小林 香織[執筆] 8:00

LINEヤフーは2024年2月に「生成AIを日本で一番活用している会社をめざす」と宣言。2024年12月末時点で32件の生成AI活用事例があり、作業工数削減や売上増、ユーザビリティの向上などの成果が出ているという。EC×AI活用の専門集団「生成AIタックル室」の室長 兼ショッピング統括本部 プロダクション2本部 本部長を務める市丸数明氏に、「Yahoo!ショッピング」をはじめとしたEC領域の生成AI活用事例を聞いた。

日本一の生成AI活用企業をめざし、32件の事例を生む

LINEヤフーは2023年10月の旧ヤフーや旧LINEなどの合併のタイミングで「生成AI統括本部」を創設し、その配下に「AI倫理ガバナンス部門」を置いた。全社における生成AI活用の推進に加え、グループ会社との連携も進めている。

旧LINEと旧ヤフーは合併前から独自のAIアシスタントを業務に導入するなどAI活用を推進してきたが、合併後はその勢いを加速。同施策を通じて、中長期的に売り上げ収益(売上高)を年間約1100億円増加させることを目標に掲げている。

2024年4月には、全社の生成AI活用を推進する「生成AI統括本部」とは別組織として、EC×AI活用の専門集団「生成AIタックル室」を発足。EC領域の事業を専門とする有志メンバーにより自発的に生まれた集団で、「すぐ試してみる」を信条に超高速のトライ&エラーを繰り返し、活用事例を増やしているという。

LINEヤフー 生成AI活用 生成AIタックル室 LINEヤフーの生成AI活用推進サイクル
LINEヤフーの生成AI活用推進サイクル(画像提供:LINEヤフー)

LINEヤフーでは、生成AI活用推進サイクル(上記図)を定め、社内での活用基盤を十分に整えた後に、業務活用を進めることで社員の生産性効率化につなげている。最終的にはサービスにも活用し、ユーザーに対しても利便性を提供していく方針だ。

こうしたサイクルを推し進めた結果、2024年12月27日時点で個人向けサービスを中心に32件の生成AI活用事例が生まれている。

「Yahoo!フリマ」での生成AI導入事例

LINEヤフー 生成AI活用 生成AIタックル室 Yahoo!フリマでの生成AI導入事例
画像をアップロードし、「商品名」と「カテゴリ」を入力するだけで商品説明文が提案される(画像提供:LINEヤフー)

たとえば、個人間で商品を売買できる「Yahoo!フリマ」では、2023年8月に生成AIが商品説明文を提案する機能を導入。画像をアップロードして「商品名」と「カテゴリ」を入力、「AIからの提案(β)」を押すと、数秒で説明文が生成される。出品するためには、AIが提案した文章をユーザーが確認・修正するステップを踏む必要がある。

実際に「ぬいぐるみ」で試したところ、「子どもの頃に大切にしていたぬいぐるみです。目立った汚れや傷はありません」など仮のエピソードや商品状態が盛り込まれた説明文が提案された。

生成AIが得意とする創作機能を生かした商品説明文が好評をいただいています。2023年12月に実施した調査では、ユーザー満足度が90%以上、新規ユーザーの利用率が17%でした。(市丸氏)

工数削減や売上増も。「Yahoo!ショッピング」の生成AI活用事例

LINEヤフーのECモール「Yahoo!ショッピング」でも、ユーザーの買い物体験や出店者の利便性の向上、社内向けの業務効率化を目的に生成AIを積極採用。さまざまな成功事例が生まれている。

事例① LP制作の効率化(社内向け)

LINEヤフー 生成AI活用 生成AIタックル室 生成AIを活用して制作した趣味のガイド「入門セットナビ」の「初めてのキャンプガイド」
生成AIを活用して制作した趣味のガイド「入門セットナビ」の「初めてのキャンプガイド」(画像提供:LINEヤフー)
LINEヤフー 生成AI活用 生成AIタックル室 「入門セットナビ」では、特定の趣味を始める際に必要なグッズをまとめて紹介する
「入門セットナビ」では、特定の趣味を始める際に必要なグッズをまとめて紹介する(画像提供:LINEヤフー)

社内向けの業務効率化を目的に、2024年11月に導入したのが生成AIでLP開発を効率化するツールだ。プロンプトに指示を出すだけで、テーマに沿ったガイドを短時間で制作できる。新しい趣味を始める際に必要となる知識やグッズをまとめて購入できるLP「入門セットナビ」の作成などで活用されている。同ツールにより、ページ制作の工数が7割ほど削減されたという。

LINEヤフー 生成AI活用 生成AIタックル室 LPの制作着手から2時間で公開したという「防災グッズと対策ガイド」
LPの制作着手から2時間で公開したという「防災グッズと対策ガイド」(画像提供:LINEヤフー)

2024年8月に宮崎県日向灘沖地震が発生した際は、LP「防災グッズと対策ガイド」を制作着手から2時間で公開した。スピーディーな情報提供に加え、LPで紹介した商品の売上増にも貢献している

