藤田遥 2020/10/6 9:00

新型コロナウイルス感染症拡大による「新しい生活様式」は、人々の物や消費に対する意識に変化を生じさせているのか――。メルカリが行った調査によると、中古品に対する抵抗感が増えたため購入の機会が減った一方、不要品を売る意向は増えたという。

この結果を受けて、武田洋子氏(三菱総合研究所 政策・経済研究センター センター長)、メルカリの小泉文明氏(メルカリ 取締役 President)、田原純香氏(メルカリ Branding team manager、ESG lead)の3名が「ポストコロナの消費意識」「ポストコロナの経済・社会と、二次流通・フリマアプリの役割」の2つをテーマにディスカッションした。

ポストコロナの消費意識について

コロナが自身のライフスタイルや消費について考えるきっかけに

田原純香氏(メルカリ Branding team manager、ESG lead 以下、田原氏):今回の調査結果を「ポストコロナの消費意識」という観点から見て、一番興味深かった点は?

メルカリ フリマアプリ フリマアプリ利用者・非利用者調査 調査結果まとめ
「2020年度フリマアプリ利用者と非利用者の消費行動」調査結果のまとめ
(画像はメルカリの調査結果発表会資料から編集部がキャプチャ)

小泉文明氏(メルカリ 取締役 President(会長) 以下、小泉氏):調査内で「どちらかといえば当てはまる」と回答するライト層が、今後の消費の変化内でどのように動いていくのかを注視しています。

コロナ禍で「家の中を整理整頓したい」というニーズが多かったと思います。メルカリで言えば、利便性や安心・安全性をより訴求していくことで、ライト層をどれだけ利用頻度の高い層にできるかという点が重要ですね。

メルカリ フリマアプリ フリマアプリ利用者・非利用者調査 取締役 President 小泉文明氏
メルカリ 取締役 President(会長)の小泉文明氏

武田洋子氏(三菱総合研究所 政策・経済研究センター センター長 以下、武田氏):ライト層へのアプローチに対するヒントが結果に現れています。「もったいないという感覚の軽減」「売ることを前提に購入できるため、高いモノを買える」「選択肢の拡大」「副収入」「時間の節約」、5つのメリットが明確に現れていると考えます。

この5点をどれだけライト層のユーザーに実感してもらえるか、伝えるかということが、利用頻度の高い層への移行につながるのではないでしょうか。

田原氏:2019年の結果と最も差が現れたのは、モノや消費に対する意識。「他人からどう思われても自分が良いと思うモノを買いたい」と「良質なモノだけが欲しい」という回答が高まりました。

小泉氏:私自身の経験も踏まえて、改めてコロナ期間中に自分のライフスタイルや消費について振り返る・考えるきっかけになったのではないかと思います。

「こんなにモノを持っている必要はあるのか?」と考え、自分にとって本当に価値のあるモノや心地の良いモノだけを手元に残しておいて、「ほとんど使わないモノは使える人に渡したい」と考える人が多かったのではないでしょうか。

武田氏:「他人からどう思われても自分の欲しいものを買う」という回答の多さに驚きましたが、これは経済の原理で「他人と好みの違いがあるからモノを交換する」そこから市場が構築されるんです。

フリマアプリの登場によって、今まで諦めていたモノを諦めずに済むようになっているかもしれない。消費市場のロングテールの下の部分を、個人がより顕現化・追求できるようになっているのかもしれません。

メルカリ フリマアプリ フリマアプリ利用者・非利用者調査 三菱総合研究所 政策・経済研究センター センター長 武田洋子氏
三菱総合研究所 政策・経済研究センター センター長の武田洋子氏

「賢く消費したい」気持ちが表れている

田原氏:「中古品に対する抵抗感が高まっている」一方、メルカリ利用者で購入者・出品者ともに増えていますが、このギャップは何でしょう?

小泉氏:仮説ですが、コロナによって安心・安全性などに対して少し懸念される方が多いということからこの結果が出たのかもしれません。

先行きが見通せない中で、「賢く消費をしたい」「中古品であることが気になるが、この商品ならフリマアプリで買っても大丈夫なのではないか」という意識があって、利用者が伸びている部分はあるのではないでしょうか。

武田氏:私は仮説が3つありまして、1つ目は「収入が減ったので、少しでも稼ぎたい」ということ。2つ目は「テレワーク」。「自宅にいる時間が長いので、不要なモノがより目に入る」「椅子など足りないモノを購入したい」という気持ちが生まれると思います。3つ目は、コロナをきっかけに世界の社会課題について考えるようになり、リサイクル意識などが高まったのではないでしょうか。

