藤田遥 2019/12/24 9:00

「100円以下の利益でフリマアプリに出品する利用者の意識・実態調査」発表会が12月5日にメルカリで行われた。マーケティングライター/世代・トレンド評論家の牛窪恵氏、メルカリ利用者の三輪めぐみさん、メルカリCommunityチームマネージャーの上村一斗氏が「メルカリの利用者心理」などについて語り合った。

出品物が売れる=ストレスからの解放

今回の調査結果の骨子は以下のとおり。

  1. 調査対象者全体の約4人に1人(22.0%)が3回に1回の頻度で100円以下の利益で出品している。
  2. 特に少額取引利用者は、フリマアプリの利用目的で「捨てることがもったいない」と回答した割合が高額取引利用者より約2割高い
  3. 出品物が売れた瞬間の感情では少額・高額取引利用者を問わず「嬉しい・楽しい」という回答が約7割に。そのうち、約6割の少額取引利用者が「使える物を捨てる罪悪感がなくなる」と回答
  4. 「どのような時に自身の承認欲求が満たされると感じるか」という問いに対しては、全回当者の約7割が出品物が売れることで承認欲求を充足している結果に。また、「フリマアプリで出品した商品が売れること」による充足感は「SNS投稿にコメントが入ること」より約15%高い結果になった。
  5. 約6割の少額取引利用者が「フリマアプリへの出品にハマっている」と回答。
  6. 全回答者の約5割以上が「フリマアプリ利用後に身の回りの売れる物を探し始める」と回答。

上記の結果を受け、牛窪氏は以下のように分析した。

もともと少額取引利用者の方は物を捨てることに対する罪悪感が強く、社会的貢献欲求が高く、サステナビリティ志向を持っているのではないだろうか。

フリマアプリ利用者の約7割が「出品物が売れると嬉しい・楽しい」と感じており、その中でも少額取引利用者の約6割が「使える物を捨てる罪悪感がなくなるから嬉しい」と思っている。その理由は、「フリマアプリに出品した物が売れる=嬉しい」という体験をもう一度味わいたくなる、そのために身の回りの売れる物を探し始め、利益が低くても出品するという循環を生み出しているからではないだろうか。

物を捨てる罪悪感はマイナスの感情だが、出品した物が売れることにより嬉しい・楽しいといったプラスの感情を生み出す流れができており、この流れが生まれたことがフリマアプリの大きな特徴であり、メリットではないだろうか。2年ほど前から“メルカリハイ”という言葉が生まれた程、この流れは大きいものだと思う。

商品が売れることによる経済的な動きもあるが、ストレスから解放されるという心理的にプラスに働く効果があり、経済的な観点とは別の価値を生み出しているのではないか。

メルカリ mercari フリマアプリ 調査結果 牛窪恵
マーケティングライター/世代・トレンド評論家の牛窪恵氏

メルカリがライフワークに

出品数1093件、取引件数951件というメルカリのヘビーユーザー三輪めぐみさん。三輪さんは2児の子を持つ専業主婦。メルカリを始めたきっかけは「妊娠時の暇つぶし」だったという。

メルカリ mercati フリマアプリ ヘビーユーザー
メルカリヘビーユーザーの三輪めぐみさん

もともと物を捨てることへの罪悪感が強い性格だったんです。子供がいても手軽にできるフリマアプリはないかな、と探していた時にメルカリに出会いました。

当初は儲けるつもりはまったくなかったという。しかし、今では5年に1回ほど海外旅行に行けるほどメルカリで物を売っている。

以前、飲食店を経営していましたが、体調を崩してしまったんです。そんな時メルカリをしていたら、もう一度自分のお店を経営している気持ちになれた。それがメルカリにハマった理由です。「仕事何してるの?」と聞かれたら「私の仕事はメルカリ」と言いたい程ハマっています。

牛窪氏の解説を聞き、三輪さんは実感したという。

売れた時は自分を認められた気持ちになります。昔好きだったブランドの服が当時よりも少し安い値段で売れると「自分の趣味が認められた!」という気持ちになります。衣替えの時に服が飛ぶように売れると「ゴミ箱に運ばなくて済む」という気持ちになり、すっきりします。

商品を出品しようと思うタイミングについては、「押し入れの中に100円あったら拾うかそのまま放置するか考えて、100円になるなら出品します」と語る。

数あるフリマアプリの中でメルカリを選んだ理由は、「メルカリは何か問題が起きると、事務局の方が出品者と落札者の間に入って迅速に対応してくれるので、主婦でも安心して簡単に使える」という。

三輪さんは最後に笑顔でこう締めくくった。

メルカリは趣味でありライフワークになっています。

メルカリに出品した物が売れて、失恋の気持ちがすっきりした

牛窪氏とメルカリの上村氏が行ったパネルディスカッションでは、上村氏が実際にユーザーから聞いた話などを交えつつ語り合った。

空いた時間に素敵な商品との出会いが生まれる

モデレーター:4人に1人が少額取引利用者という結果でしたが、ユーザーにそういった動きを感じましたか?

