にっぽんD2C応援委員会 3/28 8:00

地方の企業はどのようにD2Cを事業に活用すれば成長に生かすことができるのか。九州食材をテーマにしたレストラン事業などを手がける一平ホールディングス・代表取締役の村岡浩司氏に、「地方創生とものづくりの関係性」「地方の中小企業とD2C」などのお話を伺いました。

D2Cのノウハウを共有し、新しい商品・価値を生み出す

D2C応援委員会 委員長・プロデューサー 関洋祐氏(以下、関氏):村岡さんが取り組まれている「九州アイランド」というプロジェクトは、九州の多くの生産者とつながり、彼らにD2Cのノウハウを提供することで新しい商品・価値を数多く生み出していらっしゃいます。取り組みについて詳しく教えてください。

一平ホールディングス 代表取締役 村岡浩司氏(以下、村岡氏):2022年、一平ホールディングスの商品「九州パンケーキ」が誕生して10年になります。これまで10年間培ってきたノウハウ、ネットワークなどの資源を「九州アイランド」プロジェクトの仲間に共有しています。

地方の多くの加工食品は、パッケージやマーケティングの手法によって一見地域の特産に見えたとしても、実は原材料を海外輸入に依存していることが多い。

それに対して「九州パンケーキ」はすべて九州産の原料で作ることで、価値あるものとして受け入れられてきました。すべて九州の材料を使っているということは、ある人にとっては気に留めるようなことではないかもしれませんが、ある人にはとてもバリューになるのではないかという仮説でやってきました。

「九州アイランド」は、九州域内のさまざまな一次産業の生産者とつながり、そういった「九州パンケーキ」と同様の創造理念を広げていく、みんなで九州らしいものづくりを考える、ということに取り組んでいます。

D2CSUMMIT D2C 九州アイランドの取り組みについて
「九州アイランド」の取り組みについて
一平ホールディングス 代表取締役社長 村岡浩司氏
一平ホールディングス 代表取締役社長 村岡浩司氏

1970年、宮崎県生まれ。宮崎市高岡町(人口12000人)で廃校となった小学校をリノベーションしたムカサハブ(本社所在地)を運営。“世界があこがれる九州をつくる”を経営理念として、九州産の農業素材のみで作られた「九州パンケーキミックス」をはじめとする、「KYUSHU ISLAND®︎/九州アイランド」プロダクトシリーズを国内外に展開。九州/沖縄の広域経済圏でつながってものづくり産業を支援する、共創・共同体マーケティング「九州アイランドプロジェクト」の運営リーダー。食を通じた地域活性化やコミュニティ活動にも取り組んでいる。

「ここにしかないもの」の活用法を模索

関氏:ノウハウという観点では、どういった内容を共有しているのでしょうか?

村岡氏:「その土地ならではの商品=ここにしかないもの」という価値を生み出して、商品として世にテストマーケティングしていく手法を提供しています。「その土地ならではの商品=ここにしかないもの」は、実はデジタル、SNSととても相性が良いと思っています。

関氏:それはどのような理由でしょうか?

村岡氏:マーケティングの基本原則として、商品の価値は機能的価値と情緒的価値の掛け合わせです。機能的価値の高いもの、もしくは再現性の高いものと言い換えても良いかもしれませんが、そういったものはあまり情緒的価値は高くありません。

たとえばファーストフードは「早い・美味い・安い」という機能的価値がとても高い。あるいは、アルバイトのスタッフでいつでも同じ商品を作れるという意味で再現性がとても高いです。加工食品でいえば、そういった機能性と再現性の極地のような商品は、逆に情緒的価値は低くて、それをわざわざインスタにあげる人はあまりいない。

機能的価値が高い商品を作っている大企業は、CM・広告で情緒的価値を表現しているケースが多いですよね。機能価値も高く再現性があり、情緒的価値も高いことが一番理想ではあるので、それをめざして取り組まれているわけです。

しかし、中小企業にはその方法が難しい。「ここにしかない」というような再現性がないもの、たとえば私が行っている廃校に作った「MUKASA COFFEE」は、そこでコーヒーを焙煎して、九州の素材でパンを作っている、まさに「そこにしかない」ものを作っています。

