BtoBtoC型EC「ミルボンiD」が会員100万人突破。平均購入額は美容室店頭の2.9倍。売れる仕組みをどう作っている?

ミルボンが展開するBtoBtoC-EC「milbon:iD(ミルボンiD)」。登録会員数が100万人を突破し、美容室の売上増やユーザーの利便性向上につなげている。そのビジネスモデルや導入事例などを取材した

小林 香織[執筆]

8:00

美容室専売メーカーのミルボンが、2020年6月から展開するBtoBtoC型EC「milbon:iD(ミルボンiD)」が好調だ。登録美容室軒数は6500軒を越え、登録会員数は100万人を突破(2025年10月時点)。1回あたりのEC平均購入額は1万4435円で、美容室店頭の購入額と比較して約2.9倍となる。なぜ「ミルボンiD」が支持されているのか。ミルボン EC企画推進室マネジャーの西田洋介氏と、「ミルボンiD」で大きな成果をあげている美容室「ミンクス銀座/渋谷スマートサロン」のディレクター兼取締役の菅野久幸氏に聞いた。

美容室の売上増に貢献。「ミルボンiD」のビジネスモデル

帝国データバンクによると、2025年1-8月に発生した美容業(美容室)経営業者の倒産は157件。年間で最多だった前年同期(139件)を上回り、3年連続で前年から増加した。そんな厳しい環境下にある美容室業界で、急成長を遂げているのが、美容室専売のヘアケアアイテムを扱うBtoBtoC型EC「ミルボンiD」だ。

美容室には「技術サービス」と「物販」の2つの売上構造がありますが、店頭での物販購入率は長年10~15%の低水準が続いていました。人口動態的に来店客数を増やすのが難しい課題があるなか、市場が拡大しているヘアケア製品の売上増を目的に「ミルボンiD」が誕生しました。(ミルボン 西田氏)

通常、美容室専売品は代理店を通じて各美容室へ販売されており、「ミルボンiD」も同様の流通経路となる。次の図の通り、顧客が購入した製品の売り上げは各美容室に計上され、原価を除いた額が美容室の売り上げとなる。それとは別に、各美容室は月額1100円の利用料と1注文につき165円のシステム利用料をミルボンに支払う。

「ミルボンiD」のビジネスモデルは、店頭購入時とほぼ同様だ(画像提供:ミルボン)
「ミルボンiD」のビジネスモデルは、店頭購入時とほぼ同様だ(画像提供:ミルボン)

ECにおいて手間となる受注、製品発送、在庫管理、顧客からの問い合わせ対応などはミルボンがすべて担う。そのため、美容室では会員獲得と商品提案、キャンペーンの実施など戦略的な部分に集中できる。また、シャンプーの大容量詰替パックなど保管場所を取る製品はECのみで扱うなど、店頭在庫を減らせることも美容室側のメリットだ。

「ミルボンiD」の利用イメージ(画像提供:ミルボン)
「ミルボンiD」の利用イメージ(画像提供:ミルボン)

導入美容室には、店頭以外の販売チャネルを確保することで売り上げが向上する点や在庫を抱えるコストが不要になる点が喜ばれています。現在、ミルボンの対象製品を扱っている全国約2万軒の美容室のうち、6500軒が「ミルボンiD」に登録しています。店頭で積極的にミルボンの製品を販売している成長意欲の高い美容室が中心で、初来店した顧客に積極的に会員登録を促し、購入へつなげる循環ができている店舗も多くあります。(西田氏)

ビジネスモデル上、「ミルボンiD」では複数の美容室で同一製品を扱うことが少なくない。となると、「amazon.co.jp」や「楽天市場」のように値引き合戦が起こりそうだが、美容室への来店後に会員登録をするビジネスモデルであり、複数の美容室に通う人はそれほど多くないため、価格比較が起きにくい構造だという。また、顧客が登録できる美容室は最大3つまでの制限があり、「顧客を奪い合わない」仕組みとも言えそうだ。

平均購入額が店頭の約2.9倍、リピート率65%。なぜ支持されるのか

2020年の誕生から約5年。登録美容室が増加するにつれて、「ミルボンiD」の会員数も右肩上がりに増え、2025年10月には100万人を突破した。会員は約9割が女性で、30代を中心に20~40代が8割近くを占める。美容室で会員登録を促す特性上、会員の約80%は購入経験がなく、残りの約20%が積極的に利用しているという。想定より1年早く100万人に到達した要因を西田氏は次のように話す。

