購入「後」の顧客体験がロイヤルティの明暗を分ける⁉ 顧客満足度アップの秘訣を返品・交換支援のプロに聞いてみた
「購入促進」「注文からお届けまでの買物体験の向上」「顧客ケア」などの効果が期待される商品注文“後”の顧客体験。商品注文「後」の顧客体験まで関心を持ち、重要視できる国内事業者はまだ多くない。海外では返品やリバースロジスティクスが進んでおり、返品対応の充実ぶりが顧客満足度を向上し、結果的に顧客ロイヤルティを高めている――と実感する事業者も多いようだ。ECの商品購入後の顧客体験を改善するサービスを提供するNarvar(本社米国)の日本法人Narvar Japanと、顧客の購入体験を向上させるサービスを手がけるRecustomerの対談から、商品注文後の顧客満足度を高める施策の可能性を探った。
Narvar とは?商品のお届け予定日を商品ページや注文確認ページで表示する「お届け予定日」、商品注文後の顧客体験を改善する「追跡サービス」「お届け通知」「返品・交換サービス」を手がける。顧客企業の顧客ロイヤルティの向上、オペレーションの効率化も含めてグローバルで展開するサービス。 Recustomerとは?購入後の体験向上・顧客接点創造を実現する、購入体験プラットフォームを手がける。注文追跡によるお届け予定日の通知や、全自動の返品キャンセルシステム、0円で注文ができる試着サービスなどを展開し、エンドユーザーの満足度向上を通じてEC事業者の売上アップを支援する。国内企業ならではの日本の商慣習に合わせた機能や、サポートの柔軟さに強みを持つ。 |
返品分野における米国と日本の違いとは?
記者:米国などの諸外国と、日本におけるリバースロジスティクスの差異を教えてください。
Narvar Japan菅本氏(以下、菅本氏) :まず大きな特徴として、米国をはじめとした海外には、かねてから「オンラインでも店舗でも返品OK」という文化があったことは強みだと思う。日本はECで購入した商品はクーリングオフが原則適用されないため、顧客都合での返品が許されない風土があり、返品文化の浸透はまだまだ障壁が高い。返品周りの対応は売り上げにするに直結するわけではないため、事業者側も整備が後手になりやすい。
Narvar Japan白石氏(以下、白石氏):海外は日本よりも配送や商品の品質が高くないこともあり、返品率が高い。海外の返品率は小売業全体で16%ほど。ECで見ると20%程度だ。米国では通常の返品フローだけでなく、ECで購入した商品を実店舗に持ちこんで返品できるケースも多く、返品文化は浸透・発達している。
菅本氏:海外では、ある程度返品されることを加味した事業設計をしている事業者が多い印象。たとえば「最低何割は返品される」というのを考慮に入れた上で全体のオペレーションを設計している。米国のアパレルECでは、返品率が40%にのぼるケースも珍しくない。日本は商品の質が高いとか個客都合での返品を許していないという事情もあり、返品率が低い。
国内はまだ事業成長フェーズ
Recustomer辻󠄀野氏(以下、辻󠄀野氏):日本国内の返品率は、小売全体で3%ほど。アパレルだけで見ると約6%で、そのうち、比較的返品率が高い傾向にある靴カテゴリでも約8%にとどまっている。海外と比べると圧倒的に低い。事業者側は、まずは事業成長、つまりは売上アップに重きを置いているという側面もある。返品スキームの効率化やバックオフィスの整備は二の次になっているのが現状だ。事業全体が伸びてくればバックオフィス分野のリソースも自然と増えてくるので、返品やリバースロジスティクスに力を入れるフェーズにも進むと思う。
辻󠄀野氏:国内では、関東圏をはじめとした政令指定都市に人口が集中している。そうした都市には実店舗がそろっていることも多いため、顧客はある程度商品の想像できている状態でECで購入する。こうした事情も国内の返品率の低さにつながっているのではないかと思う。
海外で返品率が高い理由の一つとして、たとえば米国は国土が広いため、人口の多い都市に住んでいない人もその分多い。イメージのみで購入することになるため、返品率も自然と高くなるのではないか。
ただ、コロナ禍を含むここ数年で良い変化は出てきた。ECと店舗でOMO施策を進める国内企業のなかには、ECで購入した商品でも、店舗で返品を受け付ける施策を始めているところもある。
