
ナイキの低迷は過度なDtoC推進が原因? 経営立て直しのNIKE、EC売上が好調なファナティクスで明暗が分かれている理由とは

NIKEのEC売上高は2024年、Fanaticsを上回りましたが、成長の勢いは拮抗(きっこう)しており、2025年は重要な年となりそうです。アパレルカテゴリーの1位は現在NIKEですが、Fanaticsが今後は追い抜かす可能性があります。
FanaticsのECは成長、NIKEは低迷
NIKEはレイオフやCEO交代の事態に
NIKEのEC売上高は2024年に低迷、このことがレイオフ(従業員解雇)やCEOの交代につながりました。一方、競合であるスポーツ用品小売事業者のFanaticsはここ数年、ECの成長を続けています。

NIKEは米国のEC専門誌『Digital Commerce 360』が発行する「北米EC事業 トップ2000社」データベースにおいて、アパレル&アクセサリーカテゴリーで1位。EC小売事業者全体では13位にランクインし、Fanaticsは15位です(2024年末時点)。
NIKEのEC規模に迫るFanatics
しかし、NIKEがEC低迷による軌道修正を進めるなか、Fanaticsはアパレル&アクセサリーカテゴリーの1位NIKEとの差を縮めています。このことは、『Digital Commerce 360』が2025年版の米国のECを注視するなかで、現状、最も興味深い展開の1つです。
マイナス成長に転じたNIKE
2024年9月に、エリオット・ヒル氏がNIKEの新たなCEOに就任しました。

NIKEは2020年、2021年、2022年にEC売上高の伸長率2ケタ成長を達成しましたが、その後2年間、マイナス成長に転じてしまいました。要因の1つは、既存の小売パートナーとの関係性よりも、過度にDtoCに突き進んだことです。この判断を下したNIKE自身の責任が大きいと言えるでしょう。
『Digital Commerce 360』は、NIKEのEC売上高は2025年に81億5000万ドルになると予測しています。これは2024年から14.2%減少しますが、2024年にNIKEが経験した前年比22.2%の減少ほど深刻なダメージではありません。

ヒル氏はNIKEの経営を立て直しについて、ECサイトやスニーカー専用アプリ「SNKRS(スニーカーズ)」といったデジタルチャネルの改善だけではなく、商品の開発やラインアップの見直しといった観点でもイノベーションによりブランドを再活性化し、ビジネスを改善する必要性も出てくるでしょう。
なお、NIKEが北米担当バイスプレジデント兼ゼネラルマネージャーに任命したトム・べディー氏が、ヒル氏のサポートをする予定です。
Fanaticsの著しいEC成長、今後はNIKEを追い抜く可能性も
一方のFanaticsのECは成長路線を突き進んでいます。『Digital Commerce 360』の推定では、FanaticsのEC売上高は2024年に前年比28.9%増の84億7000万ドルまで増加。成長率は2023年の前年比46%増に続き高い伸び率を記録しました。

注目すべき点は、Fanaticsは従前、EC売上高でNIKEに長らく遅れをとっていたということです。NIKEのEC売上高は2024年に合計95億ドルでしたが、『Digital Commerce 360』の分析によると、2025年にはEC売上高でFanaticsがNIKEを追い抜く可能性があります。
Fanaticsは、スポーツアパレルとコレクターズアイテムの両軸で、2020年代にさまざまな手段でECの成長を遂げてきました。
まず、スポーツのリーグやファン層全体にリーチを拡大する契約を締結。これらには、プロの選手、チーム、リーグレベルの契約に加えて、スポーツウェアを展開するカナダの企業Lululemon、NIKEなどのアパレルブランドとの提携が含まれています。
さらに、2022年にはスポーツアパレルブランドを運営するMitchell & Nessを買収。2023年には、卸売業者のFexproを買収しました。また、「Fanatics Liveプラットフォーム」の運営を通じて、ライブコマースにも進出しています。
Fanaticsが2025年にアパレル&アクセサリーのEC売上高1位の座をNIKEから奪うことが確実であるとは言い切れません。しかし、NIKEがEC売上高をプラスの成長に回復できない場合、Fanaticsが1位の座を手に入れることは、十分にあり得ることでしょう。