廃校を使って内装もすべてリユース、プラスチックフリーで、自然エネルギーの電力を使っている。そういう「そこにしかない」ものは、情緒的価値が高くデジタルととても相性が良いのです。

そこにきたほぼ全員が写真を撮ってFacebookやInstagramに投稿してくれる。CMは一度も打ったことがないけれど、日曜日の朝から行列ができ、1時間でパンが売り切れるという現象が起こっています。このような、SNSの時代に小さな主体が戦う戦い方を模索しています。

D2CSUMMIT 一平ホールディングスが運営する「MUKASA COFFEE」
一平ホールディングスが運営する廃校を活用したカフェ「MUKASA COFFEE」(宮崎県宮崎市)
(画像は「MUKASA COFFEE」サイトからキャプチャ)

地方の中小企業は個人でSNS拡散してもらう方法と相性が良い

関氏:地方の中小企業は、大企業のように再現性が高く、機能的価値が高い商品を大量生産してCMで情緒的価値を付加するというような戦法ではなく、そこにしかない地方の資源を使って情緒的価値を生み出し、それをSNSで個人の力で広めてもらうという方法と相性が良いということですね。

村岡氏:おっしゃる通りです。それから、「デジタルマーケティングをハックする」という考え方も地方の生産現場にはあまりフィットしないのではないかと考えています。そこはスタートアップとの違いでもあります。

関氏:大手企業、スタートアップとも考え方が違うわけですね。

村岡氏:まず時間軸が違いますし、資本政策も違います。スタートアップは株主に時限で求められる成果があって、そういった根本が違います。「九州パンケーキ」は広告宣伝費をほとんどかけずにこの10年少しずつファンづくりをしている。そういう方法もありなのではないかと思っています。

関氏:D2Cというビジネスモデルや考え方は、ローカルの小さなブランドにも生きる道を与えたんじゃないかと思います。

D2Cはさまざまな種類のプレイヤーがいます。上場企業、スタートアップ、中小企業、インフルエンサー、主婦、学生でもできるのがD2Cというビジネスモデルです。

村岡さんのおっしゃるとおり、それぞれめざしているゴールや時間軸はまったく違うけれども、それぞれのやり方で目的を達成できるのがD2Cの面白いところだと思います。

村岡氏:そういうなかでD2Cの文脈では地方の中小企業というところにあまりフォーカスが当たってこなかったのではないかと思います。

「Makuake」を活用し、表現方法などのノウハウを蓄積

関氏:「九州アイランド」は「Makuake」と提携して多くのプロジェクトを発信しています。その仕組みや考え方を教えてください。

村岡氏:ローカルのそこにしかない価値を統一したテーマで、つまり“九州”というリージョン単位で括る「九州アイランド」の考え方は、マクアケさんも面白いと言ってくれています。

現在、「九州アイランド」には約150人の仲間がいます。彼らと壁打ちして伴走して、そこにしかない価値の商品を一緒に作り、「Makuake」という場でテストマーケティングしてローンチするという手法が確立してきました。

小さな主体が初めて取り組むD2Cの場としては極めて秀逸だと思っています。コードは必要ないし誰でも販売ページを作ることができる。表現方法や商品の魅せ方などのノウハウも溜まってきていて、それを共有することで失敗しない方程式ができあがってきました

2020年5月のスタート以降、38のプロジェクト(2022年3月17日現在)を実施してきましたが、すべてプロジェクトを達成しています。このペースで行くと年間50くらいの新商品が生まれ、1億くらいの新規流通が「Makuake」だけで発生していくことになります。

その後のマーケティングも、「50の商品群」としてたとえば体験の場を一緒に作っていくなど、一緒に仕掛けるアイディアが色々と考えられるわけです。

初めからデジタル主体でブランドを立ち上げた人たちは、なかなかリアルの体験の場を作るのは得意ではないかもしれません。逆にリアルで情緒的価値を作ってきたブランドは、ストーリーをデジタルで可視化しやすいと感じています。

