Digital Commerce 360[転載元] 8:00

米国の大手ブライダル企業が、ユーザーの意思決定をAIがサポートする「エージェントコマース」をウェディングプランナー機能に導入、ブライダル業界に新たなテクノロジーの波を起こしています。これは、従来のブライダル小売業の枠を超えた事業多角化の取り組みです。ウェディング業界をどのように変革し、新たな収益源の確立をもたらすのか。その取り組みを掘り下げます。

「エージェントコマース」導入は、固定費削減、デジタルに重点を置いたビジネスモデルへの転換

米国の大手ブライダル企業David's Bridal(デイビッドブライダル、米国のEC専門誌『Digital Commerce 360』によるとEC売上高は1億6722万ドルに達すると予測)は、ウェディングプランナー機能「Pearl Planner(パールプランナー)」というウェディングプランナー機能に「エージェントコマース」を導入しています。

これは、結婚式を予定しているカップルと、そのサポートをする事業者向けのウェディングプランニングプラットフォームにAI(人工知能)の新たな活用法を取り入れたもので、従来のブライダル小売業の枠を超えて、事業を多角化しようとするDavid's Bridalの新たな取り組みの一環です。

David's BridalのEC売上高の変遷(単位:100万ドル。縦軸は成長率。グラフは『Digital Commerce 360』から追加)
David's BridalのEC売上高の変遷(単位:100万ドル。縦軸は成長率。グラフは『Digital Commerce 360』から追加)

デジタル重点のビジネスモデルに転換

David's Bridalの取り組みは、掲げている戦略「伝統からテクノロジーへ。結婚式の変革」に合致するものです。700億ドル規模の米国ウェディング業界で自社のポジションを再構築するために、固定費削減の事業モデル、デジタルに重点を置いたモデルへの転換を進める最新の取り組みと言えます。

David's Bridalは、ECプラットフォーム「Shopify」を活用した新機能の活用といった取り組みと並行して、事業の中核となるドレス事業以外の新たな収益源を構築するため、独自のメディア事業「Pearl Media Network」などの分野に投資しています(2024年7月に米国のテレビ局Love Stories TV(現Love Stories by David's)の買収、ウェディングメディア「Pearl Media Network」の立ち上げを発表しました)。

AIウェディングプランナー機能の仕組み

「Pearl Planner」のAIウェディングプランナー機能は現在、一部の利用者に対し、β版で提供しています。AIエージェントを組み込んだ「Pearl Planner」は、バーチャル上でウェディングプランナーのように稼働します。

David's Bridalの発表によると、「Pearl Planner」は、カップルのウェディングの計画が変更されると、それに合わせてプランニングを自動的に更新“プランニングタイムライン”を生成します。その他の機能としては、仮想チャットボット、AIによるレコメンデーション、カップルの利用プランごとに付与する特典などがあります。

「Pearl Planner」の活用イメージ(David's Bridalの「Pearl Planner」公式サイトから追加)
「Pearl Planner」の活用イメージ(David's Bridalの「Pearl Planner」公式サイトから追加)

さらに、リアルタイムのプランニング更新に基づいて顧客(カップル)と業者をマッチングさせることで、顧客と業者の両者にとって役立つサービスとなっています。

CEOのケリー・クック氏は「Pearl Planner」のβ版を報じる発表で、次のように説明しています。

「Pearl Planner」は、ウェディング業界でこれまでにはなかった革新的なサービスです。利用するユーザーの思い通りに動き、完全無料で、結婚式のあらゆる詳細をガイドしてくれる、深くパーソナライズされたAI搭載のパートナーです。「Pearl Planner」は単にウェディングの計画を手伝うだけでなく、ユーザーの代わりに「考える」24時間年中無休のウェディングコンシェルジュなのです。

クック氏は、『Digital Commerce 360』が実施した6月のインタビューで、AIウェディングプランナーについて「ゴールに向けて対処が必要なタスクを自動的に更新してくれます。たとえば、『結婚式を挙げる場所をアイスランドからオランダのアルバ島に移すので、必要な調整をすべて行ってほしい』と言うと、すべてのタスクが変更され始めます」と説明しました。

AIがもたらす「ハイパーパーソナル体験」

「Pearl Planner」は、David's Bridalが従前の小売事業者から変革し、さまざまなサービスを提供するプラットフォーム企業へと大きく変わろうとする取り組みのなかで、重要なサービスの1つです。

