ロジスティクスの労働力不足、返品コスト、環境負荷などから考える小売業界の返品問題への対処法
ドライバーや倉庫作業員の不足と過去最大の返品が重なり、小売事業者のリバース・ロジスティクス(商品を販売者やメーカーに返品し、再販または廃棄するプロセス)に新たな課題が出ています。
消費者には当たり前となった返品、物流に大きな負荷
リバース・ロジスティクスは、複雑なビジネスになっています。輸送と物流の専門家によると、事態はさらに悪化しており、すでに危機的状況にあるサプライチェーンは、今後急増する年末年始などの返品に対応できていないと警告しています。
BtoBとBtoCの双方で購買意欲が高まっていますが、それに対する準備が整っているとは思えません。コロナ禍で返品は加速しましたが、以前から消費者は、サイズ、色、仕様、技術的な部分に関して、良さそうな商品を一旦すべて注文し、本当に必要な1点だけを残して、他の商品を送り返す習慣がついてしまっているのです。
デジタル関連のコンサルティングを手がけるCapgemini Inventの副社長で、流通・ロジスティクス担当のジョージ・スワーツ氏はこう指摘。そして、次のように続けます。
すでに輸送手段は不足しています。ここ3~4年、LTL(Less-than-truckload:トラック積載量未満の小荷物)のラストマイル配送が大幅に増加し、大きな負担になっています。物量が増えるにつれ、リバース・ロジスティクスは、より大きな負荷になるでしょう。
米国トラック協会によると、輸送業者は既存の需要に対応するために、さらに約8万人のドライバーが必要になります。ドライバー不足は2030年までに倍増すると、同協会は予測しています。
対応策① 最適化と削減
リバース・ロジスティクスのコストを削減するために、小売事業者は出荷・倉庫業務の最適化、処理が必要な返品の数を減らすための措置を講じる必要があります。
アパレルブランドの1822 Denimは、自社サイトやマーケットプレイス、Nordstromなどの小売事業者との提携を通じて商品を販売していますが、そもそもの返品数を減らすための対策を行いました。返品を減らすためのサイズチェックアプリを展開し、返品を40%減らすことに成功したと言います。
1822 Denimは、消費者がサイズやフィット感を確認するためのアプリを作る3DLookと提携し、バーチャル試着機能を実装しました。3DLookアプリは3次元で計測、サイズをお薦めし、消費者は購入前に商品を身に着けた時の見え方を確認することができるのです。
そうすることで、「ブラケット」と呼ばれる行為(自宅で試着するためにさまざまなサイズの同じ商品をいくつか購入し、サイズが合わないものを返品する行為)を減らすことができるのです。
1822 Denimのイノベーション・戦略担当副社長であるターニャ・ズレビエック氏によると、返品数削減の取り組みが、マーケティングの強化につながったそうです。1822 Denimは、3DLookアプリの利用が、リバース・ロジスティクスによる環境負担を軽減していることをアプリ内で顧客に伝えたのです。
「我々のWebサイトでは、3DLooKアプリが返品の回数を大幅に減らすことを顧客に伝えています。返品を減らすことで、埋立地のゴミを減らし、気候変動の原因となる二酸化炭素排出を軽減し、地球環境に貢献しています」とズレビエック氏は言います。
ファッション企業やアパレル会社は、ブランド側にすべての仕事を押し付けるのではなく、人と人とのつながりを利用し、“地球環境に貢献できる、こんな方法があるよ”と広めることができると、私は信じています。消費者にも積極的に関わってもらう必要があるのです。
対応策② 商品説明ページ
小売企業に返品・ロイヤルティ管理のプラットフォームを提供するNarvarの小売・顧客戦略担当シニアディレクターであるデイビッド・モーリン氏は、eコマースにおけるマーケティングの中核要素の1つである商品説明ページの調整で、返品を減らすことができると考えています。
業界全体でよく見られる返品理由の1つに、「写真と違う」「期待したものと違う」といったものがあります。ピンクっぽい色なのに、商品説明ではオレンジのような言い方をしていたりするケースがとても多いのです。そこで、UXチームと協力して、説明文と色をより一致させることができます。
同様に、ある小売事業者の特定のSKUが「サイズが大き過ぎる」という理由で、圧倒的に多く返品されていることに気づいたとします。その場合、小売事業者がPDP(Policy Development Processの略で、ポリシー策定プロセスを意味する)を更新すると、「この商品を返品した人の60%が大き過ぎると言っています。サイズを半サイズ落とした表記にすることをオススメします」という案内もできます。
返品コストは1200億ドルに達する可能性
小売事業者にリバース・ロジスティクス・サービスを提供するOptoroは、2021年の感謝祭から2022年1月末までの間に、米国の消費者が1200億ドル相当の商品を返品すると予測しています。
これは、2020年のホリデーシーズンにおけるOptoroの予測数値1150億ドルを大きく上回っています。全米小売業協会(National Retail Federation)は、記事掲載の時点では2021年の返品予測を発表していません。NRFは、2020年のホリデーシーズンの返品コストは1010億ドルと推定していました。
ただ、消費者への返金は、返品によって発生するコストの1つに過ぎないと、CapGemini Inventのスワーツ氏は言います。
本当に大変なのは、バックエンドの処理です。商品を受け取ったら、検品しなければなりませんし、梱包し直さなければならないこともあります。そして、その商品を棚に並べなければならないこともあります。これらにはすべて労力が必要で、入荷処理と検品はおろか、フルフィルメントを行うのに手一杯です。
多くのリバース・ロジスティクス・プロバイダーがこの作業を手伝ってくれますが、「彼らも労働力を確保するのに苦労している」とスワーツ氏は指摘します。
リバース・ロジスティクスは、環境にも負荷をかけています。OptoroとEnvironmental Capital Groupの調査によると、返品された在庫は毎年58億ポンドの埋立廃棄物となり、返品された在庫をトラックで倉庫や店舗、埋立地に運ぶと、毎年1600万トン以上の二酸化炭素を排出するそうです。
即効性のある解決策はない
CapGemini Inventのスワーツ氏は、小売事業者のリバース・ロジスティクスに対する苦悩がすぐに解消されることはないと言います。在庫の調達や顧客への配送を合理化することに比べ、リバース・ロジスティクスの最適化にはあまり重点が置かれていないと感じているのです。
小売業で使用されている追跡・トレースシステムのどれでもリバース・ロジスティクスに適用できますが、小売事業者はこのプロセスを改善するためにリソースを投入する必要性を感じていないのです。スウォーツ氏はこう言います。
迅速な対応をしなければならない、という切迫感はありません。顧客に返金したかどうかを確認する以外には、プロセスを追跡することにそれほど興味がないのです。
現在の状況を改善するためには、倉庫や輸送の人手不足を回避する方法を見つける必要もあります。スワーツ氏によると、労働力不足がすぐに解決しないため、どのような自動化ソリューションが有効なのか見極める必要があるそうです。