「楽天市場」出店店舗のなかで、AIを活用した店舗運営の効率化、生産性向上を支援する機能「RMS AIアシスタント」の活用が進んでいる。楽天グループによると、約1万7000店舗が日常的に活用しているという。また、活用している6000店舗を対象にしたアンケートでは、約半数が「業務効率の改善を実感した」と回答している。実際に「RMS AIアシスタント」を活用して店舗運営を効率化した、「名前詩(なまえうた)」を販売する「ゆうひ堂」の光山浩司氏(ゆうひ堂 代表取締役兼作詩家)に話を聞いた。
ギフトニーズが高い「名前詩」とは?
「ゆうひ堂」は2010年に創業し、同時に「楽天市場」へ出店した。現在は「楽天市場」以外に「Yahoo!ショッピング」と「ギフトモール」、自社ECも展開している。
「ゆうひ堂」が扱っている商品「名前詩」とは、受け取り手の名前の各文字を頭文字にして、あいうえお作文のように詩にするというもの。詩の内容は受け取り手にまつわるメッセージや贈り主の思いを反映しているという特長があり、ギフトとして高い需要があるという。「名前詩」の作詩は、代表である光山氏が手がけている。

長寿のお祝いギフトなどに引き合い
ーーECサイトで「名前詩」の販売を始めたきっかけを教えてください。
光山浩司社長(以下、光山氏):前職で別の仕事をしているなかで「名前詩」と出会い、趣味で「名前詩」の制作を始めました。友人などにプレゼントしていたところ「『名前詩』を商売にできるのでは」との助言を受け、副業で「楽天市場」に出店し販売を始めました。軌道に乗ったことで、本格的に展開することにしました。「名前詩」は知らない人が多く、商品の知名度がほとんどないことが特長です。知名度がないことは悩みでもありますが、その分伸びしろがあると思っています。
ーー「名前詩」はどのような場面での利用が多いですか。
光山氏:ギフトニーズが高く、還暦・古希・喜寿といった長寿のお祝いとして購入いただくことが多いです。なかでも還暦祝いが一番多いですね。それ以外には「金婚式」「ダイヤモンド婚式」など結婚記念日のお祝いニーズもあります。
購入年齢層は30~40代のお客さまが多く、ご両親が節目のお祝いを迎える際に利用いただくケースが多いです。男女比では、女性の方が多いですね。
当店は「贈られた人に必ず感動してもらえる」という自信があり、高評価レビューもたくさんいただいています。
梱包にも力を入れており、ラッピング検定有資格者が額装や梱包を担当しています。安価な商材ではないため、創業時から「百貨店で購入したモノと負けないくらいの梱包や顧客対応を心がけたい」と考えて運営しています。

ーー集客面の工夫を教えてください。
光山氏:SEOや広告を中心に集客しています。「還暦祝い」「還暦祝い 女性」「金婚式」といったお祝い関連のワードが集客ワードで、流入としても多いです。「名前詩」という商材自体の認知度が低いため、「還暦祝いで何を送っているか」を調べているお客さまに対して、「楽天市場」の検索連動型広告「RPP広告」を活用し、「楽天市場」で「還暦」と検索した際、当店の商品が目に触れるように訴求しています。

画像やコンテンツ作成に「RMS AIアシスタント」を活用
2~3週間かかっていた画像作成が5分に短縮
ーー店舗運営において、AI活用を進めているそうですね。
光山氏:担当のECCなどから「楽天がAIを活用し始めている」と聞いて、早い段階からAIには触れてみたいと思っていました。出店店舗向け機能は、最初に「EC相談AI」がリリースされて、「ChatGPT」などの外部ツールよりも「RMS(Rakuten Merchant Server、「楽天市場」の店舗運営システム)」内で直接使える方がより楽天に特化した回答を得られるのではないかと思い、そちらを優先して活用していました。
ーー具体的な活用方法を教えてください。
光山氏:AIを活用しているなかで、画像作成の面で生かせないかと考えました。「ゆうひ堂」の商品は、額縁の撮影が難しく、さまざまなカメラマンに撮影してもらっても上手くいかないこともありました。ECでは画像が命ですが、実際に撮影してもらうと時間もコストもかかります。解決策を模索するなかで、「画像作成で『AIアシスタント』を活用できるのではないか」と考え、活用し始めました。
楽天のAIは日々進化しており、今までは商品画像の背景でも「キッチン風」など限られた候補からしか選べませんでしたが、最近では「白っぽい壁」など細かい設定ができ、期待通りの画像を作れるようになり、活用する機会が増えました。
以前は「クオリティを求めるなら人が撮影した方が良い」「AIは質より量だ」と思い、コスト面でしかメリットはないと思っていました。しかし、AIの質が向上してきているので、最近は積極的に活用するようになっています。
現在は売れ筋商品の第1画像以外は、AIを活用して社内で撮影している画像の背景の加工などを行っています。
ーーAIを活用することで、どのような成果が表れていますか。
光山氏:コストと時間の削減につながっています。カメラマンとの打ち合わせや写真の加工の時間、商品手配の時間がこれまで2~3週間かかっていたものが、5分くらいでできるようになりました。

