大手ECモールの業績&取り組み&戦略まとめ

「楽天市場」2030年に流通総額10兆円へ――三木谷社長が語る「AI×モバイル」成長戦略

楽天グループは2026年1月30日に実施した「新春カンファレンス」で、AIと楽天モバイルを軸に2030年流通総額10兆円をめざす方針を提げた。AIコンシェルジュや「RMS AIアシスタント」などによりユーザー体験と店舗運営を同時に変える

鳥栖 剛[執筆]

7:00

楽天グループが1月30日に実施した「楽天市場」出店店舗向けのイベント「新春カンファレンス」で、三木谷浩史代表取締役会長兼社長は今後の成長戦略の柱として「AI活用」と「楽天モバイルの拡大」を掲げ、2030年までに「楽天市場」の流通総額10兆円の達成をめざすと宣言した。「世界で最もAIを使うECプラットフォームへ進化させる」と述べ、ユーザー体験の刷新と出店店舗の生産性向上を同時に実現する方針を示した。

「AI」「モバイル」強化で2030年に流通総額10兆円へ

三木谷社長は、「楽天市場」の成長の根底には、創業以来掲げてきた「出店店舗のエンパワーメント」があると説明。「楽天市場」は「日本型・楽天市場型」のビジネスモデルであり、店舗が主役となってユーザーと直接つながる価値を提供できる点が強みだと強調した。

プラットフォームの役割は、店舗の努力に依存しがちな「配送品質」「商品探索」「比較検討の負担」「運営の非効率」といった領域をテクノロジーで底上げし、店舗が本来注力すべき「価値創造」に時間を使える環境を整えることだとした。

ECの購買体験において、ユーザーが感じる不安は「きちんと届くのか」「配送は信頼できるのか」に集約されるという。三木谷社長は、配送品質の改善に楽天が継続的に取り組むことで顧客満足度が向上し、その結果が店舗の売上増につながると説明。配送品質は店舗単体の努力では限界があり、プラットフォームが横断的に整備することで、ユーザーの安心と購買継続を支える「共同体」としての役割を果たすとした。楽天ではこれまで「最強翌日配送」「送料込みライン」「置き配」など物流改革を進めている。

こうした取り組みの積み重ねにより、楽天は2025年に国内EC流通総額6兆円超を達成。次の目標として、2030年までに国内流通総額10兆円の突破を掲げた。その実現に向けた重要なキーワードが「AI超活用」という。

2030年に流通総額10兆円達成に向けたキーワードは「AI超活用」と説明
2030年に流通総額10兆円達成に向けたキーワードは「AI超活用」と説明

「超AI活用」で売上向上と生産性改善を両立

三木谷社長は、ボストン コンサルティング グループの調査を引用し、AIを活用している企業は非活用企業と比べて成長率が約1.7倍高いと説明。出店店舗においても、AI活用によって売上高を1.7倍に伸ばせる可能性があると指摘した。

人手不足が常態化するEC運営において、AIは「人手の代替」ではなく「能力の拡張」であると位置付ける。生成AIの次のフェーズとして「AIエージェントの時代」が到来しており、その性能は約7か月で倍増していると説明。AIで武装した企業が、急速に競争優位を築く環境になっているとした。

楽天はこの環境下で、「Rakuten AI」を単なる社内業務効率化ツールではなく、エコシステム全体のユーザー体験と店舗運営を変革する「基盤」として整備していく方針を示した。

AI活用が広がるなか、楽天は「ショッピングに特化した独自AI」の開発に注力している。三木谷社長は、外部AIへの全面依存はコスト面で採算が合わず、店舗や消費者への負担増につながる可能性がある点を指摘。自社開発によりコストを抑える狙いがあるという。

また、汎用AIは汎用的な知識に優れる一方で、「過去の購買履歴から次に必要な商品を推測する」といった購買文脈の理解には専門的なチューニングが必要だと説明。自社開発AIによってEC特有の最適化を進め、「『楽天市場』を世界で最もAIを使うECプラットフォームへ進化させる」と話した。

サービス展開が広がる「Rakuten AI」

「Rakuten AI」は、楽天グループ従業員向け活用、楽天エコシステムのユーザー向けAIエージェント、「楽天市場」出店店舗向けの運営支援、企業向けAIサービスという複数のレイヤーで展開している。

ユーザー向けの具体例として、「楽天市場AIコンシェルジュ」(2025年12月本格提供)、「楽天トラベルAIホテル検索」(2025年9月開始)、「楽天ビューティエージェント(β版)」(2025年12月開始)などを紹介。いずれも、ユーザーが理想の商品・サービスにたどり着くまでの負担軽減を目的としている。

