材関連の事業部は4つ。バイオマスエネルギーの原料調達・生産・販売を行う環境事業部、伐採や森林管理を行う林材事業部、パーティクルボードを製造する建材事業部、建築資材を提供する住宅事業部だ。いずれも取引先は国や企業のBtoBビジネスである。

イワクラは5~6年前から新規事業としてBtoCビジネスを視野に入れていたが、本格的にBtoC向け商品を開発したきっかけは、2018年に起きた北海道胆振東部地震だった。

震災で出た倒木を燃やすだけでなく、きちんと商品価値のある物作りができないか。」

こう考えたイワクラは、BtoB向けの木材として引き合いもあった倒木をBtoC向け商品の材料にすることにこだわった。木材を細かく粉砕しバイオマスエネルギーの原料とし電気にしたり、木質ボイラーの燃料として木質ペレットとして活用したりしていたが、スモークチップやスモークウッドといった燻煙材を生み出していった。

これらの商品は、2020年春に開設したイワクラ初のBtoC向けECサイト「IWAKURA ONLINE SHOP」で販売している。「IWAKURA ONLINE SHOP」は新規事業として立ち上げたものだが、社内ではBtoCビジネスとECサイトに対する理解が不足しており、開設までの道のりは平坦ではなかったという。

現在ECサイトの責任者である倉知氏も、オンラインショップの種類といった基礎から勉強。その上で、倉知氏は社内の理解を得るための説明に時間と労力を費やしたという。

社内では「BtoCビジネスはわからないこと」なので、興味を持たない、触れない空気もありました。BtoBビジネスと比較すれば、BtoC向けの売り上げ見込みは小さい。その将来性を疑われることもあったかもしれません。

そこで、ECサイトを開設することで、地元の企業や今まで取引がなかった企業にアピールできること、「イワクラがどんな会社で、こういう事業も始めている」ということを知ってもらえるのだと、具体的な可能性や未来を社内に積極的に伝えていきました。(倉知氏)

イワクラ EC担当 倉知英治氏 IWAKURA ONLINE SHOP 自社ECサイト開設 STORES
イワクラ EC担当 倉知英治氏

「イワクラらしさ」を表現できることから自社ECサイトをスタート

ECサイトの構築・運用のノウハウはなかったが、イワクラはモール型のECサイトへ出店するのではなく、自社ECサイトの開設を決断した。

ポイントになったのは初期投資の費用。売り上げから算出される手数料をトータルで見た結果、自社ECサイトを開設するメリットが大きかったのだ。また、自社ECサイトならイワクラらしさを表現できることも魅力だったという。

繰り返しになるがイワクラ内にはノウハウがなかった。そこで倉知氏は「受注から顧客への発送までを管理できるように」、そして「1人でマニュアルを作れるところまですべてを理解する」と決意し、じっくりと経験を積むことにした。

イワクラ IWAKURA ONLINE SHOPのTOPページ 自社ECサイト開設 STORES
「IWAKURA ONLINE SHOP」のTOPページ(画像は「IWAKURA ONLINE SHOP」からキャプチャ)

「商品の良さをしっかり体感すること」でユーザーにきちんと魅力を伝える

BtoC向けECサイトを運営するなかで課題となった点を、倉知氏は「販売ページ用の写真撮影やテキストを書く業務は初めてだったので、時間をかなり費やしました」と話す。しかし、倉知氏の過去の職業で得た実績が、ECサイト立ち上げ時に役立ったという。

以前、飲食店を経営していたことがあるんです。何かを作ることに対する原価管理といった数字も扱ってきたので、経験ゼロというわけではなかった。

商品の製造に関しては一部パートさんにお願いしていますが、それ以外はすべて私が携わっています。商品の取り扱い、販売ページの制作、仕入れ、販売まで責任を持って見ています。(倉知氏)

また、「商品の良さは自分で体感しないといけない」と倉知氏は考えている。

たとえば飲食店ならその店の料理を理解し、言葉でお客さまに伝えられるようにしなければなりません。商品について、使い方を含めて自分がはっきり理解していないとお客さまに魅力を伝えられない

特にBtoCは顔が見えず、お客さまがどんな人かわからないため、商品の良さを伝えることが難しい。商品理解を深めることに時間をかけているため、商品選定から販売までには時間がかかります。取り扱う商品は増えていきますので、ここは課題ですね。(倉知氏)

