
消費者の9割「AIによって購入体験が向上した」。AIエージェントがEC事業者+消費者に与える影響とは?

昨今、EC事業者は自社ブランドのニーズに合わせてAIエージェントの運用を始めており、自社ECのバックエンドで活用するケースもあります。この流れに対応し、消費者もAIエージェントを利用できるサブスクリプションサービスを使い始めています。
ECプラットフォーマーが乗り出したAI活用コマース
Amazon、Shopifyなど大手企業が運用
機械学習、AI搭載検索、生成AIなど、既存のAIテクノロジーがあふれているなか、GoogleやMetaなどAI開発を進める企業は2025年、小売事業者にレコメンデーションエンジンを売り込むだけではなく、AIエージェントとエージェントコマースソリューションもECビジネスの支援サービスとして提供し始めています。
AIエージェントは、EC利用者による活用を見込む最先端のサービスの1つ。AmazonとOpenAIはすでに、消費者がAIエージェントを使えるサブスクリプションサービスの利用を促進しようとしています。
そのほか、AIを活用したエージェントツールは、スタートアップ企業、Shopify、Adobeが提供するECサイト構築プラットフォーム「Magento(Adobe Commerce)」などで使われ始めているのです。
自律的な意思決定をするAIエージェントが登場
Salesforceは、米国サンフランシスコで2024年に実施したカンファレンスイベント「Dreamforce」で、AIエージェントを活用して業務を支援する「Agentforce」機能を主要なトピックとして取り上げました。Salesforceは、顧客パーソナライゼーションを改善するために「Agentforce」を活用している高級百貨店Saks Fifth Avenueの事例を紹介しています。
OpenAIは、2025年1月にAIエージェント「Operator」を発表。eBay、ハンドメイドECのEtsy、食料品の宅配サービスを手がけるInstacartを初期の導入事業者として紹介、それぞれの事業者のエンドユーザーがAIエージェントをどのように使用できるかを詳細に説明しました。
SalesforceやOpenAIがめざしている「エージェントコマース」は、何を狙いとするものでしょうか?
消費者やEC担当者が行いたいフローをサポート
エージェントコマースとは、AIを活用し、ECの購買体験を向上させる仕組みを意味します。AIエージェントは大規模言語モデル(LLM)上に構築されたソフトウェアのレイヤーで、テキストベースのチャットボット型のインターフェースを通じた人間との対話だけでなく、自律的に意思決定を行いアクションを実行するように設計されています。
ECにおけるエージェントコマースは、消費者が知見を得て、商品を見つけ、購入する際にサポートすることを意味する場合があります。他にも、ECを運用する担当者が、ECサイトのバックオフィスで行う作業を、AIがサポートする場面もあります。
AI活用がエンゲージメントアップにつながる
利用者の9割が購入体験の向上を実感
消費者はすでに、AIチャットボットの利用に慣れ始めています。Salesforceは、2024年のホリデーショッピングシーズン中にAIが小売事業者の売上アップに貢献したことを確認。また、Adobeが2025年3月にアクセス解析ツール「Adobe Analytics」を通じて発表した調査結果では、消費者がAIを使用することがエンゲージメント率の向上と関連していることがわかりました。
Adobe Digital Insightsのリードアナリストであるヴィヴェック・パンディア氏はこう説明します。
ECの利用者は、自分のニーズに合わせてパーソナライズされた情報をすぐに受け取ることができるため、AI搭載のチャットボットを使うことに利便性を感じています。Adobeの調査では、買い物にAIを使用した人のうち、92%が「購入体験が向上した」と答え、87%が「より高額、または煩雑な買い物をするときにAIを使用する可能性が高い」と答えました。(パンディア氏)
多くの事業者がAI運用を推進
EC事業者はこうした消費者の変化に合わせてAIに投資しています。米国のEC専門誌『Digital Commerce 360』は2025年2月、EC事業者を対象として2025年のECへのテクノロジー導入計画を調査したところ、AIの導入が最優先事項でした。『Digital Commerce 360』が公表する予定の「ECプラットフォームレポート2025年版」の結果では、調査対象者のうちAIに投資する計画がない事業者の割合はわずか11.11%でした。

AdobeもAI市場に参入
Adobeは2025年3月に自社の調査結果を発表した直後に、AIを使った新しいサービスの提供を始めました。これはAdobeがAIに大きなビジネスチャンスを見出しているからです。「Adobe Experience Platform Agent Orchestrator」と名付けられたこのサービスは、導入企業がAdobeと外部のAIエージェントを構築、管理、連携できるように設計されています。

パンディア氏はこのサービスを「Adobeの調査結果が示すチャットボットの普及を後押しするためのもの」だと説明しています。
AIエージェントが登場したことで、事業者が顧客との関係を築く方法が大きく変わっていきます。特に、複雑な作業を請け負い、顧客1人ひとりに合わせた提案ができるAIエージェントの登場は、顧客との関係構築における変化を加速させるでしょう。(パンディア氏)
検索、予約、注文まで請け負うエージェントコマース
小売事業者も、AIを使った新しい販売方法を試し始めています。たとえば、OpenAIが1月に発表した「Operator」は、AIがユーザーの指示に従って自発的にインターネットを閲覧するため、ユーザーの商品の検索や購入、予約などをAIが担います。食料品の注文やプレゼント選び、チケットの予約などをAIに依頼することも可能です。
「Operator」の機能は現在、OpenAIが提供する月額200ドルの有料会員限定の「ChatGPT Pro」で提供されていますが、OpenAIは「Operator」の改良を重ねながら利用対象者を広げていく計画です。
OpenAIのサム・アルトマン最高経営責任者は「Operator」について、デモンストレーションするなかで次のように説明しています。
「Operator」はまだ改良するべき点がたくさんありますが、多くの人に使ってもらいたいと考えています。また、OpenAIは今後、数週間、数か月の間に、さらに多くのAIエージェントを発表する予定です。(アルトマン氏)
プライム会員は追加料金なし。Amazonの「Alexa+」に注目集まる
エージェントコマースで最も注目されているのはOpenAIの「Operator」よりも、Amazonの「Alexa+」かもしれません。

「Alexa+」は月額19.99ドルの有料サービスですが、Amazonのプライム会員は追加料金なしで使えます。プライム会員は「Alexa+」を通して、Amazon、米国のオーガニックスーパーWhole Foods、イベントチケット販売事業者のTicketmasterなどで、代わりに買い物などをしてもらうことができます。
今後は、AIを活用したこうしたサービスが、価格に見合った価値を提供できるかが注目されます。