「コンテンツページ」の約9割をAIが生成
ーーその他、AIを活用している場面はありますか。
光山氏:「楽天市場」の機能である「コンテンツページ」のコンテンツ作成に活用しています。「商品説明文作成支援AI」を活用して作成しているのですが、最近では8~9割くらいの記事を、AIを活用して作成しています。「AIだから人より質の良いコンテンツが作れるようになった」というわけではありませんが、AIを活用してコンテンツなどを量産できるようになったので、お客さまと接する“入り口”を増やすことに役立っており、新規顧客獲得につながっています。
「名前詩」の制作にもAIを活用。ユーザーがニーズに合わせて選べるように
光山氏:実は、2025年7月から「名前詩」自体の制作にもAIを使い始めており、「ChatGPT」と「Gemini」を活用しています。
2025年4月の段階でAIを活用して「名前詩」を作詩している店舗もあり、AIの力を借りていくか悩んでいました。自分自身を「作家・光山」として生産者を明確にすることをブランディングの一環にしており、「創作を楽しんでいる」という姿勢を示していたので、「AIを使うことは倫理的にどうなのだろうか」と思っていたのです。
また、お客さまから「AIを使って書いていませんか?」といった問い合わせも寄せられていたため、「『ゆうひ堂』はAIを使いません」「これからも人の手で制作します」とコンテンツページに掲載していました。
しかし、2025年7月ごろには世間一般のAIへの認識が広まり、自分で使う人たちも増えてきました。こうした状況もあり、4月の段階ではAIで「名前詩」を制作することへの抵抗感がありましたが、「時代について行けないのではないか」と思うようになったのです。
「私の創作はAIに負けていない」という考えも良いと思います。けれども、「AIが良いか」「AIのほうが勝っているのか」を決めるのはお客さまです。そこで、2025年7月から試験的に、人による創作かAIによる創作かを選べる商品を作りました。