上村氏:メルカリを長く続けている方は利益はそんなに重視していない、という意見をよく聞きます。特にハンドメイド商品を出品している人は、利益より信頼や評価が残高のように貯まるのが嬉しいと聞いていて、少額利用者の方がいるのを実感しています。

牛窪氏:今はちょこちょこ買いをする人が増えていますね。フリマアプリのように、少し空いた時間にチェックできる便利なツールを通して良い商品に出会えるので、捨てることを楽しんでいる出品者が増えているのかな、と感じます。

男性ユーザーが参入しやすいシステムに

モデレーター:利用者のうち6割が女性で、少額取引利用者を年代別に見ると20代、30代が多いのは、メルカリ利用者全体の傾向と一致しているかな、と思うのですが。

牛窪氏:男性はヤフオクが多くて、メルカリにはあまり出品していないと思っていました。

上村氏メルカリへの出品に対するハードルが下がっているんだと思います。本や化粧品などはバーコードを読み取ると情報がサジェストされて、簡単に出品できるシステムになっているんです。メルカリ講習会で参加されている男性の方を見ると、出品したい商品として本を持ってきている方が多いですよ。

メルカリ mercari フリマアプリ ユーザー体験談 ストーリー
メルカリCommunityチームマネージャーの上村一斗氏

コミュニケーションが密にとれるフリマアプリ

モデレーター:「売れた時に嬉しい」という回答が多いのですが、ユーザーからそういった意見を聞きますか?

上村氏:メルカリでは誰かに発送して受け取ったところ、評価されるところまでの状況が確実にわかるので、よりリアルに誰かに貢献しているということが感じられるんだと思います。

牛窪氏:他のフリマアプリも使ってみましたが、メルカリはコミュニケーションの面が強いですね。メルカリ社員の約4割がカスタマーサポート要員ということが大きいと思います。利用者の人となりがよく見えるので「もっとコミュニケーションをとってみたい」「色々な形でつながりたい」という余韻を残すやり取りが、女性がハマる理由だと思います。儲かったと思うことより、自分が作業をして評価されることへの喜びがあると思いますね。

メルカリを通して褒められると感じられる

モデレーター:承認欲求が満たされるという回答に対してどう思いますか?

上村氏:イベントである男性にお会いしたんですが、その方は彼女にもらった大切なスニーカーがありましたが、別れてしまってすごく落ち込んでいたんです。玄関にあるスニーカーを見たら衝動的に「捨ててやろう」と思ったが、物に罪はないしスニーカーに愛着があった。そんな時に友人からメルカリを勧められたので出品してみたら売れた。その時、「失恋の悲しみがすっきりした」とお話しされていました。「失恋した時にスポーツをするとすっきりする」という話がありますが、メルカリでも似たような体験ができるんだなぁと感じましたね。

特に男性は30代頃になって周囲から褒められる機会が少なくなってきた時に、メルカリの中では褒められているような感覚になれるのだと思います。

牛窪氏:以前別の調査で、20代、30代の方に「職場でどんな時に認められていると感じるか」と聞くと、お給料が上がった時より「人に褒められた時」という結果がありました。それだけ自分に自信がない。主婦だとなおさらで、昔は仕事で褒めてもらえたのが家の中だと褒めてもらえない状況になる。そんな中、出品物が売れることで人から認められた気持ちになれる。メルカリではSNSと違って“接待いいね”ができないので、他人からの正直な評価が、承認欲求を認められやすいのだと思います

上村氏と牛窪氏による対談では、メルカリ利用者のエピソードを交えて語られた

変化する令和の消費者心理

「お金として価値がなくても売れるんじゃないか」と思って探す

モデレーター:“メルカリハイ”になる心理状況について、実際のユーザーである三輪さんにお聞きしたいのですが。

三輪さん:「身の回りで売れそうな物を探すようになった」というのは本当に実感します。以前、川で拾った流木を出品したらすぐに売れたことがありました。「お金として価値はなくても売れるんじゃないかな」と思って探してしまいます

牛窪氏:誰にでも売れる物やブランド価値、希少価値がある物が売れると思いますが、値段が付かなかった物にまで価値が出るのは経済的なプラスになりますね。

売ることを前提とした買い方、使い方に変化した

牛窪氏:今の若い人たちは「値崩れしない」ということを考えて買い物をしますね。綺麗に使ったり、ブランドタグもきちんと取っておいたり。

上村氏:確かに、商品の箱や説明書だけ出品されています。そういった物を商品だけ持っている方が買うんですよね。それで全て1つにまとめて出品する、という方がいました。

商品にまつわるストーリーが結果につながる

モデレーター:調査全体の感想をお願いします。

牛窪氏:メルカリを3年ほど前に使い始めましたが、使ってみないとわからないことがありますね。使ってみると“メルカリハイ”になる理由やマーケティング的に見て面白いことがあります。例えば、ラグビー日本代表のユニフォーム。ラグビーワールドカップが終わったら、たくさん出品されるんじゃないかな、と予想していたのですが、意外と出品もなく値崩れがなかったんです。それは、商品に込められた思い出を捨てたくない気持ちがあると思います。

フリマアプリ市場は利用用途が広がる分野だと思っています。売ることを前提とした消費行動は、企業の方から見たら商品開発に役立つと思います。あるお母さんはメルカリに出品することを通じて子どもにお金の訓練をさせていました。

上村氏:ユーザーと接していて感じたのは、「出品物にストーリー性がある方が結果につながる」ということです。出品物にまつわるエピソードをエモーショナルに書いている方は売れている気がしますね。利用者増加に向けて、もっとお客様独自のメルカリストーリーを発信していけるような取り組みができるよう、頑張っていきたいと思います。

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