売上高が54.6%増加した返品・試着マーケティングとは? 福田ECマネージャーに聞く「MAISON SPECIAL」の成功事例
サザビーリーググループ傘下のPLAY PRODUCT STUDIOは、購入後の体験に焦点を当てることで、運営するアパレルブランド「MAISON SPECIAL(メゾン スペシャル)」の売上アップに成功している。自社ECサイトで、商品を購入した顧客に対して返送無料キャンペーンを試験的に実施したところ、過去最高のEC売上高を更新。キャンペーン中の売上高は平時の約1.5倍となった。PLAY PRODUCT STUDIOにおける返品マーケティングの成功事例をEC事業部の福田省吾マネージャーに聞いた。
売上54.6%アップに成功したキャンペーンの全ぼう
オンラインでも「試着しやすい」環境を築き、購入ハードルを下げる
アパレルブランド「MAISON SPECIAL」の販路は店舗とECで、売上高は40億円規模となっている。EC化率は50%を超えており、事業成長はECが大きな役割を担う。「WOMAN」、「MEN/UNISEX」カテゴリーの商品をそれぞれ展開しており、顧客は20代後半~30代前半が多い。商品開発ではビジュアルにこだわっており、デザイン性が高い。これに加え、ハイブランドと比べると手に取りやすい価格帯であることも人気の秘訣となっている。
「MAISON SPECIAL」立ち上げから2024年で6期目となるPLAY PRODUCT STUDIO。2023年1月のECサイトリプレイスに合わせて、これまでCRMや会員プログラムの見直しを図ってきた。このとき、顧客体験向上の観点で返品マーケティングにも着手。2023年12月8日~24日に、返品送料無料のキャンペーンを実施したところ、キャンペーン中のEC売上高は平時と比較して54.6%増加した。
PLAY PRODUCT STUDIOはなぜ、顧客体験向上施策のなかでも返品マーケティングに着目し、さらに施策の反響につながったのだろうか。
「MAISON SPECIAL」が従前から返品率が高いブランドだったというわけではありません。しかし、とがったデザイン、攻めたデザインのアパレル商品が多いため、ECサイトを訪れたお客さまのコンバージョン率は高いとは言えませんでした。実際に店舗に足を運んで、実物に触れたり試着したりしてから商品の購入を考えるお客さまが少なくないからです。
そのため、購入した商品を返品しやすい環境を試験的に作って「まずは1回でも着用いただきたい」「今回を機にロイヤルティ向上を図りたい」という思いでキャンペーンを行いました。
ほかにも、「『MAISON SPECIAL』を知っているが、まだ購入したことがない」ブランドを知っているが、まだ購入したことはない」という新規のお客さまへの訴求も狙いでした。
PLAY PRODUCT STUDIOは、2023年のECサイトリプレイスと同時期に、Recustomerが提供する購入後体験プラットフォーム「Recustomer」の「返品キャンセル」「配送追跡」を導入。キャンペーンの実施はこのサービスの活用による。
ロイヤルティの高い顧客、ライトな顧客層の双方から反響
キャンペーン実施期間の返品送料はすべてPLAY PRODUCT STUDIOが負担した。こうしたコストを差し引いても、顧客からの反響は大きく、顧客のなかでもロイヤルティの高い顧客からの反響が特に良かった。
「MAISON SPECIAL」は会員を「S」「A」「B」「C」の4つにランク分けしており、年間購入金額に応じて「メンバーランク」が上がる仕組みとしている。顧客にとっては、ランクが上がるほど獲得できる特典が多くなる。
キャンペーン効果の高さは、上述した売上アップだけでなく、セット率(※)を見てもわかる。
※顧客1人あたりの平均購入点数
「MAISON SPECIAL」の平時のセット率は約1.3%となっている。返品無料キャンペーン期間中は、ランクが最も高い「S」の顧客において、「WOMAN」カテゴリーのセット率が3.6%、「MEN/UNISEX」カテゴリーのセット率が2.5%となり、ほかのランクの会員と比べても商品注文数が最も多かった。
「S」よりも下の会員ランクである「A」「B」「C」の会員メンバーでも、平時と比べるとセット率が高まっている。「MAISON SPECIAL」の場合、ランクが高ければ高いほど返品マーケティング実施時のセット率が上がりやすいようだ。当初の狙い通り、新規顧客からの注文もキャンペーン期間中は増えた。
キャンペーン中は、「どうせなら1回の注文で複数の商品を試したい」と考えるお客さまが多かったのではないかと思っています。購入のハードルを下げることができました。「S」の会員さまは特に、今まで試してこなかった系統の洋服や、購入するかどうか悩んでいた洋服をまとめ買いしてくださった印象があります。(福田氏)
返品のしやすさは試着のしやすさにつながり、売上アップにつながる
店舗同様の購入体験をオンラインでいかに再現するか
自社ECサイトでの返品マーケティングに効果を実感しているPLAY PRODUCT STUDIO。購入した商品の返品ハードルを下げることで、顧客にとってはECの商品を「試着」しやすい環境になる。福田氏は、このことがECサイトの付加価値につながると見ている。
「返品可」ということを打ち出し過ぎるとイメージダウンにつながりかねないという懸念がありますが、「試着しやすい」という訴求ができるのは良いところです。アパレル店舗ではどのお店も、試着室から出てきたお客さまが別の商品を探す素振りをしていたら、「この商品はどうですか」とスタッフがどんどん提案すると思います。それと同じことをオンライン――すなわちECでもどれだけ再現できるか、だと思います。(福田氏)
福田氏はさらに、今回「MAISON SPECIAL」で売上アップにつながったように、EC事業者にとって、返品を切り口としたマーケティングはプラスに影響することが多いと指摘する。
「返品を自社ブランドの負担とすることでコストが増える」「人的・時間的コストが負担」といった心配が先立つEC担当者は多いと思うが、売上アップにつながるアクションであることを意識してチャレンジしてみるのは良いのではないでしょうか。(福田氏)
ロイヤルティアップ+会員向けの付加価値として有用
PLAY PRODUCT STUDIOは今後も精力的に返品マーケティングを検討していく。たとえば、会員ランクが高い「S」「A」顧客への特典として返品送料無料オプションを追加し、顧客のロイヤルティアップにつなげるなど、「試着しやすい」が焦点となる付加価値を追求していく。