ーーユーザーの反応などはいかがでしたか。
光山氏:既存の商品にAIという選択肢を増やして、価格は4000円くらい差を付け、人の手で創作しているものは1万2000円、AIが作った作品を8000円で販売しています。最初は「AIで作ったモノを販売しているのか。止めよう」といった反応があるかと思っていましたが、結果的に商品自体の転換率が上がり、受注数も増加しました。
AIを選ぶ人も、価格が高くても人の手で作られたものを選ぶ人がいることがわかったのです。このことから「このまま進めても良い」と判断し、2025年9月から商品全体の30%ほどはAIか人の手による創作かを選べるようにしています。
「ゆうひ堂」の強みは、1つ目は「詩を考えることができること」、2つ目は「額縁をきちんと額装して梱包・発送ができること」。そして3つ目は「欲しい人の手元に翌日届けられること」です。2つ目と3つ目はAIにできないことなので、この部分を訴求していく商品があっても良いと思っています。
作詩にAIを活用することで、「受注数が増える」「誰でも制作が行える」「私がいなくても会社を回せるようになる」というメリットがあります。AIによる創作の受注数が増えすぎてしまうと梱包のキャパを超えてしまうので、そういうときは人の手による創作だけ受け付ける。逆に私が楽天のイベントや用事などで手が割けないときは、AIだけの創作を受け付けるようにするなど、調整できる点もメリットだと思っています。
義母の還暦祝いとしてAIを活用して作成した「名前詩」を購入したお客さまからの購入後のレビューで、「不安はあったものの、やり取りもスムーズで希望の文字情報なども反映されており満足しています。贈り物として選んで良かったです」という声も寄せられています。
「NATIONS」を活用し、AIについて情報交換
ーーAI活用で課題に感じる部分はありますか。
光山氏:自分が想定したように動いてくれない時ですね。どのようなプロンプトにしたら良いか悩むときもありますが、パターンがあるのでノウハウを蓄積していっています。
それから、AIは日々進化しているので、ついていくことが大変です。楽天のAIもどんどん進化していくという話があるので、現在は「ChatGPT」「Gemini」「canva」を使っていますが、可能であれば最終的に楽天内のAI1本で運営できるようになることを期待しています。
ーーAI活用にあたって、コミュニティでの情報交換も積極的に行っていると伺っています。
光山氏:「NATIONS(楽天が行っている勉強会)」でAIに関するグループを作り、情報交換を積極的に行っています。「どのような画像を作っているか」「こんなプロンプトがある」「どんなAIの使い方をしているか」などをやりとりしていて、チャット内でわからないところを教え合ったりもしています。
「NATIONS」が始まるまではECCに聞くしかありませんでしたが、ECCも忙しくてなかなか返信が来なくて困ってしまうこともありました。なので「NATIONS」で気軽に質問したり教え合ったりできる環境が構築できたことはありがたいです。
「NATIONS」以外にも、「楽天市場」に出店し「名前詩」を扱っている店舗でグループを作り、情報交換をしています。「名前詩」は業界がとても狭く、「楽天市場」内でも競合は20店舗ほどの小さな市場です。そのため競合同士が手を取り合って、お酒やお花といった間接競合に対抗して、ギフト需要を少しずつ獲得していきたいと思っていますし、切磋琢磨しながらギフト市場全体を伸ばしていきたいですね。
店舗運営のポイントは「顧客対応」
ーー「楽天市場」での店舗運営で意識していること、今後の展望を教えてください。
光山氏:「楽天市場」の店舗に限らず、顧客対応がとても大切だと思っています。たとえば、レビューで低評価を付けられると冷静でいられない担当者もいると思います。そういう時に「どのような返信をしたら良いのか」などをAIの力を借りたり、社内で相談したりして助け合う体制を作ることが顧客満足度向上や、売り上げにつながっていくのではないかと思います。
私自身、この仕事が好きで「名前詩」の制作を楽しく続けています。これまで15年以上行っていますが、この先も続けていけるよう事業に取り組んでいきたいと思っています。
「楽天市場」出店店舗の約半数が「RMS AIアシスタント」の効果を実感
「ゆうひ堂」も活用している、「楽天市場」の「RMS AIアシスタント」では「商品説明文作成支援AI」「商品画像加工支援AI」「問い合わせ回答作成支援AI」「問い合わせ回答校正AI」「AIチャットで質問」「店舗カルテ分析支援AI」「レビュー返信作成支援AI」を提供している。
楽天によると、約1万7000店舗が日常的に活用しているという。また、活用している6000店舗を対象にしたアンケートでは、約半数が「業務効率の改善を実感した」と回答しており、実際に商品の白抜き画像(商品の背景を削除した画像)作成で月間60時間の工数削減に成功した例や、商品画像の背景生成で月間17時間の工数削減をしたケースもあるという。そのほか、商品説明文の生成では作業効率が5倍向上、問い合わせの返信のAI活用では月間6時間以上の削減などさまざまな成功例が出ている。
楽天では、出店店舗がAIを効果的に活用し、効率化を図りながら、それぞれの店舗独自の魅力を最大限に引き出して成長していくための取り組みを積極的に推進していくとしている。具体的な取り組みでは、出店店舗向けの動画講座「楽天AI大学」において、AIの基本的な使い方から「楽天市場」での具体的な活用事例まで、幅広いコンテンツをオンラインで配信していく。
また「NATIONS」による実践的な学びの場も広げていく方針だ。AI講座を展開し、店舗自身のAI活用事例を他の店舗に伝えることで、店舗同士が互いに学び合い、AI活用のベストプラクティスを共有する貴重な機会を提供する。
そのほか全国各地での勉強会開催も検討している。地域に根ざした形で、AIに関する勉強会を全国各地で開催し、店舗同士で交流しながらAIへの理解を深められる場を提供するという。
エンドユーザー向けのAI活用も推進
楽天は、エンドユーザー向けのAI活用も進めている。2025年7月にエージェント型「Rakuten AI」の提供を発表。現在は、楽天モバイル契約者専用のコミュニケーションアプリ「Rakuten Link」に搭載されており、今後「楽天市場」に「Rakuten AI」を搭載することで、ユーザーごとにパーソナライズしたインタラクティブなショッピング体験の提供をめざしていくという。
「Rakuten AI」は、楽天のさまざまなサービスをつなぎ、ユーザーにパーソナルな体験を提供していくというもので、「楽天市場」に搭載することで、ユーザーは専属のコンシェルジュがいるかのような、スムーズでストレスフリーなショッピング体験を楽しめるようになるとしている。
ユーザーの楽天サービスの利用状況、興味、購買履歴、ライフスタイルをAIが理解することで、最適な商品を提案したり、質問に即座に答えたりと、単なる商品検索では得られない「商品との出会いや発見」を提供できるプラットフォームへと進化させていくことをめざすという。