2025年でテレビアニメ『新世紀エヴァンゲリオン』放映から30周年を迎えた『エヴァンゲリオン』シリーズ。日本国内だけではなく海外のファンも多く、10~60代まで男女問わず高い人気を誇る。『エヴァンゲリオン』商品を販売しているECサイト「エヴァンゲリオンストア」は20周年を迎え、BEENOSグループのBeeCruise(ビークルーズ)が提供する海外向け購入サポートサービス「Buyee(バイイー)」との共同施策「EVA Fan Instrumentality Project(エヴァファン補完計画)」を実施した。施策の反響や海外ユーザーに向けた取り組み、越境ECの市況などを、「エヴァンゲリオンストア」を運営するグラウンドワークスとムービック、BeeCruiseの岩本夏鈴氏に取材した。
「デミニミスルール」で一時は不安定な状況だった越境EC市場
2025年は米国・トランプ大統領による「デミニミスルール」撤廃の影響を受け、越境EC市場は不安定な状況が続いていたという。関税撤廃の前倒し、関税率が国・地域、ルールによって異なったことで、「Buyee」のようなプラットフォーム、物流に従事する企業は「関税を何パーセントにするべきか・どのように徴収したら良いか」といったルールの整備を急ピッチで進める必要があったためだ。
「見通しが不安定な状況において、様子見をする消費者が増えてきた時期だった」(岩本氏)。しかしそれは一時的な状態で、現在は徐々に落ち着いてきているという。
こうした影響を「エヴァンゲリオンストア」はさほど受けていない。その理由について岩本氏は「商材によって傾向がある」と話す。
「エヴァンゲリオンストア」は限定販売商品やオリジナル商品が多く、日本限定でその時に購入しないと売り切れてしまう、海外ユーザーが「頑張ってでも欲しい」と思う商品が多い。円安や今回のように関税の影響で状況が読めない時は、常時売っているモノは「後で買おう」という発想になる。個数限定などは早めに購入して、いつでも買えるモノは待っている傾向があると思っている。(岩本氏)
「正規品を安心して購入できる場所を提供したい」と考え、越境ECをスタート
2019年5月から「Buyee」を導入し、越境ECを開始した「エヴァンゲリオンストア」。「IPコンテンツを扱う企業としては断トツに早い段階」(岩本氏)で越境ECをスタートした最大の目的は、「海賊版と一線を画して、正規品をきちんと購入できる場所を提供する」ためだ。
海外イベントに出展した際、大きな反響があった。その時は越境ECを運営していなかったが、海外では海賊版が出回っているという問題があった。正規品をお客さまが安心して買える場所を提供するために、「エヴァンゲリオンストア」の越境ECを始めた。(ムービック「エヴァンゲリオンストア」担当者)
「エヴァンゲリオンストア」であれば、おもちゃだけではなくアパレルや雑貨なども安心して正規品を購入できる――その状況を日本国内だけではなく、海外に向けても発信することが重要だったのだ。
最近は消費者も正規品であることを意識している。「エヴァンゲリオンストア」の越境ECを始めた当時は、「手に入るし安いから買う」という理由で海賊版を購入するユーザーも多かった。最近は公式から認められている商品かどうかを小売店も消費者もすごく意識している。小売店は正しいIPとのコラボ製品でないと扱わなかったり、消費者も本物かどうかきちんと調べてから購入したりするようになった。(岩本氏)
こうした消費者や小売店の動きもあり、安定して「エヴァンゲリオンストア」が利用されている。また、海外でも正規品を購入するユーザーが増えてきており、ここ10年ほどで海賊版の数も激減している状況だという。
年代・性別問わず幅広いユーザー層が利用。国内外で利用状況に大きな差もなし
「エヴァンゲリオンストア」のユーザー層は10~60代と幅広く、男女差もほぼないという。また、その状況は日本国内と海外でも変わらない。そのため、取り扱っている商品も特定のユーザー層に向けたものではなく、どのユーザーからも支持されるような商品を幅広く集めて販売している。
