AIはBtoB-ECをどう変えるのか。新たな顧客体験を創出するAIレコメンドエンジンとは
昨今、AI(人工知能)が急速に普及しているが、ビジネスにフル活用している企業はまだそう多くはないだろう。ましてやBtoBビジネスの領域は、デジタル化自体がこれからという事業者は少なくない。AIはBtoB-ECの領域に何をもたらすのだろうか。顧客体験や売上改善のソリューションを提供するシルバーエッグ・テクノロジーの園田真悟氏が、BtoB-ECにおけるAI技術、特にレコメンドエンジンについて解説した。
BtoB-ECの課題を解決するAI技術とは
BtoB-ECとBtoC-ECでは重視することが異なる。BtoCの領域では集客に重きを置く企業が多いが、BtoBの重要課題は利用企業の継続使用という。これは、BtoBの顧客、つまり取引先は既存の得意先顧客でほぼ固定されていることが多いからだ。
BtoB-ECだからこそできる仕掛けがある。今までの取引の仕組みをECサイトに変えることによって、リッチな表現を用いてニッチな商品の魅力をアピールし、ユーザーに気付いてもらうことができる。ユーザーは「良い商品が買えるから再度ECサイトで発注しよう」「見積もりを取ろう」というモチベーションを持ってくれるようになる。(園田氏)
また、BtoB-ECサイトの運用をしていても「サイトの利用率がなかなか上がらない」「売り上げが向上していかない」という声も少なくない。これらもBtoB-ECに多い課題で、毎回同じ商品を定期的に購入する取引先が多いという、BtoB-EC特有のビジネス形態によるものだ。新しい商品を買ってもらえなければ、顧客単価も売り上げも伸びていかない。
これはBtoB、BtoCに共通と言えるのだが、継続利用率やサイト利用率を上げていくことが売り上げを伸ばすための鉄則。そのためにシルバーエッグ・テクノロジーが提案するのが、AI技術を利用したレコメンドエンジンだ。
AIレコメンドエンジンの役割①
ユーザーのニーズに応え、顧客体験を改善
レコメンドエンジンとは、AIが導き出したユーザーへのおすすめ情報を表示する仕組みだ。企業が売りたいモノを表示する広告とは異なり、レコメンドエンジンはユーザーが何を欲しいかを予測し、ニーズに適した商品を提案する。
レコメンドの導入効果の実例としてわかりやすいのが「YouTube」。レコメンドエンジンをAIベースのものに置き換えており、動画の連続視聴回数、時間の占有率、来訪回数などが増加しているという。「YouTube」を利用しているユーザーであれば、自身の興味・関心に適した動画がレコメンドされてくるのがわかるだろう。
このようなレコメンドの効果は、ECサイトにおいても同様にビジネスに大きな影響を与えている。シルバーエッグ・テクノロジーの調査によると、アパレル系企業30社の売り上げのうち、約10%から20%がレコメンドエンジンによって生み出されているということがわかっているという。
しかも、レコメンドエンジンには、さまざまなツールやシーンで活用できるという利点もある。
レコメンドエンジンは単純にECサイトでユーザーへ適した商品を表示するだけでなく、専用のアプリやメール、LINE、あるいは紙のダイレクトメールの制作にも利用できる。さらに、店頭接客や営業の支援ツールとしても使える。AIでニーズを捉えて的確な商品を提案するこの仕組みをうまく利用できれば、BtoB-ECでも顧客体験を高めていける。(園田氏)
「欲しいものがスムーズに見つけられた」「あるアイテムと組み合わせて使える便利なアイテムを発見できた」「仕入れの幅が広がり、新たな商機が生まれた」――レコメンドエンジンはこのようなポジティブな体験をBtoB-ECサイトで提供できるのだ。
AIレコメンドエンジンの役割②
新たな出会いを創出し客単価増を実現AIレコメンドエンジン
BtoB-ECサイトには弱点もある。物理的な店舗や閲覧性が高い紙のカタログよりも情報量が少なく、対面での取引のように営業からの提案、つまりリアルのレコメンドがない。そのため、ECサイトを利用したBtoB取引は、目的のモノだけを購入して取引が終了するケースが少なくない。そこで園田氏はレコメンドエンジンの主要な目的として、次の3点をあげる。
- 顧客ナビゲート
- 商品理解
- 新規需要創出
1つ目の顧客ナビゲートとは、ユーザー1人ひとりのニーズを感知し、適切なコンテンツや商品を提案。これにより「大量の商品のなかから欲しいものがすぐ見つかる」という体験を作り出すという。
2つ目は商品理解。レコメンドエンジンは、その商品に関連するコンテンツもレコメンドすることができる。関連コンテンツを読むことによってユーザーは商品理解を深め、問い合わせようとする気持ちや購入のモチベーションを上げることにつながる。