店舗向けAIアシスタント、半数超が業務効率化を実感

店舗向け施策の中核として紹介されたのが「RMS AIアシスタント」だ。すでに約2万5000店舗が利用しており、商品説明文の作成支援、画像の動画変換、店舗運営に関する問い合わせ対応など、日常業務に直結する機能を提供する。

利用店舗へのアンケートでは、商品説明文作成支援AIで53.3%、問い合わせ回答作成支援AIで62.6%が「業務効率が向上した」と回答した。

「RMS AIアシスタント」による業務効率化が進む
「RMS AIアシスタント」による業務効率化が進む

AIを“使える状態”にする「楽天AI大学」

楽天はAI活用を定着させるため、「楽天AI大学」を開設。「RMS AIアシスタント実践体験シリーズ」を2025年12月から公開している。

事例として、「プチギフトmomo-fuku」(運営:百福)では、問い合わせ回答作成支援AIの活用で対応時間を約70%削減月67時間かかっていた業務を約20時間まで短縮した。

「プチギフトmomo-fuku」では問い合わせ回答文作成にAIを活用
「プチギフトmomo-fuku」では問い合わせ回答文作成にAIを活用

「カーメイト公式オンラインストア」(運営:カーメイト)では、商品画像加工支援AIによって白抜き加工の制作時間を91.1%削減。月19時間かかっていた作業が1.7時間に短縮。制作コストも90.6%削減し、月に16万円かかっていたコストが1.5万円まで下がったという。

カーメイトではAIで白抜き画像加工などに役立てている
カーメイトではAIで白抜き画像加工などに役立てている

三木谷社長は、AIは店舗運営を「置き換える」ものではなく、店舗の強みである商品理解や顧客理解を生かしながら、作業負荷の高い領域を補完・代替する存在だと説明。限られた人員でも運営品質を高めることをめざすとした。

楽天エコシステムのデータ活用でサービスを高度化

三木谷社長は、「AIの原資はデータであり、楽天が保有するデータは『金鉱(ゴールドマイン)』だ」と表現。月間取引ユニークユーザー数は約4500万人、楽天モバイルの契約数は1000万回線を超え、オンライン・オフライン双方の行動データを把握できる点が強みだとした。

さらに、カード、銀行、トラベルなどを含む25年分のデータ蓄積を活用し、サービス高度化を進める方針を示した。

講演では、ユーザー体験を刷新する具体的なAI機能として、AIコンシェルジュ、セマンティック検索(意味検索)、ディスカバリー(発見)タブについて紹介した。

AIコンシェルジュで購入決定時間43%短縮、平均購入金額40%向上

「楽天市場AIコンシェルジュ」は会話型で商品探索を可能にし、比較・検討のストレスを軽減。購入決定までの時間を43%短縮し、平均購入金額は40%向上したという。

「楽天市場」ではAIコンシェルジュが注文金額増などに貢献しているという
「楽天市場」ではAIコンシェルジュが注文金額増などに貢献しているという

セマンティック検索で流通額+450億円

セマンティック検索によってユーザーのニーズを明確化し、曖昧な検索や「何となく」状態の比較検討にも対応する点が特長で、2025年度の流通額にプラス450億円の貢献があったと説明した。

意味検索(セマンティック検索)による購買アシストも流通額に大きく貢献
意味検索(セマンティック検索)による購買アシストも流通額に大きく貢献

TikTokのような「無限のウインドウショッピング」

「ディスカバリーレコメンデーション」は、TikTokのようなインターフェースで商品を次々と提示する仕組みで、ユーザーの過去の閲覧履歴だけでなく、どこでスクロールを止めたか、どこを見ているかといった行動データをベースに表示内容が変化する。三木谷社長は「無限にウインドウショッピングができるプラットフォーム」と表現し、探索体験そのものを価値に変える狙いを語った。

AIによる広告最適化でGMS+5.1%

店舗側の売り上げに直結する領域として、AIによる広告最適化(RPP)も取り上げた。2025年11月にすべての出店店舗を対象に実装を完了し、「Rakuten AI」の自動最適化機能によって、RPP経由のGMS(店舗あたり流通額)が前年同月比プラス5.1%になったという。

RPPは2025年11月にすべての出店店舗で実装を完了
RPPは2025年11月にすべての出店店舗で実装を完了

楽天モバイル2000万回線で流通総額9兆円へ

もう1つの成長の柱が、モバイル事業の成長と楽天市場の成長の連動だ。楽天モバイルの契約数は1000万回線を突破。出店店舗の協力によって約3万回線の契約につながっているという。