「ミルボンiD」は2025年10月で会員数が100万人を突破した(画像提供:ミルボン)
「ミルボンiD」は2025年10月で会員数が100万人を突破した(画像提供:ミルボン)

サービスの性質上、美容室に来店しないと会員登録ができません。登録動機は美容室からの推奨がほとんどで、美容師と顧客の関係性が登録に寄与していると考えます。それを踏まえ、成功要因は主に2つあります。1つは、ミルボンの現場営業担当者による「美容室への働きかけ」です。効率的に会員を獲得して、売上増につなげていくためのノウハウを一軒一軒にお伝えする泥臭い活動を展開してきました。

もう1つは、美容室への来店を促す「CRM施策」です。美容室を通さずに消費者向けに直接トライアル製品を発売して、店頭での会員登録につなげることを狙いました。たとえば、ミルボンのロングセラーブランド「Aujua(オージュア)」のシャンプー・トリートメントの5日分のパウチ製品は、約8万個を販売するヒットになりました。(西田氏)

「ミルボンiD」では、1回あたりの平均購入額が1万4435円と、全国の美容室における店頭での平均購入額の約2.9倍にもなる。また、1年以内のリピート率も店頭の40%よりも大幅に高い65%だ(いずれも2024年の実績)。なぜ、これほどの成果が出ているのか。

1回あたりのEC平均購入額は、店頭の約2.9倍となる(画像提供:ミルボン)
1回あたりのEC平均購入額は、店頭の約2.9倍となる(画像提供:ミルボン)

平均購入額が高い理由として、1リットルの大容量詰替パックの好調があげられます。最も人気のあるブランド「オージュア」だと、シャンプー・トリートメントのセットで約1万5000円と高額ですが、同製品のラインアップでは最安値であり、リピート購入で多く利用されています。

「オージュア」は19種類ものシリーズがあり、髪のお悩み別で選びやすいのが強みです。各店の美容師が製品を使って仕上げながら、1人ひとりのお客さまに適切に提案してファンを獲得してきたことで、高い認知を確立しています。

店頭では、カットやカラーなどの技術料を支払った後なので、お客さまが財布の紐を締めてしまう傾向がありますが、購入タイミングを選べるECでは、心理的な負担が少ないこともあるかもしれません。さらに、季節ごとのキャンペーンとしてクーポンやプレゼント施策も行い、毎回、平均購入額が跳ね上がります。(西田氏)

一番人気のブランドは「オージュア」で、大容量詰替パック(右)が最も売れている(画像提供:ミルボン)
一番人気のブランドは「オージュア」で、大容量詰替パック(右)が最も売れている(画像提供:ミルボン)

さらに、月に1~2回実施している「ライブコマース」も売り上げが年々拡大している。ミルボン社員による豊富な知識に基づいた商品紹介や、美容感度の高いゲストの出演などが功を奏し、約40分の配信中に約4400万円の売り上げを記録した回もあったという。

ライブコマースの動画は、1か月間アーカイブとして見られるようにしていて、感謝祭など特別回の視聴者は累計1万2000名にのぼります。人気の製品や季節に合った製品などを紹介し、特典を付けたり割引を提供したり、お得に購入できる機会として打ち出し、多くの方に利用いただいています。(西田氏)

反響が大きいという「ライブコマース」の様子(画像提供:ミルボン)
反響が大きいという「ライブコマース」の様子(画像提供:ミルボン)

平均購入額が5年で大幅増。ミンクスの導入事例

2020年6月のリリース当初から「ミルボンiD」を導入している美容室チェーン「ミンクス」では、同サービスの活用により大きな成果をあげている。現在、都心に構える直営の5店舗すべてで導入している。

導入当時はコロナ禍の臨時休業中で、お客さまから商品購入に関する問い合わせが相次ぎ、「ミルボンiD」の導入を決めました。すでに自社アプリ内にECストアを展開していたものの、急増するEC需要への対応が難しく、問い合わせ対応や発送の手間が省ける点が決め手になりました。その他にも、ECサービスを強化することで大容量商品を購入しやすく、リピートしやすい体制を整えたい狙いもありました。(ミンクス 菅野氏)

