楽天グループが1月30日に実施した「楽天市場」出店店舗向けの「新春カンファレンス」に三木谷浩史会長兼社長が登壇し、今後の成長戦略の柱として「AI戦略」と「楽天モバイルの拡大」を掲げた。楽天が保有する膨大なデータを統合し、ショッピングに最適化した独自AIを展開することで、ユーザー体験の刷新と店舗の生産性向上を同時に進める考えを示した。
「データは金鉱」。AIの原資は統合データ
三木谷氏はAIについて、「人間を代替するものではなく、やりたいことを補完し、時に代替してくれる存在」と定義。その性能を左右するのは「データ」だと強調した。
楽天の強みとして、EC、金融、トラベルなどのエコシステムに加え、モバイル回線を通じてオンライン・オフライン双方の行動データを把握できる点をあげた。
月間約4500万人のユニークユーザー、1000万回線を超えるモバイル契約、25年分のサービスデータを「金鉱(ゴールドマイン)」と表現。これらを活用し、サービスの高度化を進める方針を示した。
「楽天独自AI」、コストと専門性を重視
AI活用が広がるなか、楽天は「ショッピングに特化した独自AI」の開発に注力している。三木谷氏は、外部AIへの全面依存はコスト面で採算が合わず、店舗や消費者への負担増につながる可能性がある点を指摘。自社開発によりコストを抑える狙いがあるという。
また、汎用AIは汎用的な知識に優れる一方で、「過去の購買履歴から次に必要な商品を推測する」といった購買文脈の理解には専門的なチューニングが必要だと説明。自社開発AIによってEC特有の最適化を進め、「楽天市場を世界で最もAIを使うECプラットフォームへ進化させる」と述べた。
ユーザー体験を変えるAI機能、「会話」「意味検索」「発見」
講演では、すでに導入・展開している主なAI機能として、次の3点を紹介した。
- AIコンシェルジュ:会話型で商品探索を支援。購入決定までの時間を43%短縮し、平均購入単価は約40%向上したという。
- セマンティック検索(意味検索):キーワード一致に頼らず、文脈や曖昧なニーズを踏まえて商品を提案・絞り込み。2025年度の流通総額への貢献は450億円あったという。
- 「発見(ディスカバリー)」タブ:TikTokのように商品を次々と表示するインターフェースを採用。「無限にウィンドウショッピングできる体験」を目指す。
店舗向け「RMS AIアシスタント」で業務効率化
店舗運営の効率化では「RMS AIアシスタント」を紹介し、「積極的に使い倒してほしい」と呼びかけた。事例として、問い合わせ対応時間を約70%削減した店舗について紹介した。
また、商品画像作成時間を91.1%削減した店舗も紹介。今後は画像から動画への自動生成も進める方針を示した。
楽天モバイル拡大が流通を押し上げへ
モバイル事業について、契約数1000万回線突破を報告。若年層の利用拡大にも寄与しており、20代以下の16%、30代の18%が楽天モバイルを利用しているという。
モバイル利用者は楽天市場での購入金額が約50%増加する傾向があり、2000万人が加入すれば、流通総額は約9兆円まで拡大すると予測した。
さらに、月間5000万回以上のトラフィックを持つ「Rakuten Link」をスーパーアプリとして強化。店舗の公式アカウント活用による集客や、直接購入・配送通知などを可能にし、メールに代わるマーケティング基盤に育てる構想を示した。
人手不足対策に「モバイル福利厚生」
地方企業や飲食店の人手不足対策として、楽天モバイルを福利厚生として導入する提案も行った。飲食チェーン「世界の山ちゃん」の事例では、従業員に通信端末を会社負担で提供した結果、離職率が23.5%から6.7%に低下したという。通信費負担の軽減による可処分所得の増加が効果を生んだと説明した。
また、楽天市場出店店舗の澤井珈琲の事例では、商品へのチラシ同梱などにより、1年間で769回線を獲得。該当ユーザーの年間購入頻度が23%向上したとしている。
AIの誤情報、意思決定軸についても言及
質疑応答では、AIの誤情報(ハルシネーション)と責任の所在について質問が出た。三木谷氏は「人間もAIもミスをする。重要な判断は人間がチェックすべき」としながらも、AIは学習によって精度と安全性が高まるとの認識を示した。意思決定の軸については「社会の方向性に合った価値創造ができるか」を重視すると説明。店舗との共創については、AI活用による業務効率化とKPI管理を通じ、「筋肉質な体質」を共に構築していく重要性を訴えた。
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