公文 紫都 2020/10/7 9:00

2020年9月期の売上高が前期比2倍で推移したメンズスキンケアブランド「BULK HOMME」を展開するバルクオム。9月7日にニッセイ・キャピタル、丸井グループ、DIMENSION、きらぼしキャピタルを引受先とした第三者割当増資、および日本政策金融公庫などからの融資を合わせて総額約15億円の資金調達を発表。「国内マーケティングの強化」「CRM部門の体制強化」「グローバル展開の推進」に充当する予定だ。

「メンズスキンケア市場で国内No.1は見えてきた、目標は2028年までにグローバルNo.1シェア」と公言するのはバルクオムの野口卓也代表取締役CEO。どのようなグローバル攻略の道筋を描いているのか、話を聞いた。(聞き手:ネットショップ担当者フォーラム編集部 公文 紫都、取材日:2020/9/15)

俳優・木村拓哉氏起用のテレビCMが大きな反響

編集部:2020年9月期の売上高は前期比2倍と好調に推移しています。その要因についてどのように考えていますか?

野口卓也氏(以下、野口氏):5月から俳優の木村拓哉さんを起用したテレビCMの放映を開始しました。この反響が非常に大きく、特に小売店での売り上げが伸びました(2020年8月時点で全国約1300店舗以上で販売)。

放映を開始した5月時点は緊急事態宣言下で、一部エリアの実店舗しかオープンしていない状況でしたが、それでも卸売上ベースで売上記録を作りました。その後、緊急事態宣言が解除され、さらに飛躍的に伸び、結果的にEC販売含めて期初の目標であった売り上げの前期比2倍を達成できたというところです。

編集部:バルクオムはデジタルマーケティングに強い会社という印象ですが、テレビCMを始めた理由を教えてください。

BULK HOMMEの商品群。白と黒を基調にシンプルで洗練されたブランドイメージが男性から支持される
BULK HOMMEの商品群。白と黒を基調にシンプルで洗練されたブランドイメージが男性から支持される(画像:Webサイトからキャプチャ)

野口氏:2019年までは社内外で「うちはデジタルマーケティングの会社だ」とハッキリ明言するほど、デジタル一辺倒でやってきたメーカーです。最終的な目標は「メンズスキンケアブランド世界シェアNo.1」。まずは「国内No.1シェア」をめざしていくにあたって、今まで取り組んでいなかったチャレンジも積極的にやってきたい、と思ったのが一番の理由です。

テレビCMは以前から興味を持っていましたし、日本ではまだオフラインのメディアも強いので、企画、キャスティングなどいろいろな歯車がかみ合ったタイミングでトライしました。

編集部:今回調達した資金の使途として、「国内マーケティングの強化」があげられています。具体的には、どの程度マーケティング予算を増やしていく予定ですか?

野口氏:デジタル広告もオフライン広告もよりボリュームを出していく予定で、マーケティング予算としては、前年比倍以上で考えています。

コールセンターの対応件数が半減、AI音声応対を年内に本格導入

編集部:資金調達の2つ目の使途として「CRM部門の体制強化」をあげていますが、CRM部門の現状と、どのような形で体制強化をしていく予定か教えてください。

野口氏:今回コロナ禍で在宅時間が増加したことで、入浴時間や鏡との接触頻度が増え、またマスクの着用で肌荒れした方もいるなど、男性もスキンケアに対するニーズが高まった印象です。実際、バルクオムを利用するお客さまも増えました。しかし、急激にニーズが高まった結果、お客さまからのお問い合わせに対応しきれないという問題が発生し、カスタマーサポートがパンク寸前までいくなど、多大なご迷惑をおかけしました。

そのためまずは「人材採用」と、問い合わせ対応を強化するための「オートメーションサービス」の導入に資金を充てる予定です。その先で、データ分析やデータマーケティングなど、よりCRMを強化するための投資に充てたいと考えています。

バルクオムのオフィスで取材に応じる野口卓也代表取締役CEO
2020年3月に移転したばかりのバルクオムのオフィスで取材に応じる野口卓也代表取締役CEO

編集部:「オートメーションサービス」の導入について詳細をお聞かせください。

野口氏:7月からテスト導入しているのですが、お客さまから電話で問い合わせがあった場合、最初から最後まで100%、AIが応対するというものです。AIによる応対であれば人手を必要としないので、お客さまをお待たせすることがありませんし、コールセンターの対応件数が半減するといった運用面での効果もありました。一部をオートメーションできるだけでも、全体効率は大きく変わりますね。

編集部:今後、本格導入の予定もありますか?