楽天モバイルの契約回線数の推移
楽天モバイルの契約回線数の推移

モバイルの拡大は「楽天市場」の若年層の利用拡大にも寄与していると説明。20代以下の16%、30代の18%が楽天モバイルを利用しているという。特に20代以下の加入率が高く、2025年の20代以下の割合は29%に達しており、「楽天市場」でも若年層が約1.5倍となっている。楽天モバイル契約者は非契約者より「楽天市場」における流通額がプラス48.8%、購入額は約1.5倍となっているという。2000万人が加入すれば流通総額は約9兆円まで拡大すると予測した。

楽天モバイルユーザーによって流通総額が伸びている
楽天モバイルユーザーによって流通総額が伸びている

「Rakuten Link」を“メールに代わる基盤”へ

月間5000万回以上のトラフィックがある無料通話・メッセージアプリ「Rakuten Link」をスーパーアプリとして強化し、店舗の公式アカウント活用による集客を進める方針も示した。

無料通話・メッセージアプリ「Rakuten Link」は新規獲得にも貢献
無料通話・メッセージアプリ「Rakuten Link」は新規獲得にも貢献

すでに活用している松屋フーズでは新規獲得率45%、「HUG.U」(運営:2plus8)では新規獲得率37%となったという事例を挙げ、楽天経済圏にリーチできる点、「楽天市場」に近い場所でユーザーとつながれる点をメリットとして説明した。

今後は、カゴに入れたままの商品や過去購入商品など、ユーザーの購入ステータスに合わせた通知(リマインダー)や、公式アカウント内でワンステップ購入できる導線など、購入に直結する機能の実装も予定しているという。

澤井珈琲は店舗がモバイル契約紹介制度でEC事業にプラス

店舗が楽天モバイル契約を紹介する「パートナー向け紹介プログラム」も紹介した。店舗からエンドユーザー向けに楽天モバイルを紹介するプログラムで、協力店舗には楽天から活動協力金を支払う。プログラム経由で加入したエンドユーザーには最大1万4000ポイントを付与する。

実際の協力事例として、澤井珈琲は発送商品とあわせて楽天モバイルのチラシを同梱し、楽天モバイル紹介用ドリップパックを制作。「楽天市場」サイト内に紹介ページを掲載するなどの施策で760回線を獲得したという。さらに、「澤井珈琲楽天市場店」における購入額は23%アップしたと説明した。

講演には澤井珈琲の常務取締役・澤井理憲氏が駆け付け、紹介制度について話した
講演には澤井珈琲の常務取締役・澤井理憲氏が駆け付け、紹介制度について話した

楽天モバイルを福利厚生に活用

地方企業や飲食店の人手不足対策として、楽天モバイルを福利厚生として導入する提案も行った。飲食チェーン「世界の山ちゃん」(運営:エスワイフード)の事例では、従業員に通信端末を会社負担で提供した結果、離職率が23.5%から6.7%に低下したという。通信費負担の軽減による可処分所得の増加が効果を生んだと説明した。

質疑応答も実施。AIの責任・意思決定の軸・店舗との共創

講演終盤では、出店店舗との質疑応答が行われた。主なやりとりは次の通り。

店舗からの質疑に対応する三木谷社長
店舗からの質疑に対応する三木谷社長

「AIの提案に対する責任はどこまで人間が持つべきか」

「AIからの提案に対して人間が最終的にどこまで責任を持てば良いのか」という問いが出た。三木谷社長は、人間もAIもミスをすることを前提にしつつ、ミスを避けるために最後は人間が考えることが重要だと述べた。

意思決定の軸は「社会の方向性に合った価値創造ができるか」

「意思決定の軸はどう変化してきたか」という質問に対しては、「社会の方向性に合った価値創造ができるか」を重視するとし、ユーザー価値の創造がミッションであり、価値が出るから利益も出るという考えを語った。競争環境については、「楽天市場」の最大の競合相手は「Amazon」だとしつつ、「Amazon」が一人勝ちすると店舗が困り、地方が元気にならなくなるという問題意識から、店舗をエンパワーメントする姿勢を改めて示した。

店舗の成長のためには「AIを“使い倒す”こと+KPI設定」

「店舗の成長のためにできることは何か」という問いには、店舗の成長を心の底から望んでいると話し、業務効率を上げることが重要であり、AIを使い倒してほしいと呼びかけた。具体的なKPIを設定して取り組むことの重要性も示し、店舗とともに「筋肉質な体質」を作っていく姿勢を強調した。

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