小林 香織[執筆] 8:00

1947年に創業、ブランド・ファッションアイテムのリユース業を核とするコメ兵ホールディングス(以下:コメ兵HD)。国内外の店舗数は301(国内273、海外28、2025年3月末時点)にのぼり、国内向けECに加え、2015年から越境ECも展開している。

2025年3月期のブランド・ファッション事業の売上高は、1530億7800万円で前年同期比133.9%、営業利益は57億1700万円で同83.0%に。不安定な相場のなか、先行投資の継続やチャネル構成比、商材構成比の変化などにより売上総利益率が低下するも、小売は順調に推移した。ECは他社運営のECモールでの販売が好調で、「eBay(イーベイ)」は前年同期比39%増と大幅に伸びた。

2025年3月には、J.フロント リテイリングとコメ兵両社出資の合弁会社「JFR & KOMEHYO PARTNERS」を設立。7月以降、松坂屋、大丸、パルコ店内に買取専門店「MEGRUS(メグラス)」を出店予定だ。事業拡大に寄与している「OMO・CMO戦略」を営業本部・オンライン事業部長の甲斐真司氏に聞いた。

ECでは約6割が「店舗取り寄せ」を利用。客単価は約3.6倍に

コメ兵HDの主要事業は、売上高構成比の96.1%を占めるリユースのブランド・ファッション事業だ。なかでも主軸となるのは法人・一般顧客へのリユース商品の仕入れ・販売で、「KOMEHYO(コメ兵)」「BRAND OFF(ブランドオフ)」「Rodeo Drive(ロデオドライブ)」の3ブランドを展開。その他事業では、「BtoBのオークションなどの運営」と「リユース商品の検品サービス」も提供する。

コメ兵では3ブランドを展開して、リユース商品を法人と一般顧客に販売する
コメ兵HDでは、ブランド・ファッション事業において3ブランドを展開し、リユース商品を法人と一般顧客に販売する(画像提供:コメ兵HD)

実店舗の展開から始まったコメ兵だが、2000年にジュエリー部門からECに参入。徐々に規模を拡大し、ブランドバッグやアパレルアイテム、時計、着物、楽器などのリユース商品を統合した現在のECサイトとなった。2020年以降は、実店舗とECを融合したOMOを推進して事業を拡大している。

「KOMEHYO」のECサイトトップ
「KOMEHYO」のECサイトトップ(画像提供:コメ兵HD)

コメ兵で扱う商品は高額なブランド品で、かつ一点ものとなる。顧客の購買意欲を促進する施策として、ECサイトでは毎日21時に新商品を更新している。閲覧数が増える時間帯であることに加え、すでに実店舗が閉店していて、売り切れのリスクを避けられるためだ。

多い日だと約1000点の新入荷商品を販売します。リユース品はそれぞれ状態が違う一点もののため、「他の人より先にチェックしなくては」という心理が働くため、21時に待ち構えてアクセスする方も少なくありません。(甲斐氏)

指定店舗への「お取り寄せサービス」も、購買率向上の施策として大いに機能している。顧客はECサイト上の気に入った商品を近隣店舗に取り寄せ、実物を見て、スタッフと相談してから購入するかを判断できる。

リユース業界における「お取り寄せサービス」の提供は、当社が先駆けだと思います。ECの売上高のうち約6割が取り寄せをしていて、利用者の成約率は約50%です。取り寄せ経由だと客単価も大幅に上がり、EC上での購入と比較して約3.6倍にもなります。

近隣に店舗がない場合は、返送料はお客さまの負担となりますが、返品可能としています。柔軟な買い物体験の提供によって、高額のリユース商品を購入するハードルを下げたいと考えています。(甲斐氏)

コメ兵の場合、EC在庫=店舗在庫となる。買い取った商品は一度、愛知の商品センターに集め、品質管理を経て各店舗に並べる。ECで購入される、あるいは取り寄せ依頼が入った場合は、各店舗からの商品配送が基本だ。

LINEを使った「1to1接客」で優良顧客を離さない

コロナ禍となった2020年以降は、OMO推進の一貫で「ウェブ接客」や「ライブコマース」など、さまざまな非接触サービスを展開。そのうち最も成果につながり、現在も続いているのがLINEを活用した「1to1接客」だ。