商品やECサイトの告知のためにInstagramを運営。運営や商品の撮影はすべて倉知氏1人で行っているが、フォロワーの協力を得てコンテンツの充実化を図っている

Instagramのフォロワーの方に商品サンプルを渡し、使用している写真を提供していただき、商品ページに掲載しています。私が撮影した写真だけでは同じような構図になりがちなので、非常に助かっています。フォロワーの方の写真は、商品の特徴がわかりやすく、とっつきやすさがありますね。(倉知氏)

イワクラ IWAKURA ONLINE SHOP Instagramページ 自社ECサイト開設 STORES
「IWAKURA ONLINE SHOP」のInstagramページ
(画像は「IWAKURA ONLINE SHOP」のInstagramよりキャプチャ)

倉知氏が注力した点は、ECサイトやInstagramの運用だけではない。「BtoC向けのECサイトを始めれば、『イワクラはどういう企業なのか』とWebサイトを見る人もいるはず」と考え、イワクラのWebサイトリニューアルも行った。

当時のWebサイトは少し古さを感じるデザインでした。ECサイトから興味を持ってイワクラのWebサイトを訪れた際、信用を得るため、またイメージアップにつながるようにサイトリニューアルを行いました。簡単ではなかったですが、非常に重要だったと思います。(倉知氏)

イワクラのリニューアルしたWebサイト IWAKURA ONLINE SHOP 自社ECサイト開設 STORES
リニューアルしたイワクラのWebサイト(画像は「イワクラ」のサイトからキャプチャ)

会長の夢がこもった燻製チップと夏の売り上げを支える猫用トイレペレットが主力商品

BtoC向け商品を開発するにあたりイワクラがこだわったのは「木材に関連したものづくり」「商品の原料は北海道産」の2点。イワクラは創業から100年以上の長い歴史のなかで、変わらず木材を扱ってきており、「木材のプロである自分たちは木材のビジネスで勝負する」という確固たる意志があるのだ。

「IWAKURA ONLINE SHOP」の主力商品の1つが「スモークチップ 燻助(くんすけ)」。この商品を開発した理由は原料である「蝦夷山桜」。

イワクラ IWAKURA ONLINE SHOP スモークチップ 燻助 自社ECサイト開設 STORES
北海道で伐採した天然の蝦夷山桜を使用した「スモークチップ 燻助」
(画像は「IWAKURA ONLINE SHOP」からキャプチャ)

イワクラの取締役会長 後藤英夫氏には「燻製用の原木として『蝦夷山桜』を取り扱って販売したい」という夢があった。倉知氏は会長から直々に手紙を受け取り、商品開発に着手。「スモークチップ 燻助」は会長の思いや、地震による倒木で「蝦夷山桜」が手に入るという機会が合致して生まれた商品なのだ。

蝦夷山桜はタール分が少なく、燻した時のえぐみが少ないという特徴がある。さらに「スモークチップ 燻助」は香りが高く、クセの強い肉にも負けない香りが付けられる。購入者からは好評で「燻製初心者でも失敗しにくい」という声があがっている。

北海道産のマツを原料にした木質ペレット「ネコペレ」もこだわりのアイデア商品。こちらはストーブの燃料になる木質ペレットがベースになっている。

ペレットは冬の時期はよく売れるものの、気温が上がると消費が減る。自社のペレット工場で夏場の仕事を安定させること、夏の売り上げ減少にどう対応するかは以前からの課題だった。そこで倉知氏が気付いたのが“馬の敷きわら”である。

イワクラ IWAKURA ONLINE SHOP 猫ペレ 自社ECサイト開設 STORES
北海道産の木材(トドマツ、カラマツ)を細かく砕いてペレット状にした「ネコペレ」
(画像は「IWAKURA ONLINE SHOP」からキャプチャ)

苫小牧には競走馬の育成牧場がある。そこでは馬の“敷きわら”の代わりにペレットを使うことがあるという。そこから着想を得て「猫砂がBtoC商品になるのでは?」という発想につながった。

濡れたペレットは「おが粉」という粉状になる。粉になる仕様は、細かい穴の開いたトイレ用のスコップや猫のシステムトイレと相性がいい。さらに「ネコペレ」は化学物質不使用で安全性が高く、フィトンチッド(植物が自身を守るために出す物質、虫よけなどにも使われている)の効果による消臭・抗菌作用もあり、香りもきつくなく飼い主にも猫にも優しい。