D2CSUMMIT Makuakeでのプロジェクト一覧
「Makuake」でのプロジェクト一覧

関氏:1つも失敗していないというのはすごいですね。「ばあちゃん食堂の万能まぶし」のようなヒット商品も生まれていますね。

D2CSUMMIT Makuakeで行ったプロジェクトの1つ ばあちゃん食堂の万能まぶし
「Makuake」で行ったプロジェクトの1つ「ばあちゃん食堂の万能まぶし」

ローカルブランドは「小さく産み出して、着実に少しずつ成長する」

村岡氏:大企業やスタートアップとは違う、ローカルブランドならではの戦い方を研究しています。

私たちは、ローカルを「(都会との対比の意味での)田舎」ではなく「そこにしかない価値(を生み出す場所)」と再定義しました。そしてそれは元々SNSと相性が良いはずだったんです。スタートアップの時間軸とは違いますが、自分達のめざす成功はこの方法できっかけを作れます。

関氏:時間軸や資本政策の違いという話がありましたが、ローカルブランドではどのくらいの時間をかけてどれくらいの規模をめざすのでしょうか? 標準的なイメージはありますか?

村岡氏:誤解を招く言い方になるかもしれませんが、目標を持たなくても良いのではないかと思っています。

スタートアップは目標と期限があることが絶対ですが、ローカルブランドはそこと真逆にいます。小さく生み出して着実に少しずつ成長していく、農業のような世界観でビジネスを見ています

たとえば年間2000万円の売り上げというのは、小さい企業にとってはそれなりのヒット商品です。それを20、30と生み出し、総和で戦うという考え方があっても良いのではないでしょうか。

関氏:そういう運営の仕方ができるような、リスクを大きく張らなくても良いビジネスをD2Cモデルで取り組めているということですね。

村岡氏:そうですね。「Makuake」で新商品を売れるようになって、最初の立ち上げもほとんどリスクゼロで戦えるようになりました。「Makuake」は「お金を集めるクラウドファンディング」という考え方ではなく「応援購入」という考え方に変化しています。小さな主体がそこにしかない情緒的な価値を集めて作った新商品を世に問う場として、「応援購入」という考え方はとても相性が良いです。

ローカルプレイヤーのチャレンジを無限に生み出せる

関氏:社会貢献や地方創生という観点で見ると、そういったローカルスターのようなブランドが次々に生まれることで、雇用創出につながっていると思います。雇用創出というのは地方の課題に対して一番大きな成果だと思いますが、他にどのような貢献がありそうでしょうか?

村岡氏チャレンジできる数を無数に増やせることが貢献だと思っています。

D2Cをスタートアップの文脈で捉えてしまうと「市場の競争原理で勝ち残った人こそが起業家」のような風潮があるかもしれない。しかし、小さなチャレンジでもチャレンジそのものが美しいと思います。その背中を押せているのが最大の貢献ではないかと思います。

雇用を産むという観点では、資本が大きい方が当然多くの雇用を生めるのでそこでは敵いません。しかし、成果をスケーラビリティだけに求めず、きちんと0から1を生み出して着実に成長させるということを成果とするならば、そのチャレンジは無限に生み出せます

関氏:スケールすることを目的・目標に置かなくても、D2Cに取り組めますよね。そしてそれを実現するためにローカルには「そこにしかない」という使える資源が色々とあり、うまく活用する方法も提供することで、小さなチャレンジをたくさん生み出すことができているのですね。

D2Cという取り組み自体は、ローカルの中小企業にとって良いものになっていますか?

村岡氏:放っておくと消えてしまうような零細なものづくり企業が生き残っていくための手段としてD2Cはとても有用で必須だと考えています。

いつの間にか父親の代で大手の流通の下請けになっていて、「自分達のオリジナル商品にチャレンジするけれど、どうやって売れば良いかわからない」という企業がほとんどです。

そういう人たちにとって、D2Cという手段・手法を学ぶのは非常に大事なことです。

関氏:企業が生き残るためのツールとして、誰の手にも届くようになったのはD2Cの意義だと言えそうですね。

とはいえ、使いこなすにはまだ少しハードルがあり、そこをコミュニティで支援している「九州アイランド」の取り組みは、ローカルのものづくり企業にとって大変有意義なものになっていますね。本日はお話を聞かせていただきありがとうございました。

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