「1to1接客」は、優良会員向けのサービスとして、各店のスタッフが個別でコミュニケーションを取ります。それぞれのお客さまにマッチした商品の入荷や、高く買い取っている商品のお知らせなどを通じて来店を促します。一方通行のメルマガなどと異なり、「1to1接客」は返信確率がグッと上がり、接客をきっかけに来店される方が非常に増えました。(甲斐氏)

「1to1接客」のイメージ。親しみやすいメッセージで顧客と関係を築く
「1to1接客」のやりとり。親しみやすいメッセージで顧客と関係を築く(画像提供:コメ兵HD)

現在、アクティブ会員のうち約3割に対して「1to1接客」を実施している。スタッフは専用スマートフォンを所持し、担当顧客とコミュニケーションを取る。1台あたり最大30人ほどを接客し、顧客と強固な関係を築いているそうだ。

ライトな顧客向けには、コメ兵の公式LINEアカウントを活用している。「LINEログイン」の導入など顧客の利便性向上に役立てるほか、CRM戦略におけるデジタル会員基盤の強化にもつながっているという。

「越境EC」も強化。「イーベイ」は前年同期比39%増と大きく伸びる

自社ECサイトの他に、近年は他社が運営するECモールへの出店も精力的に行い、成果をあげている。楽天グループが運営する「ラクマ」、「メルカリ」、越境ECの「イーベイ」への出店は売上高に貢献しており、特に「イーベイ」は、2024年4-12月期(第3四半期累計)の売上高が前年同期比39%増と大きく伸びた。

「イーベイ」への出店は2015年に開始していて、売上高の8割以上が米国の取引です。米国では、日本人だと着こなしが難しいような派手なデザインの洋服や、日本と比べてノーブランドのジュエリーも割と売れます。また、日本と季節が真逆のオーストラリアでは夏場に冬物が売れるなども。このように日本とは異なる売れ方をする国もあるので、研究して今後に生かしていきたいですね。(甲斐氏)

北米を中心に越境ECの売り上げが伸びている
北米を中心に越境ECの売り上げが伸びている(画像提供:コメ兵HD)

2025年2月には、越境EC事業の強化を目的に、ワサビが提供するリユース特化型EC一元管理システム「WASABI SWITCH(ワサビスイッチ)」を導入した。同製品は、19の越境ECモールを含む国内外35のECモールと連携していて、地域は北米・ヨーロッパ・東南アジアなど幅広い。直近ではWalmart(ウォルマート)と日本で初めてAPI連携を行った実績がある。

以前はECモールへ出店するたびにデータ連携が必要で、開発コストがかかっていました。「ワサビスイッチ」は一度の連携で複数のECモールとつながれるため、コスト削減になるのが魅力でした。(甲斐氏)

国内よりも巨大なリユースマーケットがあり、越境ECに可能性を感じる一方で、難しさもあると甲斐氏は話す。

最も課題になるのは「配送時のトラブル」です。確実に配送しているのに「届いていない」と主張して賠償が発生したり、関税の支払いを拒否する人もいますね。配送の習慣に関する問題もあり、「置き配」文化が浸透している米国では、「高額品なので対面で届けてほしい」と依頼しても、非対面での配達されてしまうケースがあります。(甲斐氏)

現状は賠償保険でまかなっているが、保険料がかさんでしまう。今後は信頼できる配送代行業者への依頼や、関税を前払いできる設計など対策を検討するという。

グローバルZ世代を狙った渋谷、表参道の店舗も好調

高額のリユース商品の買取・販売という事業を拡大するうえでは、実店舗戦略も重要となる。コメ兵HDでは、ブランド・ファッション事業において国内外で301店舗を展開する(2025年3月末時点)。

メイン顧客は40~50代の女性です。ただ、近年オープンした実店舗は20~30代の若い世代もターゲットに設計していて、実際に若年層の来客につながっています。都心を中心にインバウンドのお客さまも増えていて、日本国内での免税比率は最新の数字で17.6%です。(甲斐氏)