3つ目の新規需要の創出は、目的のモノしか購入されないという状況を変えようというものだ。レコメンドエンジンは、ユーザーがどんな商品を組み合わせて買っているか、閲覧しているかというデータから、特定のユーザーに彼らがそれまで見たことのない商品を紹介できる。
ウィンドウショッピングのように、ユーザーが商品探し自体を楽しむBtoCのECと違い、BtoB -ECのユーザーは仕事でサイトにアクセスしている。“いま”必要なものがすぐに見つかること、自分の仕事にプラスになるものが見つかることが重視される。AIによるリアルタイムニーズ分析機能があるレコメンドエンジンは、この点でBtoB ECに適していると言える。(園田氏)
こうしたレコメンドエンジンの働きが「欲しい商品がすぐ見つかる」「商品理解が深まる」「新たな商品と出会う」という新しいユーザー体験を創出する。また、買い回りを促し、取引の活性化につながるのだ。
AIレコメンドエンジンの役割③
継続利用を促すコミュニケーション
一方、継続率を高めたいという課題にはどう対応するべきなのだろうか。園田氏が次回購入を促進するための施策の1つとして提案するのは、メールでのコミュニケーション。LINEやInstagramも選択肢になるBtoC-ECと異なり、BtoB-ECの場合はメールの重要度が高い。
また、サイトそのもののファンになってもらい、再び利用したくなってもらうための仕掛けも重要で、そのために有用なのがコンテンツマーケティングだ。スタッフによるコンテンツや動画で商品の利用シーンを想起させ、利便性を学んでもらう。商品の使い方を解説するコンテンツは、購入のモチベーションを上げるとともに、学習の機会を提供し、商品への関心度を高めることができる。
従来は営業担当者が現場で直接お客さまに伝えていた情報を、コンテンツマーケティングとしてBtoB-ECサイトに集約する。コンテンツマーケティングをサイトで行い、メールでサイトにお客さまを誘導していく、この2つの仕掛けの組み合わせが非常に重要。(園田氏)
これらのコンテンツを読んでもらい、売り上げにつなげていくことがECビジネスでは重要となる。そこで利用したいのがCRMやMA、そしてレコメンドだ。これらを組み合わせることで、ユーザーに最適なコンテンツや商品を提示することが可能になる。さらに、そのユーザーが次に求める商品やコンテンツをAIに予測させ、その情報をユーザーの状況に合わせて自動的に配信することもできる。
どのようなマーケティング施策が効果的なのかについては、BtoC-ECから学べる部分が多い。たとえば、BtoCでは会員ランク制度を導入し、会員ランクが高いユーザーには特別な商品を案内するといった施策がある。これはBtoB-ECでも応用可能だ。取引額によってサービスの差別化を行い、そのサービスをメールで通知していく。これらはMA、あるいはCRMツールを使って実施できる。
他にも、利用頻度の下がってきた休眠顧客への再アプローチに利用できるほか、たとえば「前年は購入回数が多かったが、今年は利用度が下がった取引先をピックアップし、特別なメッセージを送る」といった手法もある。
クリック率の高いメールマガジンの内容とは?
メールのなかではどのようなコンテンツを提供したら良いのだろうか。園田氏はポイントを3つあげた。
- メールマガジンのテーマは必ず1つに絞る。1テーマは1通で出し分ける
- 字は極力書かない。10行の商品紹介よりも1枚の写真の方が効果がある。文字を書くならとことんこだわること
- 掲載内容を自動化する。レコメンドエンジンにどのコンテンツや商品を紹介するのかを決めさせる
3つ目を実現するのがレコメンドエンジンだ。メールマガジン内に設定したレコメンド枠に、ユーザーごとに異なる商品や情報をAIが自動生成して掲載する。シルバーエッグ・テクノロジーが提供するリアルタイム・レコメンドメールサービス「レコガゾウ」は、提案すべき商品やコンテンツをユーザーごとに判断し、自動的に出し分けることができる。
人の手では作成に膨大な工数がかかる。だが、AIを活用することで工数をかけることなく、ユーザーの反応率を改善し、次回のアクセスを誘引する効果が期待できる。効果的な情報発信が再度の来訪につながるのだ。
BtoB-ECサイトにAIエンジンによるニーズ予測機能、つまりレコメンド機能を導入してできることは、単にサイトでの商品のおすすめ表示だけではない。BtoB-EC特有の課題であったECサイトの利用率と2回目以降の来訪や利用を高め、ひいては優良顧客化も望めるようになる。ぜひAIで自社のECサイトの活性化を図り、理想的なBtoB-ECサイトを作ってほしい。(園田氏)