テレビアニメの放映自体は30年前だが、なぜ若年層からの支持も得られているのか。その理由はいくつかあり、テレビ再放送も多かったことや、2007年には庵野秀明総監督によるリブート作『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:序』が劇場公開され、以降2021年公開の『シン・エヴァンゲリオン劇場版』まで新作が供給されている状況があり、コンスタントに続いている作品であることがあげられる。また、配信サービスやサブスクリプションサービスの増加で、どの年代でも『エヴァンゲリオン』の作品に触れやすくなっていることもある。
若年層ユーザーの増加の要因について、グラウンドワークスは「アパレルや、若年層向けのファッション、コラボなどを中心に紹介していることもある」と話す。
「エヴァンゲリオンストア」ならではの取り組みを20年続けてきたなかで、商品やアパレルなどに興味がある、『エヴァンゲリオン』らしいテイストを取り入れたファッションなどに若年層のユーザーが興味を持ち、ファンになってくれたのだと思う。
今は昔のように「アニメは子ども向け」といった心の垣根もなくなって、若い世代の人たちがどんどん入ってきているし、他の国内IPも海外からの評価が高くなってきている。「エヴァンゲリオンストア」としてめざしていた「格好良いアニメ、ファッションを届ける」ことを続けてきたことで、幅広いファン層から支持されるようになったのではないか。(グラウンドワークス)
ユーザーの情報収集ツールはXが最多。海外ユーザーは翻訳機能を活用
「エヴァンゲリオンストア」では、雑貨やアパレル、フィギュアなどさまざまな商品を販売しているが、海外ユーザーはどのように情報収集を行っているのだろうか。
ムービックによると「流入はXからが最も多い。また、『エヴァンゲリオン』のオフィシャル情報サイト『エヴァ・インフォメーション』もよく見られているようだ。インターネットの拡大で、お客さま自身が公式から情報を得られるため、国内外で情報収集の方法に差はないと思う」。
海外ユーザーも多い作品だが、Xにおいて英語で発信は行っておらず、ユーザーが各自でXやGoogleの自動翻訳機能を活用して、情報収集を行っているという。
商品の購入に関しては、国や地域によって傾向が異なるという。商品の購買額で見るとアジアが高く、欧米からの購入もあるが「グッズが欲しい」という傾向はアジアの方が高い。商品としては雑貨や新商品、30周年記念アイテムの人気が高い。
海外ユーザー向けに特別な施策は実施せず。「日本らしさ・日本でしかできない楽しみ方を海外にも提供していく」
越境ECにおいて、海外ユーザーに特化した施策などを行う企業も多いかもしれない。しかし「エヴァンゲリオンストア」では、海外ユーザー向けに特別な施策を行っていない。「良い意味で、日本国内と同じ取り組みを行い、それを海外のお客さまにも支持してもらえるようにしている」(ムービック「エヴァンゲリオンストア」担当者)。
その背景には、「お客さまに支持してもらえる、プライオリティの高い店舗をめざしており、それをそのまま海外のお客さまにも認知してもらいたい」という考えがある。
公式ストアであること・正規品であることは、国内に向けても意識しており、定価販売をしている。余ったモノを処分して商品価値を下げているようなイメージになってしまうので安売りは行わない。
特に『エヴァンゲリオン』をはじめとした国内のアニメ業界は、「日本らしさを海外に認めてもらいたい」と思って、海外でも店舗を運営したり、アニメーションの高品質なところを日本らしさとして発信したりしていると思う。日本の良いところを海外の人に見せたいし、海外の人にも求められているところなのではないだろうか。日本らしさや、国内で頑張って実施している日本でしかできない楽しみ方の提供を、海外にもそのまま提供することが特長だろう。(グラウンドワークス)
海外ユーザーの認知拡大を目的として「Buyee」との共同施策を実施
ムービックは、2025年6月1日~9月30日まで、『エヴァンゲリオン』の海外ファン向けのキャンペーン「EVA Fan Instrumentality Project(エヴァファン補完計画)」をBeeCruiseと共同で実施。期間中に「エヴァンゲリオンストア」から「Buyee」を利用して公式商品を購入した海外ユーザー限定で、オリジナルノベルティをプレゼントするというものだ。