事例② 利便性の高い商品レコメンドの提供(社外向け)

LINEヤフー 生成AI活用 生成AIタックル室 商品レコメンド 商品レビュー欄に「AI要約」を表示し、さらに「気になる点が解消されている似た商品」を提案する
商品レビュー欄に「AI要約」を表示し、さらに「気になる点が解消されている似た商品」を提案する(画像提供:LINEヤフー)

顧客の利便性向上を目的に、2024年11月に開始したレビュー内容に基づく「商品レコメンド」も成果をあげ始めている。ファッションECなどによくある「類似商品のレコメンド」とは異なり、レビュー内容を分析したうえで、より良い商品を提案する。たとえば、「洗濯で縮みやすい」というネガティブなレビューが付いている商品に対して、同じ観点で高評価が付いている類似商品を提案する

AI要約が表示された場合、約50%の人が、AIが提案した類似商品を閲覧しています。今までの買い物でも当たり前のように行っていた作業だと思いますが、AIのサポートによって利便性を向上させた事例です。「なぜ、この商品がおすすめなのか」がわかりやすいため、AIが提案した商品を購入する方も増えています。(市丸氏)

事例③ チャットボットで問い合わせ対応を効率化(社内向け)

LINEヤフー 生成AI活用 生成AIタックル室 ストアの出品者からの一定の問い合わせに対して、チャットボットが対応する
ストアの出品者からの一定の問い合わせに対して、チャットボットが対応する(画像提供:LINEヤフー)

2025年1月には、「Yahoo!ショッピング」ストア出店者からの問い合わせに対応するチャットボットも導入。一定の問い合わせを人に代わって対応することで、約3割のリソース削減につながっている

近年のECモールは、機能が多様化していて情報が日々アップデートされるため、すべてを使いこなすことが難しくなっています。出店者さまが疑問を持った際に相談できるヘルプデスクでは、これまでは100%人手で対応していたところ、一部をチャットボットに任せられるようになりました。(市丸氏)

超高速のトライ&エラーをどう実現しているのか

自発的に発足した「生成AIタックル室」では、まだ世の中にそれほど成功事例が多くないEC領域での生成AI活用を積極的に推進している。どのような体制で超高速のトライ&エラーを実現しているのか。

当社の場合、EC領域の課題はすでに蓄積されていて、そのなかから生成AIで解決できそうな課題にチャレンジするのが一般的です。現在の開発体制として、まず社内ツールであるチャット型の生成AIを活用して、自分のアイデアをもとにプロトタイプを制作します。実現可能性がありそうだと判断できれば、エンジニアに相談して、本格的に開発に着手する流れです。(市丸氏)

今までは、エンジニアやUXデザイナーに依頼しなければプロトタイプを作ることができなかったが、現在は専門スキルを持たないメンバーでも、正確なプロンプトを入力できればプロトタイプが制作できる。こうした開発体制の変化がスピーディーな生成AIの導入につながっているという。

開発の流れが変わったことで、エンジニアと非エンジニア間のコミュニケーションコストも削減できています。これまではアイデアの考案者がエンジニアに対して口頭でイメージを伝えていたので、両者が想像するイメージのズレが起きていました。しかし、あらかじめプロトタイプを見せることで意思疎通がしやすくなりました。(市丸氏)

EC×AI活用の専門集団「生成AIタックル室」の室長 兼ショッピング統括本部 プロダクション2本部 本部長を務める市丸数明氏
EC×AI活用の専門集団「生成AIタックル室」の室長 兼ショッピング統括本部 プロダクション2本部 本部長を務める市丸数明氏。正しいプロンプトさえ入力できれば、誰でも質の高いアウトプットが出せると話す

市丸氏は情報共有にも積極的で、ショッピング統括本部のメンバーに対して生成AI活用のノウハウをメルマガで定期配信。メンバーからの生成AI関連の提案が増え、問題解決につなげやすい体制が構築できているそうだ。

最後に、生成AI活用における「課題」を聞いた。

事実と異なる情報を生成する「ハルシネーション」のリスクは、常につきまといます。だからこそ、AIのアウトプットに対して人間による最終確認が不可欠です。ただ、AIのアウトプットを別のAIに評価させる手法「LLM-as-a-Judge(エルエルエム-アズ-ア-ジャッジ)」を導入すると作業を軽減できます。

別の観点では、AIのアウトプットに対するユーザーの信頼感をいかに醸成できるかも課題です。現状は、AIの提案をそのまま受け入れて商品を購入する人は少ないかもしれませんが、AIに触れる機会が増え、効率的な買い物体験を積み重ねれば信頼感が増してくるはず。自分にとって価値のあるツールだとわかれば、積極的に使う人が増えるでしょう。(市丸氏)

あらゆるサービスに生成AIが導入され始めている現代は、生成AIへの信頼感が醸成されている過渡期と言えるだろう。誰もが当たり前のように生成AIを使って買い物を楽しむ時代が、まもなく到来するかもしれない。

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