Googleの調査から考える効果的なAI活用と検索広告のポイント。ユーザー1人ひとりに“意味ある情報”を届けるために必要なことは?
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Googleが2024年9月に発表した調査結果によると、消費者は情報量の増加によってほしいモノを探すことが難しくなっており、AIによるパーソナライズされた情報が買い物サポートにつながるという。一方で、「AIの提案にすべてを任せたくない」という生活者の心理も浮き彫りになった。Googleの朴ヨンテ氏(コンシューマーマーケットインサイトチーム シニア リサーチ マネージャー)に、調査から導き出された消費者の買い物に関する傾向、見込み顧客への有効的なマーケティング施策を聞いた。
日本の消費者は諸外国よりも「情報量の多さ」に圧倒されている
Googleの調査結果から見えたのは、日本の消費者がアメリカやイギリスなどの諸外国と比較して、「買い物の際に情報の多さに圧倒されている」という状況だ。世界平均の50%に対して日本は66%。「情報量の多さが選択に確信を持つことを難しくしている」と朴氏は指摘する。
私は過去5年以上、生活者行動のリサーチをさまざまな手法で実施していますが、その結果から日本の消費者が「自身の選択に確信を持ちにくい」という点が繰り返し示唆されています。その要因の1つが、情報量の多さだと考えます。商品のバラエティ、流通網の発展、ECの浸透などを踏まえ、日本の消費者がアクセスできる良質な選択肢は諸外国よりも豊富と言えるでしょう。(朴氏)

Googleでは、生活者の買い物にまつわる調査を2011年から継続して実施している。2024年度は1月から日本を含む18か国で実施し、18歳以上の男女1万8000人以上を対象にしたアンケート調査、その内容をより具体的に調べた日本独自の定量調査、インタビューで心理を深堀する少人数への定性調査、2つの選択肢を提示した際の行動結果の調査の4つを行った。
選択に確信を持てるのは、「関連性」の高い情報に出会ったとき
自分のニーズを満たす新しい製品に出会いたいが失敗はしたくない――。こんな願望を持つ日本の消費者が求めるのは、どのような情報なのだろうか。調査結果では、「これが最善の選択だ」と確信を持つためには、「自分自身に関連した情報」であることが重要だと示されている。
「多くの情報に触れた人」と「自分にとって関連性が高い情報に触れた人」の2つのグループに対して、「自分の選択がベストだと確信できたかどうか」を質問。その結果、「自分にとって関連性が高い情報に触れた人」は「多くの情報に触れた人」と比べて、確信できた割合が2.1倍だった。
さらに「自分の選択がベストだと確信できた人」と「確信できなかった人」それぞれに、製品購入後の満足度も調査。その結果、「確信できた人」の満足度が大幅に上回ることがわかった。満足度は「購入後にとても満足した」「必ずまた購入したい」「家族や友人に勧めたい」という3つの質問を基準とした。

では、「確信を導く関連性の高い情報」とは具体的に何を指すのか。朴氏は「消費者の根本的な望みに応える情報」だと話す。
近年の消費者の傾向として、検索クエリが長く具体的になっている点があります。たとえば、以前は「ファンデーション 安い」と検索していたのが、最近では「とにかく汗に強いファンデーション プチプラ」に変わっています。多様化が進み、1人ひとりが求めるものが変わってきているのでしょう。実際、買い物の決め手になった重要要素を聞いてみても、人によって要素はバラバラです。(朴氏)
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また、雰囲気や質感など言語化しにくい情報やイメージを画像で検索する消費者も増えている。たとえば「Google レンズ」を使った画像検索は世界中で月間120億回にのぼり、Googleの独自データによると、そのうちの4分の1は購入意欲を持った検索だという(参考:Think with Google「AIが買い物の「自分で選びたい」を助ける時代に:「“ あなた ” に意味ある情報」とAIの関係」)。
自分への提案はほしいが、決定は委ねたくない心理
従来のマーケティングでは、年齢、性別、趣味嗜好などによりペルソナやクラスターを設定して、その集団に対してアプローチしていた。しかし、消費者1人ひとりのニーズが多様化している現代では、そうしたアプローチよりも個人のニーズに最適化した情報提供がより求められているようだ。
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調査では「最も好きなブランド」と価格などの条件をそろえた「2番目に好きなブランド」を並べ、提示する情報を変えた。上の図の上部は、どちらのブランドも“マス向けの一般的な情報”だけを提示した上で、各ブランドの選択率を示したもの。図の下部は、「2番目に好きなブランド」のみ、事前アンケートに基づいたその消費者が興味を持ちそうな商品の具体的な特徴、つまり「“あなた”に意味ある情報」を提示した上で、各ブランドの選択率を示したものだ。
結果的に「“あなた”に意味ある情報」を提示すると、そのブランドを選ぶ可能性が1.5~2.5倍高くなった。多くの消費者は、「自分のニーズを理解して最適な提案をする」「買い物の情報探索の時間を削減する」といったAIの機能が買い物に役立つと考える。