菅本氏:海外では、事業者側が手配をして購入者の住まいに赴き、返品したい商品をピックアックするケースもある。海外の返品フローでは、「いかに次の購入につなげるか」がポイントとなるので、返品した顧客に向けて次回送料無料などのキャンペーンを展開することが多い。
白石氏:利便性から顧客満足度を高めたり、返品をきっかけに実店舗に来る機会ができれば、事業者側はその顧客に接客できることになる。返品しやすいフローを構築したり、リバースロジスティクスをきちんと整えることは、LTV向上の一手につながるという見方もできる。
返品フローのわかりやすさ、使いやすさがロイヤルティを高める
記者:国内における返品、リバースロジスティクスの課題は。
菅本氏:エンドユーザーにとって、返品のスキームがわかりづらい事業者のECサイトが少なくないように感じる。エンドユーザーは、もし商品が自分に合わなかったとき返品ができるかどうかを確認してから買う人が多いと思われるため、それがわかりづらいことは、少なからずコンバージョンレートにも響いてしまっているのではないか。もちろん、何でもかんでも返品を受け付けるわけではなく、必要な返品を受け付けるという点を、日本の事業者は今後標準的に進めた方が良いのではないかと思う。
このあたりの整備を一歩進めた例として、当社のクライアント企業のなかには、返品された商品の再販率をアップさせている事業者がいる。国内のアパレルECが、特定の靴について「試着・返品を受け付ける」という内容でバナーのABテストを実施したところ、外を走っているバナーよりも、室内のフロアで履いているバナーほうが、返品された商品の再販率が顕著に高かったという。
白石氏:国内のEC事業者は、サイト内でコールセンターの電話番号にたどりつきにくいケースもよく見かける。米国はコールセンターの番号が一見してわかりやすいUIになっている事業者が多い。「顧客対応の一環として対応し、LTVを上げる」という意識があるのだと思う。
事業拡大は顧客とブランドの二人三脚。「返品」は一つのトリガーになる
記者:国内におけるリバースロジ発展による購入率アップの可能性は。
辻󠄀野氏:返品フローをきちんとすることは、返品された商品の改善にも、顧客満足度アップにもつながる。顧客とブランドのマッチ率が上がり、ロイヤルティ向上が期待できる。
村田氏:事業者にとって、「手元に商品が届いたのに、なぜそのまま買わなかったのか」というデータはなかなか取得できない。その意味では、顧客による返品まわりのデータはすごく貴重だ。
辻󠄀野氏:国内事業者には、「返品はコストがかかる」「オペレーションが煩雑そう」という考え方ではなく、プロフィット(利益)を生み出す可能性に富んでいるという点を見てほしい。中長期的に見ると、返品スキームがわかりにくいことは顧客満足度を下げる原因になってしまうため、もちろんよくない。
実際に、試着キャンペーンを打ち出して顧客に気軽な返品を促した事業者が、そのキャンペーンをきっかけに2回目の購入につながり、リピーター育成につながった......という事例もよく見る。
購買意欲の高い層を狙った返品施策も
菅本氏:国内でも近年は返品スキームを施策の一環として意識する事業者が増えていると感じる。注目度は上がっているのではないか。辻󠄀野氏が言うように、「返品無料キャンペーン」「試着キャンペーン」で成果を上げている事業者を見かけることが増えた。ただし、気を付けなくてはならないのは、バックオフィスの仕組みを含めてきちんと整備しておかないと、“短期的にうまくいったキャンペーン”で終わってしまうこと。際限なく返品対応に追われることになってしまい、PDCAをまわすことができないことになってはもったいない。
たとえば「実店舗に商品を持ち込んで返品する場合は無料だが、通常の返品は顧客が500円負担する」といった制度にすると、購買意欲の高い顧客層にリーチしやすい。
辻󠄀野氏:国内ECの返品事情でよく取り上げられるのが、ECモールと自社ECサイトとの比較。大手モールは返品ルールを明確に定めていることが多いが、自社ECサイトでそれができているところは少ない。逆に言うと、この点を改善すれば他ブランドとの差別化につながり、購買チャネルの自社EC比率アップにつながるはずだ。
白石氏:その通りだ。返品を含めた、全体の購入体験を良くするということが購入率アップにつながる。
辻󠄀野氏:ブランドと消費者は対立しているわけではないし、むしろ、同じブランドを一緒に成長させているという意味で“味方同士”。返品の原因を究明することは、よりよい商品作りやサービスづくりの種にもなる。