「スモークチップ 燻助」も「ネコペレ」も、木材のプロが木材の長所を生かした商品といえる。

BtoC商品をきっかけに大口取引が成立、顧客とのつながりが生まれる

社内で不安視されていたBtoC向け商品だが、大きな商談につながった事例がある。

木質ペレットを使うストーブのメーカーに、イワクラが燻製用チップの製造・販売の話をしたところ、実はそのメーカーが全国展開しているアウトドアショップを運営しており、商品を取り扱ってもらえることになった。倉知氏が「年間の販売計画の約半分という金額になりました」と話すほど、大口の取引につながった。

さらに「IWAKURA ONLINE SHOP」のユーザーには、長年燻製を行っている人が多く、燻製チップを口コミでアウトドア仲間に紹介する動きもあるという。購入者は商品への満足度が高ければ自慢したくなり、他の人にオススメするというサイクルが生まれるのだ。

さらに、購入者同士のつながりから燻製作りをしている企業、水産加工会社などに燻製チップを紹介したこともあったという。また、紹介経由で「燻製メニューを出したい」というホテルとの契約にもつながった。

大口の契約はやはりBtoBではあるものの、BtoCらしい購入者同士のつながりから販路拡大に成功し、新しい販売ルートが構築できた。「BtoBからBtoCという新しいつながりを生み出すことも、イワクラがECサイトを開設する上で戦略の1つだった」と倉知氏は話す。

BtoC商品とECサイトを通じて地域復興へ貢献

イワクラはBtoC商品を扱うECサイトを運用するなかで、地方復興を意識している。前述した地元北海道産の木材にこだわっているのもその1つだ。

新たな商品を生産することになれば、工場周辺で新たな雇用を生み出せる。現役の働き手が地方に増えると、周辺の街や村が活気づく。さらにECサイトを通じて商品と地元を全国にPRもできる。「物を通じて全国に魅力を発信することは、その地域の認知を高めることにつながり、『北海道に行ってみたい』という方が増えていくかもしれない」(倉知氏)。

また北海道胆振東部地震で出た倒木を利用した「スモークウッド 燻助」という商品がある。イワクラはこの商品の売り上げが寄付金になる計画を進めている。苫小牧を中心とした地域の森林関連企業の組合を通して、森作りに役立てる寄付を行う予定だ。

木は木材にできるまで育つのに40年~50年はかかる。だから森林をきちんと作っていく必要があります。私たちはBtoC商品とECサイトを通じて、未来にお金をかけられる体制作りを考えています。(倉知氏)

BtoCからBtoBにつながるECサイト運営&商品開発をめざす

イワクラが今後注力したい商品として、前述の「スモークウッド 燻助」をあげた。この商品は2021年9月に完成し、一般販売前に「Makuake(マクアケ)」を利用して先行販売を行った。その売り上げの使い道は「北海道胆振東部地震で被災した森に役立てる費用」だと明記していた。

イワクラ IWAKURA ONLINE SHOP Makuakeで実施したプロジェクト 自社ECサイト開設 STORES
「Makuake」で実施していたプロジェクト(画像は「Makuake」からキャプチャ)

商品のキャッチコピーは“100年以上山と向き合ってきた木材のプロが研究した、誰も失敗しない《燻製スモークウッド》”。燻製による調理のうち、練り物、チーズのような加工済みの食材、サーモンのようにあまり火を通したくない食材を燻すのに適している燻煙材がこのスモークウッドだ。

イワクラ IWAKURA ONLINE SHOP スモークウッド 燻助 自社ECサイト開設 STORES
北海道の蝦夷山桜を使用した「スモークウッド 燻助」
(画像は「IWAKURA ONLINE SHOP」からキャプチャ)

専用の燻製器がなくてもダンボールを使うことで燻製が楽しめるのが特徴で、気軽に燻製にチャレンジしてもらい、燻製ファンのすそ野を広げていきたいと考えている。

また、伐採した木を山から下ろす際、「運搬コストがかかる」という理由で丸太以外の枝や葉は山に置いてきてしまう。こういったものにも価値をもたせて商品化するというアイデアもある。林業従事者の女性向けに、マツの精油を抽出した化粧品や木の香る虫よけスプレーも取り扱っており、将来的には商品がいつでも買える実店舗を持ちたいという。

最後に倉知氏は次のように語った。

BtoCのCは単なる個人ではなく、いずれかの企業の一員だと思っています。つまりtoCからtoBにつながることもあるはずで、その可能性を考えて商品開発とECサイト運営を行っていきます。これからも、まずは自分が良いと思える北海道産の商品を発見していきたい。(倉知氏)

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