野口氏お客さまに電話越しでお伝えいただく住所をAIが取りこぼしなく認識できることがわかりましたし、お客さまからの反応も良いので、年内に本格導入予定です。AIが応対するためのスクリプトが用意できていないような複雑な問い合わせがあった場合には、そこからオペレーターにつなぐという形で、AIと有人対応を使い分けて運用を続けていく予定です。

2021年中に海外展開拡大を検討

編集部:資金調達の使途3つめは、「グローバル展開の推進」ですね。

野口氏:はい。2013年に事業として立ち上げた頃から、ずっとグローバル志向で展開してきました。日本発のメンズスキンケアブランドを、2028年までに世界に通用するブランドに育てることが目標です。

現状は、2017年から台湾での展開をスタートしているのと、2019年に中国でも販売を始めています。両方ともオンラインを中心にしており、台湾は特に安定した販売状況が続いています

編集部:中国での展開状況についてはどうですか?

野口氏:Taobao mallを中心に2019年から販売を開始していますが、一部のSKUは許認可が降りていない状況です。待っている間にコロナウイルスの感染状況が拡大してしまい、現状は何歩か進んで、一歩下がって……というような状態です。もう少し状況が落ち着き、マーケティングを強化できるようになったら、一気に中国市場も踏み込めるだろうと思っています。

Taobao mallで販売しているBULK HOMME製品
Taobao mallで販売しているBULK HOMME製品(画像:サイトからキャプチャ)

編集部:国内はリテールでの販売も行っていますが、なぜ海外ではオンライン中心で展開しているのでしょうか?

野口氏:もちろんリテール展開も考えていないわけではないが、これまでの経験から、デジタルのチャネルを進めていると、自然とオフラインの販路から良いお話をいただけることがわかっています。たとえば、何千万円と広告投資をして何万人へのブランド認知を作ったら、そのうちの何人か化粧品のバイヤーがいてお声がかかるというイメージですね。つまり、「仕入れてくれれば売れる」という状況を作れた時には、自然とリテールも伸びていくんです。

ですから今、「中国全土で展開しましょう!」というお話をいただいても、まだ中国でブランドエクイティが築けていない状態なので、むしろ不安だなという思いもあったりします。まずはデジタル先行で、一定の規模になったらリテールでも展開していくことになると思います。

編集部:その他の国での展開についてはどうでしょうか?

野口氏:まだ決まっておりませんが、2021年中には米国で展開ができれば良いなと思ってます。こちらも他国と同じく、現地のディストリビューターを探し、まずはオンライン中心の展開になると思います。

全体売上の8割はオンライン経由

編集部:現在の、国内におけるチャネル別売上構成比を教えてください。

野口氏オンライン8割に対し、オフライン2割になります。Amazonにも卸売りをしており販売比重は大きいですが、Amazonの売り上げはオンライン売上に含んでいます。

編集部:オンラインとオフラインの売上比率については、意識的に作っているものですか?

野口氏:特に意識的にオンラインを高めよう、オフラインを高めようと考えているわけではなく、総合的に見たときに全体売上が伸びていればOKと考えています。

編集部:今後のリテール展開についてはどのようにお考えですか?

野口氏:2020年10月15日からマツモトキヨシグループ、ココカラファインで全国展開を開始します(※全国1,371店舗で販売予定)。また、将来的にはコンビニエンスストアでの展開もあるかもしれませんが、現状は平均単価2,000~3,000円の当社のアイテムを販売するのはミスマッチな気がしているので、たとえばサイズを小さくして単価を下げるなどの工夫ができれば可能性はゼロではないと考えています。

バルクオム オフラインでの接点作りにも注力する。9月下旬には3日間、「スパラクーア」など有名サウナ店にてBULK HOMMEのアメニティブースを設置。プロデュースしたオリジナル入浴剤を使用できるイベントを実施
オフラインでの接点作りにも注力する。9月下旬には3日間、「スパラクーア」など有名サウナ店にてBULK HOMMEのアメニティブースを設置。プロデュースしたオリジナル入浴剤を使用できるイベントを実施した(画像:バルクオム提供)

編集部:サブスクリプションサービスの会員数と、平均継続回数を教えてください。

野口氏:現状は、オンライン売上の6割を、サブスクリプション会員様に支えていただいています。アクティブな会員数については非公開ですが、累計で20万人以上がサブスクリプションサービスに加入しています。年間の平均注文回数は、6.5回です。

編集部:約2か月に1回ペースですね。

野口氏:はい、理想的には毎月買って頂きたいですが、ライトユーザーはまだ、朝晩毎日しっかり使うという感じではないので、平均すると2か月に1回の購入になっています。

編集部:男性の場合、BULK HOMMEが初めてのスキンケア体験という方も多いと思います。効果を実感いただくための「正しい使い方」など、継続的な利用を促すための啓蒙が大事なのかなと思いますが、何か工夫されている取り組みはありますか?