インタビューなどで、「こだわりを持つものは自分で調べて納得して買いたい」「最終的な選択は自分でしたい」「自分で選択して思い入れを持ちたい」といった声が聞かれました。私はワインが大好きでいろいろと調べるのですが、調べる過程も楽しく感じられ、調べる過程も含めて趣味と言えるので、そこを誰かに委ねたくない気持ちはわかります。(朴氏)
ただ、カテゴリーや消費者のこだわりによって心理が変わることが考えられ、「不慣れ」「専門性が高い」「こだわりが薄い」カテゴリーなどはAIに積極的に頼りたい気持ちが高まるのではないかと朴氏は付け加えた。
どうしたら「“あなた”に意味ある情報」を届けられるのか
これらの結果を踏まえ、企業は見込み客に「“あなた”に意味ある情報」を届けることが求められるが、どのような方法が考えられるだろうか。
最も重要なのは、企業はファーストパーティデータを活用して、顧客とコミュニケーションを図ることだ。上述したブランド選択に関する調査においても、事前のアンケートで取得した消費者の行動や属性から趣味、好み、ライフスタイルを把握して、届ける情報によるブランド選択の変化を確認したという。
ファーストパーティデータを活用する際、それをフル活用できる体制を整えることも重要でしょう。消費者それぞれのニーズや属性に合わせてクリエイティブやアプローチを変更する必要があるため、たとえばAIを活用して戦略全体の効率化・最適化につなげるのは有効的だと思います。(朴氏)
さらに、Googleが展開する検索広告も「“あなた”に意味ある情報」を届ける上で有効だと朴氏は主張する。特に、2024年7月に「部分一致」から名称が変更された「インテントマッチ」は注目すべき要素があるという。

Googleの検索広告は検索クエリに対して広告を配信でき、配信基準は「完全一致」「フレーズ一致」、そして「インテントマッチ」の3種類があります。「インテントマッチ」は検索クエリの表層的な意味に限らない興味・関心や購買意向を捉えて配信するものです。実際に「インテントマッチ」を活用して、成果をあげている事例も多くあります。(朴氏)
成果をあげた企業の一例に楽天モバイルがあり、契約数の拡大を目的に2022年末に「インテントマッチ」を導入。楽天モバイルが指定したのは「携帯 sim」「スマホ 購入」「携帯 おすすめ」といったキーワードだったが、実際にCV(コンバージョン)獲得につながったクエリには「タブレット用 sim」「スマホ 本体のみ購入 分割」「携帯 複数持ち」なども含まれていたことがわかった。
上記の検証を終えて、2023年3月から2024年3月まで運用を続けたところ、2024年3月のCV率が214%増、CPA(顧客獲得単価)が24%減(いずれも前年同月比)となった(参考:Think with Google「検索広告「インテント マッチ」の力を引き出した 3 社事例――楽天モバイル、KINTO、JTB」)。
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(画像は「Think with Google」のサイトからキャプチャ)
消費者1人ひとりの背景を深堀することが求められている現代。いかにAIを味方につけ個人に寄り添ったアプローチを素早くできるかが、今後のマーケティングの肝になりそうだ。