Googleとボストンコンサルティンググループ(BCG)はこのほど、「リテールメディア」に関する共同調査を実施した。リテールメディア広告の原資となり得る販促費の構造を整理し、実店舗事業者のリテールメディア市場は2025年の1190億円から2035年に1兆円規模へと成長する可能性を示した。
リテールメディアは、スーパー、コンビニといった実店舗、ECなどの小売(リテール)事業者が自社で保有する顧客の購買データ(ファーストパーティデータ)を活用し、店頭サイネージ、購入完了画面などを含むWebサイト、アプリなどを広告媒体として運用する仕組み。
収益環境が厳しさを増す小売業界において「利益率の高い事業」として期待される一方、日本ではメーカー・小売企業の販促費の呼称や計上方法が統一されていない。結果として、市場規模や成長余地を正確に把握しにくく、メーカー・小売企業ともに本格投資の判断が難しい状況にあるという。GoogleとBCGはこうした課題を踏まえ、リテールメディア広告出稿の原資となり得る予算の実態を俯瞰(ふかん)し、成長余地を推計した。
調査対象は、情報通信(リテールセールスチャネルが独立している領域)を除く広告業界における主要な製造業、その商品が販売される小売業とした。対象メーカーは消費財、家電、対象小売企業はGMS、スーパー、ディスカウントストア、コンビニ、ドラッグストア、家電量販店。対象メーカー・小売企業のエキスパートへのインタビューに加え、財務諸表や各種指標を分析した。なお、EC専業のプラットフォームは調査対象に含めていない。今回の推計は「従来型の店舗事業者が持つポテンシャル」を可視化したものとしている。
リテールメディアの原資となり得る販促費の9領域
メーカーと小売企業全体の販売促進費(メーカーの店頭販促費、営業企画費、流通対策費、小売企業の販売促進費など)を推計し、リテールメディア広告出稿の原資として注目すべき9領域を特定した。
- 販売員派遣:メーカーが負担する店舗スタッフまたはラウンダーの人件費
- 商品値引き:特売などの原資
- 商品クーポン・ポイント:特定商品の購入特典
- 基本ポイント:小売企業が決済額に応じて付与するポイント
- 折込:チラシの制作・配布費
- 販促ツール:店頭POP、デジタルサイネージ用映像などの制作費
- キャンペーン:懸賞、イベントなどの施策費
- 基本リベート:取引条件に基づく割戻金
- スポットリベート:新商品導入、棚確保、催事などの協賛金
注目点として、電通の「日本の広告費」調査に含まれているのは、このうち「折込」「販促ツール」の2つにとどまるという。9領域の市場規模を合計すると、販促費市場全体は2兆2000億円規模に上ると推計。既存の広告費1兆6000億円と合わせると、約3兆8000億円の巨大な予算が、店舗事業者のリテールメディアにとって潜在的なアプローチ領域として浮かび上がった。
2035年に市場規模は1兆905億円へ
GoogleとBCGは、約3兆8000億円の予算について、「投資対効果(ROI)計測の感度」と「商習慣との結びつき」の観点から、各項目のデジタルシフトの蓋然(がいぜん)性を評価し、今後10年間の市場規模を推計した。
メーカーの営業部門では、ROIの計測が難しくても小売りとの関係維持のために拠出している販促費が一定程度ある。一方、厳しい経営環境下では広告費・販促費ともに投資対象の明確化とROIの説明責任が求められる。広告と販促それぞれのROI計測に加え、広告宣伝と販促活動の連動や相乗効果を測ることが合理化の鍵となり、その前提としてマーケティング活動のデジタル化が重要になるとした。
推計によると、EC専業プラットフォーマーを除く店舗事業者のリテールメディア市場は、2025年の1190億円から2035年には1兆905億円まで成長する見込み。広告と販促のデジタル化が進むことで、10年間で約1兆円規模の新市場が生まれる可能性がある。
生活者の消費行動の変化、人件費・物価の高騰、株主からの改善要求などを背景に、小売業の収益環境は厳しい状況が続く。GoogleとBCGは、今回可視化された市場を「窮地を脱する確かな希望」と位置付け、利益率の高いリテールメディア事業を確立できれば、その収益を店舗DXや人材確保へ再投資する「攻めのサイクル」を生み出せるとしている。
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