野口氏:まず定期購入の初回の同梱物に、お手入れ方法をご案内するブックレットを入れています。その後はクロスセルを見越しつつ、メールやLINE@などで、定期的にベーシックなスキンケア情報を発信しています。

編集部:メールやLINE@を使っているということですが、中でも反応が良いCRM施策は何でしょうか?

野口氏メールの反応が良く、開封率は40%程度あります。当社がお送りしているメルマガは、効果的なスキンケアの方法など、「開いてもらうことに価値を感じてもらいやすい」内容になっているのが、開封率の高さにつながっているのかなと考えています。また、クロスセルを狙った内容でも、然るべきタイミングでお得なオファーをお送りするので、そういう意味でも「価値」を感じていただけているのかもしれません。

「品質」で勝負、ワンブランドで世界No.1へ

編集部:今後女性向けなど、ブランドの横展開はお考えですか?

野口氏:全く考えていません。私たちがめざしているのは、「メンズスキンケア市場でグローバルNo.1ブランド」になること。そのため社内には、むやみなディスカウントやマルチブランド展開はしない、そこにリソースを割かないという数少ない「鉄の掟」があり、全員がこの共通意識を持って目標に向かっています

編集部:なぜ頑なに、「マルチブランド展開しない」という方針を貫いているのでしょうか?

野口氏:少ない武器で、最高の成果を出すことが最高の経営だと思っているからです。SKUやブランド単位が少ない方が経営効率も良いですよね。リソースを1箇所に集中させ、「1つのブランドで世界中にインパクトを出す」ことをストイックに追求していきたいと思っています。

野口氏が個人で新興D2Cブランドに投資を続ける理由

編集部:野口さんは個人活動として、新興D2Cブランドへの出資を続けています。その理由を教えていただけますか?

野口氏:バルクオムは、「ワンブランドで世界めざす」と言っている以上、他の事業には手を出しにくいという背景があります。ただ、バルクオムで行ってきたテレビCM、ウェブマーケ、PR活動などの施策や仮説を検証しないことには再現性はないので、それを試してみたいと思っています。たまたまメンズコスメ市場だからうまくいったのか、水平展開して他の領域でも検証してみたいと考えたことが始まりです。

バルクオム 野口氏が個人で出資するD2Cブランドの1つ、カスタマイズサプリの「FUJIMI」
野口氏が個人で出資するD2Cブランドの1つ、カスタマイズサプリの「FUJIMI」(画像:サイトからキャプチャ)

編集部:実際検証してみた結果は…?

野口氏:自社で培ったナレッジを投資先に提供しているのですが、支援しているところはどこもすごい伸び方をしていますね。

編集部:つまり、「成功するD2Cのセオリー」は共通しているということでしょうか?

野口氏:結果的にそうですね。私は、「プロダクトが一番偉い」と思っています。確かに、小手先のマーケティングやテクニックで、一瞬売り上げを伸ばすことはできます。ただ継続率やLTVで比較すると、やはり「長期間」は耐えきれない

その点、「良いプロダクト」を作っているところは逆で、好循環につながっていきます。つまり長期の好循環を作るには、やはり良いプロダクトを作っていないとダメということです。もちろん、最初から品質の低い商品を作ろうと考えている経営者はいないと思いますし、商品を良くしなくてはと理解されているとも思います。ただ、残念ながら「デジタルマーケティングでなんとかなるでしょ?」と考えている人がまだ多い印象です。

今D2Cはトレンドになっているので、私のところにも具体的なナレッジを求めに来る方も多くいます。でも究極的に大事なのは、「プロダクトの質」です。ECに限らず、本質的に必要なことに立ち返って意識して強化していくことが、結果的に成長につながります。

編集部:忠実に良いブランドを作り続ける、ということですね。

野口氏:そうです。当社はどこにも負けない最高のプロダクトを作っているという自負があるので、「国内市場No.1」をめざしつつも、実は競合他社のことを全く意識していません。ですから最近はメンズスキンケアブランドも増えてきましたが、「競合が出てきたからうちはこうしよう」という順序での意思決定は一切ないですね。ある意味、“超Going My Way”なブランドです。

編集部:そうしたブレない姿勢が、お客さんから支持される理由なのかもしれませんね。

野口氏:今後も当面は、スキンケア、ヘアケアのみの少ないSKUで頑張りながら、グローバルNo.1をめざしていきます。国内では良い位置にきているので、次は海外へ。特にポテンシャルを秘めている中国、米国での成功を狙っていきます

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