オンライン上のチェックリストやスプレッドシートとは異なり、David's Bridalは「Pearl Planner」を、「ユーザーに代わって行動するように設計されたAI起点のツール」と説明しています。ユーザーの計画が変更されると、「Pearl Planner」は結婚式までのタイムライン、座席表、タスクリストを計画の変更に合わせて自動で調整します。

「Pearl Planner」を利用して結婚式を計画するカップルは、プラットフォーム上のAIアシスタントとして機能する「Pearl Planner」とチャットすることで、結婚式の重要事項の管理、挙式スタイル、予算、場所に基づいて、業者、ドレス、当日のコンテンツに関してパーソナライズされたレコメンデーションを受け取ることができるのです。

この技術はリアルタイムデータに基づいており、75年間のウェディングプランニングの歴史から得られた独自のインサイトを活用して構築されています。

David's Bridalは、ユーザーの行動、新たなトレンド、変化していくユーザーの好みを学習しながら進化する「Pearl Planner」によってもたらされる体験を「ハイパーパーソナライズ体験」と表現しています。

「Pearl Planner」はβ版として、結婚式のスタイルに関する調整、内容が自動的に更新・調整されるタイムライン、David's Bridalの会員向けプログラムとの統合などをテスト。利用するカップルは、結婚式に向けた計画のマイルストーンを完了していくと特典を獲得できる仕組みです。

2025年夏、秋に本格提供を開始

David's Bridalによると、「Pearl Planner」は業者向けには、ファーストパーティデータに基づいたAIによる見込み客の獲得、プロフィールの最適化ツール、市場の需要とユーザー行動に関するリアルタイムのインサイトを提供します。

2025年の晩夏に「Pearl Planner」を一般に提供する計画です。ギフト事業者のMyRegistry、ドメイン登録事業者のDynadot、フォトブック制作サービスを手がけるShutterfly、Google、地元の結婚式業者などのパートナー企業から、追加の機能や連携が実施される予定としています。業者向けのツールは「Pearl Planner Pro」として、2025年秋に提供が始まる予定です。

David's Bridalによるビジネスモデル再構築の取り組み

「Pearl Planner」開発は、ウェディング分野において、テクノロジーを重視する企業として事業を再構築することを目的とした取り組みの一環です。

David's Bridalは2023年に破産申請(2019年の破産申請に続いて2度目)、米国の投資会社CION Investment Corp.に売却されました。米国、カナダ、メキシコで190店舗以上を運営し続けていますが、企業の資産を増やすというよりは、デジタルによる拡張性にフォーカスしたモデルへの転換を進めています。

2024年12月には、デジタルウェディングメディアプラットフォームを運営するLove Stories TVを買収し、自社のメディアとした現在は「Love Stories by David's」に名称を変更しました。

David's Bridalが現在運営する「Love Stories by David's」のイメージ(「Love Stories 」のYouTube動画から追加)

リテールメディアで広告枠を販売

David's Bridalは、リテールメディア「Pearl Media Network」も同時に開始。このリテールメディアネットワークは、David's Bridalの消費者層にリーチしたい業者やブランドに広告枠を販売しています。米国のほとんどの花嫁(約90%)が、結婚式の準備期間中に一度はDavid's Bridalが提供するサービスや配信する情報に触れているそうです。

発表時、このリテールメディアネットワークには、ユーザーの検索結果に埋め込む広告枠を含んでいました。この埋め込み型広告は今後、ソーシャルメディア、オンデマンド配信、店舗チャネル全体への拡大が計画されています。ブライダル市場でこの規模のファーストパーティデータにアクセスできるのはDavid's Bridalだけです。

「Pearl by David's」を通じてテクノロジー分野を強化

David's Bridalは2025年1月、ベンダーとサプライヤーをつなぐプランニングプラットフォーム「Pearl by David's」を発表。カップル向け、業者向けのAIエージェント「Pearl Planner」を追加していくことで、その機能をさらに強化していきます。

「Pearl by David's」は、結婚するカップルと業者、両方のニーズに応える仕組みになっているため、何百万人もの結婚式のプロフェッショナルの方々に対しても、さらに活躍できるよう支援できます。「Pearl Planner」は、David's Bridalが掲げる戦略『伝統からテクノロジーへ』の重要なファクターであり、従前の小売事業者からテクノロジーを活用した多角的な企業への転換を強めています。(クック氏)

この記事は今西由加さんが翻訳。世界最大級のEC専門メディア『Digital Commerce 360』(旧『Internet RETAILER』)の記事をネットショップ担当者フォーラムが、天井秀和さん白川久美さん中島郁さんの協力を得て、日本向けに編集したものです。

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