施策を実施した一番の目的は、海外ユーザーへの「エヴァンゲリオンストア」の認知拡大だ。それまで海外ユーザーに特化した施策をあまり行っておらず、「海外のお客さまにもっと『エヴァンゲリオンストア』を知ってもらう、楽しんでもらうことを目的として実施した」(ムービック「エヴァンゲリオンストア」担当者)。
また、30周年という節目を迎えたことを受け、このタイミングで戻ってきているユーザー層に向けた取り組みでもあるという。
キャンペーンを行った結果、認知拡大や新規ユーザーの獲得につながった。また、海外ユーザーがどのようなノベルティをもらえると喜ぶのかを知る機会にもなったという。キャンペーンは海外ユーザーからも好評で、「今回の反応を今後の取り組みに生かしていきたい」(ムービック「エヴァンゲリオンストア」担当者)と話す。
購入特典でノベルティがもらえる施策は、日本国内では多く実施されているものだ。しかし、海外ではセールの方が圧倒的に強く、「安くすること」を求められるという商習慣があり、「日本のように購入特典やノベルティをつけるという、プラスアルファの付加価値を付けるという売り方はされていない」(岩本氏)。
個人的には、海外における購入特典の文化は最近流行ってきたと思っている。海外のお客さまにもそういった意識が少しずつ芽生えてきていたので、需要はあるだろうと予想して今回のキャンペーンを実施した。(ムービック「エヴァンゲリオンストア」担当者)
実店舗とはポイント制度を連携。来日海外ユーザーには免税利用で限定ノベルティを配布
「エヴァンゲリオンストア」はECサイトだけではなく実店舗も出店。東京・池袋にある「EVANGELION STORE TOKYO-01」では、2025年からECサイトとポイント制度の連携を実施。ECサイトでの購入時に付与・貯めたポイントを実店舗でも利用できるようにした。実店舗で貯めたポイントをECサイトで利用することも可能だ。
ポイント制度の連携で、リピーター増加につなげたい考えだ。国内旅行で池袋の実店舗を訪れた日本人旅行客に自宅へ戻ってからECサイトを利用してもらい、リピーターになってもらう。
越境ECではポイント制度に対応していないが、訪日海外旅行客が実店舗を訪れた際は、「越境ECで『エヴァンゲリオンストア』が利用できる」ということを知ってもらい、各ユーザーが帰国してからも「エヴァンゲリオンストア」を利用してもらえるようにしたいという。
訪日海外ユーザーが実店舗で免税を利用して商品を購入した場合は、限定ステッカーを配布する施策を実施している。この取り組みは「エヴァンゲリオンストア」で越境ECを開始したころと同時期にスタート。「越境ECを始めた頃から海外に目を向けていたことや、実店舗はインバウンドの増加もあり、取り組みを開始した」(グラウンドワークス)。
池袋の「EVANGELION STORE TOKYO-01」だけではなく、国内にある「箱根湯本 えう゛ぁ屋(神奈川県・箱根)」「RADIO EVA STORE(渋谷)」や各地の「アニメイト」において、「エヴァンゲリオンストア」への誘導ポップなどを設置し、実店舗における認知拡大も促進している。
今回の企画の反響を生かし、海外ユーザー向けの施策を実施予定
今後の取り組みについて、ムービックの「エヴァンゲリオンストア」担当者は、「まだ具体的な施策内容は検討中だが、今回の施策の反響を踏まえて、より海外のお客さまを取り込んでいけるような施策を行っていきたい。30周年を経てよりアプローチできたら」と話す。
岩本氏は「越境ECでは、ノベルティのサイズが大きいと配送費が高くなってしまうといった課題などもある。今回の取り組みを踏まえ、海外のお客さまにも喜んでいただける、輸送上の問題もクリアできるような施策を一緒に進めていけたら」と言う。
越境EC全体の今後について、岩本氏は「越境EC自体が日本から世界だけではなく、世界から世界へモノが飛び交う状況になる」と予測する。
全世界で消費者の越境ECへの期待度が高くなってくる。「これくらい仕方がない」という感覚から「こうしないと不愉快になる」というレベルのことも起きてくると思うので、利便性をどれだけ上げるかが重要になる。BEENOSとしては、お客さまがさまざまな買い方ができるようにする、日本企業の皆さまが海外に進出しやすい状況を作っていくことが大切だと思っている。(岩本氏)
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