コメ兵の店舗展開は、ユニークなコンセプトで話題を呼んでいる。2023年11月に渋谷・スペイン坂下にオープンした旗艦店「KOMEHYO SHIBUYA」は、各フロアのテーマを、1階「IMA」、2階「KAKO」、3階「MIRAI」、4階「RELAY」(買取・取り寄せ販売)に設定。

「KOMEHYO SHIBUYA」の外観。渋谷の街に似合うデザインだ
「KOMEHYO SHIBUYA」の外観。渋谷の街に似合うデザインだ(画像提供:コメ兵HD)
1階「IMA」には、アパレルアイテムがずらりと並ぶ
1階「IMA」には、アパレルアイテムがずらりと並ぶ(画像提供:コメ兵HD)

1階~3階は商品を時間軸で編集し、トレンドアイテム(今)、ヴィンテージ(過去)、名作や定番(未来)を展示販売、4階はバーカウンター式にした買い取りスペースや取り寄せ品を試着できるフィッティングルームなどがある。

オープンから4か月で来店者数は15万人にのぼり、Z世代の購入数はその他店舗と比較して2倍となった。初年度売上高は、計画より3億円ほど伸長した約28億円に。売り上げの約6割をインバウンド客が占めた。

2024年11月には、初のヴィンテージ専門店「KOMEHYO VINTAGE TOKYO」を表参道に構えた。一期一会の良品と出会う機会を提供する"ラグジュアリーヴィンテージクローゼット"をコンセプトに、主に20年以上前に製造されたアイテムをそろえる。近年、「ヴィンテージ」が世界的にZ世代のトレンドになっていることもあり、同コンセプトの店舗開業に至ったそうだ。

「KOMEHYO VINTAGE TOKYO」の内観
「KOMEHYO VINTAGE TOKYO」の内観(画像提供:コメ兵HD)

開業から3か月間の売上高は計画比の150%を達成し、顧客の約7割がインバウンド客だった。ヴィンテージのブランドバッグが売上の約9割を占め、なかでも「シャネル」のチェーンバッグや「エルメス」の「ケリー」といった高価格帯のアイテムがよく売れたという。

百貨店と合弁会社を設立

2025年3月には、新展開としてJ.フロント リテイリングと合弁会社「JFR & KOMEHYO PARTNERS」を設立。8月以降、松坂屋、大丸、パルコ店内に買取専門店「メグラス」を出店する計画だ。同店を通じて顧客からリユース品を買取り、それをコメ兵に売却するビジネスモデルだ。

大丸、松坂屋、パルコに買取専門店を展開、買取ったリユース品をコメ兵に売却する
大丸、松坂屋、パルコに買取専門店を展開、買取ったリユース品をコメ兵に売却する(画像提供:コメ兵HD)
「メグラス」の外観イメージ
「メグラス」の外観イメージ(画像提供:コメ兵HD)

今後の出店予定は、2025年8月に「松坂屋 名古屋店」と「大丸 東京店」、9月に「大丸 神戸店」と「博多大丸 福岡天神店」となる。

同事業におけるコメ兵の狙いは、買取チャネルを増やして良質な商品を仕入れること。同社では、百貨店を利用する顧客は基本的にブランド品と親和性が高いと認識しており、他のルートでは入手しにくい商品の仕入れに期待があるようだ。

最後に、EC事業拡大に向けた今後の取り組みを聞いた。

近年、ブランド品の相場上昇など、さまざまな要因からコンバージョン率の低下が見られます。高額のリユース商品なのでコンバージョン率はそもそも高くありませんが、検索性やデザインなどを改善して購入につなげたいところです。また、若年層へのアプローチとして、商品のなかで最も購入しやすいアパレルアイテムの強化にも注力していきます

インバウンドのお客さまへの対応としては、帰国後にも買い物をしていただけるように、来店の際に「越境EC」の案内を積極的に行いたいです。加えて、現状は多言語対応していない「お取り寄せサービス」の改善も見込んでいます。多言語で案内できれば、来日の際に利用いただけるかもしれません。(甲斐氏)

2025年3月期~2028年3月期の中期経営計画において、コメ兵HDでは2028年3月期の創業80周年に売上高2600億円を掲げる。将来的に狙うのは、ブランドリユース売上高世界No.1企業(売上高5000億円)だ。壮大な目標の達成に向け、コメ兵の進化は続いていく。

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