森田 秀一 10/23 8:00
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デジタルマーケティングの領域ではサードパーティCookieが長らく活用されてきたが、個人情報保護の観点などから規制に向けた動きが広がっている。こうした状況に対応するため、EC事業に参画する企業は自社ECサイト内で収集したデータ、つまりファーストパーティデータを軸にしたマーケティングへの移行が求められつつある。

顧客満足度の向上のためには、このファーストパーティデータを正しく活用することが重要なポイントになるのではないだろうか──こう話すのがサイト内検索エンジンの開発などで知られるZETAの山崎徳之社長。EC事業に携わる企業はファーストパーティデータをどのようにマーケティングへ活用すべきなのか。山崎徳之社長が解説する。

ZETA 代表取締役社長 山崎徳之氏

ファーストパーティデータの重要性

サードパーティCookieは、ユーザーのWeb上での行動を可視化し、効果的にアプローチや宣伝を行うためのテクノロジーとして長年活用されてきた。しかし、プライバシーの保護の観点から多くのプラットフォームが利用を規制する方向に動いている。

サードパーティCookieの規制が強化されつつある中で、いわばその代替案として注目が集まったのがファーストパーティデータだ。ファーストパーティデータとは、ページの閲覧履歴を筆頭に、ECサイトにおいては購買履歴、カート内の商品情報、キャンセル・返品履歴といった自社ECサイト内で収集したデータを指す。また口コミやアンケートの回答履歴もファーストパーティデータに含まれる

ファーストパーティデータに注目が集まるようになった背景

サードパーティCookie規制の強化に伴って“やむなく”ファーストパーティデータを使うということではなく、ファーストパーティデータはもともとCX向上の観点において非常に重要なデータであり、積極的に活用すべきものだと考えている。(山崎氏)

ZETA 代表取締役社長 山崎徳之氏
ZETA 代表取締役社長 山崎徳之氏

なかでも特に重要なのが検索関連の行動データだという。膨大な商品数を扱うECサイトにおいては、「検索はファーストパーティデータの中でもかなり有用なのではないかと考えている」と山崎社長は言う。

検索から考えられるユーザーのニーズ

なぜファーストパーティデータのなかでも検索が重要なのか。それは、リアルタイムなユーザーのニーズを知ることができるからだ。

商品を探す時に入力する検索キーワードや、絞り込み・並べ替えの条件などは、ユーザーがその時に求めているものをリアルタイムに表していると考えられる。店舗に当てはめるとお客さまが店員に伝える要望そのものであるため、これを使わない手はないのではないだろうか。(山崎氏)

検索内容から見えるユーザーのリアルタイムなニーズ

購買履歴は、数あるファーストパーティデータのなかでも存在価値が大きいものの1つである。しかし、1週間前の購入履歴をもとにマーケティング施策を展開しても、ユーザーが現在もそれらに関連する商品を探しているとは限らない

Webサイトにおける検索は、リアル店舗における接客と同様と考えられる。誤った商品名で聞いてきたお客さまに対して、店員は「そんなものはありません」と突っぱねるのではなく、該当する商品を推測して案内するだろう。在庫が切れていたら、入荷予定日や近隣店舗の在庫状況をお客さまへ伝えるなどの行動をとると予想される。

店舗で行っている当たり前の接客をWebサイト上でも実現することはお客さまとの重要なコミュニケーション手段の1つであり、「検索結果が0件だった」「在庫がなかった」「検索が不便だった」――こうした体験をした場合、多くのユーザーはECサイトから離脱する可能性が高くなると考えられる。

検索に力を入れるべき理由

「検索はシステム開発上の一機能と捉えられることが多いが、マーケティングの観点においていかに大事であるか気付くことができれば、ECサイト成長のための大きな伸び代を得られるだろう」と山崎氏は重ねて話す。

ユーザーを喜ばせる検索と広告について

リターゲティング広告に代表されるデジタル広告の大半は、サードパーティCookieに依拠していることが多い。では、ポストクッキー時代の広告はどうなっていくのだろうか。山崎氏は「検索連動型のリテールメディア広告」を提案する。

検索連動型のリテールメディア広告とは、小売(リテール)企業が運営するECサイト内に掲出する広告を指す。これまでは一般メディアやSNSのタイムライン上など、カスタマージャーニーの序盤にいる購買意欲がそれほど高くないユーザーに対して広告を配信するケースが多かったが、実際に商品を購入することができるECサイト(リテールメディア)内に広告を出す方が、購入直前の「前のめりな状態」のユーザーに対してアプローチできるため、より効果的だと考えられる。