ポストコロナで二次流通・フリマアプリが果たす役割とは

不確実性と向き合う社会になる

田原氏:「ポストコロナの経済と社会」における二次流通、フリマアプリの果たすべき役割についてお聞きします。まず、三菱総合研究所さまが発表した「ポストコロナの世界と日本」というレポートで、今後の3つの潮流を提言していました。こちらについて簡単にご説明をお願いします。

武田氏:ポストコロナ社会を考える際「従来のトレンドが加速する要素」「新たに出現した潮流」「従来の『当たり前』の価値を再評価するモノ」この3つの軸で考察。結果として大きく3つの事柄に集約しました。

1つ目が「持続可能性の優先順位の上昇」。今まで世界の課題やSDGsなどを自分事化して捉えていなかった方が多かったと思いますが、感染症や気候変動などにより「持続可能性」について真剣に自分事のように考えるようになった。

2つ目は「集中から分散型へ」。これは個人・企業ともに皆で集まることが必ずしも安全ではなくなり、テレワークなどによって分散するようになった。企業もサプライチェーンの問題が起きて、より分散して在庫を持つようになりました。

3つ目が「デジタルの加速とリアルとの融合」。デジタルは元々あったトレンドですが、さらに加速するでしょう。一方で、ずっとテレワークを続けていたが故に、リアルでのコミュニケーション、その土地の空気を肌で感じることの大切さなどの価値が上がったと思います。

メルカリ フリマアプリ フリマアプリ利用者・非利用者調査 三菱総合研究所 レポート ポストコロナの世界との本
三菱総合研究所が2020年7月に発表したレポート「ポストコロナの世界と日本」
(画像はメルカリの調査結果発表会資料から編集部がキャプチャ)

田原氏:C2Cのサービスについて、消費者意識の変化についても触れていましたが、どういった変化を捉えられているんでしょうか?

武田氏:「地球が持続していかなければいけない、そのために消費者1人ひとりの行動を変えていかなければいけない」と意識し始めたと思います。大量生産大量消費の社会から、モノの循環型社会がより形成されていく、実現していく方向が見えてきたかなと思っています。

田原氏:メルカリ内でも「循環型社会への意識が高まってきているのではないか」という話があがりましたが。

小泉氏:コロナで「不確実性に向き合う人類」という大きなテーマがあると思っています。私たちは心の中で「不確実なモノが怖い、それを避けたい」という思いがあり、それを回避する、備える意識が生まれてきている。そこを個人がスマホなどでネットワークやプラットフォームにアクセスできるテクノロジーが後押ししできると感じています。

コミュニティ内やコミュニティ間の理解が大事

田原氏:ポストコロナにおける二次流通、フリマアプリが果たすべき役割についてお聞きしたいと思います。

小泉氏:私たちは生活の中でモノを消費し、その時々で必要なモノを売買しています。ライフスタイルは多様化しており、必要なモノや価値も不変ではありません。

私たちはメルペイという決済サービスも含めてフリマアプリを提供しており、そこで得たデータを連係することで一次流通と二次流通をつなげていこう、という話をしています。一次流通の人に対して二次流通の情報を渡すことにより、マーケティングや生産力など色々なことを最適化する。

フリマアプリだけで完結するのではなく、一次流通を含めた消費全体を最適化することで、社会全体がより健全にリニューアルされていくと思います。

武田氏:消費の最適化と同時に、作る方、供給の最適化もあると思っています。たとえば素材を提供できる人、加工ができる人、モノを売るのが得意な人、それらがプラットフォーム上でさらに協業できたら、多様な消費者・商品の最適化を、モノを作る過程でも最適に行えるようになるかもしれません。

そうすると多様・多品種なものが世の中に生まれて、時代によって異なる好みに応じて持つモノを変えていくことができる。結果、財やサービスが循環する社会が生まれ、持続可能な世界を構築していくと思っています。

田原氏:最近、D2Cも増えていますが、個人の価値観に応えていく、これがP2Pでバリューチェーンが作られていく。

小泉氏:コミュニティ内やコミュニティ間は凄く大事。その裏側にあるのはストーリーです。自分の価値観にストーリーの文脈にある商品が合っているかどうか、コミュニティに入りたいかどうかがないと今後、消費者は振り向いてくれないでしょう。一次・二次どちらの観点においても大事なことだと思っています。

三菱総合研究所のレポート「ポストコロナの世界と日本」から循環社会の実現について
(画像はメルカリの調査結果発表会資料から編集部がキャプチャ)
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