「巣ごもり消費」で需要高まる食品・飲料、人気YouTuberによる「P2C」の増加――2021年の「D2C」を振り返る
ここ数年、「D2C」というキーワードを聞かない日はないくらい、「D2C」がバズワードとなり浸透してきました。2021年はどのようなトレンドや傾向があったのでしょうか?検索トレンドや注目のジャンルから2021年のD2Cを振り返ります。
一言で「D2C」と言ってもその中身は千差万別。規模で言えば個人レベルで始める小さなネットショップから、ナショナルブランドのダイレクト通販部門までさまざまです。
販売手法も昔ながらの「単品リピート通販」と呼ばれるものから、ブランディング主体のスタートアップ、ECモール活用、オフラインのリテール販売など多種多様です。これらすべてが大きな括りとして「D2C」と呼ばれています。
すべてを一括りにして総括するのは難しいので、違った切り口で振り返ってみます。
「D2C」の検索トレンドは?
下のグラフはGoogleトレンドにおける、「D2C」の直近5年間の検索トレンドです。これを見ると直近5年間で4~5倍近くに伸びてきているなか、2020年夏頃に一度ピークを迎えてから少し落ち込み、2021年は年初から年末にかけてまた上昇している状況です。
2020年はコロナ禍でEC市場が伸びた背景と合わせて、「D2C」が注目された時期でもありました。これによって「D2C」本来の堅調な推移よりもさらに押し上げられたトレンドが発生していたと読み取れるかもしれません。
現在、過度なトレンドは落ち着き、本来の成長曲線に戻ってきているように見えます。
D2C企業の資金調達の状況から分析する注目のジャンル4選
検索の次に、2021年はどんなD2Cがどれくらい資金調達を行ったのか、プレスリリースを集めて振り返ってみました。
売り上げなどを非公開にしている企業が多いため、消費者の評価としての分析は難しいのですが、資金調達はプレスリリースで公開することが多く、投資家が評価した結果として今伸びている市場を捉えることができそうです。
プレスリリース・ニュースリリース配信サービスの「PR TIMES」で2021年に投稿されたD2Cの資金調達に関するプレスリリースを集計しました(2021年12月 にっぽんD2C応援委員会調べ)。
その結果、資金調達が活発なカテゴリに大きな特徴が見られました。調達件数の多い順に並べると
1位 食品・飲料:8件
2位 ライフスタイル:7件
3位 スポーツ・フィットネス、ペット関連:各4件
(※以下、アパレル・ファッション、美容、健康食品など1、2件が続く)
という結果になりました。
1位は「食品・飲料」。2020年以前は単品リピート通販型の健康食品に変わって、新たにパーソナライズなどD2Cらしい特徴を備えたサプリメントが伸びていた状況がありました。しかし、2021年はサプリなどの健康食品ではない一般の食品・飲料ジャンルが伸びたのです。
コロナ禍において、自宅で食事をとる機会が増え、食分野のD2Cは最も伸びているジャンルです。「PostCoffee」などパーソナライズを特徴としたものや、昆虫食や人工肉など食のサスティナビリティを意識したものなどの資金調達が特徴的でした。
2位は「ライフスタイル」。インテリア・雑貨、家具、寝具などのD2Cをこのジャンルにカテゴライズしました。ここでもコロナ禍でおうち時間が増えたこと、今後もこのライフスタイルの変化は一定で継続するであろうことが大きく影響していると言えそうです。
3位は「スポーツ・フィットネス」。ウェアなどのスポーツ用品に加え、プロテインなどボディメイクのための食品もこのジャンルに入れました。こちらもコロナ禍での健康需要を反映した結果と思われ、1~3位はすべてコロナ禍に関連するジャンルになったと言えそうです。
通販老舗から新興D2Cまで「ペット」ジャンルがブームに
そして同率3位に、大注目している「ペット」ジャンルがランクインしました。「D2C SUMMIT 2020」でキーノートに登壇したバイオフィリアは6.5億円の資金調達を行っており、「D2C SUMMIT Tokyo」に登壇したPETOKOTOは2021年に資金調達のリリースを3回出しています。
ペットを飼っていない方は気づきにくいかもしれませんが、今ペット向けD2Cのブームに火がついています。
上記であげた、バイオフィリアの「ココグルメ」、PETOKOTOの「PETOKOTO FOODS(ペトコトフード) 」が大きく売り上げを伸ばしています。
