「顧客のファン化」「ブランディング・認知向上」「商品開発」――2022年D2Cブランドの課題と取り組みとは
大小さまざまなD2Cブランドが増えている今、トップブランドはどのような課題を抱え、その対策に取り組んでいるのでしょうか。2021年を振り返りつつ、2022年のD2Cブランドの課題と取り組みについて調査しました。
D2Cブランドが抱えていた課題とは?
「D2C SUMMIT」では毎年、参加ブランドにアンケートを実施しています。2021年に行った参加者アンケートでは、当時力を入れて取り組んでいた課題トップ3は次のような結果でした。
1位:新規獲得・プロモーション:21%
2位:ブランディング:18%
3位:ユーザーコミュニケーション:16%
(n=69)
他企業が行っている通販事業者へのアンケートなどでもほぼ同様の結果が見られており、D2C、EC事業者の一番の課題は「いかに新規顧客を獲得するか」という点に集中していました。
ユーザーとの密接なコミュニケーションによる関係強化が課題に
ところが、今回の「D2C SUMMIT 2022」へ参加申込したブランドのアンケートでは、順位が大きく入れ替わっています。
1位:ファン化・ロイヤルティ向上:20%
2位:ブランディング・認知:15%
3位:商品開発:11%
4位:チャネル開拓・攻略:11%
5位:新規獲得・プロモーション:9%
6位:組織強化:7%
7位:海外展開:4%
その他:23%
(n=82)
「ファン化・ロイヤルティ向上」がトップに
2021年は3位だった「ユーザーコミュニケーション」。2022年は明確に「ファン」「ロイヤルティ」「ロイヤルユーザー」というキーワードで言及したブランドが最も多く、1位となりました。
具体的には「お得や値引き施策ではない、真の顧客との連続的な関係構築をめざして取り組んでいる」「顧客をより深く理解することで、お客さま1人ひとりにより最適な提案を行うことをめざしている」など、これまで以上に顧客と近く、深く、密接なコミュニケーションをとることで、関係性を強化したいという意図がうかがえました。
施策としては、「オフラインとオンラインを融合したコミュニケーション・体験作り」や、「双方向コミュニケーションとしてLINE、SNS、自社アプリの活用」に取り組むというブランドが多く見られました。
2020年1位の「新規獲得・プロモーション」は下火に
前回1位だった「新規獲得・プロモーション」は5位と大きく順位を落とし、割合も21%から9%へと大幅ダウンしています。
新規獲得コストの増加が課題点となっており、それに対して解決策を模索しているものの、これといった打ち手を見つけられていないブランドが多く見られました。2022年はそれ以外で、前回から順位を上げた項目に各社の施策が移行しているようです。
2位は「ブランディング・認知」で、順位、割合ともに前回からあまり変化がありませんでした。
「単品通販モデル」から「ブランド価値創造」への転換を明言しているブランドがあったことが象徴的です。1位から5位に下落した「新規獲得・プロモーション」に力を入れるのではなく、ブランディングによって顧客を獲得しようとする姿勢が強まってきていると言えます。
時代にマッチする「商品開発」でD2Cビジネスの再構築を進める
3位に「商品開発」がランクインしたことも、デジタル広告頼りの新規獲得マーケティングから脱却する潮流を示しています。
「現行の製品では拡販が難しく、それに代わる商品や販売手法を探索している」という声に代表されるように、「体験」や「感動」を生む商品を新たに開発し、その新規性やユニーク性を持って認知・ブランディングすることで、高騰するプロモーションコストを回避しようという動きが強くなってきているようです。
また、商品開発スピードを早めることを目標に掲げているブランドも見られました。
必ずしも直販にこだわらない、チャネル開拓への意欲
「商品開発」と同率で「チャネル開拓・攻略」が4位にランクインしました。D2Cといえば顧客へ直接製品を届けることがその本質であると考えられていますが、BtoBの取引や小売・リテールへの展開を積極的に取り組むブランドが多く見られました。
顧客の利便性という観点で言えば、必ずしもEC直販だけでなく、オフラインも含めたさまざまなチャネルで購入できるようにカバーすべきという考え方は従来からもありましたが、2022年はその機運が2021年より高まってきているようです。
プロダクトとマーケティングがわかるD2C人材の枯渇
6位にランクインしたのは「組織強化」です。「組織強化」を2020年の主眼に置いたブランド各社に共通するのは「市場にマーケティングとプロダクトが両方わかる(あるいはどちらも興味がある)人材が圧倒的にいない」という課題でした。
「総合格闘技」とたとえられるD2Cビジネスでは、その名の通りプロダクトとマーケティングの両方を見ることができる人材が必要とされています。また、そのような人材の採用・育成は、一定以上の成長を遂げたD2Cブランドの共通課題となっています。
また、あらゆるケイパビリティを内製化する企業と、コア組織を最小化して複数のパートナーとビジネススキームを構築する企業とで、方向性が二極化していることも特色です。
海外展開を積極的にめざす機運
7位には「海外展開」がランクインしました。2021年は海外展開をめざす回答が1つもなかったのが実情でしたが、2022年に入り複数のブランドが海外展開を目標に掲げています。
コロナ禍以前から海外市場への展開をスタートしていたブランドは、2022年に改めて増収・増益に向けて注力する方向性を示しています。
新たに海外市場へのチャレンジを掲げるブランドも増えており、コロナ禍との戦いではありつつも、日本のブランドが海外へ打って出る事例が複数見られる年になりそうです。
明らかに潮流が変わった2021年→2022年
このように、2021年と2022年では明らかに成長D2Cブランドのめざす方向性の潮流が変わったことが見て取れます。
特に、デジタル広告による新規獲得効率を追い求める流れが明らかに減速し、代わりに顧客とのコミュニケーションの充実、体験と感動を提供する新商品開発といった、D2Cの本質に迫る活動に本格的にシフトチェンジが起こっているようです。
さらにはチャネル開拓や海外展開など、より広範囲にブランドを広める活動も増えており、「ブランドが顧客に直接商品を届ける」という流通形態を示しただけの狭義でのD2Cではなく、「ブランドと顧客が直接コミュニケーションをとる」という広義でのD2Cに、その様態が変遷してきていると言えるでしょう。