iOSのトラッキング禁止から考えるリテンションとロイヤルティの高め方
ゼロパーティデータは、最も価値のあるユーザー情報の1つ。ユーザーから直接入手するデータのため、信頼性が高いのです。そして、ユーザーがあなたからの連絡を望んでいることを確認できるデータでもあるのです。
iOS 15以降のユーザーを維持するためには?
米国の大手EC専門誌『Digital Commerce 360』の予測では、2021年の年末年始のeコマース売上は10.5%増の約2122億8000万ドルに拡大します。
また、Shopifyによると、消費者はブラックフライデーの買い物のうち72%をモバイルデバイスから行い、その割合は2020年と比較して67%増加したとのことです。
しかし、モバイルコマース・ブランドは、IDFA(Identifier for Advertisers。iOS端末に振り当てられる広告識別子)のポリシー変更後の初めてのホリデーショッピング・シーズンで、シェアを獲得するために、これまで以上に厳しい戦いを強いられることになるでしょう。そのため、多くの企業にとって、モバイルコマースの成功には既存ユーザーの維持が不可欠となるはずです。
コンサルティング企業Bain & Co.のフレデリック・ライヒヘルド氏の調査によると、顧客維持率を5%向上させると、利益が25%~95%増加するそうです。
iOS 14でユーザーのプライバシーとアトリビューションデータが変わり、さらにiOS 15からeメールトラッキングが変更されました。そのため、UA(ユーザーエージェント。「ネット利用者が使用しているOS・ブラウザ」のことを指す)の取得はさらに困難になっており、リテンションに焦点を当てることがより重要になっています。新規ユーザーを効率的に獲得することが難しくなるなか、ロイヤルティを上げていくことが、成功の鍵となるでしょう。
Adjustと米モバイルアプリ調査会社のSensor Towerのデータに基づくショッピングアプリの最新トレンドを分析した「Eコマースアプリレポート2021」によると、2021年第2四半期のECアプリのリテンションは、第1四半期および2020年と比較して増加しており、1日目26%、7日目17%、15日目14%、30日目11%となっています(2021年第2四半期時点)。
しかし、アプリ市場の成長に伴い、アプリマーケターはユーザーの注目を集めるための競争の激化に直面し、インストール価格の上昇を招いています。
ユーザー獲得にかかるコストであるeCPI(effective cost per install)の世界中央値は、2020年第1四半期の1.06ドルから、2021年第1四半期には1.67ドルに上昇。第2四半期はさらに上昇し、インストールコストは2020年第2四半期の1.31ドルから、2021年第2四半期は2.42ドルまで上がっています。
この上昇率を見れば、投資に対するリターンを回収することの重要性が理解できるでしょう。そして、初期導入コストから最大限の利益を得るためには、リテンションに注力する必要があります。
eコマースの場合、ユーザーは通常アプリを使用して商品を購入するため、マネタイズは比較的簡単です。ただ、iOS 15ではチャネルを評価するための確定的なデータが少なく、ブランドの商品に興味を持つ消費者を見つけるための正確なターゲティングができないため、クオリティが高く、コンバージョンの確率が高いユーザーを見つけるための初期コストが増加しています。関連性の高いパーソナライズされた広告を提供することが困難になったことも重なり、さらに厳しい状況です。
ロイヤルティを向上させる方法
コンテクスト広告は、広告主がデータ不足に対処する方法の1つです。小売事業者が、特定の個人的特徴ではなく、ユーザーのオンライン体験の「コンテクスト」に基づいて広告を調整する場合、消費者データはそれほど必要ではありません。マーケターがコンテクスト広告のようなアプローチを試すことは重要でしょう。
より強力な消費者データを得るには、既存ユーザーからデータを獲得するという方法もあります。パーソナライゼーションは、現代の商取引における強力なツールであり、91%の消費者は、パーソナライズされたオファーやレコメンデーションを提供するブランドで買い物をする可能性が高くなります。
しかし、パーソナライズされた広告を受け取ることを選択したユーザーを見つけることはますます難しくなっており、マーケティング担当者は質の高いユーザーを見つけ、維持するために工夫を凝らす必要があります。
ロイヤルティ・プログラムの提供は、顧客のゼロパーティデータを確実に利用し、プライバシーに関する懸念を回避する方法の1つです。アンケートに答えたユーザーにインセンティブを与えたり、特定のユーザーの行動に対して割引を提供することで、積極的に顧客が情報を提供してくれるデータバンクを構築することができるのです。
ゼロパーティデータをゼロにする
Forrester社が生み出した単語「ゼロパーティデータ」は、最も価値のあるユーザー情報の1つです。ユーザーから直接得た情報のため、信頼性が高く、消費者があなたからの連絡を望んでいると確信することができます。
また、ゼロパーティデータを提供するユーザーは、よりパーソナライズされた体験につながることを期待しており、コンバージョンにつながるより適切な機会を提供することに協力的です。
iOS15では、Appleのメールアプリでトラッキングピクセルが使用できなくなるため、メールマーケティング担当者にとって特に大きな変更です。iOS 15にインストールされたGmailやその他のメールクライアントのユーザーにはトラッキングピクセルが可能ですが、全モバイルユーザーの37%がメールアプリでメールを開いていることを念頭に置いておくことが不可欠です。またこの数字は、iOSユーザーの間ではかなり高くなる可能性があります。
開封率を確認する方法がなければ、脱落したユーザーを選別することはできません。最初のサインアップでダブルオプトイン、つまりサインアップ時に確認メールのリンクを追加することで、少なくとも最初の投資で注目するユーザーを確実に獲得することができます。
顧客を理解する
非ゲームアプリではゲーミフィケーション、ゲームアプリでは航空業界でよく見られるロイヤルティやボーナスといった、ロイヤルティ戦術でユーザーをアプリ内に留めておくことがさまざまな業種において有効です。
カジノアプリはロイヤルティ戦術を使用してリテンションを高めることに特に長けていますが、eコマースアプリは、これらの戦術を取り入れると良いでしょう。
オムニチャネルのIDとしてIDFAに依存することは、もはや信頼できる選択肢ではありませんが、マーケティング担当者は、ベンダーID(IDFV)やその他のファーストパーティIDにアクセスし、イベントや行動を顧客に紐づけることができます。IDFVは、企業がファーストパーティのユーザーデータにアクセスするためのIDを提供し、自社が所有するアプリ内のオーディエンスを理解する機会を提供します。
どのようなイベントでも、ロイヤルティ特典の引き金になる可能性があります。どのような行動をインセンティブの対象とするかを決定することは、ロイヤルティ戦略の一部です。
ロイヤルティ・プログラムは、特定の行動から得られるメリットを顧客に直感的に説明することで効果を発揮します。行動を起こすことで、明確な成果、そして多くの場合、売り上げが得られるのです。顧客は、ロイヤルティのインセンティブを得るためにアカウントを作成し、パーソナライゼーションのメリットを明確に理解することができます。
プライバシーへの注目がますます高まるなか、ゼロパーティデータとファーストパーティデータを組み合わせてパーソナライズしたカスタマーエクスペリエンスを提供することが、顧客データを危険にさらすことなくユーザーのリテンションを向上させる最も効果的な方法でしょう。