物販スペースが少ない店舗では、大容量詰替パックは店頭に在庫を置かず、EC限定販売にするなど、販売チャネルにおける商品展開の棲み分けを行っている。一方で、約100坪の店舗面積を有し、体験型ショッピングスペースをウリにする「スマートサロン渋谷」では、詰替パックも含めた豊富な製品ラインアップを展開し、顧客の利便性向上を図っている。

スマートサロンと銘打っている渋谷店では、多様な製品ラインアップを展開(画像提供:ミンクス)
スマートサロンと銘打っている渋谷店では、多様な製品ラインアップを展開(画像提供:ミンクス)

現状、最も売れ行きが良いのは、2025年2月に「オージュア」から発売された「ALTIELL(アルティール)」シリーズだ。「オージュア」は長年使用している顧客が多く、ブランド自体の人気が高い。なかでも最新製品は直近1年での伸長が目立った。ミンクスでも大容量詰替パックが好調で、利用者の50%以上が購入しており、それが平均購入額を押し上げているという。

たとえば「ミンクス銀座」では、「ミルボンiD」の導入前後(2019年と2024年)を比較して、1人あたりの平均物販購入額が大幅に増加。次の図が示す通り、店頭での購入額はほぼ同様ながら、ECでの購入額は1万2553円に達した。また、平均物販売上比率も8.8%から15%と大幅に増えた。その他の店舗でも売上増の成果が出ており、今や「ミルボンiD」はミンクスにおける「事業の柱」に成長している。

「ミンクス銀座」では、導入前後で平均購入額が大幅に増加(画像提供:ミルボン)
「ミンクス銀座」では、導入前後で平均購入額が大幅に増加(画像提供:ミルボン)

約90%がリピーターに。ミンクスの「ミルボンiD」活用戦略

ミンクスでは、どのように「ミルボンiD」の売上増をかなえているのか。好調の背景には、戦略的な販促活動やインセンティブ設計があるという。

同社では、季節や店頭プロモーション、ミルボンの新製品発売などのタイミングに合わせて年間計画を立て、顧客への推奨製品を決定している。商品購入につなげるためには、美容師の製品知識と提案力が不可欠として、スタッフ全員がミルボンの独自資格「ヘアケアソムリエ」を取得するほか、製品に関する勉強会も随時実施。そのうえで、製品との出会いは「現場」で、リピート購入は「ミルボンiD」で、という棲み分けも明確にしている

お客さま1人ひとりに合った製品を店頭でご紹介し、まずは店頭で購入いただくことを重視しています。そして、その後のリピート購入は「ミルボンiD」の利用を促します。この指針を明確化したことで、鈍化していた物販の伸びが改善しました。「ミルボンiD」の利用者は約90%がリピートするというデータも出ていて、安定した売上基盤となっています(菅野氏)

初回は「店頭」、リピートは「ミルボンiD」の棲み分けを明確にして成果につなげている(画像提供:ミンクス)
初回は「店頭」、リピートは「ミルボンiD」の棲み分けを明確にして成果につなげている(画像提供:ミンクス)

また、「ミルボンiD」の売り上げに連動したインセンティブ制度も設計。これが「従業員の収入増」や「モチベーションアップ」につながり、従業員が率先して製品を勧める環境構築に役立っている。

ミンクスでは、施術を担当した美容師、あるいは売り場設計を担当したレセプショニストに、「ミルボンiD」を通じた売り上げの10%をインセンティブとして分配しています。いわば「寝ていても給料が上がる仕組み」であり、従業員からも好評ですね。(菅野氏)

今後の施策をたずねると、「最近開始された『ミルボンiD』のLINE連携を進めていきたい」と菅野氏は話した。LINE連携ユーザー限定のキャンペーンを行うなどして、アクティブユーザーの増加やLTV向上につなげる狙いだ。

ミルボン側では、美容室への来店を促す施策やユーザーへの情報提供の強化に注力するという。「コンテンツを拡充することで、必要な情報をユーザー自ら受け取れる体制を作り、美容室を横断した多様な製品の購入につなげたい」と西田氏は展望を語った。

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