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Amazonが物流倉庫に導入した「DeepFleet」とは?+ロボティクス強化に向けた投資の変遷まとめ

Amazonが倉庫内ロボットの移動効率アップのために導入したAIモデルとは。新AIモデルがもたらすさまざまなメリットと、Amazonのロボティクス全般の取り組みに注目します

Digital Commerce 360[転載元]

7月10日 8:00

Amazonは、自社のフルフィルメントセンターで稼働しているロボットの施設内移動を最適化するため、新たなAIモデル「DeepFleet」(ディープフリート)を導入しました。「DeepFleet」によりロボットの移動効率を約10%向上させ、注文処理の迅速化と配送時間の短縮をめざします。

倉庫ロボットの移動効率を上げる「DeepFleet」

「DeepFleet」は、Amazonのフルフィルメント施設内を移動する100万台以上のロボットを効率よく移動・運用させるために開発した生成AI基盤モデルです。

Amazonロボティクス担当副社長のスコット・ドレッサー氏は、「DeepFleet」を交通量の多い都市を走行する自動車を整理する高性能な交通管理システムにたとえて、「ロボットの経路を最適化し、混雑を軽減する」と説明しています。

この「DeepFleet」の導入は、Amazonが2025年6月末に100万台目の倉庫ロボットを日本のフルフィルメントセンターに配備したタイミングと時期を同じくしています。

米国時間で2025年6月30日にAmazonは日本のフルフィルメントセンターに100万代目の倉庫ロボットを導入した(画像はAmazonのコーポレートサイトから追加)
Amazonは米国時間6月30日、日本のフルフィルメントセンターに100万台目の倉庫ロボットを導入した

倉庫内の効率を向上し続け、メリットを拡大し続ける

「DeepFleet」は、Amazonが保有する倉庫および在庫データと、機械学習モデルを構築・実行するためのクラウドプラットフォーム「Amazon SageMaker」(アマゾンセージメーカー)を含む「Amazon Web Services(AWS)」のツールを活用して開発しました。

ドレッサー氏は、「DeepFleet」は単にテクノロジーを追求した生成AI基盤モデルではなく、実際の物流課題解決に焦点を当てたAIの応用であると強調しています。

「DeepFleet」により、倉庫ロボットの移動時間を10%短縮することで、効率性アップだけでなく、配送時間の短縮、運用コストの削減、エネルギー使用量の削減といった具体的なメリットが生まれると説明しています。

「DeepFleet」はフルフィルメントセンター内の効率アップ、配送時間の短縮などに貢献する(画像はAmazonのコーポレートサイトから追加)
「DeepFleet」はフルフィルメントセンター内の効率アップ、配送時間の短縮などに貢献する(画像はAmazonのコーポレートサイトから追加)

「DeepFleet」は継続的に学習し、状況に適応するため、Amazonは倉庫全体の効率が継続的に向上し続けることを期待しています。現在、Amazonが顧客の注文を受注した後の倉庫内フローの約75%でロボットを活用、この割合は「DeepFleet」のような技術の進化によりさらに増加する見込みです。

Amazonのロボティクス強化の変遷

「DeepFleet」の展開は、Amazonが13年以上のロボティクスへの投資に基づいています。

Amazonは2012年、物流センターで商品棚を運搬する自律移動ロボット、それを活用した物流システムを提供するKiva Systemsを7億7500万ドルで買収し、後に「Amazonロボティクス」に名称を変更しました。

当初は棚を人間のもとに運ぶ自動搬送車(AGV)をフルフィルメントセンターに導入していましたが、現在では多様なロボットを運用しています。

運用中のさまざまなロボットとその役割

現在運用しているのは次のようなロボットです。

  • 「Hercules」(ヘラクレス):最大1250ポンド(約567kg)の在庫を持ち上げて移動できます。
  • 「Pegasus」(ペガサス):コンベアベルトを使用して個々の荷物を扱います。
  • 「Proteus」(プロテウス):Amazon初の完全自律型モバイルロボットで、オープンスペースで従業員の周りを移動できます。
  • 「Vulcan」(バルカン):2025年5月に導入された、触覚センサーとAI駆動ツールを使用して狭い場所から商品を格納・取り出すロボット。Amazon初の、物体といつどのように接触したかを認識する「触覚」を持つロボットで、従業員がしゃがんだり、高所に登ったりする必要がある場所での作業に特に役立つとされています。
触覚を持ち、倉庫内のピッキングと積載作業をサポートする「Vulcan」(動画はCNBCのYouTubeアカウントから追加)

ロボット活用が生み出す新たな人材雇用・育成

Amazonのロボティクスへの取り組みは、自動化による雇用喪失の懸念を引き起こしていますが、Amazonはこれらの投資が「新たな仕事の雇用を創出している」と主張しています。

Amazonは2019年以降、70万人以上の従業員に対し、高度なテクノロジーと連携したさまざまなトレーニングプログラムを通じてスキルアップの機会を提供してきました。

たとえば、2024年10月に発表した「次世代」倉庫モデルの一部である米国ルイジアナ州シュリーブポートの新しいロボット対応フルフィルメントセンターでは、「従来の施設と比較して、品質管理、保守、エンジニアリングの役割で30%多くの従業員が必要になる」とドレッサー氏は説明しています。

米国ルイジアナ州の倉庫。300万平方フィート(フットボール場55個分)を超える広さとなっており、フル稼働後は2500人の従業員を雇用する予定としている(Amazonのコーポレートサイトから追加)
米国ルイジアナ州の倉庫。300万平方フィート(フットボール場55個分)を超える広さとなっており、フル稼働後は2500人の従業員を雇用する予定としている(Amazonのコーポレートサイトから追加)

AIを搭載し、通常施設の10倍にあたる数のロボットを備えたこのセンターは、処理時間を最大25%短縮するように設計しています。

米国ルイジアナ州の倉庫では通常の10倍のロボットを搭載し、従業員数も30%増となっている(画像はAmazonのコーポレートサイトから追加)
米国ルイジアナ州の倉庫では通常の10倍のロボットを搭載し、従業員数も30%増となっている(画像はAmazonのコーポレートサイトから追加)

ドレッサー氏によると、Amazonは米国でロボットを製造し、地元のサプライヤーと連携することで、高い品質の基準を維持しつつ、設計者、製造業者、現場の従業員間のフィードバックを循環させているとのことです。

Amazonは今後、既存の施設にもこれらの次世代ロボティクスシステムを展開し、ネットワークを近代化することで、効率を大規模に向上させる計画です。

この記事は今西由加さんが翻訳。世界最大級のEC専門メディア『Digital Commerce 360』(旧『Internet RETAILER』)の記事をネットショップ担当者フォーラムが、天井秀和さん白川久美さん中島郁さんの協力を得て、日本向けに編集したものです。

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