そのほか、「D2C SUMMIT 2020、2022」に登壇したオモヤの「コノコトトモニ」もここ1、2年で大きく売り上げを伸ばし、お笑い芸人の「ぺこぱ」をキャスティングしたCMを展開するなど、活発な動きを見せています。
さらに通販老舗「やずや」からは「プレミアムワン」、新興D2CのKINSからは「KINS WISH」など、老舗の通販企業から新興D2C企業までこぞってそれぞれの強みを生かしたペットフード戦線に参戦してきているのです。
ペットフードD2Cが盛り上がっている背景には、コロナ禍でのライフスタイルの変化もありますが、よりビジネス的な観点で見た時に
- ヒトの食品よりもブランドチェンジが起きにくく、サブスクの継続率が高い
- 薬事の表現規制など、法規制による制約が比較的少ない
などの理由もあるようです。2022年はペットD2Cがさらに伸びそうな要注目ジャンルとなりそうです。
著名人・インフルエンサーによる「P2C」
2021年のD2Cの特徴として忘れてはならないのが、著名人・インフルエンサー個人によるD2Cブランドの立ち上げです。この形態である「Person to Consumer」を略した「P2C」という呼び方も現れました。
この潮流は2020年頃から非常に盛んになっており、人気YouTuberヒカルさんのファッションブランド「ReZARD(リザード)」の成功は有名です。中田敦彦さんのサステナブルアパレルブランド「CARL VON LINNÉ(カール フォン リンネ)」の立ち上げも大きな話題となりました。
これほど有名なYouTuberでなくても、各ジャンルのインフルエンサーによるブランド立ち上げが多く見られた年でした。
近年、プロモーションコストの増大が大きな課題となっているなか、個人の発信力を背景とした「P2C」では新規ユーザー獲得に広告費をほとんど必要としないことが、このビジネスモデルの大きな強みとなっています。
一方、各インフルエンサーは決してD2Cビジネスのプロフェッショナルではなく、製造から配送までの各プロセスをどれだけきちんとしたクオリティで作り上げることができるか、またそれを継続できるかという点は課題になり始めています。
これからの未来を牽引するD2Cは?
2021年のD2C業界をざっくりと振り返ってみました。2022年、2023年、これから先の市場を牽引していくD2Cはどのようなブランドが出てくるのでしょうか?
「D2C SUMMIT」では、未来を牽引するD2Cを発掘・表彰する「D2C Rising Star Award 2022」を開催します。
「D2C Rising Star Award 2022」では、次の5部門で表彰を行う予定です。
地方創生部門
地元のまち・ひと・しごとに根差し、その強みを生かして活躍する「D2C×地方創生」の事業を表彰する部門
スタートアップ部門
新たなことに挑戦し、飛躍的に活躍しているD2C事業をスタートしてから3年以内のスタートアップ企業を表彰する。事業展開はまだ行っていなくても、将来性が期待できる新星D2C事業を表彰するスタートアップ部門
ESG部門
SDGs達成のためESGへの取組を積極的に行い、「ESG×D2C」の新時代ビジネススタイルで新しい価値を創出する企業・事業を表彰する部門
イノベーティブ部門
革新的なものを生み出す意欲や行動にあふれるD2C企業・事業を表彰する部門。イノベーティブな技術、新たなマーケティング手法を取り入れ革新的なアプローチを行うD2C企業・事業を表彰する
グローバル部門
日本国内にとどまらず、グローバルにD2Cビジネスを展開している企業を表彰する部門。製品やサービスをグローバルに向けて提供・発信している企業・事業を表彰する
「D2C Rising Star Award 2022」は、ビジネスカンファレンスとアワードの同時実施による業界発展を目的として開催しているものです。
1回目となる今回は、まさに「Rising Star」となるような進化する新しい事業・新しい企業の誕生の場をプロデュースできないかと考え企画しました。
新しい事業モデルを知り、学ぶことで、通販事業発展へのヒントが得られるのではないでしょうか。驚くような企業との出会いの場となるよう期待しています。(「D2C Rising Star Award 2022」審査委員長 大広九州 代表取締役社長 瞿曇啓亮氏)