消費者(ユーザー)は商品選びで迷っているその瞬間に、興味関心に合う商品と広告で出会う機会を得られる。また、ブランド企業(広告主)はカスタマージャーニーの最終局面にいるユーザーに広告を打つことができ、さらにリテール企業(メディア)は新たな売上収入を創出することができる。つまり、検索連動型のリテールメディア広告は「三方よし」の仕組みであると考えられる。

ユーザーが商品を探しているタイミングで広告を掲出するため受け入れられやすい

しかし、欧米と比較すると日本のリテールメディア広告市場は立ち遅れている。国内ではパーソナライズが難しい単純なバナー広告や店頭でのサイネージ広告などが先行しているが、「検索連動型のリテールメディア広告こそが次世代の本命なのではないか」と山崎氏は語る。検索条件を元にリアルタイムな需要に合った広告を掲出するため、購買意欲が高いユーザーに対して違和感なく広告を配信できるのではないかと考えられる。

口コミやハッシュタグでECサイトを活性化

さらに、多くの消費者がECサイトを利用するようになったことで、顧客体験を向上させるには購入にまつわる一連の体験に、利便性だけでなく楽しさやワクワク感も求められるようになったと考えられる。EC事業者はそうしたニーズを受けとめる必要があるだろう。

今後のECサイトに求められるコンテンツの1つとして山崎氏があげたのが「口コミ」である。ECサイトの運用者からは「悪口を投稿されるのが嫌」という声が聞こえてきそうだが、山崎氏は悪口の中でも「耳の痛い意見」と「誹謗中傷」はあくまで別だと話す。誹謗中傷は削除すべきだが、耳の痛い意見はEC事業者、ユーザーの双方にとって貴重な情報となりうると考えられる。

今や口コミがあることでサイトへの信頼性が高まり、反対に口コミが1件もないものは敬遠されるケースが増えている。山崎氏も「口コミがないサイトは買い物しにくいサイトになりつつある」という。

また近年盛り上がりを見せているのが「ハッシュタグ」だと山崎氏は話す。SNS上ではハッシュタグを用いた情報収集が一般化しつつあるが、Googleが2024年6月から提供を開始した「ハッシュタグ検索」の機能により、SNS以外のコンテンツでもハッシュタグによる検索が広まりを見せている。ECサイトもそのコンテンツの1つであり、ハッシュタグを用いた商品検索が主流になり始めている

「ハッシュタグ」はコマースメディアを充実させる

リテールメディア広告エンジン「ZETA AD」導入後、クリック率2.4倍の事例も

ZETAでは「ZETA SEARCH」の開発・販売を主軸としてきた。「ZETA SEARCH」が対象とする比較的大規模なECサイトはコマースメディアとしても機能しうる。そこで提供を始めたのがリテールメディア広告エンジン「ZETA AD」だ。

ファッション通販サイト「SHOPLIST.com by CROOZ」ではROAS(広告費用対効果)が1.4倍に改善、広告クリック率が2.4倍、広告クリック後の購入率が2.5倍へと向上した。

「SHOPLIST.com by CROOZ」での「ZETA AD」の導入事例

検索連動型のリテールメディア広告は総合ファッションサイトのほか、機能重視で商品を選ぶことが多い家電、スポーツ、DIY・ホームセンター系のECにも大きなポテンシャルがあるだろうと山崎氏は説明する。

「検索」、「口コミ」、「ハッシュタグ」の相乗効果

ZETAが提供するデジタルマーケティングソリューションZETA CX シリーズは、主力製品である「ZETA SEARCH」、さらに「ZETA VOICE」や「ZETA HASHTAG」、前述の「ZETA AD」をはじめとする8つのラインナップで構成されている。

製品間のシナジーが出やすいような製品ラインアップを心がけており、最近は特に「検索」「口コミ」「ハッシュタグ」の3つをセットで導入していただくケースが増えている。この3つをセットで入れることで相乗効果が出やすくなり、クロスセルやアップセルが向上し、コンバージョンが改善する傾向が見られる。(山崎氏)

ZETAの代表的な製品

最後に山崎氏は「そもそもマーケティングというのは、長い目で見て消費者のためになる取り組みと真摯に向き合うことが大事なのではないだろうか」と語った。

ECサイトのマーケティング施策として最も重要であるCX向上に向けて、最強のファーストパーティデータである検索を活用することが大事なポイントであると考える。またユーザーが入力した検索条件を元にすることで、マイナスな印象を与えず、むしろ「この広告いいね」「見たかったよ、ありがとう」と思ってもらえるような広告を配信できるのではないだろうか。

ユーザーに喜んでもらえるコマースメディアに成長することで、これまで商品を売ることだけで利益を創出していたECサイトが広告でも収益を得られるようになる。そのような時代がまもなく訪れるのではないかと考えている。(山崎氏)

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